27話目 灰にしてやる
私たちは第22基地の司令官に帰宅する旨の伝言を脇でビビっていた軍人さんにお願いした。
ビビリすぎでしょ。あなた方は。ほら、大鎌なんて持っていませんよ。
そのまま、転移魔方陣で教会本山に戻って来た。
日は傾いて、影が長く伸びていた。冬には日が落ちるのが早い。
明日のことがあるので、急いでペースに帰ることにした。
明日はペース家の皆と朝一緒にバートリの町に行くことにしている。
ペースの転移魔方陣に合う教会本山の転移魔方陣の部屋は2つ向こうだった。
私たちは部屋を出て、ゆっくりと目的の部屋に向かう。
幸せだった。
結婚することではない。
私の思いを一緒に手伝ってくれる同志が隣にいることが。
私の思いは、私たちにとっては何のメリットもない。
ただただ、困難が行く手を阻んで、苦労するだけだ。
その見返りが何もない。
それでも新しい町作りを一緒に手伝ってくれるという同志がいる。
そして、その同志がいる以上に、誰かを、私ではない、私たちではない誰かを幸せにできるんだという心の高揚が、私を幸せにする。
昨日までの渇きが嘘のようだ、のどを掻き毟りたくなるほどの渇きが無くなったのだ。
誰かのために前に進むことがこの上なくうれしい。
それを一緒に手伝ってくれるという人がいるのがさらにうれしい。
頑張ろう。誰からも頑張ってと言われなくても、私は頑張れる。
古きものを壊し、そして、新しき希望へと変える。
私は頑張ろう。誰かのために、皆のために。
"あのう、ちょっといいですか。突然声をおかけして申し訳ございません。
気が弱いもので、睨まないでくださいね。
決して怪しいものではございません。
知らない間柄ではありませんので。
もう20年もご一緒させてただいております。"
だれ、私を呼び止めたのは。
私は周りを見る。
ぼ~っとした傀儡ちゃん以外は、皆忙しく転移魔方陣の部屋を出入りしているだけだ。
"マンタ爺さん。それじゃ、不審者が私は怪しくない不審者ですと言っているようなもんじゃ。ちゃんと挨拶せんかい。
マンタ爺さんって誰。
"あんたが羽織っているマントじゃ。月の女王より20年前に渡されたろ。意味不明の伝言と共に。"
このマントと伝言、20年前。
先ほどの取り戻した記憶のことだ。
"あっ、不審者ではござませんのじゃ。不審なマントですじゃ。"
"自分で不審者と言ってどうすんのじゃ。この耄碌爺。"
ちなみにあなたは誰。
"よく聞いてくれたな。わしゃ20年前に月の女王よりお前に渡された大鎌じゃ。
まずは一番大事なことを言っとくぞ、儂であんまり変なものを切らんでくれ。
刃の手入れが大変じゃで。"
人に頼むときは丁寧にお願いしてほしいものだわ。
まぁ、良いわ。
あなた方があの伝言の語り掛ける者ですね。
"そうですのじゃ。20年掛かりましたな。
使命に目覚めるまで。
力の覚醒の方はすでに中心にいる者の影響から先日済ましているようですが。"
どういうことか、順序だてて説明していただけますか。マンタ爺様。
"悪かったよ。まずは教会本山の懺悔室に移動してくれんかのう。
そこで話すのが後の事も考えていいと思うが。
どうだ、ナタ婆さん。"
"それがいいじゃろ。"
わかりました。
この傀儡はどうしましょうか。一緒じゃまずいですよね。
丁度、私のダンジョンが近いので捨ててきましょうか。
"あんた、明日はこ奴と結婚するんじゃろ。そんなんでいいのか。
私もマンタ爺さんを虐げているが、そこまで邪険にしてないぞ。
一応、夫婦なんだしな。"
"やっぱ虐げられていたのか。そんな気はしていたが。
何百年連れ添って、その間中虐げられてたんじゃな。
そうだったのか。
