蕪島神社攻略戦1
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
「ここが、迷宮の入り口か」
茜は禍々しい雰囲気に包まれている道の前に居た。
「そうです。ここから先が、魔晶石が支配しているエリアになります」
「支配してるんですか?」
「そうですよ。ある意味『魔界』と言っても良い位に神の加護の届かない場所になっています」
「雰囲気は禍々しいけど、迷宮って感じはせえへんな」
「まあ、見た目は迷宮ではないですからね。ですが、侵入者を迷わせる効果があるので迷宮と言えなくはないです」
「なるほどな。そんで、こっからは武器を使って戦うんやな?」
「そうです。敵の数が多いので、最初から全力で戦ってください。それと、レベル5になったら、茜さんは魔術、火矢貫連を使ってください」
「分かったで」
「お姉ちゃん。効果は分かってる?」
「火矢貫が強化されたやつやろ?」
「どう強化されるか理解してる?」
「バーンと敵をやっつける感じやろ?」
「お姉ちゃん。魔術文字辞書読んでないでしょ?」
「よう分かったな」
茜は自信満々にそう言い放った。
「お姉ちゃん。説明書読まないタイプだもんね」
「まあな」
「簡単に説明すると、『連』の言霊は、効果範囲の拡張で、同じ姿形のものを一つのグループと捉えて同じ魔術を発動させる事が出来るんだよ」
「なんや、うちの解釈間違って無いやんけ、火矢貫が強化されるんやろ?」
「もう、それでいいです」
葵は茜に説明することを諦めた。
「それと、葵さんはレベル5になるまでは茜さんとは別の魔物に魔術を使ってください。茜さんの魔術とは相性が悪いですからね」
「分かっています」
「ですが、レベル5になったら」
アランの言葉を遮って葵が答えを言った。
「分かってます。魔術文字辞書読んでいるので」
「そうですか、なら、お任せします。相性が良くなるのは理解していると思いますが、発動のタイミングは茜さんの魔術の前でも後でも同じなので、バンバン使ってください」
「そうなんですね。分かりました」
葵はレベル5になった時に使える魔術文字の意味を正しく理解していた。
「あと、迷宮のボスと戦う時なんですが、水鎧守連をお願いしますね」
「なるほど、火属性のボスなんですね?」
「そうです。なので、ボス戦では茜さんは空気になってしまうと思いますが、何もしないでください」
「なんや、そう言われると、ちょっと寂しいで」
「属性の相性はどうしようもないですからね。茜さんが転職して、上級職の言霊使いになれば、全ての属性の言霊を使えるようになるので、いつでも活躍できるようになりますよ」
「それ、ええな。うちは言霊使いを目指すで、で、具体的には何をしたらええんや?」
「簡単な事です。レベル20で、INT20、PEI15になっていれば良いんですよ」
「どうやってINTとPEIを上げるんや?」
「職業訓練でお金を払って上げるか、戦闘の経験で上げるしかありません」
「なるほど、つまり、頑張るしかないっちゅうことやな」
「そうなります」
(ちょっと待って、INT20って一般人の2倍の知識を持っているって事よね?お姉ちゃん。説明書も読まないのに知識20って無理だと思う)
葵は茜が性格的に無理だと思ったが、言葉にはしなかった。
「ここに居るのは不法投鬼という魔物と妖怪火車というボスです。それらを倒すのが目的です。ウータン丸様が守ってくださるので、誰も死なないとは思いますが、出来るだけ早く敵を殲滅しましょう」
「分かったで」
茜はアランの言葉をそのまま受け取った。
(なに?早く殲滅しないと何か起こるの?)
