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59 王立学院秋の学院祭

「ようこそ。クリスタリア王立学院、学院祭へ」

「こちらへお名前を記入して頂き、こちらのリボンを見える位置に付けてからお入り下さい」

「こちらをお持ち下さい。それでは、楽しんで!」


 学院祭当日。開門前から並んで待っていた人も数名居たらしく、アスールたち最初の受付係五人はとにかくてんやわんやの大忙しだ。

 会場入り口では来校者の名前を記入してもらい、正規の入校者である証のリボンを付けてもらい、学院内の見取り図とパンフレットを渡す。

 簡単そうでいて、意外と気を使う仕事だった。

 特にアスールは貴族の応対を一手に任されているため、挨拶等、いろいろと面倒くさい。列が伸びているのを見兼ねたマティアスが手伝いを買って出てくれなければどうなっていたことか。


「助かったよ、マティアス。本当にありがとう」

「どうってことはないさ。思っていたよりも朝から来校する人が多いな」

「模擬店を見に来る人が多いんだと思います。毎年、魔導具研究部とか薬学クラブの商品が大人気みたいですよ」

「早い者勝ちってことかな?」

「そうだと思います」


 クラスの学院祭委員を引き受けてくれたライラが教えてくれた。ライラは一年前に学院祭に来ているらしく、いろいろと詳しい情報を持っていた。


「午後はホルクの販売が行われるんです。その時間帯になると、ホルク目当ての来校者がどっと押し寄せますよ」

「オークション方式らしいね?」

「そうです。最終的にはかなり高額になってしまうので、結局落札できるのは貴族か大商人になってしまうらしいのですが、学院のお祭りっていうことで、初めのうちは低い金額で皆がオークションの雰囲気を楽しめるようしているそうですよ」



 アスールの担当時間もそろそろ終わる頃になると、客の入りも随分と落ち着いてきていた。次の時間の受付担当者も何人か既に集まり始めている。


「なんだか正門の方が賑やかですね」


 交代の準備を始めていたアスールにライラが話しかけてきた。ライラは笑いながら正門を指差している。確かに賑やかに話しながら近付いて来る集団がいる。


「あっ」

「もしかして、お知り合いですか?」

「ええ。先頭を並んで歩いているのは僕の祖父と兄です」

「ということは、先王フェルナンド様と、第一王子のドミニク様? 確か学院の卒業生ですよね?」

「そうです」


 フェルナンドも受付に居るアスールにどうやら気が付いたようで手を振っている。


「交代致しましょうか?」


 カタリナが声をかけてきた。が、既に目の前までフェルナンドたちは来ていた。


「おお、アスール。受付係か?」

「はい、お祖父様。ようこそ、クリスタリア王立学院、学院祭へ」

「おお。そういえば前回儂が学院祭に来た時は、そこにお前と同じようにシアンが座っておったな」

「そうなのですか。ということは三年振りですね?」

「そうなるか?」

「皆様、こちらのリボンを見える位置に付けてからお入り下さい。案内図とパンフレットもどうぞ」


 アスールとフェルナンドが話している横でカタリナが手際よく同行者たちを捌いていく。今日は助けられてばかりだ。


「ありがとう。カタリナさん」

「いえ。もうすぐ交代の時間ですから。お気になさらず」


「アスール。元気そうだな」

「ドミニク兄上。兄上もお元気そうでなによりです」

「ああ」


 久しぶりに会うドミニクはなんだか以前よりも更に逞しくなっている気がして、思わずまじまじと見つめてしまう。そんな弟の視線に気付いたドミニクは照れたように笑った。


「城では毎日、騎士団の訓練に参加しているんだ。日に焼けたせいか、ますますローザに怖がられているよ」

「お前はローザの扱いが乱暴なのが悪い!」

「そうですか? 一応私なりに気を遣っているのですが……。小さい女の子は扱いが難しくて困りますね」

「ローザは特別仕様だからな」


 そういってフェルナンドは笑いながらドミニクの背中をバシバシと叩いている。


(お祖父様もローザ以外には乱暴だよね……)


