28話目 礼拝堂の騒動
もう、煩わしいので、手を放すことにした。
取り合えず、回復した記憶に関しては彼に伝えることはした。
信じているかわからないけど。
きっと無理ね。
私も半信半疑だもの。
特に、マントと大鎌、そして伝言が月の女王からのものと言うところがあやしい。
確かに、マントと大鎌の性能はとんでもないし、あの魔将が使えている主と言うところからかなりの大物が後ろに控えていると考えねばならない。
それにしても月の女王とは魔族なのだろうか。
改めて、魔将と会った時のことを考える。
確かに彼は魔族だった。それも超が付くほど優秀な戦士だったと思う。
なにせ戦闘地域に堂々と単騎で現れたのだから。
私のように死ぬことを前提であの場を彷徨っていた者とは明らかに違うのだ。
それに、なんで教会本山の礼拝堂、それも懺悔室に行かないといけないのだろう。
都合が良いと言うが、あの懺悔室はどこの教会にもある懺悔室だ。
私も先日使ったからわかる。
いろいろ一人ではしゃいでしまったが、特に何か起こったわけではない。
もう、わからない。何があるというの。何が起こっているというの。
「エレン、眉間にしわが寄っているよ。
また、一人でいろいろ考えているんだろうけど、もう訳が分からないよね。
こういう時は何も考えずに、とりあえず、マント爺と大鎌婆の話を聞くしかないよ。」
しかし、こいつは幸せなやつだわね。本当に羨ましい、頭がお花畑のやつは。
まあ、もうすぐ灰になるんだから、それまでの最後の生きている時間を精々楽しんで頂戴。
私はそんな風に悩みつつ、頭にお花を咲かせた傀儡ちゃんを心で罵りながら、礼拝堂を目指した。
夕食前と言うこともあり、礼拝に訪れている職校生が結構出入りしていた。
しかし、辺りはかなり暗くなってきており、私たちが礼拝堂に入ったのを気にする学生はいないようだった。
私は礼拝所ではなく、奥にある懺悔室を目指して、礼拝堂の廊下を急いだ。
傀儡ちゃんは灰になるとも知らずに律義に付いてくる。
いくつかの懺悔室の内、一番奥の部屋に入った。
そこに入った方がいいような予感がしたからだ。
傀儡ちゃんがドアを閉めた。
部屋の中は魔力で明るくなるランプで、ぼんやりと彼の姿を映し出した。
私は心の中で念じた。
大鎌婆さん、言われた通りに彼と礼拝堂の懺悔室に来たわよ。
いろいろ教えてくれるんでしょ。
そう念じてから、私は彼の手を取った。
「ああっ、ご苦労さん。ここであればいいよ。丁度あの方もいらしたし。
今、お呼びするからね。あのお方から話をしてもらった方がいいと思ったのさ。」
この上誰を呼ぶというの。この暗い懺悔室に。
本物さんかしら、私のように力がないものではなく。
それとも、悪魔、まさか本物の魔王と言うことはないでしょうね。
"ノーム様。ちょっとよろしいでしょうか。闇のアーティファクトの大鎌です。"
"おおっ、どうしたのじゃ。お前たちが連れ立って、こんなところに来るとは。珍しいこともあるものじゃ。珍しいどころか初めてじゃな。"
ノーム様って誰。まさか、あの伝説の。
"実は闇の使徒様が力に覚醒し、その使命にも覚醒しつつあります。本来の使命について土の大精霊様より話していただけないかと思いまして。"
"それは闇の大精霊、シャドウちゃんの役目だと思うのじゃが。
それでなければ闇の使徒を使う月の女王が説明するべきじゃと思うがのう。"
"そうではありますが、実はシャドウ様はどこにいらっしゃるのか連絡が付きませぬ。
また、月の女王様はいまいる場所から今のところ動くことが出来ませぬ。
月の女王様の側に闇の使徒をお連れしたいとは思っていますが、何も説明しないで付いて来いといっても、この闇の使徒は付いてこないと思いまして。"
"それで儂に状況を説明させ、納得してもらって、ことに当たってもらおうというわけじゃな。"
"その通りにございます。力の系統は違えども、みな輪廻の会合に集いし者共でございます。
できれば、お話してはいただけませぬか。"
