第19話 バカップルを止めようと話し合ってみた
友達からバカップル過ぎるのを注意された修二は一計を案じるものの……。
一時限目、物理の授業。
この時期になるとどちらかというと復習メインだ。
そして、この授業の内容は概ね頭に入っている。
だから、考えていたのは別のこと。
『お前ら、仲がいいのはわかるが、それくらいにしとけって』
学友の川村宗吾からの忠告だ。
確かに、ここ数ヶ月、俺達はちょっとやり過ぎだった。
うちの高校は幸い大人しい奴が多いからトラブルにこそなっていない。
しかし、これ以上俺たちの仲が加熱すると見てる側も微妙な気分かもしれない。
最後列の席から前を眺めていると、皆、黙々と授業を受けているのがわかる。
時折ちらりと俺たちの方を見る生徒がいるけど。
やはり、イチャつき過ぎだろうか。
それなら。
【△ちょっと相談があるんだけど】
A4ノートから一枚を切り取って手渡す。
【☆どしたの?】
筆談で相談する時に、ややこしくならないように。
お互いに先頭の記号を決めてやりとりしてたのが小学校の頃。
△が俺で☆が百合だ。
【△宗吾に言われて少し反省したんだ】
【☆イチャつき過ぎじゃないかって?】
さすが百合。理解が早い。
【△ああ。やり過ぎると反発買うかもだし】
【☆言いたいことはわかったよ。どうするの?】
問われて少しだけ考える。
今までがいちゃつき過ぎていたのなら。
【△学校では、普通の恋人ぽくするとか】
【☆それがいいのかも。具体的にはどうすればいいかな?】
具体的にか。
【△呼び名を戻すとか。俺からは「百合さん」】
【☆すんごく違和感があるんだけど】
露骨に渋い顔をされてしまった。
それも当然か。今まで使ったことがない呼び名だ。
【△他にいい案があれば検討するけど】
【☆……仕方がないか。それでいいよ】
少しの間懊悩していたけど、いい案が思いつかなかったらしい。
名字呼びにしたらそれこそ「何があった?」とかなるし。
【☆私は「修二君」とかがいいかな?】
【△少し違和感があるけど……仕方がないか】
さん付けを提案しておいて、君呼びだと嫌だとは言えない。
【△あとはお昼なんだけど。一緒に食べるのはいいとして】
【☆シェアするのはナシってことだよね。おっけー】
百合は奔放なようで居て、きちんと周りも見えている。
こういう時にすぐ話が通じるのは本当にありがたい。
【△あとは、教室では、好きとかなんだとか、控えたほうが良さそうだ】
【☆少しやり過ぎじゃない?】
【△そう言われると……とりあえず数日様子見でどうだ?】
【☆確かに、注目され過ぎてるかも。ちょっと様子見しよっか】
学校内、特に教室でバカップル的な振る舞いを止めようということに。
その後は淡々と授業を受けて、あっという間にお昼休みに。
「修ちゃ……修二君、学食行かない?」
あわてて言い直す辺り、もう染み付いてるんだろう。
「了解。百合……さん。一緒に行こうか」
どうにもこうにも慣れない。
さて、周りの反応はというと。
やけにざわざわしていた。
学食への道すがら。
「なーんかまずったかな」
「いきなり呼び名が変わったからびっくりしたんだよ」
「それもそうか。ま、数日続けてれば馴染むだろう」
「変な方向に転がらないか、少し心配なんだけど」
「別に不仲を演じてるわけでもなし。大丈夫だろ」
そう言うも百合は依然として浮かない顔だった。
それから約一週間の間、俺達はバカップルを止めてみた。
教室に入る時は少し間をおいて。
「修二君。ちょっと教科書忘れたんだけど」
「百合さんらしいな。はい、どうぞ」
バカップルを止めてみて思ったんだけど。
これはこれで意外と楽しいかもしれない。
ただ、一つ気がかりな事があって。
以前よりも百合が男子に声をかけられるようになったのだ。
トイレから帰ってきた時には。
「堀川さん。俺らのグループでカラオケ行くんだけど、どう?」
という男子グループの露骨なお誘いや。
「堀川さん。ちょっと大事なお話があります」
少し気弱そうな男子生徒からのお願い。
傍から見るとどう見ても告白だ。
彼氏が居る相手にそれはどうなんだと思ったけど。
告白する権利くらいはあるだろうと気にも留めていなかった。
それからさらに数日。
少し距離を置いた恋人ごっこをしていたのだけど。
「堀川さんと池波、どうにも様子がおかしくね?」
「うん。妙にぎこちないというか」
「喧嘩でもしたのかな?」
「あれだけずっと仲よさげだったのに?信じられないな」
「でも、恋人同士だって色々事情があるし」
「なんていうか、落ち着かないよな」
「そうそう。同クラになってから、ずっと見てきた風景だし」
クラスの中で俺と百合が喧嘩でもしてるんじゃないかと囁かれているらしい。
「まさか、不仲説まで流れるとは……」
「私はそこが心配だったんだけど」
「確かに百合は心配してたよな」
「そうそう。呼び名変えちゃったのはまずかったんじゃないかな?」
「そう言われればそうかもしれんな」
朝の教室でこそこそと言い合っていると。
「なあ、二人とも。ちょっといいか?」
声をかけて来たのは宗吾だった。
「ああ、なんか深刻そうな顔してるけど」
「そりゃ、心配にもなるさ。二人とも喧嘩でもしたのか?」
ああ、そうか。友人同士が距離を取ってるとそう見えるか。
「実はさ……」
ことのあらましを説明する。
俺たちがちょっといちゃつき過ぎではないかと反省したこと。
学校内では少し距離をとろうと話し合ったこと。
呼び名も少し距離がある感じにした方が良いだろうと。
一部始終を聞いていた宗吾は終始微妙な表情をしていたが。
聞き終えるや否や、
「逆方向に極端なんだよ」
ため息をついていた。
多少はわかっていたけど。
「ほら。修ちゃん。やっぱりそういう事だって」
「そうだな。でも、いきなり戻すのもアレだろ」
「宗吾君はどう思う?」
俺と百合の距離は近過ぎて。
恋人同士の適切な距離感なんてわからないのだ。
「お前ら、器用なんだか不器用なんだか……」
なんて言いつつも、
「もう今まで通りでいいんじゃないか?俺も心臓に悪いし」
宗吾は諦めたように苦笑したのだった。
「ちなみに、百合にモーションかける奴が増えたのって……」
「百合さん狙ってた奴は多かったんだよ。入り込めないから諦めてただけで」
「なるほど。それで、不仲になってるならワンチャンあるかもと」
「まあ、そういうこと」
まさか、そんなことになるとは。
距離を取る作戦はどうやら失敗だったらしい。
「これからはいつも通りに戻すか。百合」
「うん。やっぱりこっちの方が安心するよ。修ちゃん」
目を見合わせて苦笑した俺たちだった。
距離を置くのは二人にはどうも無理だったようです。