 ドミニクはアスールの考えていることが分かったようで、綺麗に並んだ白い歯を見せてニヤリと笑ってみせた。

 同行している他の三人はどうやら騎士団の人らしく、今日行われる騎士コースの模擬戦を観戦しに来たそうだ。戦果によっては騎士団への引き抜きの可能性もあるらしい。


「じゃあな。アスール」

「はい。楽しんで下さい、兄上」


「アスール。お前とシアンとで儂に面白いものを見せてくれるそうだな。楽しみにしているよ。また後でな」


 そう言い残すと、フェルナンドは機嫌良さそうに校舎へと入っていった。


(面白いもの?……シアン兄上、一体なんてお祖父様に伝えたんだろう?)


 ティーグルの件をフェルナンドに伝える役目は全てシアンが請け負ってくれている。あのフェルナンドの言い方からして、シアンはおそらく期待を煽るようなことを言ったに違いない。


(シアンからは、とりあえず受付の担当時間が終わったら魔導具研究部に顔を出すように言われているので、その時にでも確認してみよう)


 アスールはカタリナと受付を交代して、魔導具研究部へと急いだ。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



 魔導具研究部の模擬展は、アスールが教室に入るのを戸惑う程に大盛況だった。外から覗いてもとてもシアンを見付けることはできそうも無いので、アスールは仕方なく教室に足を踏み入れた。


 学院祭の中心はあくまでも三〜五学年なので、魔導具研究部に所属していてもアスールたち一二学年生はお手伝い程度でしか今回の模擬展には関わっていない。シアンの姿を探しながらアスールは販売されている品々を興味津々の様子で眺めた。

 どうやら人気があるのはちょっとした小物のようだ。風と氷を組み合わせて作られた小型冷風機。逆に風と火を組み合わせた小型温風機が人気があるようだ。


「さすがに魔導コンロや魔導冷蔵庫のような大型の物は扱ってないんだ……」

「そりゃあそうだ。そんな本格的な物をここで販売したら、商業ギルドからクレームが来るだろう」


 声をかけて来たのはシアンだった。


「兄上!」

「ごめんね。探させちゃったみたいだね。まさかこんなに混み合うとは思わなかったから」

「兄上も何か出店しているのですか?」

「ん? ああ。そうだね」

「見たいです!」


 シアンは困ったように笑っている。


「うーん。アスールにも見てもらいたかったんだけど……」


そう言いながらシアンは近くのテーブルを指差した。


『こちらのコーナーは完売しました』


 テーブルにはそう書かれた張り紙がされている。


「全部売り切れたってことですか?」

「そうだね」

「何をいくつ出されたのです?」

「ちょっと季節外れかなとは思ったけれど、冷却効果を付与したペンダントを二十個ほど」

「二十も? ローザに渡した薔薇のペンダントのような?」

「薔薇はローザの為の特別仕様だから今回は雫型にしたよ。雫なら簡単に量産可能だろ?」

「まさか攻撃機能は付与してませんよね?」

「するはずないだろ!」



 後から聞いた話だが、シアンが作ったペンダントが出品されるという噂話は随分と前から学院の中で広まっていたようで、販売開始と同時に完売となってしまったそうだ。購入者のほとんどが高学年の女子学生だったらしい。

 受付の担当が遅かった同じクラスの子もその噂話を聞きつけて買いに行ったが、販売開始時間前から魔導具研究部の教室前に詰めかけている高学年の先輩方を見ただけで尻込みをして、すごすごと帰って来たと話していた。



「僕の制作した分は販売も終了したし、品物が無いならこの場に居ない方が良いと言われてしまったので、もう任務完了だよ。お祖父様との約束の時間までかなりあるし、何か食べに行くかい?」


 アスールはシアンに連れられて教室を後にした。

お読みいただき、ありがとうございます。

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