29話目 大精霊との会合 前編
マンタ爺さんの言葉を聞いた私は、かばんのポケットに入れておいた飴を取り出し、包み紙を外して、ケンカしている大精霊たちの口に隙を見て放り込んだ。
「このチンチクリン・・・・・・ムグムグ」
「このお漏らしチンチクリン・・・・・・ムグムグ」
「やっと静かになりましたわね。」
「エレン、飴玉なんてよく持っていたね。」
「昨日、バートリに行った折に子供たちがいたらあげようと思って、執務室の秘書官の机のお菓子箱から少しいただいてきたの。」
「しかし、この幼女たちは本当に大精霊なの・・・・・・・」
傀儡ちゃんの立っていた場所に、なぜか土で固められてた石像ができていた。
「なんか失礼なことを言おうとしたのじゃ、この男は。
1000年ぐらい、儂の倉庫でオブジェになってもらおかのう。」
「それがいいですわね。
わたしなんて、今日の夜に灰にして、農園の肥料にしようと固く決心していましたの。」
「なんか儂らは気が合うのう。」
「あのう、皆様方。一応彼は闇の巫女ですが。このままだとチーンしていまいますが。」
「マンタ爺さん、もう一人いるからもうこいつは石像でいいじゃないかい。」
"たひゅけて、息ができない。"
「生意気に念話を使ったぞ。むぐむぐ。
闇の使徒よ、そいつに触れるのをやめれ。
そうすれば念話も聞こえなくなって、静かになるぞ、むぐむぐ。」
「永遠に静かになるのも、もうすぐじゃな。むぐむぐ。」
「申し訳ございません、土の大精霊ノーム様。こんなGのようなやつでも私の傀儡なんで、許してはいただけないでしょうか。」
「しょうがないのう。ちゃんと儂たちの話を聞く気があれば、考えないこともないのじゃ。」
"聞きます、聞きます。静かに聞きますからたひゅけてぇぇぇ。"
「ノームちゃん、助けてやったら。
ほんとは面倒くさいので嫌だけど。ここで巫女が逝っちゃったらシャドウちゃんと月の女王ちゃんに何を言われるかわかんねぇぞ。
ことが成ったら、思いっきり石像にしてもいいからな。」
「アクアちゃんも甘いのじゃな。
感謝するのだぞ、石像。
闇の使徒とアクアちゃんの取りなしに。それっ。」
石像が傀儡Gに戻った。
こんな大魔法を使えるなんて、やはり土の大精霊だったのか。
「ご主人様、ありがとう。一生ついて行きます。
今日の夜は寝ないで頑張ります。」
「闇の使徒よ、本当にこいつを助けても良かったのかのう。」
「不具合があれば後で私が灰にして御覧に入れますわ。」
「傀儡Gのせいで話が横にずれまくったけれど、そろそろ本題に戻しますのじゃ。」
「本題とはなんだ。
俺はノームちゃんに面白い者が来たから見に来るように言われただけだ。
たしかに、珍しい者たちがいてびっくりしたぜ。巨大なGとか。」
「水の大精霊アクア様、まずはここにいる闇の使徒と巫女に輪廻の会合の意味と、その役割を知ってもらいたいと思いますのじゃ。」
「なるほどな。いいよ。
シュウとエリナには俺が話したから、今度はノームちゃんが説明するか。」
「いつものようにアクアちゃんの方がいいのじゃ。
声が澄んでて、聞きやすいのじゃ。」
「ノームちゃん、そんなに褒めても湿気ったクッキーしか持ってねぇぞ。」
「それでもいいのじゃ。
そこの傀儡Gよ、お主の風魔法で乾かしてほしいのじゃ。
ここじゃお前はそれぐらいしか役に立ちそうにないのじゃ。」
傀儡ちゃんはクッキーをアクア様から受け取ると乾風で乾かし始めた。
石像にされてからいっそう素直な傀儡ちゃんになったわねぇ。
「まずはどっから話そうか、うんんんんんんんんっとだ。
この世界は何万年も前からこの地に生きる生物に滅亡の危機が訪れているだ。
そのたびに輪廻の会合に集いし者共と言う者がその危機を乗り越えるための方策を考え出し、そして、そのように措置してきた。
それを略して輪廻の会合と呼んでいる。
輪廻だからそれに関わる者たちは何度か生まれ変わっては来るが、会合することなく、或いは滅亡の危機の場面ではないということで、そのまま朽ちていくことが多いんだ。
前回、輪廻の会合が起こったのは2000年前だ。
その時までは、人類、エルフ族、魔族が今の人類領域に共に暮らしていてな、互いに争って、また、大魔法の発見もあって、お互いの種族を滅ぼすほどに争いが激しくなった。
その種族の滅亡を回避するために輪廻の会合が起こったわけだ。