わしゃナタ婆さんなりの愛情表現だと思っておったんじゃが、虐げていたとは・・・・・・・・・・・・"
"耄碌爺さんにかまっていると話が進まんでな。その傀儡も一緒でいいぞ。むしろ一緒じゃないと困る。
教会本山に行くまでに、今日、取り戻した記憶の詳細を傀儡に話しておいてくれんか。"
私がそれに従うとお思いですか。
本当にあなた方が私のマントと大鎌かなんてわからないし。
それに月の女王ですって。あの伝説の方が実在するとは思えませんわ。
"まぁ、そうなるわな。
でも、あの伝言を思い出してほしいんじゃ。
これから儂らが話すことを信じるか信じないかはお前の良き理解者と一緒に考えて判断してほしと。
話も聞かずに、判断するか。
儂らが怪しきものとして。それも一興じゃ。
中心にいる者と光の公女、そして月の女王が強い意志で存在しておる。
お前が拒否しすることで輪廻の会合がもう起こらんということはあるまい。
お前たちが、闇の使徒として役割を拒絶しても、別のやつが立とう。
お前の仲間のシュリとか。"
何を言っているのか、さっぱりだわ。
シュリちゃんがどうしたの。
"知りたければ、我々の話をまずは聞くのじゃ。
それから拒絶しても遅うはないぞ。
聞きたければそこ傀儡も一緒じゃな。
だから失っていた記憶を話せと言うておるのじゃ。如何じゃ。"
わかったわ。話を聞きましょう。
それから考えてみるわ。
傀儡ちゃんに礼拝堂の懺悔室に行くまですべてを話すわ。取り戻した記憶を。
私は彼に礼拝堂に行くことを伝えた。
そして、失われていた記憶の話をした。
「いま、話しかけられているというのか。
その死神のマントと大鎌に。
信じられん。」
"彼と手をつなぐのじゃ。そうすればわれらの話が聞けるのだ。"
私はだまって、その通りにした。
話を聞くと言った以上は聞いてみるつもりだ。
だが、起こっているこのことを理解しているわけではないので、大鎌婆さんの言う通りにするしかない。
私は彼の手を取った。
何、そのうれしそうな顔。
今はそれどころじゃないのに。
盛りの着いたワンコじゃないんだから。
今じゃなくて、今晩、夜中に頑張ってよね。
「えっ、やっぱり今日も頑張らなきゃダメ。」
何で私の考えたことがわかるの。
ちょっと傀儡ちゃんのくせに生意気ね。
「すいません生意気で。
でも今晩は明日のことがあるので、徹夜にならないようにできればお願いします。」
やっぱり聞こえている。
「どうしたの。ちゃんと聞いているよ。」
"我らがお前の心のつぶやきを念話として彼に伝えているのじゃ。
いやなら手を離せばいい。"
「ちょっと、エレンの声が婆臭くなったんじゃないのか。
毎晩頑張りすぎだって、やっぱり。疲れてるんだよ。」
ヤル、こいつだけは今日絶対に殺だ。
明日の結婚式までには灰も残さずやってやる。
「ちょっと待ってよ。そんなことをしたら疲れちゃうよ。
殺だなんて。
確かに激辛もりもりの原液を飲まされて、朝までお務めをさせられれば逝っちゃうから。」
ちがうわよ。地下19階に引きずり込んで、傀儡化よ。
そして永遠に倉庫ね。
「どうしたの急に、そんなに邪険になって。」
何故か私は手を離せないでいた。
一人で、大鎌婆さんたちの声を聴くのが怖かったのかもしれない。
それにしてもこいつの頭はお花畑か。
ずっと夜のお仕事しか考えていないなんて。
「しょうがないじゃないか、一週間それ以外のことを考えさせてくれなかったのは君だよ。」
もう、逝ってください、お願いします。灰にしてやる絶対に。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
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