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琴葉姉妹と珍妙な仲間たちと巡る異世界珍道中  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
青森県八戸市蕪島
5/11

火竜遭遇戦

読み方

「」普通の会話

()心の声、システムメッセージ

『』キーワード

<>呪文


 5人と1匹は本八戸駅から鮫駅に向けて線路沿いを歩いていた。

「こうやってみると、建物の無い自然ってええもんやな」

「そうかな?私は寂しいと思っちゃう」

「葵は、そう感じるん?」

「うん。だって、この風景って、魔物に壊された後の風景だよ?元は何か建物があって誰かが住んでいたり、商売してたりした場所だって考えたら……」

「そうか、葵はそういう風に考えてまうんやな、うちは単純やから、海岸線が見えたり緑の風景が広がってるのが美しいっておもったんや」

「まあ、美しい風景だって言うのは私も同意なんだけどね」

 そんな会話をしていると、巨大な影が一瞬だけ5人と1匹を覆った。

「ミリア!ウータン丸様を茜さんに預けて、戦闘準備!ユー!私と連携して空中戦を頼みます。茜さん葵さんお二人はウータン丸様と一緒に居てください。あと、何があってもウータン丸様の側を離れないように、良いですね?」

「分かったで」「分かりました」

 アランの只ならぬ雰囲気に茜と葵は緊張していた。アランは漆黒の翼を広げて飛び立った。ユーは純白の翼を広げて飛び立った。二人が目指す先には巨大な赤い竜が居た。体長は10メートル、人間が勝てる相手ではなかった。

「やっかいですね。火竜ですか……。ユー、叩き落としますよ」

「プロテイン」

 そう言ってユーは頷いた。二人は火竜よりも高い位置に移動した。だが、それが仇となった。火竜は、急降下を始めた。

「追うぞ!」

 ユーとアランは火竜の後を追った。火竜が向かった先は琴葉姉妹だった。


「葵、でっかいトカゲが空をとんどるで、恐竜かな?」

「お姉ちゃん。違うよ。あれはどう見ても竜だよ!」

「冗談言うたらあかんで、竜は空想上の生き物や、居るわけがない」

「お姉ちゃん!一体、今まで何を見てきたのよ。ゴブリンや天使が居るんだから竜だって居るよ」

「なんや、こっち向かって来とるで?」

「お姉ちゃん!ヤバいって!逃げないと」

「葵、落ち着くんや。アランさんは動くなと言ってなかったか?」

「違うよ!ウータン丸から離れないように言ったんだよ!一緒に逃げよう」

 葵は必死だった。竜が葵たちを殺しに来ていた。

「いや、こういう時は動かん方がええで、よく映画とかであるやん。序盤のピンチで慌てて逃げた奴から先に死ぬやつ。うちは、そんなヘマはせえへんで」

 茜は、自信満々でそう言ってのけた。ウータン丸を抱っこし、火竜に正面から向き合った。火竜は茜から10メートル離れた空中で止まり、大きく口を開けた。葵は茜にしがみついていた。

「お姉ちゃん……」

「大丈夫や」

 茜がそう言った瞬間、火竜の口から炎が吐き出され、茜と葵を焼き払った。火竜は、自分を追ってきた天使たちが強敵だと理解していた。そして、敵を減らすために弱いものから始末することにしたのだ。

(コレデ、ノコリハ3ニン)

 火竜は、そう考えていた。だが、茜と葵は生きていた。二人は白く輝く球形の魔方陣に包まれていた。

「あかねしゃんとあおいしゃんは、うーたんが、まもりまちゅ」

 魔方陣はウータン丸が出していた。『可愛いは正義』の必殺技『なんじ、かわいいに触れる事なかれ』が発動した結果だった。

「ありがとう。ウータン丸」

 そう言って茜はウータン丸をなでた。ウータン丸は気持ちよさそうにしていた。

(だから、アランさんはウータン丸から離れないように言ったのか……)

 葵は、命が助かったことで冷静さを取り戻した。そこへ、アランとユーが火竜を追って急降下してきた。そして、アランが闇の宝珠を取り出し、刀の形状に変化させ両手で持った。刀を大上段に構えつつ魔術を使った。

水剣纏スイケンテン

 アランは刀に水をまとわせた。

六精ろくせい戦術・つるぎの型・落水らくすい

 そう言い放ち、落下している火竜に水をまとわせた刀を大上段から打ち下ろした。火竜は背中にアランの一撃を受けた。

(火竜に状態異常『水濡れ』が付与されました)

