かぶーにゃ
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
5人と1匹は、ゴブリンを蹴散らしつつ、蕪島神社の手前まで来ていた。海の中にポツンと小山があり、頂上には神社が立っていた。それが蕪島神社だった。その小山にビッシリと魔物が集まっていた。
蕪島神社から海岸線までは道が整備されており、海岸線の方には建物があった。そこにはかぶーにゃという看板が立っていた。5人と1匹は、その建物の前まで移動していた。
「ここが、休憩所ですよ。迷宮に入る前に、ここで食事していきましょう」
「ご飯!」
ミリアが目を輝かせてかぶーにゃに入っていく。
「あの、何でこんなところに店が?」
葵の質問はもっともだった。周りは魔物だらけ、電車もバスも運行していないのに店だけが開店していた。
「神のご加護ですよ」
「建物は、分かりますけど、食材とかはどうやって運んでいるんですか?」
「それも神のご加護ですよ。物資を運搬するための車両には神が加護を与えて魔物に襲われないようにしてあるんです」
「バスとか電車には無いんですか?」
「残念ながら、全てを守れるのなら世界は元の姿を保っていますよ。それが出来なかったから、一部だけ守られているんです」
「そうですか……」
店に入ると、食事用のスペースとお土産売り場が1フロアに半分ずつあった。ミリアは既に壁に貼られているメニューを見ていた。
「お土産も売ってるんやな」
茜がお土産に興味を示した。
「お土産は、食事後にゆっくり見ましょう。迷宮攻略に役に立つ物があるかもしれません」
「せやな、先にご飯やな」
全員が、メニューが張られている壁の前に並んだ。
「メニューは、焼さば飯おにぎり、さばカレー、いかこんにゃく、わかめそば、浜のせいんべい汁か、どれも値段が500円以下だね」
葵が、メニューを読み上げた。
「せやな、この値段ってことは、量はそれなりっちゅうことやな」
「1人、二品ぐらい頼むのがいいかもね」
「せやな、どれも安いし、二品頼んでも1000円超えんからな」
「私は、わかめ蕎麦といかこんにゃくにする。お姉ちゃんは?」
「うちは、焼さば飯おにぎりと浜のせんべい汁やな」
メニューを決めたところで、葵は自分たちの手持ちがない事を思い出した。
「あ、アランさん。ここの会計も成功報酬から引いてもらう事で良いですか?」
「最初から、そのつもりですよ。なので、遠慮なく頼んでください。道中倒したゴブリンの数だけで、すでに一人当たり2万円は稼いでいますから、それに火竜の魔石は1個100万円なので、一人当たり20万稼いだ事になるので、お土産もそれなりに買っても大丈夫ですよ」
「火竜の魔石ってそんなに高いんですか?」
「ええ、魔石は魔物の強さに比例して高品質なものを落としますからね」
「アラン。全部。お腹空いた」
ミリアも注文を決めた。メニューの全てを食べるつもりのようだ。
「そんなに、食べれるんですか?」
葵が心配して聞いた。
「足りないかもしれない」
ミリアは、真顔で答えた。
「MP500の補充なので、5000円分は覚悟してますから、おかわりして良いですよ」
アランは諦めたように言った。
「10円でMP1回復する計算なんですか?」
「ええ、まあ今までの経験上、そうなっています」
「結構、食べてるようですが、その割にはミリアさん太ってないですよね?」
「MPの回復に使われた分のカロリーは脂肪にならないようです」
「ふ~ん、じゃあ、私とお姉ちゃんも小腹が空いてたら、追加で食べても太らないのか」
葵は良い事を聞いたと笑顔で食事を注文するカウンターに向かった。
食事が出そろいテーブルに運び終わると全員で食事をした。全員黙々と食べて食事を終えた。
「それにしても、ミリアさんの食べっぷりは最高やったな」
「そうだね。次々と料理を食べる姿は見てて楽しかった」
「そう、なら、これも見て欲しい」
ミリアはスマホを取り出して、茜に差し出した。
「なんや?これは、ミリアさんのブログか?」
「うん」
ミリアは、うなずきつつ答えた。
~~~ ミリアの食レポ ~~~
本日は、青森県八戸市の蕪島神社に来てみました。
まずは、蕪島神社に行き前に腹ごしらえしようと思います。
という訳で、来たのは蕪島神社の近くにある『かぶーにゃ』で~す。
メニューは全部で6種類、それぞれ食べた感想を書いていきま~す。
○さばカレー
サバとカレーが合うのか?みなさん一瞬、そう思いませんでしたか?実は私もそう思ったんです。でもでも、食べてみるとこれが案外いけるんです。サバの臭みもなく、なにより輪切りのままのサバがしっかりとかみ応えのある触感を残しているので、満足感もあるんですよ。
