4話目 陽の地、陰の地
私の傀儡ちゃんがベッドで寝入ってしまったことを確認して、そっとドアを閉めた。
ちょっと最近はやりすぎたかもしれない
私の欲望のままに彼を振り回してしまった。
いや、本人は振り回されているとはとても思っていないだろう。
きっと、少しづつ自分が食べられているように思っているかもしれない。
実際に毎夜、彼を貪りつくしているのだけれど。
まぁ、いいわ。これで私の傀儡ちゃんとなりそうだわ。
私しか見えていない、すべてが私に支配された傀儡ちゃん。
これまでは追いかけてその反応を見るだけで満足していたのだけれど、いくつかのきっかけ、一番大きいのはあの魔族3個師団が彼のいる軍を包囲殲滅しようとしたことね。
それで初めて、ここのままの関係や状況では彼を私の手から奪われてしまう、それまでは彼は私の手のひらの上で自由に踊っていると思っていたのだけど、現実を突きつけられたの。
私の大事な彼を誰にも奪わせない。
今までのように私の手のひらで自由に踊り続けさせてみたい。
そうして私は彼と一緒に、常に一緒に居なければいけないことに気が付いた。
でも、一緒に居れば、今度は彼を私の思い通りに踊らせてみたくなってきた。
始めは第2軍団から彼を引き抜いて、私たちの旅団に入れて、公私共に常に一緒にいることで満足できるはずだった。
でも、だめだった。
全てが欲しくなった。
隣にいてもらうだけで良かったはずなのに、体だけでなく、心も欲しくなった。
でも、さすがだわ、私の彼。
うふふふっ、抵抗するの。
体は常に一緒にいるのに心は私の方を向いてくれない。
だから、そのむなしい抵抗を試みている心もこちらを向かせなきゃね。
どうしましょう。
どうしたらいいかしら。
そうして私は思いついたの、彼の心を食べちゃうことを。
食べちゃって穴の開いた心に私のことを植え付ければ、体も、そして心も私のものだわ。
そうだわ、そうしましょう。
そして、私は彼を、うふふふふっ、楽しくて口には出せないわ。
ランクリストを抱えて、彼を追い回していたころよりもずっと楽しいの。
そう、彼の体も心も食べちゃって、私の一部となったから。
彼には私の体を食べさせ、そして、私のことを彼の心に植え付けることが出来たわ。
これで、あなたは私の傀儡。私だけのために存在する傀儡となったの。
おつかれさま、よく頑張ったわね。
次は傀儡の呪縛が取れそうなときにまたやってあげるわね。
今度は我が一族秘伝の精力剤も手に入るし。
強力だわよ。陰に蠢き続けた一族の秘薬は。
そう、私たちバートリ家は陰。そして、彼のペーチ家は陽。
今でこそ、両家が同じように町の執政官として並び立っているけど、王国時代には陽と陰の関係。
陰は陽がないと生まれない。
陽があると陰が必ず生まれる。
両家はそういう関係。
さてと、傀儡ちゃんが寝ている間に、私は陰の家の者としての役割を果たさねばね。
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皆にはまだ内緒だけど近頃めっぽう魔力が上がったの。
軽く魔力溜め500基はありそうだわ。
あのシュウ君や大蜘蛛の坊やにも負けないかもしれないわ。
私は隣町のバートリ、私の故郷を訪ねることにした。
馬車でなら半日の距離だけど、有り余る魔力を利用して、教会本山経由の転移魔法陣を使って移動することにした。
例の若い執事に馬車を教会まで用立ててもらい、30分もかからずにバートリの教会の転移魔法陣の上に私は現れた。
転移魔法陣が作動したことを察した司祭様の一人が様子を見に来た。
「あっ、これはエレオノーラ様。お久しぶりでございます。
本日はどうかされましたか。いつもはいらっしゃる前にご連絡をいただけるのに。
あっ、ご成婚おめでとうございます。
確か結婚式はペーチの教会で明後日でしたね。
本当は我が教会でやっていただきたく思ったのですが、この状況では致し方ないですね。」
「ありがとうございます。
実は、結婚式はどちらの教会でやるかはまだ決めておりませんのよ。
もしかしたら、当日、こちらで結婚式をさせていただくかもしれませんわ。
特に準備もありませんので、場所と、申し訳ありませんがどなたか司祭様をおひとり同席していただければと思いますわ。」
「そうなんですか。
しかし、いきなりと言うのは、まぁ、両人と出席者がいらしていただければ普通の結婚式はできますが、執政官家のものとなりますとかなりの準備が必要となります。
少なくとも今日の夕方まではご連絡いただかないと、聖歌隊や演奏者の手配もございますし。」
「そういうのはご遠慮いたします。
ここの住民の皆さんと同じような式で構いませんの。
むしろそうしていただきたいと思いますわ。
式のありなし、様式に関わらず、当家からは当家の式を挙げた者としてお布施を出させていただきます。」
「ありがとうございます。
しかし、お布施の問題ではないのです。
バートリの町の執政官家の結婚式として、それにふさわしいものがございます。
まして、唯一残されたバートリ家のあなたの式ですから。」
「うふふふっ、ありがとうございます。
式をどちらで挙げるかも含めて、今からその相談をしに執政官公邸に行くつもりです。
夕方までには戻りますので、どちらで式を挙げるかその時にお伝えします。」
「よろしくお願いします。
最悪、両方の教会で式を挙げることも可能ですので、できればこの教会で式を執り行わせてください。」
「そんなことが可能なのですね。それも考慮させていただきますね。」
私はそう言い残して、教会を出た。
歩いて隣の敷地にあるバートリの執政官公邸に向かった。
石造りの執政官公邸はまだここが王国領で、我がバートリ家がペーチ家の命でここの代官を務めていた頃からのものであった。
当時は代官所と代官の私邸を兼ねていたので、作りとしてはかなり大きなものであった。
我がバートリ家はペーチ家の分家で、身分的にはかろうじて貴族の末席に連なっていたが、領地を持たないため、わずかばかりの貴族年金を受け取る貧乏貴族だった。
国から出る貴族年金だけでは貴族としての体面を保てないので、国の官僚としての職を得るか、体面を気にせずに商に手を出すなど副業を持たねばならなかった。
バートリ家はペーチ家の分家であったため、領地持ちの本家よりここの地の代官に任命してもらい、それを代々の職として継承していた。
当然、貴族としての身分もそうだが、分家として、そして、本家に仕えるものとしてペーチ家の人々はバートリ家の面々を下に見ることが常であった。
同様にペーチ家本領の住民もバートリ家が代官を務める地の住民を一段下に見ていたようだ。
逆に、バートリ家が代官を務める地の住民は本家の地の住民に対しては一種の劣等感を抱いたいた。
王国が解体されペーチ家の地とバートリ家の地も同格になったにも関わらず、各々の執政官の本家と分家の関係までは解消されていないので、その為にそれぞれの住民も優越感と劣等感はこの時代にも引きずられているという事実は否定できなかった。
そのような地域情勢であったが、バートリ家もなかなか優秀な執政官を排出し続けて、町は徐々に大きまなり、ペーチと同じくらい大きな町として発展してきた。
しかし、20年前の例の大防衛戦が両家に決定的な違いをもたらすことになった。
それは単に地勢的と言うか、ペーチの地が南でバートリの地が北であったというたったそれだけの違いであるが、その地の執政官を務める両家にとっては決定的な差異となってしまった。
私はその当時のことを思い出しながら、執政官公邸の門の前に立った。
本日もう2話,公開します。
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