葵はアランの言外の警告に気が付いていた。だが、この場では何も言わなかった。
「では、参りましょう」
そう言ってアランは迷宮に足を踏み入れた。
迷宮内では、ウータン丸、アラン、ユーが先行し、茜、葵、ミリアが、後ろからついて行く形で進んでいた。ウータン丸は天使の翼を出して飛んでいた。
「ウータン丸は抱っこせんでもええの?」
「ええ、迷宮内は敵が多いのでウータン丸様にも戦って頂くために、飛んで頂きます」
「うーたん、がんばりましゅ」
そう言ってウータン丸は、空中に浮いた状態で敬礼のポーズをした。
「かわいいの~」
茜はウータン丸の愛くるしい姿に癒されていた。
「そうだね。こんなに可愛いのに無敵なんだから最強だよね」
葵もウータン丸の可愛さと強さに癒されていた。
迷宮には不法投鬼が密集していた。不法投鬼は色んな姿をしていた。女、子供、老人、青年、彼らは老若男女問わない姿をしていた。だが、共通している事があった。それは、一様に死んだ魚のような目をしていて、額に一本ねじ曲がった角が生えていた。それは、彼らの精神を現しているようだった。
不法投鬼は、腰布を巻いただけの半裸の姿で、両手にゴミを持っていた。そして、両手のゴミを周囲にまき散らしていた。そのせいで迷宮内はゴミだらけだった。
「これは、ゴミごと焼却やな」
<火矢貫>
茜は、右手にライターを持って魔術を使った。2本の炎の矢が不法投鬼2体を貫いた。
(不法投鬼に状態異常『燃焼』が付与されました)
「ギギャ~~~~~~~~~」
不法投鬼は、悲鳴を上げて燃え尽きた。そして、近くのゴミに引火し、周囲は火の海となった。
「あわわ。こらえらいこっちゃで……。アランさん大丈夫なんか?」
「大丈夫ですよ。むしろ好都合です。このまま魔物を焼き尽くしましょう」
「ちょっと待って、私がレベル5にならないとボスで苦戦するんじゃないの?」
葵は心配になった。このままでは茜だけがレベルアップしていくことになるからだ。
「おっと、そうでしたね。では、そこで死にきれずにうめいている不法投棄に止めを」
「分かりました」
葵は、地面に突っ伏しうめき声をあげて何かをつかもうと片手を上げている不法投鬼に右手に持ったミネラルウォーターを向けて魔術を使った。
<水矢貫>
水の矢が2体の燃焼効果が切れて死にきれずにいる不法投鬼を貫いた。そして、不法投鬼は、黒い魔石となった。
「こうして、茜さんの撃ち漏らしを倒していけばレベル5は、すぐですよ」
アランは、そう言って微笑んだ。
「そうだね。不法投鬼はいっぱい居るから、問題ないか」
葵は、レベル5になるまで、そう時間はかからないと思った。
だが、不法投鬼は、茜の攻撃にやられているだけではなかった。不法投鬼は茜にペットボトルを投げてきた。それが、茜にあたる前に、ウータン丸が声を上げる。
「あかねたんを傷つけるのはメですよ。メッ」
ウータン丸が、そう言うと茜は白く輝く球形の魔方陣に包まれた。そして、不法投鬼が投げたゴミは消失した。
「ウータン丸、ありがとうな」
「可愛いは正義なのです」
ウータン丸のお陰で、茜と葵の防御は鉄壁だった。
「やったで葵、レベル5になったで」
茜は嬉しそうに、葵にそう告げた。そして、即座に新しく使えるようになった魔術を使った。
<火矢貫連>
茜がそう唱えると、20本の炎の矢が不法投鬼とゴミを焼いた。
(不法投鬼たちに状態異常『燃焼』が付与されました)
燃え上がる炎は、多くの不法投鬼を焼いた。だが、しぶとく生き残った者も居た。それらに、葵は止めを刺していく。もちろん、燃焼効果が切れても生き残っている不法投鬼に止めを刺した。そして、葵もレベル5になり、新しい属性文字を習得した。
葵は、茜が火をつけて燃焼中の不法投鬼とゴミに新しい魔術を使った。
<油矢貫連>
その魔術は、水の魔術師がレベル5になると使えるようになる『油』という言霊を使ったものだった。20本の水の矢が、燃焼中の不法投鬼に命中した。
(不法投鬼たちに状態異常『油』が付与されました)
(不法投鬼たちが『爆発』しました)
(不法投鬼たちの状態異常『燃焼』が『消失』しました)
油が不法投鬼に命中した瞬間、爆発が発生し、不法投鬼とゴミは消失した。
「葵、凄いやん」
一気に100体以上の不法投鬼が爆発に巻き込まれて消し飛んでいた。
「あわわわわわ」
葵は自分の魔術が起こした爆発で尻もちをつき、予想以上の爆発を見て驚いていた。
「大丈夫?」
ミリアが葵に手を差し伸べた。
「ありがとう。ミリアさん」
葵はミリアの手を取って立ち上がった。
「近くの敵じゃなく、奥の敵を狙うといい」
ミリアは、葵にアドバイスをした。
「ありがとう。次から、そうするね」
葵がお礼を言うとミリアは耳まで真っ赤にしてうつむいた。
(ミリアさんも可愛いな~)
葵は、そう思った。
5人と1匹は、爆音を響かせながら迷宮内を進んでいく。殆どの不法投鬼とゴミは茜と葵の魔術によって消滅した。蕪島の下の方に設置されている鳥居をくぐり、階段を上り、蕪島の頂上までたどり着いた。蕪島の頂上には神社があり、真っ赤なオーラに包まれていた。
「さて、神社内部にボスが居るんですけど、この赤いオーラが消えないと内部に入れないんです」
「どうやったら、赤いオーラは消えるんですか?」
「魔物を全て倒せば消えるんですけど、ここからは火気厳禁なんです」
「え?なんでですか?」
「魔晶石が、この場所のルールを決めているからなんですよ」
「魔晶石って厄介なんですね」
「ええ、なので迷宮の攻略は難しいのですよ」
「そしたら、うちは、どうやって魔物を倒したらええんや?」
「茜さんも葵さんも、ここからは魔物を倒さなくていいですよ」
「なんでや?」
「茜さんも葵さんもレベル8になってますから、レベル上げはもう十分です。ここからは私とユーで魔物を殲滅していきます。お二人はここで休憩しててください」
「分かったで」
「分かりました」