さらに、サバはDHAやEPAが豊富なので、記憶能力の強化や血液をサラサラにする成分も入っているのでとってもヘルシー。カレーを食べたという罪悪感がほんの少し和らぎます。
さらにさらに、八戸市の名物の一つであるサバを楽しめるので八戸に観光に来たって実感も得られる一品なので、かぶーにゃで食事される時にはお勧めです。
○浜のせいんべい汁
八戸のB級グルメと言えば、せんべい汁。南部煎餅が入った汁物で、かぶーにゃで出しているせんべい汁の具は、モズク、ワカメ、せんべい、ホタテの稚貝が入っていて浜の素材を味わえるようになっています。
特に、ホタテの稚貝は貝紐も付いているので噛むほどに旨味があふれ出します。焼さば飯おにぎりと一緒に注文するとお腹も満たせると思います。
○いかこんにゃく
いかの形をした大きいこんにゃくをイカの出汁で煮込んだこんにゃく。出汁が良く染みていて灰色のこんにゃくが茶色になっています。とっても大きいので小食の方はこれだけで満腹になってしまうかも。
また、低カロリーで食べ応えもあるのでダイエット中の方にもお勧めです。
○焼さば飯おにぎり
サバの炊き込みご飯をおにぎりにした一品です。サバの臭みは一切なし、出汁の染みたご飯との相性は抜群、とっても美味しく頂けました。コンビニのおにぎりには無いので、普段と違うおにぎりを食べてみたいという方にお勧めです。
○わかめそば
ワカメが入った暖かい蕎麦。ワカメの他に八戸で多く水揚げされているイカの天ぷらが乗っていて、噛めば噛むほどイカの旨味が感じられます。
~~~ ミリアの食レポ 終了 ~~~
「これ、ほんまにミリアさんが書いたん?」
ミリアは無言でうなずいた。
「普段とキャラが違いすぎひん?」
「ブログだと、こう書かないと誰も見ないから……」
「そうか、ブロガーも大変やな」
「うん。でも、みんなが見てくれると嬉しい」
「食レポ。よく書けてるとおもうで、葵も見てみ」
茜はスマホを葵に渡した。
「本当だ。すごくよく書けてると思うよ。各料理の特徴をとらえて、的確に説明できてるし」
「ありがとう」
ミリアは顔を赤くしうつむきながら、お礼を言った。そんな、ミリアを見て茜と葵は、心の中で「可愛い」と思った。
「さて、葵。お土産を見るで」
「なにか、役に立つものがあると良いね」
茜と葵は、二人でお土産コーナーを見ていた。
「なあ、葵。果汁100パーセントってあるやん?」
「よくあるね。青森はリンゴが有名だからリンゴ100パーセントジュースも売ってるよね」
「そやろ。それで思ったんやけど、おっさんを絞ったら『おじゅう』100パーセントのジュースが出来るんやろか?」
「え?お姉ちゃん。何、言い出してるの?」
「せやから、おっさんを絞ったら……」
「ちょっと待って、どうしておっさんを絞るの?」
「いや、果物を絞ったら果汁やろ?おっさんを絞ったら『おじゅう』になるのかなって?」
(ああ、ダメだ。これはお姉ちゃんが気になったら答えが出るまで議論する奴だ)
葵は、茜の疑問を解消することにした。
「えっと、『おじゅう』だと言いにくいから『おじる』になるんじゃない?」
「ええな、『おじる』。おっさんのきもさと不潔さがにじみ出てる良い言葉や。せや、漢字も汚れているという『汚』と『汁』で汚汁100パーセントがええな。汚汁100パーセントジュース。これは売れるで!」
「いや、お姉ちゃん。言葉から汚さがにじみ出ているジュースなんて売れないと思うよ」
「そうか?ええアイデアやと思ったんやけど……」
「あの、お姉ちゃん。落ち込んでるところ悪いけど、おっさんの汁なんて最初からどこにも需要は無いと思う」
「そうか、あかんか……」
茜はがっくりと肩を落として落ち込んでいた。葵は、そんな茜を見て、話題を変えることにした。
「お姉ちゃん。見てみて、これなんか美味しそうじゃない?」
そう言って、葵が指さしたのは、いちご煮と書かれた缶詰だった。
「いちご煮?イチゴを煮たやつなんか?」
「絵を見ると違うみたいだね。ウニを煮たスープみたいだね」
「なんで、いちご煮いうんや?」
「説明しよう!」
そう言って出てきたのはミリアだった。いつの間にかメガネを着用し、右手の中指でメガネの真ん中をクイっと持ち上げピントを合わす仕草をした後、早口で一気にまくしたてるように説明を行った。
「いちご煮とは、八戸の漁師たちが海からとれるウニとアワビを豪快に使い煮て食べた汁物の事である!名前の由来は乳白色の汁に沈む黄金色のウニの姿がまるで、 朝靄の中に霞む野いちごのように見えることから名づけられた大変風流な名前なのである!
