6話目 エレンの功績
条例案を眺めながら、私がバートリの執政官となった頃を思い出していた。
もちろん条例案に不服などあろうはずもなく、サインしようとペンを秘書官にお願いするために口を開こうとしたときに、ドアをノックする音が聞こえた。
秘書官は返事をして、来客の確認をしにドアの方に歩いて行った。
そして一人の若い身なりの良い青年を連れてきた。
後ろには私の秘書官と共にやはり若い別の女性も控えていた。
「おはようございます。執政官。
お呼びと言うことでしたが。」
「おはようございます。
いつも執政官の職務を押し付けてしまって、大変申し訳ありません。
町政は凄く順調なようですね。条例案を拝見しました。
今サインするところでしたわ。
バートリもよくここまで持ち直したものだと、執政官代理の手腕に関心していたところですわ。」
「そういっていただきありがとうございます。
すべてバートリの町民の頑張りです。
漸く戦後が終わったという感じです。
あっ、失礼しました。あなたはあの旅団の隊長でしたね。
今、一番危険な立場、最も魔族と戦っている軍人でした。
怪我などはしていませんか。
具合が悪いところはありませんか。
ちゃんと食べていますか。前線のキャンプ飯は相変わらずでしょうから。
良く眠れていますか。最前線はテントでしょうから。」
「執政官代理、大丈夫ですよ。私はこの通り元気です。
本当にジュルジュ兄さんは心配症なんだから。
私と一つしか違わないんだから、いつまでも子ども扱いは止めてほしいわ。」
「それは安心しました。
しかし、今回はお礼を言わせてください。
ここバートリの町の執政官代理として。
バートリ家出身の母の息子として。
漸く人類の反撃が始まったと聞きました。
そして魔族師団をいくつも蹴散らし、例の大防衛戦の始まる前と同じところまで前線を押し上げたそうですね。
あなたは人々が危機にあると颯爽と現れて、そして、人々を希望に導く。
あの時も、バートリの町が20年前に危機に陥った時も人々の希望となって、一心に働いたと聞いています。
私なんか教会本山の職校で課題をこなすのに四苦八苦していたというのに。
そして今回も、人類領の回復と言う偉業を達成され、今度は町の人々だけでなく、人類の希望となっている。
もう一度お礼を言わせてください。」
「そんな・・・・。
お礼ならまずは私が言わなければなりません。
ありがとうございます。
ここまでは町を立て直していただいて。
元に戻ったどころか、さらに発展しそうな勢いになっていますね。」
「それはすべて住民の力です。
私はそれをまとめただけですよ。
それもあなたが執政官だということで、あなたがいらしたからまとめられたんです。」
「うふふふっ、そうですね住民の力が一番ですね。
私の方の旅団もほとんどの戦果は第3小隊が出したものですわ。
私はただ旅団の枠組みを作っただけ。
実は私の第一小隊は一度も魔族師団とは戦っていないのですよ。
全ての戦果はあの6人、特に、シュウとエリナ、そして大蜘蛛の坊やのものね。」
「たった6人でいったい魔族何個師団を潰したんですか。
その上、大防衛戦で失った領土を回復したんですよね。信じられません。」
「本当に信じられませんね。私が言うのも変ですが。」
私の秘書官が代理殿にもお茶を持ってきた。
「しかし、その旅団を作ったのは執政官なんですよね。
執政官がいなかったらその第3小隊も集まらず、魔族と戦い、そして勝利することも領土を回復することもなかった。
やっぱりバートリの執政官はさすがです。私の誇りです。
それに比べたら私なんてあなたのマントに着いたただの埃です。
バートリの町の復興のシンボルでは飽き足らず、人類の反攻のシンボルとなるとは。
尊敬しています。
一生付いて行きます。」
「まぁ、埃のあなたは執政官に片手で振り払われてゴミ箱にすら入らないけどね。
ちゃんと私が掃除しておいてあげます。
ところで、埃の払い方について執政官代理に話すためにお呼びになったわけではありませんよね。
私は執政官の業績についてずっと話を続けても一向にかまいませんが。」
執政官の秘書には厳しい代理殿の秘書官
「あら、うっかりしていたわ。ここに来ると気が緩んでしまうのかしら。」
「あと一つだけ言わせてください。」代理さん
「もう変に持ち上げることは止めてくださいね。要件に入れなくなるから。」
「これだけは言わないと。
エレン、違うなもうすぐ私の姉だ。
エレン姉さん、ご結婚おめでとう。式は明後日だよね。是非参加させてください。
もちろんバートリの教会ですよね。
司祭様はちゃんと準備をしているかなぁ。」
「わっ、私もお祝いを述べるさせてください。執政官、ご結婚おめでとうございます。
きっと幸せになりますよ。
旦那様はあのジュラ様なのでしょ。」埃さん
「ありがとうございます。私も結婚する日が来るとは思いませんでした。
しかし、急に決まった事なのに、ジュルジュ兄さんはともかく、秘書官たちまで知っているとは驚きました。」
「ふっふ~んっ、伊達に執政官の秘書官をやっていませんわ。
知らないところにいろいろ情報源が・・・・・、誰とは聞いてはいけませんよ。」
ちらっと、代理の秘書官へ視線を送る埃さん。
「どうせジュルジュ兄さん辺りでしょ。それは。」
「それは内緒です。ところで、私も秘書官として業務に戻りますね。今日は残業できないんで。」
「デートかしら。」
「そうですね。
悲しいかな、そこにぼーっと立てる代理殿の秘書官と総務課、福祉課の若手で結婚式で歌うお祝いの歌の練習です。
心を込めて歌うんです。」
「ジュルジュ兄さん、どんだけ広めたんですか。
私はドレス以外何も準備をしていないんですよ。
身内だけでこそっと式を挙げるつもりでしたのに。」
「執政官、それはあんまりであります。
町のシンボルのお方の結婚式に参加ではないとは。
泣いてやる~ぅ、代理殿の秘書官は泣かないと思うけど、土木課と住民課、食堂のサッちゃんと泣いてやるう。」
「最後のサッちゃんてどなた? 物凄く気になったんだけど。」
「あっ、今年、裏の食堂の料理人として入った子です。」秘書官(代理の方)
「えっ、あのサッちゃんか。
まずいよエレン。
サッちゃんだけは泣かしちゃまずいよ。」
「私はその方を知らないんですけど。
なぜ泣かしてはいけない方なの、ジュルジュ兄さん。」
「彼女が先々月ぐらいに男に振られたときに、食堂で大泣きして、その泣き声に驚いた食堂の裏庭で飼っている雌鶏が3週間卵を産まなくなって、あわやお肉になりかけたという伝説の泣き声の持ち主なんだ。」
「・・・・・・・・・泣かしちゃまずいわよね。雌鶏的には・・・・・・」
「とっ言うことで、教会での式の時間を教えてください。
さっ、とっとと仕事しますよ。
執政官、先ほどから執政官代理がお待ちです。」仕事に厳しい方の秘書官
「そっ、そうだわね。仕事をしましょうか。」
「そうですね執政官。
サッちゃんを泣かさないと約束してくれればすぐにでも仕事に入れます。」
「サッちゃんは置いといて、来ていただいたのはここバートリの町の次期執政官についての相談です。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
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