ホームセンター
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「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
「そうと決まれば、装備を整えないといけませんね」
アランは二人が初心者だと認識したので、冒険の初歩を教えることにした。
「装備?うちら魔術師やし、武器とかいらんで?」
「いいや、必要ですよ。魔術師だから武器は要らないというのは大きな間違いです」
「そうなん?」
「ええ、この世界の武器には魔術の効果を強めるものが存在しているんです。ですから、武器は買っておいて損はありません」
「ちなみに、ミリアさんは何を装備しとるん?」
「私はコレ」
そう言ってミリアは禍々しいオーラに包まれた黒い杖を取り出した。茜と葵は、そのオーラに気圧され生唾を飲み込んだ。
「それは、なんて武器なん?」
「黒杖アポトーシス、全ての攻撃魔法の威力を強化し、即死の効果を追加する」
「えげつな」
(魔法?魔術の言い間違えかな?あと、ミリアさんだけで火力は十分なんじゃないかな?なんで、仲間を募集したんだろう?しかも、初心者歓迎って……)
葵は疑問を口には出さずに別の質問をした。
「えっと、アランさんの武器は?」
「私の武器はこれですよ」
そう言って取り出したのは黒い球だった。黒い球は一瞬で漆黒の日本刀になった。漆黒の刀身からはミリアの杖と同様に禍々しいオーラが出ていた。
「これは、闇の宝珠と言って闇の精霊との契約の証なんですが、こうして刀の形状にもなるんですよ。効果は色々ありますが、一番の効果は切った相手に即死と弱体のデバフが付くって所ですね」
「アランさんの武器もえげつな」
「えっと、そんなに強いのに何で初心者の私たちとパーティーを組むんです?」
「それは、神の言いつけなんです。必ず人間を仲間に入れて鍛える事、それも私の使命として課されています」
「なるほど、分かりました」
「先に説明しておきますが、ウータン丸様の武器は『可愛いは正義』でユーの武器は『秩序の小手』です」
「あの『秩序の小手』は、予想通りなので分かるんですが、『可愛いは正義』って何です?」
「『可愛いは正義』は『可愛いは正義』ですよ。まあ、実際に戦いの場で、見た方が早いと思います」
「そうですか……」
(ダメだ。ウータン丸が戦っている姿が想像出来ない……。でも、問題ないか、他のメンバーだけで敵は簡単に殲滅できるだろうし、ウータン丸が何もしなくても問題にはならないか……)
葵は、とりあえず受け入れた。
「装備の重要性は理解しました。では、お店に案内してもらっても良いですか?」
「ええ、一緒に行きましょう」
こうして5人と1匹は、装備を整えるためにフードコートを後にした。
5人と1匹がたどり着いた場所、そこはホームセンターだった。
「あの、間違えていたらごめんなさい。ここってホームセンターですよね?」
「ええ、そうですよ」
「ここで、武器が買えるんですか?」
「葵、ここは異世界のホームセンターやで、武器が置いてあったとしても不思議はあらへんで」
「いや、お姉ちゃん。よく見てよ、普通に灯油缶とか、キャンプ用品が置いてあるよ」
「そりゃあ、置いてあるやろ、ホームセンターやで?」
「葵さん。ご心配なさらずに、私が案内しますから」
「頼みますよ。アランさん」
葵はアランの言葉を信じた。
「ええ、任せてください。まずは茜さんの魔術の威力を高める商品が置いてある場所へ案内しますね」
そう言ってアランは先導した。移動した先は仏具売り場だった。
「あの?アランさん?間違っていませんか?ここ、仏具売り場ですよ?」
「間違っていませんよ。このライターは火属性の魔術の効果を高めます」
「え?ライターが?」
「ええ、そうですよ。このライターを持って火の魔術を使えば威力が倍になります」
「え?倍になるんですか?」
「ええ、倍です」
「値段も200円とお手頃やな」
「え?お姉ちゃん信じるの?」
「逆に何で疑っとるん?ここは異世界やで」
「いや、でもライターだよ?」
「信じられないなら試してみることをお勧めします」
「え?試せるんですか?」
「ええ、一回だけなら試し打ちできますよ?」※1
「お姉ちゃん。やってみてから買うか決めよう」
「ええで、うちは試さんでも買う気満々やけどな」
「すみません。試し打ちしても良いですか?」
アランさんが近くの店員に声をかけた。
「このライターですか?」
「はい」
「では、こちらでお試しください」
そう言って店員はアランにお試しというテプラが張られたライターを渡した。
「試射場の場所は分かりますか?」
「ええ、把握しています」
「試し打ちが終わりましたら、試射場の店員にお返しください」
「分かりました」
「さあ、行きましょう」
店内の端っこに試射場があり、その場所はハローワークの練習場と同じく射撃場の様に的が置いてあり、的までの距離は50メートルだった。
「どうやって使うん?」
茜はアランから手渡されたライターを持っていた。
「ただ手に持って魔術を使えばいいですよ」
「やってみるで」
