3話目 ペーチ家の中のバートリ家
「お帰り、ジュラ。何かやつれているようだが、大丈夫かい。
魔族の3個師団に包囲されたとのうわさを聞いた時には、さすがに今度ばかりは諦めたよ。」
「父さん。ただいま。」
そう言うと俺は膝の力が抜けて、少しがくんと体が落ちた。
それを彼女が組んだ片腕で支えてくれた。
「ジュラ、無理をするな。このソファーに座るか部屋で休んだ方がいいのではないかい。」
「ありがとう、支えてくれて。
すまないが、椅子に座って話をさせてくれるかい。」
俺たちはリビングにあるソファーに移動して、腰を掛けた。
座って一息つくと、メイドさんがお茶とお菓子を置いてくれた。
「しかし、魔族の包囲網から良く逃げられたな。」
「彼女の中隊のおかげだよ。俺たちの師団は右往左往しながら逃げていただけだ。」
「エレンちゃん、お久しぶり。何年ぶりかしらね、ここでお会いするの
は。それも息子、ジュラのお嫁さんとしてだなんて。
私としてはそうなってほしいと思っていたけど、いざ、そうなってみると感慨深いものがあるわね。こんな素敵な姪が愚息のお嫁さんだなんて。
そうだわ、2人にまだおめでとうも言っていないわよ、あなた。」
「そうだった、つい忘れていた。以前のように、息子と娘が帰ってきたような気分で接していたよ。
遂に結婚を決めたか、おめでとう。
ジュラ。そして、エレオノーラ。
私はこうなることを望んでいた。口では出さなかったが、こうなると良いなぁとずっと思っていたよ。」
「私も同じです、あなた。
こうなる日を待っていました。おめでとう。」
「ありがとう、父さん、母さん。」
「ありがとうございます、伯父様、伯母様。」
「違うでしょ。母さんでしょ、私のことは。
まぁ、いいわ、そう言えば明後日の結婚式の準備はしてあるの。」
「はい、指輪だけは用意しました。」
「私もドレスだけは、彼は軍の一級礼服でしょうし。
そして、当日の出席者は司祭様と伯父様、伯母様と私たちだけですもの、
特別に用意すべきものはありませんわ。」
「出席者は他に執事長とジュラの弟もやってくる予定だ。
兄のモーリツは来れるかどうかわからんな。
それと話は変わるが、エレオノーラの父親役は私に任せてくれるか。」
「まぁ、父親役はあなたか執事長のいずれかですわね。
モーリツは来るかどうかわからないし。
どちらがふさわしいかしら、エレンの父親役は。」
「もちろん、私だろ。伯父だぞ、伯父。」
「ご主人様方、お話中に失礼致しますが、私でも構いませんよ。
エレオノーラ様、ご遠慮なくご依頼ください。」
「執事長!!、私の長年の夢、娘の父親役を奪い取るつもりか。
君のところは娘が二人とも嫁いで、その時に父親役を堪能したろう。
私も一度ぐらいはやってみたいのだ。」
「いえいえ、エレオノーラ様はまた別です。
小さい頃より、と言っても、幼年魔法職校と職校のお休みにここに帰って来ているわずかな間ではございますが、お世話させていただきました。
そのご縁で是非に私を父親役にご指名ください。」
「うふふっ、ありがとう。2人とも私のために父親役を買って出てくれて。
でも、大丈夫よ。私は一人でも。
たった一人残ったバートリ家の者としてしっかりと一人で立っていられますもの。」
「あら、エレンちゃん。私のことを忘れてもらっては困るわ。
私も元は付きますけどバートリ家の者よ。
あっ、そうだわ私がエレンちゃんをエスコートすればいいのよ。
その代わりジュラを差し出すわ。
2人でジュラの両脇を抱えて、私がエスコートするエレンちゃんを待っていればいいわ。」
「あっ、父さん、執事長、僕は一人で大丈夫だから弟の両腕を抱えていてほしいな。」
「ジュラ、2人で手を繋いで司祭様の前に行きましょうか。」
「それが無難だね、エレン。」
「二人ともこっちを向いて真剣に聞いてほしい、私もここ3年間で最も真剣に話そう。
議会で条例案を説明するときよりも真剣に話すよ。
最後のチャンスなんだ、エレオノーラが。
私が父親役としてエスコートできるのは。
だからお願いだ、私に父親役をプリーズ。」
「仕方ないですわね、エレンちゃん、こんな情けない伯父でもあなたのことは実の娘以上に、うちに娘はいないけどね、思っているので我慢して結婚式はエスコートしてもらってくれないかしら。」
