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幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた  作者: 久野真一
第1章 幼馴染と恋人になりたいかを話し合ってみた件
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第2話 恋人になった方がいいか聞いてみた件

 修二(しゅうじ)と別れた私は着席するなり机に突っ伏す。

 窓際の席は晴れた日にはとっても睡眠に良いんだよね。

 修二も窓際席だからぼーっと空を見ているだろうか。


(もう寝よ……)


 昨夜クリアしたばかりのRPGのラスボスとのバトルを思い浮かべる。

 なかなか勝てなくて何度もリトライしたっけ。

 意地になってその日の内にクリアしたんだけど気がつけば朝四時だった。

 

(眠いのも当たり前だ)


 気が付いたら意識が遠くなっていた。

 なんとなく、修二が仕方ないなあって顔をしている様子が思い浮かぶ。

 最近クラスの友達に突っつかれているせいだろうか。


■■■■


 私は恵まれた家庭に育った方だと思う。

 お父さんもお母さんも最低限の礼儀以外は小うるさく言わなかった。

 「女の子らしく」なんてこともあんまり言われたことがない。

 女子には珍しい放任主義の家庭。


 修二と出会ったのは小一の頃。歩いて三分のご近所さんだったのだ。

 元々お母さんと修二のお母さんは仲が良かった。

 ある日、彼が私の家に遊びに来てその日の内に意気投合。

 私が好きな都市計画シミュレーションゲームに彼も大ハマり。


 埃をかぶったノートPCに入っていたゲームで私のお気に入りだった。

 お父さんの影響か私は小さい頃からゲームが大好きだった。

 でも楽しさをわかってくれる女の子の友達が少なくて寂しかった。


 今でも女の子らしくない趣味が多いとよく言われることが多い私。

 でも男子でも好きなゲームの楽しさをわかってくれる子は少なかった。

 だから修二と友達になれたのはとっても嬉しいことで大事に思っている。


「そろそろ退屈になって来たね」


 町が発展していくと退屈になるのが常だった。

 気怠そうに横からノートPCを眺める修二に対して、


「じゃあ、街を壊そう!怪獣イベント起こす?」


 町を破壊するイベントを提案するのが私だった。


「百合ちゃんは怪獣イベント好きだよね」


 修二はそんな私に呆れ混じりの目を向けてくるのがいつものことだった。


 その他にもコンビニ経営シミュレーションゲームや戦国シミュレーション。

 ややずれた嗜好を持つ私にとって修二は一番の友達だ。


 近所の同じ中高に進学した私たち。

 なんとなく仲がいい友達のままにここまで来てしまった。


 最近は少し異性としてみる気持ちは出てきているけど。

 それを抜きにしても親友だってはっきりと言える。


◇◇◇◇


「ううん。だるい」


 授業の途中に目が覚めてしまった。

 久しぶりに昔の夢を見てしまった。

 何かがあったわけでもないけど心が暖かくなる夢。


 先生は気づいていないようで注意されることはなかった。

 成績優秀だからもともと見逃される事は多いけど。


(修二は私たちの関係どう思ってるのかな)


 私が悩んでるのは修二との関係。

 男女二人きりで登下校というのは注目を集めるのだ。 

 

池波(いけなみ)君と付き合ってるの?」


 クラスメートの女子によく言われる言葉。

 言われるたびに私はとても困惑してしまう。


 修二とは恋人じゃない。

 ただのお友達じゃないけど恋人ではない。

 だから勘違いされるのは困る。


「今の関係は居心地がいいし、私はそれで十分なんだけど」


 本心からそう言うと何を勘違いしたのか。


「信じられないなー。片想いしてるから関係が壊れるのが怖かったりじゃないの?」


 なんて勘繰る子だっている。そういう話じゃないんだけどな。

 

 修二と恋人になれたら今よりも楽しそうだなとは思う。

 でも、二人で行動するのはずっと昔からのこと。

 だから迷う。


(恋人といっても何をするんだろう)


 どう告白すればいいのかもわからない。


 「ずっと好きだったよ、修二」なんて言うのだろうか。

 私たちの関係だと何か違う気がする。

 友達として好きなところも異性として好きなところもある。

 だからスキンシップにだって抵抗がない。

 修二も似たようなものじゃないかって思う。

 

(下校の時に話してみた方がいいかな)


 重大な話を下校途中にとは私のことながらどうかと思う。

 でも、修二ならきっと真剣に聞いてくれる。


◇◇◇◇


 放課後。帰宅部の私たちは二人で帰るのが日課だ。


「授業はちゃんと聞けたか?」


 じろりと睨まれるけどちっとも怖くない。


「午前中は完璧寝てた」


 素直にそう言う。

 