輪廻の会合に参加する資格のあるものが、運命の出会い、いわゆる運命の会合を繰り返して、輪廻の会合を少しづつ進めていったんだな。」
「アクア様、輪廻の会合に参加した者とはどなたですか。」
「2000年前は、我々大精霊、土、水、風、炎、そしておまえの属性である闇だな。それと光の公女、彼女は土、水、風、炎の大精霊を束ねる者だ。
そして、月の女王、彼女は闇の大精霊を使うものだ。
そして大事なことは、これらの輪廻の会合に集いし者共の中に中心となる者がいるということだ。
これは単に中心にいる者と呼ばれている。
この中心にいる者が最後に輪廻の会合をどう措置するか決めねばならない。
残りの者はすべての力を使って、中心にいる者の決定を実現させるんだ。」
「前回の時代には各種族が争い合い、それを止めるために輪廻の会合が起こったということですか。
して、その措置とはどういうものでしたか。」
「魔族とエルフ族を人類とは別の空間に送りこんで、種族同士を切り離したんだ。争う者がいなければいいとな。
ちなみに、魔族とエルフ族は元々数が少ないので、同じ空間で暮らしておる。
別々の大陸に飛ばしたがな。」
「その措置の後は輪廻の会合に集いし者共はどうなりましたか。」
「想像できないとは思うが、別の空間への道を繋げて、そこに一斉に二つの種族を送り込むんだ。
術者は相当に疲弊する。
その時の術者は光の公女と月の女王だったんだ。
2人は措置が終わるとこと切れた。」
「中心にいる者はどうなりましたか。」
「知らん。
術の途中で消滅したのかもしれんな。2人の隣で措置の成り行きを見守っていたからな。」
「大精霊様たちは大丈夫でしたか。」
「我らは、術の組み立てや魔力の供給とかをしただけなのでな、というか、基本的に見守り人なので、消滅の危機にあるところまでは立ち入らん。
そうしないと、次の輪廻の会合の準備ができないからな。
だれかがこういう役目を引き継がなければなんねぇだろ。
どんなに悲しくってもな。」
「俺も聞きたいんですけど、使徒と巫女とは何ですか。今までの話にそれらは出てきませんでしたが。」
「傀儡Gのくせにいい質問をするのじゃな。ただのGではないところを見せいいんじゃな。」
ジュラは、ノーム様にとっては、礼拝堂を徘徊するGとして完全にキャラが確立されてしまいましたわ。ちょっとかわいそうかな。こんな美幼女にG扱いされて。
「実は、前回の措置が不完全だったようで、措置の後にしばらくすると、エルフ族と魔族の寿命と魔力が徐々に減少して、緩やかに種族が滅亡の道を再び進み始めたんだ。
魔族はそれを止めるためにかどうかはわかんねぇけど、再び人類領に入り込んで、人類と相対峙するようになった。
これがだいたい1000年前の話だ。それから人類と魔族はずっと戦っているわけだ。
ただ、なんで急に人類領に入り込んできたかはわからねぇな。
この様に、輪廻の会合の措置はいつも完全ではないんだ。
我々大精霊からすると失敗したら、また、次の輪廻の会合が起きるように調整し、別の措置をやってみることを繰り返してきたんだ。
そう、実験のようにな。
実験だから失敗したらまた別の方法を試せばいいということなんだか、それを永遠と繰り返すのはさすがにまずいと考えて、次の輪廻の会合ではもっと各種族の代表者を集めて、我々大精霊だけではなく、その代表者にも輪廻の会合の措置について真剣に考えてもらおうと思ったんだ。
その者たちはにとっては、失敗したからといって、次はないわけだからな。
我々大精霊の代理として、多くの知恵が集まるように工夫を凝らしたんだ。
大精霊の力はアーティファクトに封印した。
闇であればお前が身に着けているマントと大鎌だな。
この二つで闇の大精霊の力が出せる。
そしてアーティファクトに封印した大精霊の力を使う者は別に設けることにした。
これが使徒だ。お前だな。
さらに、使徒を補助する役目の者として巫女を使徒の側に置くことにした。
それがそこの石像、傀儡Gだ。
これらの者も輪廻の会合に集いし者共となるからな。
つまり、また、どこかの時代に使徒として、巫女として目覚めるかもしれんと言うことだな。もちろん前に生きた記憶はなくなるけどな。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
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