 そこへユーが両手を組み、頭上に掲げた状態で急降下した。

「プーロ・テイン!」

 プーロ・テインは翻訳すると『トールハンマー』という技名だ。ユーの両こぶしは雷を帯びてバチバチと音を鳴らしていた。そして、両手をハンマーの様に打ち下ろし火竜の頭部に打ち込んだ。ゴンという鈍い音と共に直撃し、雷光がほとばしった。

(火竜の状態異常『水濡れ』の効果により、雷撃のダメージ増加しました)

(火竜の状態異常『水濡れ』の効果により、ショックが発生しました)

(火竜は状態異常ショックに対する抵抗に失敗しました。火竜へ状態異常『気絶』が付与されました)

 火竜は水に濡れていたため、頭部への衝撃に加えて雷撃のショックを受けて意識を失い落下していく。

 そこへミリアが黒杖アポトーシスを構えて詠唱を始める。

「ミリア・クリシェラルの名において願い奉る。世界の法則を司る神よ。今、僅かの間だけ、あなたを無視します。あまねく生物に完全なる凍結を……。『アブソリュートゼロ』」

 ミリアの詠唱が完成すると、火竜が一瞬にして凍った。

(状態異常『水濡れ』の効果により、氷属性のダメージ倍増しました)

 火竜は凍ったまま砕け散った。そして、光り輝く魔石となった。

「お腹、空いた~」

 ミリアは、腹の虫を鳴らしながら、そうつぶやいた。

「お二人とも無事ですね」

「おう、ウータン丸のお陰や。ありがとう。ウータン丸」

 茜は上機嫌でウータン丸をなでていた。ウータン丸は当然ですといった表情でどや顔していた。

「えっと、アランさん?道中危険は無いんでは?」

 葵は少し非難気味にアランに詰め寄った。

「ええ、本来であれば火竜などはここら辺に出現しないはずなんですが、前線で何かあったのかもしれませんね」

「前線?」

「ええ、魔王軍との戦いの最前線の事です」

「戦争中なんですか?」

「そうですよ。2年間ずっと戦争をしています」

「人間と魔王軍の戦いが続いているんですか?」

「いいえ、魔王軍と天使たちの戦いです」

「え?人間は?」

「人間では魔王軍に太刀打ちできません。なので、天使のほとんどが最前線で戦っています。だから、強い魔物は迷宮にしか出現しないようになっているんですが、天使も人手不足で稀に前線を突破されることがあるんですよ。まあ、そういった魔物の退治も私たちの使命の一つなんですけどね」

「なるほど、レアケースという訳ですね」

「そうです。滅多にある事ではありません」

「あと、戦闘中に頭に直接響く声は何なんですか?」

「ああ、あれはシステムメッセージですよ」

「システムメッセージ?」

「ええ、魔物との戦闘をサポートするために、神が作ったシステムです。状態異常の付与や消失、攻撃威力の増加や減少といった戦いで知っていたら有利になる情報を教えてくれるんです」

「なるほど、アランさんたちは、それを知っていて順番に攻撃してたんですね」

「その通りです。出来るだけ、ミリアの魔法を温存したいですからね」

「アラン。お腹空いた」

 葵とアランが会話していると、ミリアが腹の虫を鳴らしながら、アランの左腕にかみついていた。そして、ガシガシと何度も腕をかんでいた。

「もうすぐ、食事出来る場所に着くので我慢してくださいね」

 アランの言葉を聞いてもミリアは、アランの左腕にかみついたままだった。

「あの、アランさん?大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 そう言ってアランは、懐から煎餅せんべいを一枚取り出した。それは八戸市近辺で多く食されているお菓子だった。小麦粉を水で練って丸い型に流し込んで焼き固めたシンプルな煎餅だった。

 ミリアは、それを受け取るとアランの左腕から離れて南部煎餅を貪り食った。

「おかわり」

 そう言ってアランに手を差し出す。

「今は、これで我慢してください」

「腹減った」

 そう言ってミリアは辛そうにトボトボと歩き始めた。

「あの、アランさん?なんでミリアさんは、あんなに腹を空かせているんですか?さっきの魔法のMP消費量、それほど多かったんですか?」

「いいえ、さっきの魔法のMP消費量は、500程度です。ミリアのMP総量からしたら大したことないんですが、ミリアは空腹を我慢できない体質らしくて……」

「ええっと、つまり?」

「常に満腹じゃないと辛いみたいです」

「なんか、大変そうですね……」

「常にMP回復できるポーションを持って歩けばいいんですが、とても高価な商品なので使い続けると破産するんですよね……。ミリアには悪いですが我慢してもらうしかありません」

「そうですか……」

「茜さん。ウータン丸様は、そのまま茜さんに運んでもらってもよろしいですか?」

「ええで、ウータン丸があれば、うちは無敵や。喜んで運ばせてもらうで」


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