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9話目 暖かい食事を家族に

私はとりあえず、子供たちを食堂の後ろにある小さな別室に連れて行くと、クリーンを掛けた。

これでとりあえずはきれいになった。

服がボロボロなのは仕方ない。

そして、体の状態を調べた。


痩せている以外は特にケガや病気などはしていなくてほっとした。

その時、ドアをノックする音が聞こえた。


「執政官、いらっしゃいますか。子供の着替えを持ってきました。福祉課で保管してあるものです。」

「ありがとう、今、開けるわね。」


そこには、近所のおばさん風のよく日に焼けた恰幅のよい女性が立っていた。

福祉課の職員ではないと思う。


「さっきのやり取りを食事をしながら見ていたのさ。

そして、執政官が別室に入ったのでクリーンをするのかと思って、私は服を取りに行ったのさ。

多分、サイズは合っていると思うよ。これでも3人の子持ちさね。」


「そうですか、ありがとうございます。」

「私は食堂裏の農園で働いていてね、昼食は食堂でとることにしているのさ。

まあ、今日のようなことはたまにあるから慣れているんだよ。

慣れちゃいけないんだろうけどね。」


「おばちゃん腹減った。」

「こら、おばちゃんたちは今お話し中なの。」


「あっ、ごめんなさいね。まずはご飯よね。これに着替えたらご飯にしましょうか。」

「おばちゃん、ご飯が先が良い。」

「こら、おばちゃんの言うことを聞きなさい。」


「私たちのことをおばちゃん呼ばわりした子はまずは着替えからだよ。お姉ちゃんと言ってくれたらご飯を先にもらってきてやるよ。

さ、私にお願いしなさいな。」


「おばちゃん、ご飯が食べたい。」

「あっ、だからお姉ちゃんと言わないといけないだってば。」


素直な弟だ。


「まぁ、もういいよ。おばちゃんだもんな。わたしも3人も子供がいるし。」

「でもこっちのきれいな方はお姉ちゃんだろ。」


「おばちゃん腹減った。」


「もういいわ。私もおばちゃんでいいわ。」

その時にサッちゃんがトレーを持って入って来た。


「さっ、熱いからふ~っ、ふ~っして食べようね。」


そう言うとサッちゃんが弟の方を膝に乗せて食事をさせ始めた。

「さぁ、着替えはあとでいいからあなたも食べな。

冷める前にね。食事は暖かいものだよ、ここでは。

ここにいるお姉ちゃんおばちゃんがそう皆に教えてくれたのさ。」


そう言うと農場のおばちゃんがお姉ちゃんを座らせて食事を食べさせ始めた。


「執政官、ありがとうな。食事が暖かいことを教えてくれてさ。

私もこの子ぐらいの頃はあの大防衛戦が終わった直後で、食うものに困った者さね。


それをまだ12歳の中学生のあんたが先頭に立って、食事の用意から住居の整備までやってくれたんだよね。

私は覚えているよ。


父と母が戦争に行って、帰ってこなかった。

私と弟はもう食うものがなくて、ひもじくて、ただ家の中にじっとしているだけだった。


何の希望もなく、誰も気にしてくれる者もなく、もしかしたらただ死を待つばかりだったのかもしれないね。

死んだほうが楽だと考えていたかもしれないね。」


「おばちゃん、何の話。これ暖かくておいしい。温かい食事っておいしいんだね。」


「そうだぞ、ゆっくりと食べるんだぞ。

私もあんたと同じような時期があったのさ。

それをここにいるきれいなお姉ちゃんおばちゃんが、今のように優しく暖かい食事を振舞ってくれたのさ。


そうさ、私と弟が餓えで死を覚悟したときに、この方がドアをたたいて救ってくれたんだ。

今のように真っ黒なマントを着ていたけど、そのマントが眩しく輝いて見えたような気がしたもんさ。


執政官は私と弟にお皿を持ってくるように言い、それに暖かいひき肉と卵が入ったパンがゆを入れてくれたのさ。


一緒に居たきれいな少年が炎魔法で手押し車に積んだ大きな鍋を暖めていたっけ。


