第67話 食欲の秋、秋刀魚パーティー、夫婦の何か
10月初旬。もう残暑も過ぎ去ってようやく秋らしくなってきた。
そんな週末の土曜日の午後、俺たちが何をしているかというと-
「ほら、秋刀魚焼けたわよ」
七輪から焼けた秋刀魚を紙皿に移してくる優。
今日は優の家で秋刀魚パーティーだ。
なんでも親戚から大量の秋刀魚が送られたきたのだとか。
「サンキュ。鍋奉行ならぬ秋刀魚奉行ってやつだな」
「上手いこと言ったつもり?」
「結構いい線行ったと思うんだけどな」
「修二君はギャグセンス磨いた方がいいと思うわよ」
「相変わらず優はそういうところ辛口だな」
ま、今更そんなことを気にする仲でもないか。
ふと、隣からじとーっとした視線。
「なんだよ、百合」
「少しモヤモヤする」
「いやいや。別に変な意図がないのはわかるだろ」
なんで今さら妙なヤキモチを。
「わかってるけど、女の子の気持ちは理屈じゃないの」
「と言われてもな……」
困った。昔からの友達とのちょっとした掛け合いにそう言われても。
「秋刀魚」
「秋刀魚がどうしたんだ?」
「食べさせて」
つまり、あーんしてくれたら許すと。
最近の彼女はちょっと嫉妬深くなった気もする。
でも、ま、それで機嫌を直してくれるなら。
「ほら、あーん」
秋刀魚の身をほぐして、百合の口に放り込む。
「うん。美味しい」
先程の不機嫌はどこへやら。すっかり笑顔の百合だ。
とおもいきや。
「修ちゃん、もう一度」
あーん、とまたおねだりしてくる。
こういうのもまた変なところから知識仕入れたのだろうか。
「ほら、あーん」
「美味しい」
「機嫌直ったか?」
「うん」
こういうところも可愛いと思ってしまうんだから我ながら仕方がない。
「二人とも相変わらずラブラブだなー」
俺たちに割って入って来たのは川村宗吾。
高校からの旧友で同じ学部の同期だ。
「ラブラブ……宗吾君もそう見える?」
ニヘヘヘとだらしない笑みを浮かべる百合。
「ラブラブだなー。百合さんもちょっと変わったっていうか」
「だろ。男心を弄ぶ変な手練手管を覚え始めるもんだからさ」
「はいはい、ノロケノロケ」
やってられねーとばかりの宗吾だけど、しかし。
「宗吾もとっくに彼女持ちだろう。しかもすぐそこに」
相変わらず秋刀魚を焼いて焼いて焼きまくる優を指差す。
「俺たちはお前たちみたいなバカ夫婦じゃないんだよ」
「学食で食べさせ合いとかしてたのにどの口が言うか」
こいつらも順調にバカップル化しつつあると俺は思う。
「俺たちはもっと健全なお付き合いをしてるよな。優さん?」
宗吾の言葉に一瞬、手を止めるも。
「え?もちろんそうよ。慎みのあるお付き合いをしてるつもりよ」
秋刀魚を焼く手を止めない手際はさすが。
「慎み……二人はまだエッチしてないの?」
百合の素朴な質問で瞬間、空気が凍った気がした。
瞬間、ちらっと目配せをしあった二人。
「それは一応は、ね」
「付き合いも長くなってきたしな」
さすがにやることはやってるらしい。
「そっかー。お姉さんもちょっとほっとしたよー」
「何がお姉さんよ。私のこと姉御とか言ってた癖に」
「でも、お付き合いは私達の方が先だと思うんだけど?」
珍しく百合も煽る煽る。
「私達には私達のペースがあるの。よね?」
「ああ。そうそう」
さすがに付き合いも長い。
優も煽りに乗っては来ない。
「修二さん、修二さん」
笑いを噛み殺しながら掛け合いを眺めていると、
横から袖を引っ張る、百合よりやや小柄な女の子。
「どうしたんだ、雪ちゃん?」
春日雪。優の二つ歳下で従姉妹。
ボブカットでスポーティなイメージが印象的。
「百合先生と修二さんは夫婦、ですよね?」
「ああ、まあな」
まだ高校生な雪ちゃんは俺たちの関係に興味津々らしい。
「やっぱり、夫婦の営みは毎日してるんですか?」
「ぶっ」
いきなりなんて質問を。
「それとも、週一くらい?」
毎日とか週一とか言われてもな……。
「ま、まあ。週一以上くらいは」
さすがに細かく言うのは恥ずかしすぎる。
「じゃあ、週二くらい?」
だから、なんで頻度を聞いてくるんだよ。
「ま、まあ。それくらいは。それ以上は勘弁してくれ」
雪ちゃんはなんていうかとても開けっ広げだ。
こういうことを無邪気な顔をして聞いてくるくらいには。
「じゃあ、じゃあ。コンドームは何mmが好みですか?」
「いや、そこはさすがに……」
何が悲しくて秋刀魚パーティでコンドームの話をしなければいけないんだ。
「雪ちゃん、雪ちゃん」
と思えば百合が何やら雪ちゃんに向かって手招き。
(助かった)
それとなく宥めてくれるだろう。
と思ったのだけど。
(修ちゃんは恥ずかしがりだから。今度の家庭教師の時に、ね?)
(約束ですよ?百合先生)
(ところで、雪ちゃんは好きな男の子がいるの?)
(実は先日付き合い始めたばかりの人が居まして。今度相談に乗ってくれますか)
(うんうん。乗ってあげるよー)
ヒソヒソ声だけど会話の内容が丸聞こえだ。
まあ、俺の居ないところで言うならいいけど。
しかし、その辺りが気になった理由がわかった気はする。
彼氏との仲をどう進めればいいのか雪ちゃんなりに気になるんだろう。
にしても、コンドームの話ぶっこむのは勘弁してほしかったけど。
「百合が雪ちゃんと仲良くなってくれたのはいいんだけど……」
今後、家庭教師でどんなことを漏らされるかと思うと少し気が滅入る。
「雪も物怖じしない子なのよね」
「にしてもオープンな子だな」
ちょっと変わった子だなという言葉は飲み込む。
「遠慮しないでいいわよ。あの子もちょっと変わってるわよね」
「まあな」
「私も宗吾君と付き合い始めた時は根掘り葉掘り聞かれたもの」
はあ、とため息をつく俺と優。
「優さん。もちろん、妙なことは言ってないよな?」
不安になったのだろうか。宗吾が念の為と優に確認を取る。
「もちろんよ。さすがに恥ずかしいもの」
「ほっとしたよ」
一線を超えても妙に恥ずかしがりな二人らしいやりとりはどこかほっとする。
一方、妙な知識をつけてきた俺の嫁さん。
「百合。頼むから妙なこと雪ちゃんに教えないでくれよ?」
「大丈夫。私も具体的なこと言うのは恥ずかしいから」
一昔前の百合だったらそうだろう。
しかし、最近の彼女は妙な知識をつけてきているのが不安だ。
「夜の営みとかコンドームの話とか、そういうのはやめてくれよ」
「……うん、わかった」
一瞬、少し残念そうな顔をした気がしたけど。
止めなければ本当にするつもりだったのでは。
(好奇心が旺盛なのも困りものだ)
そういえば、こないだ薬局に行ったときのことだった。
百合が居なくなったので探していたら、
コンドームの箱を興味津々に見てたっけ。
(興味があるのもほどほどにしてくれよ)
旦那としてそう切に願ったのだった。