「そこまで伯母様に言われては仕方ないですわ。
伯父様、よろしくエスコートしてください。」
「やったぞ、父親役を勝ち取ったぞ。
どうだ執事長、これで私も立派な娘の父親だ。」
「えっと、ご主人様、議会へ行く時間です。早く行ってください。
議員の方が待っています。
私はここでもう少しエレオノーラ様の今の決定の翻意を試みます。
早く議会に行ってください。
お~いっ、馬車の準備はできたか。
ご主人様の出発です。
尚、抵抗が予想されるので、衛兵を呼んで担いでいってくれますか。」
「そんなことして、お前は俺の執事じゃないのか。」
「執事? 何のことでしょうか。私はあなたのライバルなのです、今は。
ライバルは何としても蹴落とすのが一番。
衛兵、早く議会の執政官席に押し込んで来い。」
「「了解です。」」
「おまえたちこの家の衛兵だろ。なんで家の主人を拉致するんだ。
私はこのうちで一番偉いんだぞ。」
「この家で一番偉いと言えば執事長です。
ええっ、間違いなくそうです。
一番偉い人の言うことを聞けというご命令であれば、あなたを執政官席にお連れしなければなりません。早くお立ち下さい。
抱えていくのは疲れるので。」
「・・・・・・・、くくくっ、・・・・・覚えていろよ貴様ら。
今度の領内の視察のお土産は黒くなったバナナだ。
黄色いところが全くない真っ黒なやつだ。」
「もちろんご主人様がそれを持って移動するのですよね。
私たちへのお土産だから。」
「くっそ~っ、お前ら覚えていろよ~。」
*
*
*
*
*
「エレンちゃん、捨て台詞をの残してしぶしぶ仕事に行くポンコツはあなたの父親役にはもったいないわ。
ここは経験豊富な執事長に任せてはいかがしら。
エスコート中に号泣されても困るでしょ。うふふふっ。」
「それでもやはり、伯父様にお願いしますわ。
教会に真っ黒なバナナを山積みにされると司祭様がかわいそうですもの。」
「くくくくっ、じゃ、私は真っ黒な・・・・・、いえ、何でもございません。
エレオノーラ様の慶事に水を差すことはできませんね。
私はエレオノーラ様の花嫁姿を記憶玉に記録する役目に徹します。
後でご主人様に1億バートで売りつけてやりましょう。
それを私のお二人への祝儀にさせていただきます。」
「「「 1億バート!!!、腹黒すぎ。」」」
「さっ、結婚式がジュラの体調不良で台無しにならないように、一端、お部屋で休んではどうかしら。」
「そうさせていただきます。ちょっと休めば、良くなると思いますので。」
「そうしなさい。後で〇ッポンの生〇を執事長に運ばせるわ。
あれをあおって寝れば明日にはぴんぴんするわよ。
私の実家の秘伝の精力剤も必要かしら。」
「伯母様、それを10Lほどお願いします。
ついでにレシピも。」
「「・・・・・・・・さすが、バートリ家の女傑たち。」」
俺はエレンに支えてもらって、俺がかつて使っていた部屋に入って、そのままベッドに倒れこんだ。
「昼から誘っているのかしら、元気ね。傀儡ちゃん。」
ドアを閉めた瞬間、リビングに居たときに感じた空気が転移魔法陣の部屋に居たときのそれに入れ替わった。
「まぁ、いいわ。新たなブツが手に入るわ。
もう、伯母様だけですものね。我がバートリ家の秘伝を受け継いでいるのは。
安心して、ジュラ。私もそれを引き継いであなたで試してあげるわね。
そうすればきっと昼間寝る必要もなくなるわ。
そうして少しづつ壊れていくの。
あなたの一部があなたでなくなり、私の可愛い傀儡ちゃんとして入れ替わって行くの。
今日はゆっくりとおやすみなさい。明日からは寝る必要なくなるからね。」
俺はそんな言葉を遠くで聞きながら深い眠り、できれば覚めてほしくない眠りの中に自らを無理にでも引きずり込んだ。
本日もう3話,公開します。
引き続きお話に興味がある方はお読みくださいね。
感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。
よろしくお願いします。
もちろん、聖戦士のため息の本篇の方への感想、評価などもよろしくお願いします