久々の食事で、みっともなくがつがつと食べる私たち姉弟に、この方はさらに優しく言ってくれたんだ。


" 暖かい食事は家族の思いです。私は執政官として家族である住民の皆に暖かい食事を食べてほしいの。

もう私の家族はバートリの住民しかいないの。

だから私の家族には温かい食事を食べてほしいの。


夕方になってまたお腹がすいたら、執政官公邸にいらっしゃい。

そこにまた食事を、暖かい食事を用意しておくので。必ず来てね。

絶対、遠慮なんかしちゃだめよ。"


そう言うと、あなたは隣の家のドアを同じように叩いた。

その隣も、さらに隣も。

そして、飢えで動けない住民がいるとその温かいパンがゆを配ったのさ。

ほんとに今のあんたらと同じだね。


私と弟は半信半疑で夕方公邸に行ったさ。

本当に温かい食事が用意してあったね。


でも、そこに執政官はいなかった。

食事を配って歩いている最中だってさ。

あのままずっと配り続けていたんだ。


私と弟はまたがつがつと食事をしたよ、でもちょっとしょっぱいんだよな。

何でかな、なんでか涙が止まらなくて、それがスープの中に入るんだよ。


きっと、安心したのとありがたさと、何といっても後ろめたさだろうな。

執政官がずっと、私と同じくらいなのに、働き続けているのに、私はただ用意してもらった食事を食べているだけ。


何もしなかったという、生きることをあきらめたという後ろめたさだよ。


私たち姉弟は朝用にパンとミルクをもらって家に帰ったよ。


そして、夜寝ないで考えたよ。

私にできること、執政官のために、執政官が家族と言っていた町の皆のためにできることを考えたよ。


私は頭が悪いからさぁ、暖かい食事のためには食べ物が必要だなと思ったよ。

私の親は商家で働いていたんだけど趣味で庭でちっちゃな菜園をやっていてね、私も弟も手伝っていたんだ。


私は家の倉庫にあった、鍬と最後の食事にととってあった豆の種をもって、役場に行ったさ。

そして、勝手に裏のきれいな庭に鍬を入れたのさ。豆を育てるために。


花どころじゃない、今は豆だと思って。

まぁ、そのまま20年も勝手に執政官公邸の庭園で野菜を育てているという訳さ。

何かまずかったかなぁ、どう思う、執政官。」


「良いじゃないでしょうか。食堂が近くて、皆、新鮮な野菜が食べられますし。

数人しか見ない庭の花より、数十人食べられる野菜の花がはるかに美しいと思いますわ。


ところで、執政官公邸の裏の庭園が農場になったわけはわかりましたが、牛と豚、馬、雌鶏を持ち込んだのはいったい誰なのでしょうか。」


「さあねぇ、私は野菜専門だからね。20年間試行錯誤をして、漸く農家として自信がついてきたよ。

ほんとだよ、酪農と養鶏には手をてしていないさ。」


「おばちゃん、暖かい食事おいしかったよ。

でも、もう少し食べたい。」


「あら、足りなかったかしら。一度に食べるとお腹を壊すといけないわね。」

「それでは、お菓子の方も持ってきましようか。」

「それが良いわね、お願いできますか、サッちゃん。」


「おばちゃん違うの、私はお腹が膨れたの。でも、お兄ちゃんはまだ食べていないの。お兄ちゃんもお腹がいっぱいにならないと私は泣きたくなるの。」


「いい子ね、でも心配しないで。ちゃんとお兄ちゃんにも温かい食事を用意しますよ。

今日からあなたたちはこの町の住人になるんですもの。この町の住人は私の家族。

家族には温かい食事を出すのがバートリの町の決まり事ですわ。」


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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よろしくお願いします。


もちろん、聖戦士のため息の本篇の方への感想、評価などもよろしくお願いします


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