8話目 私は・・・・・
得るものもなく傀儡ちゃんの元に帰ろうとしたときに、秘書官たちから昼食に誘われた。
執政官公邸の、とはいえ実態は町役場なんだけど、食堂でサッちゃんが何か作ってくれるそうだ。
ここで昼食を取らずにそのまま帰ったら、サッちゃんががっかりして泣きだし、雌鶏が危ないという複雑な事情があるらしい。
まぁ、丁度昼だし、傀儡ちゃんは寝ているだろうし、ペーチに帰ってもやることがないので誘われるままに昼食を共にすることにした。
食堂は町役場の、もうこの呼び方で良いわね、裏に増築された石造りの立派な建物だ。
はっきり言って、町役場よりも・・・・、これはまぁいいか。
でも、さらに奥に農園と牧場、そして養鶏場まであるのは、執政官の公邸としてはどうかと思う。
町役場の食堂が立派で、裏に農場があるのは実は大防衛戦の後の食糧難の時期に食べるに困っている住民に食べ物を配給した名残である。
多くの人が押し掛けてくるため、初めはテントが何棟も立ち、その内、少しづつ建物を整備して行った結果がこのような大きな建物になってしまった。
農場も初めは庭園を畑に変えていたのだが、いつの間にか、牛や豚、馬もそして噂の雌鶏がいるの。どこでこうなったの。
今でも昼食はここで取る住民が多いらしい。
もちろん今は有料だが。
ただ、何らかの事情で食事に困る者は役場で登録すれば食事のチケットをもらえるし、昼食だけでなく夕食も取ることが可能であった。
ちなみに住む所にも困っている住民には宿舎も提供されていた。
私が優秀な土魔法術士と言うことで、帰省の折にはそういう施設の大枠をよく作ったものである。
今は土木工事の声が掛からないのが少し寂しかった。
そう言えば町の北西部の開発案があったわね。
私たちの昼食はサッちゃんが作って持ってきてくれると言うので、食堂の一番奥の席に座って待つことになった。
「秘書官、北西部の開発ですが、土地の整備計画は如何ですか。」
「確か人員の募集が終わったところですね。
残念ながら執政官の出番はないようです。
しかし、待てよ。
役場の出張所の発注は終わってなかったような。
やりたいですか? 格安なら受注の可能性が残っていますぜ。」
こいつは秘書官なのか土木課の回し者なのかわからないわね。
「住民の仕事を奪うようなら受注は結構です。
秘書官、まさかとは思うけど、この昼食1回で出張所の基礎工事を引き受けていないわよね。」
「だんなぁ、私がそんなケチな女に見えますか。
やだなぁ、基礎工事をこの昼飯一回で押し付けるなんて、しませんや。」
秘書官の目が泳いでいるのはなに。それと、
「えっと、後ろに隠した図面は何。」
「がっ、ああ、サッちゃんが昼食を運んできましたよ。
今日はなんかなぁぁ、やった、パスタとハンバーグセットだ。
執政官、ハンバーグに旗立てます? 」
旗って何?