"そういうことなら、いいじゃろう。同じ地下にダンジョンを持つ者としてはちょっとだけ親近感もあるしのう。"
地下のダンジョンを持つ者。私は地下19階だわ。
そのノーム様は何階でしょうか。
"儂のか。地下6階から15階だな多分。地下6階なのに礼拝堂のすぐ下と言うのが納得いかんのじゃがな。"
あっ、だから礼拝堂に来たのか。私たちをノーム様に合わせるために。
"今、懺悔室に行くのじゃ。待っておれ。"
「えっ、誰が来るって。ノーム様って誰。」
うるさいから黙っていなさい。傀儡ちゃんは。黙って、その隅ではいつくばっていてね。傀儡のG様になって。
「えっ、俺って、傀儡ちゃんからG様に格下げなの。ちゃんから様だから扱いが上がったのか。」
そして目の前の空間が割れて、5~6歳ぐらいの、鼻とおでこに土埃を付けた美幼女が現れた。
私は思はずハンカチを出して、土埃を拭いてあげたのだが・・・・・・、今度はほっぺに土埃が。これはどういうことなの。土埃がどっからやって来たの。
私は周りを特に彼女の足元を見た。履いている長靴が泥だらけだった。
「ああっ、いちいち拭かんで良いぞ。きりがないのじゃ。
しかし、さすがはと言うか面倒見が良いのう、お主は。
力に目覚め、そして、使命に目覚めつつあるという、そこのナタ婆さんの言うことは本当のことのようじゃのう。」
「あなたが土の大精霊、ノーム様なのですか。」
「そうじゃ。何だ疑っておるのか。」
「なんだか泥遊びをして服を汚したのを母親に怒られるのがいやで、礼拝堂に逃げ込んだ女の子という感じの方がぴったりだと思いましたわ。」
「うっ、わしの格好がこうなのはデホじゃ。
しょうがないだろうが。土の大精霊なのじゃから。ぷんぷん怒」
そのとき、また闇が割れた。
「だからいつも言っているだろうが。表に出てくんなってな。埃が舞うから。ケーキ屋出禁だから。」
現れたのは、ノーム様と背格好がほとんど同じような美幼女だった。
たたし、こちらは顔に土埃りなどは着いておらず、だた、髪がしっとりとしてわずかに濡れ、ちょっと湿気を帯びたかわいい服を着ていた。
んっ、スカートから雫が垂れていた。まさか、・・・・・おもらし。
「てめぇ、漏らしたとか失礼なことを考えてんじゃねえぞ。
この水の大精霊であるアクア様に失礼だろうが。」
「やっぱり、漏らしておったなチンチクリンが。
とっととパンツを着替えてくるのじゃ。」
えっ、おもらしなんだ。ちょっとどうしよう。
子供の着替えなんて、かばんに入ってないわ。パンツも。
こんなことなら事前に言ってよね。ナタ婆さん。
「だ・か・ら、おもらしじゃないって言ってんだろうが。しょうがないだろ、
水の大精霊が湿気を帯びて、雫が垂れてしまうのは。
いっとくが、俺に乾き物のお使いを頼むんじゃねえぞ。湿気るぞ。
まぁ、チンチクリン×2なんて土埃にまみれているから、こいつが触ったものを食べると口の中がじゃりじゃりしてとんでもないことになるがな。」
「おのれぇぇぇぇぇ、チンチクリンめぇ。おもらし常習犯のくせに何を言っておるのじゃ。すでに床がお漏らしでびちゃびちゃじゃ。
儂はこの下で生活しておるのじゃぞ。
お漏らしの雨漏りなんて、なんてと言うことをしでかしてくれたのじゃ。」
「噂には聞いていたが、こんなに低レベルのケンカだったとは。大精霊としての威厳がゼロじゃな。」ナタ婆さん
「孫の世話はまかせてくれ、ナタ婆さん。飴玉でもあげれば少しは静かに舐めておると思うぞ。」マンタ爺さん
「かわいい、久しぶりに子供たちのお世話ができるわ。」小さい子の面倒を見るのが大好きな死神さん
「娘ができても、こんなクソガキには育てないぞ。」まずは夜のお務め頑張ってねの傀儡ちゃん
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
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