閑話 アレン・ヘルガーの独白
僕の名前はアレン・ヘルガー。十一歳。王都にあるヘルガー商会の長男です。
ヘルガー商会は特に大手と言うほどでも無い中堅の商会で、主にバッグや靴などの皮革製品を中心に卸と小売の両方を手がけている。
僕が言うのも何だけど、良心的な価格でかなり質の良い商品を数多く取り扱っている、なかなか良い店だと思う。
店は今クリスタリア国内に数店舗あって、親父はこれからもっと店の数を増やしていきたいらしくて、お袋と二人で頑張ってる。
学院を卒業後は僕も商会の仕事に関わっていくつもりだ。
今日の午後、もうすぐ行われるクリスタリア王立学院 “秋の学院祭” の話し合いがクラスで行われた。
学院祭といっても僕らの学年はほとんど出番は無いらしく、先生の話では来校者に対しての受け付け業務をクラス全員で担当するだけってことだった。
それでも、各クラスから二名の学院祭委員を出さなきゃいけないらしくて……。最初、僕はそんな委員なんて面倒なことする気は全く無かったんだけど、つい手を上げちゃったんだよね。
だって、ずっと可愛いくて良い子だなって思ってたライラさんが委員をやるって手を上げてるんだもん。思わず釣られて手を上げちゃったよ。
ライラさんの家もモンスル商会っていって、うちと同じくらいの中堅商会なんだけど、あっちは主に食料品を取り扱ってる。
小麦とか大麦とか豆、とうもろこし。どうやら穀物の扱いが多いみたいで、町外れに大きな倉庫を持っている。
毎年その倉庫の近くの広場でヴィスタルの収穫祭があるんだけど……毎年学院祭と収穫祭って日にちが被るんだよね。今年は収穫祭には行かれないな。
話が逸れちゃったけど、ヘルガー商会もモンスル商会も同じ大通りに本店を構えているから、僕は彼女のことを学院入学前から、というか、小さい時から知っていた。
向こうも知らない筈は無いとは思うんだけど……何せライラさんはとっても物静かだから、ほとんど喋ったことないんだよね。
委員決めの時、なかなか誰も手を上げなくて、このまま決まらないのかと思っていたら、アスール殿下がすっと手を上げた。
それに気付いたライラさんの表情がパッと明るく輝いたのを、僕は見逃さなかったよ。
でも、殿下は「自分は出来ない」って言うために手を上げただけだったんだよね。
それを聞いた途端のひどくガッカリした彼女の顔を、僕はしばらく忘れることはできないだろう……。
僕が好きなライラさんは、アスール殿下を好きってことだ。
相手はこの国の王子様だ。学年の女の子たちが皆こぞって憧れる存在だよ。アスール殿下のことを好きなのは何もライラさんだけに限ったことじゃ無い。
特に夏休みが終わって以降、殿下も随分とクラスに打ち解けて、貴族平民の差なく、誰とでも気軽に喋るようになった。
実際、話してみると王子様だからって気取ったり、偉ぶったりすることも無くて、普通に良きクラスメイトだと思う。まあ、いろんな点でおそろしく優秀だけどね。
僕だって殿下を嫌いじゃない。いや、寧ろ好ましいとさえ思うよ。
悔しいけど、身分を抜きにしても、僕よりずっと人として格上だと言わざるを得ない。
でもさ。考えようによっては、僕の方が断然有利なんだよね。だって、どう頑張ったって一介の商会の娘じゃ、将来的なことまで考えたら、王子様の横には並び立てないだろう?
可哀想だとは思うけど、ライラさんの “好き” に未来の展望は無いと僕は考えてる。でも僕だったら? ありだよね? そう思わない?
ということで、僕は僕なりに頑張りますよ!
先ずは一緒に委員をやって、仲良くなるところから始めようと思う。
誤算だったのは、先生に担当決めを任された後のライラさんの手際の良さと仕切りの良さ。僕よりずっと、遥かに有能だった……。
大人しいと思っていたけど、案外そうでも無いのかも。しっかり者だったら、尚更商会の跡取り息子の嫁には良いと思わない? え? 気が早いって?
ちなみにライラさんは上に兄さんが二人いるので、他家にお嫁に行っても何ら問題は無いと思います!
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