あっ、こいつは確か秘書官になる前は町立幼稚園で先生してたって言っていたような。
いや違うな、土木課で飯場の賄いやってたんだっけかな。
まぁ、もういいや。
「執政官、こちらが食堂のサッちゃんです。」
「おいしそうでわ。いっぱい食べないとね。
午後から土木工事をさせられそうだしね、秘書官殿。」
「何のことでありますか。私はそのようなことは存知奉らんでございます。」
やっぱり、目が泳いでいるんですけど。
「どうぞごゆっくり。執政官のお口に合えばいいんですけど。」
「サッちゃん、披露宴のケーキもよろしく。」
「それも承りました。いっぱい作って、子供たちにも配りたいですね。」
「秘書官、確かに披露宴はお任せしましたが、どのくらいの方を招待するつもりですか。」
「んっ、そんなの決まっているじゃないですかぁ、ねぇ、サッちゃん。」
こいつはなんで私じゃなく、サッちゃんに同意を求めるんだ。
「来たいやつは全部来いやぁぁぁぁ、でごせェますだ。」
「そうすると町民全員と言うことですね。ごめんなさい、ケーキは止めておきます。
とても足りません。雌鶏が卵を産む前に肉になりそうです。」
「どういうこと? 」
「私がこれから生めぇ、生めぇと雌鶏にプレッシャーをかけて、その結果、逆に卵が産めなくなり・・・・・」
「はいはい、お肉一直線と言うことだわね。
まぁ、しょうがないわ。ケーキは諦めて豚汁にしよう。」
「秘書官、すごいギャップね」
「雌鶏は毎日卵を産みますが、豚ちゃんは、ふっ、食べられてなんぼでしょ。」
「あなた、時々殺伐とした物言いをしますわね。
何か過去にいやなことがあったの、子豚ちゃんに対して。」
「実は中学校のマラソン大会で完走後に豚汁が配られるのですが、肉が入ってなかったんだよぉぉぉぉぉ。まぁ、その恨みですね。」
「秘書官は意外と言うか、根に持つタイプです。」
「じゃっ、サッちゃんは泣き虫の、お邪魔虫ね。」
「お邪魔虫? 」
「そっ、私と執政官の愛のランチの語らいを邪魔する、お邪魔虫よぉぉぉぉ。」
「「・・・・・・・・」」
私とサッちゃんが秘書官にドン引きしていると、幼い姉弟がサッちゃんの袖を引っ張っていた。
顔は埃だらけで、髪はぼさぼさ、服は汚れ放題。
何日もクリーンをしていないような感じだった。
「お姉ちゃん、ここに来ればご飯が食べられると知らないおばちゃんに聞いてきたんだけど。」
「姉ちゃん、俺腹減ったよ。もう歩けないよ。」
私はしゃがんで姉の方にできるだけ優しく声を掛けた。
「お腹空いたの。最後に食べたのはいつ? 」
「3日前、すみかの前になっている最後の柿を3つに切って。」
「1/3づつ・・・・、誰と食べたのかなぁ。」
「私と弟とお兄ちゃん。」
「いつもはご飯をどうしているのかなぁ。」
「お兄ちゃん飯場で給料の一部として食事をもらってくるんだけど、先週、仕事中にケガしちゃって。動けなくなっちゃったの。」
「そうかぁ、それで食べものがなくなったのね。」
「サッちゃん、ひき肉と卵を入れたパンがゆを作ってくれるかしら。」
「わかりました執政官。ミルクも温めます。」
「君たちはどこに住んでいるのかなぁ。」
「あっちの方にある丘の洞穴に住んでいるの。」
「そっかぁ、お兄ちゃん以外の家族はいるの。」
「お父さんがいたんだけど、帰ってこなくなったの。
洞穴で待って居るように言われてそれで3人で待って居たんだけど、帰ってこなくって、食べ物もお金もなくなって困っていたの。
でも、近くで工事が始まったんでお兄ちゃんが手伝いに行ってたの。
それでご飯がもらえるようになったの。」
私は叫んだ。なりふり構ってはいられない。
「秘書官、すぐに北西の丘に人をやって、近くで工事をしているはずよ。
すぐに、すぐによ。
ケガしている少年が居て動かせるようなら町役場の病院に連れて来て、動かせないようなら私が直接行くわ。
早く急いで、早く。」
「了解っす。すぐ手配します。
安心して、ここでゆっくりとご飯をこのおばちゃんと一緒に食べていてね。」
「・・・・おばちゃん、私はおばちゃん・・・・・」
「めんどいなぁ、そこのきれいなお姉ちゃんと一緒にご飯を食べていてね。
今、ケガをしたお兄ちゃんを助けに行ってくるからね。」
「助けてくれるの、お姉ちゃんありがとう。
ここで待ってるね。
おばちゃんと一緒にご飯食べて待ってるね。」
「・・・・おばちゃん、私はおばちゃん・・・・・」
「さっ、今ご飯を作ってくるので、出来上がったら熱いのでおばちゃんにふ~ぅ、ふ~ぅ、してもらって食べようね。
執政官様、この子らをよろしくお願いしますね。
私はこの子らのために食事と甘いデザートを作ってきます。」
「・・・・おばちゃん、私はおばちゃん・・・・・」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
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