ウニとアワビの出汁が利いた贅沢な一品!八戸へお越しの際にはぜひ!ご購入ください!」
説明が終わるとミリアは、メガネを外して懐にしまい。顔を赤くして逃げるように立ち去った。茜と葵は突然の事にボーゼンとしていた。
「驚いたようですね。ミリアは色んな知識を持っているんですが、あの通りシャイなので普通に話す事が出来ないので、メガネをかける事と説明口調に徹することで、なんとか知識を伝えているんですよ」
「そうんなや。ミリアさん。教えてくれてありがとう」
茜は少し離れた場所に立っているミリアに大きな声で感謝した。
「大したことない」
ミリアは耳まで真っ赤にして目も合わさずに小さな声で答えた。
(突然の説明には驚いたけど、ミリアさん可愛いな~)
葵は心の中で、そう思った。
「八戸はサバとイカも有名なので、それ関連のお土産もお勧めですが、迷宮攻略に必要なお土産はこれです」
そう言ってアランが指示したのは、お菓子コーナーだった。
「お菓子ですか?」
「ええ、迷宮内には多くの魔物が居ます。むろん、私とユーとミリアで多くは倒せますが、お二人を守る余裕が無くなるかもしれません。なので、念のためにMPを回復することが出来るお菓子を持って行って欲しいんですよ」
「それは、おかしない?ウータン丸がおれば、魔物は平伏するやんか?」
「それが、迷宮内の魔物には『にくきゅうパンチ』が効かないんですよ」
「なんでなん?」
「魔晶石の影響で、魔物が強化され、神の加護が届かないのです」
「え?じゃあ、ウータン丸のバリアも発動しないん?」
「ウータン丸様のバリア?『汝、かわいいに触れる事なかれ』の事ですね。あれは、発動するのでご安心ください」
「そうか、なら何も問題あらへんな」
茜は安心した。
「アランさん。お菓子を選ぶうえで何か注意点はありますか?」
「特にありませんが、食べやすいものを選ぶ事をお勧めします」
「分かりました。お姉ちゃん。お菓子を選ぼう」
「なんや、遠足みたいやな」
茜は命がけの戦いである事を理解しつつも状況を楽しんでいた。
「魔物が居なければ、やってることは本当に遠足なんだけどね~」
葵は、命がけの状況が無ければと思っていた。
「決めたで」
「私も」
「葵は何にしたん?」
「私はコレ」
そう言って葵が手に取ったのは、『酒のしずく』という干菓子だった。
「なんや、綺麗なお菓子やな」
「そうでしょ。白と青の半透明の四角い正六面体のお菓子。見た目は宝石の様に綺麗で一見硬そうな外見だけど、お菓子の説明だと中はやわらかく、外はシャリシャリって書いてあるから食べるのが楽しみ」
葵は透明な円筒形の容器に入っているお菓子を見て目をキラキラとさせていた。
「後でうちにも分けてな」
「良いよ。それで、お姉ちゃんは何を選んだの?」
「これや」
そう言って茜が手に取ったのは、『南部煎餅』だった。
「それって、アランさんがミリアさんにあげてた煎餅だよね?」
「そうやで、ちょっと気になってな」
「でも、煎餅を買うなら飲み物も買わないと口の中パッサパサになると思うよ」
「そうやな、だからコレも買うで」
茜はペットボトル飲料を手に取った。
「これで、完璧や」
「そうだね。これで、準備はOKだね」