茜はライターを持っている右手に魔力を集中させて、呪文を唱えた。
<火矢貫>
茜の右手から炎の矢が2本打ち出されて的に命中し、的が燃え落ちる。
「ほんまに2倍やな、葵、信じたか?」
「本当に2倍になった……」
葵は驚愕の表情を浮かべた。
「信じていただけたのなら、次は葵さんの武器ですね」
「よろしくお願いします」
アランが案内したのは、飲料水コーナーだった。
「このミネラルウォーターがお勧めです」
「ミネラルウォーター?水道水ではダメなんですか?」
「ダメではありませんが威力が落ちます。それにミネラルウォーターには浄化の追加効果もあるので、値段の割に高性能なんですよ」
「確かに1本50円は安いですね」
「葵、どないする?うちらの残金500円ぐらいやろ?」
「じゃあ、ライター1本とミネラルウォーター1本買おう」
「ちょっと待ってください。それらの武器には使用回数があります。ライターは20回で、ミネラルウォーターは10回です。ミネラルウォーターは安いし高性能なので、4本買うことをお勧めします」
「アランさんが、そう言うのなら買います」
こうして、茜と葵はライターとミネラルウォーター4本を購入した。
「あの、防具は必要ないんですか?」
「本当は必要ですが、今回行く迷宮では不要です。私とユーでお二人をお守りしますので、大船に乗ったつもりでいてください」
「そうですか、分かりました」
葵はアランのいう事を信じた。
「さて、迷宮攻略は明日からですが、宿はとってありますか?」
「え?宿が必要なん?こういう場合、漂流者用の宿泊施設とかあるんちゃうのん?」
「それが、無いんですよね。宿をとってないと野宿になっちゃいますよ?」
「ええ、マジで……。野宿なんて無理や。葵、どないしよう?」
「今から、ゴブリンを狩って、宿代を稼ぐしかないと思う」
「ハローワークの営業時間終了まで1時間を切っています。とても間に合わないでしょう。パーティーに入ってくれたことですし、今日の宿代は迷宮攻略後の報酬から差し引くという事で、私がお貸ししますよ。それと、同じ宿で良ければ私が予約を取りますよ」
「良いですか?」
「もちろんです。人助けも神からの使命ですから」
こうして、二人は野宿せずにすんだ。
宿のロビーで、アランが予約をしているときに、ミリアが茜と葵に話かけた。
「ステータス、確認した?」
「ステータスってなんや?」
「初めて聞いた」
茜も葵もステータスという言葉は初耳だった。
「冒険者証に魔力」
そう言って、ミリアは冒険者証をかざし、魔力を込めた。すると、半透明のウインドウがミリアの正面に表示され、以下の内容が表示された。
名前:ミリア・クリシェラル
性別:女性
年齢:XX
職業:魔女
種族:堕天使
HP:5000
MP:9999
STR:10
VIT:10
DEX:10
AGI:20
INT:20
PEI:15
LUK:15
CHR:10
「これが、ステータス」
「なるほど、ハローワークカードに魔力を込めればええんやな」
「そう」
「やってみるで」
名前:琴葉・茜
性別:女性
年齢:XX
職業:火魔術師
種族:人間
HP:100
MP:200
STR:10
VIT:10
DEX:10
AGI:10
INT:12
PEI:10
LUK:10
CHR:15
「これって、ええんか?」
「ステータスの標準値は10、だから茜は平均以上」
「年齢の部分がXXになってるけどなんでや?」
「女性の年齢は非表示がデフォ」
「なるほど、紳士的なステータスやな。それで、葵はどないや?」
「やってみる」
葵が冒険者証に魔力を込めた。
名前:琴葉・葵
性別:女性
年齢:XX
職業:水魔術師
種族:人間
HP:100
MP:200
STR:10
VIT:10
DEX:10
AGI:10
INT:12
PEI:10
LUK:10
CHR:15
「なんや、同じか。なあ、ミリア。ステータスの意味は大体分かるんやけど、CHRってなんや?」
「それは、魅力」
「そか、うちらは平均の5割増しでかわええっちゅうことか」
「そう」
「なんや得することあるんか?」
「特定の職業に転職するときに必要になる」
「なるほど、分かったわ。ありがとな」
茜は分かったつもりになっていた。だが、葵は重大な事を聞き逃さなかった。
「転職、できるの?」
葵は冒険者をやめれる可能性がある事に気が付いた。
「できる。条件を満たせば」
「どんな条件なの?」
「ステータスの内容とレベル20以上が条件」
ミリアは淡々と答えた。
「他の職業のステータスを見れるようなものはあるの?」
「これ」
そう言ってミリアは一冊の本を葵に手渡した。
「ありがとう。ミリアさん」
「なんや、葵。レベル1で、もう他の職業に興味あるんか?」
「まあね。今からどんな職業になれるのか知っておくのは大事かなと思って」
葵はウキウキしながら本を見て行った。そして、絶望した。
「ねぇ、ミリアさん。転職できる職業って冒険者の中でなの?」
「そう。一般職には転職できない」
「そう、ありがとう」
葵は、逃げ道がない事を悟った。
※1異世界での話です。実際のお店では出来ませんのでご注意ください。