「だろうと思った。はい」


 カバンの中からノートを取り出して貸してくれる。

 修二は私に甘いんだから。


「ふふ。持つべきものは友だね」


 嬉しくてそんな事を言ってみる。


「お前なら写す必要もないから楽だよな」


 居眠りした授業のノートを貸してもらうのもよくあること。

 私はノートを一読しただけでわかってしまうから写す必要もない。

 この事を知っている人は彼くらいだ。


 知られれば微妙な目で見られそうだし。

 天才だの何だの囃し立てられるかもしれない。

 そんな事は面倒くさいので他の子には話さない。


「修二。ちょっと話があるんだけどいい?」


 私の頭を悩ませている問題を議題に上げることにする。


「ゲームのネタバレは勘弁な」


 渋い顔をされてしまう。


「もうちょっと真面目な話だよ」


 声色を真剣なものにすると。


「そっか。どうしたんだ?」


 彼も聞く体制に入ってくれた。


「修二は私と恋人になりたい?」


 そんな風に聞いてみた。

 普通ならまず告白するべきなんだろう。

 でも、お互いに異性としても好意を持ってるのはわかっている。

 だから、これは告白ではなくて相談。


「百合もクラスの連中になんか言われてるのか?」


 気だるそうな顔でそんな言葉を返してくる。


「あなたたち付き合ってるの?とか。そっちもってことは修二も?」

「大体同じ。幼馴染の関係が壊れるのが怖いのかとかもな」


 どうやら同じような事を言われているらしい。


「関係が壊れるといってもなあ。よくわからん」

「うんうん。だよねー」


 やっぱり、といったところだ。


「なれたらいいと思ってる。百合は俺と恋人になりたいか?」


 修二と恋人。


(恋人になるということは)


 なんとなく二人で遊ぶのじゃなくて。

 待ち合わせをして「デート」をする。

 デートが終わった後にはキスもしたりもして。

 部屋でちょっとエッチなこともするかもしれない。

 クラスメートにはからかわれそう。


 想像して恥ずかしくなって来てしまった。


「なれたら楽しそうかな」


 動揺をさとられまいと平静を装って言ってみる。


「ちなみに理由は?」

「うーんと……」


 率直に思い浮かんだ光景を話すのは少し恥ずかしい。


「デートしたりとかキスしたりとかいいかもって」

「意外だな」


 修二は目をパチクリさせていた。


「意外って……私のこと何だと思ってたの?」

「恋人になれたら面白そうとか言うのかと」


 半分は当たっているけど、それだけと思われるのは嫌だ。


「私も女の子なんだけど?」


 それはやっぱり彼氏とのあれこれに憧れだってあるのだ。


「お前が女の子なのはわかってるよ」


 その言葉に少しドキドキしているのがわかる。


「な。なら。恋人になろっか。もちろん、男の子としても好きだからね?」


 だいぶ早口になっている。私らしくもなく緊張してる。


「俺もそうだよ。その……百合は可愛いと思うし、女の子として意識することもあった」 


 彼もだいぶ早口になっている。同じように緊張してるんだろうか。


「こ、恋人になってすぐに言うのも何だけど」

「ん?」

「キ、キスってその……どうかな?」


 いきなりな提案だとは自覚している。

 でも、私たちの関係は曖昧だったから。

 キスという区切りが欲しかった。


「そ、そうだな。キス、するか」


 力強く太くなった腕でぎこちなく抱き寄せられる。

 少し緊張して赤くなった彼の顔が見える。


(まず目を閉じて)


 少し顔は上に向けるんだっけ?

 修二は私より顔一つ分くらいは背が高いのだ。

 心臓がドクン、ドクンと言うのが聞こえてくる。


(落ち着かなきゃ)


 まだかな。なんて思ってると、唇に少し冷たい感触。

 チュッと軽い水音がした。


(キスってこんななんだ)


 幸せな気持ちで心が満たされる。恋人がキスする理由、わかった気がする。


「キスってなんだか幸せだね」


 私自身の唇をなぞりながらほうと息を吐く。


「俺も幸せだぞ」


 勢いで恋人になってしまった私たちだけど。


「恋人ってやっぱりいいかも」


 キスだけでこれなのだ。

 色々できたらもっと楽しくなりそう。


「なんとなく躊躇してたけど必要なかったな」

「そうだね。必要なかったね」


 手を繋ぎながら言葉を交わしあう私たち。

 目を見合わせるといつもの雰囲気に戻っていた。


 こうして、私たちは友達から恋人になったのだった。

 普通なら劇的なはずの一日なんだろう。

 私たちにとってはいつもと少し違うだけの一日。


(カップルとしてはかなり変かも)


 でも、それが修二と私の関係。

 

(これからどんな日々になるんだろう)


 一番の親友にして恋人になったばかりの幼馴染を横目で見ながら。

 ワクワクを募らせる私だった。

 第一章はこれにて終了です。

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