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26話目 結婚してあげるわね

「ナタ婆さんや。」

「なんじゃい、マンタ爺さん。わたしゃ、鎌の歯(刃)の手入れで忙しいんだ。

何だけっ名前は、また、忘れてしもたが、それ、あれ、こいつが変な物ばっかり切るから、汚れるんじゃ。」


「婆さん、こ奴は何を切ったんだ。」


「変な薬草とか、干したイモリとか、ガマの油とか。唐辛子は目に、んにゃ、歯にしみるぞ.

わしゃ首が専門なんじゃがな。

なんで、変な薬草や香辛料を切らなぁならんのじゃ。

まぁ、いいわ。でっ、爺さん、何の用じゃ。」


「実は漸く、こいつの名前は何だっけか、ええっと。」

「爺さん、話が進まんので、こいつでいいじゃないかいな。」

「でもこれから語り掛けるのに、"おい、こいつ、ちょっといいか" というのはものすごく変じゃないかい。」


「じゃ、あいつでどうじゃ。」

「"おい、あいつ、ちょっといいか" わしゃさっきよりもっと変になったと思うのじゃが、婆さん、どう思う。」


「さっきから細かいことを気にしすぎだ、耄碌爺。

じゃ、お前でいいのじゃないかい。」

「なんか上から目線じゃないかいのう。

気弱な儂がこいつに"おい、お前、ちょっといい" かなんて話しかけられんぞ。」


「じゃ、代わりに儂が話せば良いのじゃ。・・・・・・・

ところで、爺さんや。儂らがもうこいつに話しかけてもいいのか。様子見だったんじゃないんか。」


「婆さん、今まで何を見てきたんじゃ。」

「耄碌爺さん、だから、わしゃ、歯を治療するので忙しかったと言っておるじゃないか。

何を聞いていたんじゃ。ちゃんと手入れをしないと、総入れ歯になってしまうのじゃ。」


「総入れ歯は避けたいな。

インプラントは高そうだしな。インプラントってなんだ。

植物の仲間か。まぁいいわ。

こいつが漸く越え負ったわ。終わりだけをもたらす者から。再生する者へ。」


「そうなんか、それは大変なことじゃないか。なんで黙っとったんだ。

仕事をさぼっているとシャドウ様に後でこっぴどく怒られるぞ。

インプラントの費用を出してもらえなくなるでな。」


「婆さんや、ところで一つ聞いていいか。インプラントって高いんか。」

「なんじゃ、爺さん。この大変な時に質問ばっかりで甲斐性なのいことじゃな。

シュウの坊やからうつったんじゃなかろうな。」


「うつってはおらんぞ。わしゃ、むしろ、うつした方じゃ。

鋼の甲斐性なしをのう。」

「あわれなやつじゃな、シュウの坊やも。」


*

*

*

*

*


私は魔将の主の伝言の意味するところを悟れたようで、気分が良かった。

気分が良いときはやっぱりあれよね。あれ。


私はマントに忍ばせたカバンから、このカバンもマントのどこに収納されているのやら、例の瓶を取り出して、ヤツがうっかり口を開けるのを待つ。

ぼ~っとしているから、そのうち自然と口が開いてくると思うのよね。


そんなアホ面の口にこれを注ぎ込んだ後の驚愕の顔のギャップを想像したら、自然と目元と頬、そして口元が緩んできた。


だって楽しいでしょ。


軍じゃ、切れ者の参謀長だの、第2軍団の影の支配者の事務総長だのと散々持ち上げられている傀儡ちゃんが、原液を口に入れらりて、涙目でよだれと一緒に原液を口の脇から垂れ流す姿。

軍の皆、いえ、彼を良く知るバートリの住民に見せてやりたいわ。


こいつ、これで結構、住民の若い女性にもてたりするから、是非、そのよだれまみれの顔を見せてあげたいわ。

きっと、もっともっと、大もてになるわ。

動物園のおさるさんとしてね。


「ご主人様、機嫌が直ったようですね。

これで、明日は結婚の誓いの言葉をちゃんと言ってもらえるかな。」


何を言っているの、ひとりだけ浮かれて。

私が魔将の主の伝言の謎解きに四苦八苦しているときに。

アホ面下げて、結婚結婚って。


あっ、丁度いいわね。これを口に入れてあげて、動物園のおさるさんと結婚すればいいんだわ。

私は今日は冴えているの。きっと、うまくいくわ。


私はそのシーンを考えるとますます笑みがこぼれてきた。

でも、ここが限界。

これ以上面白いことを想像すると顔が邪悪な微笑みになっちゃう。

本性が出ちゃう。別にいいか。楽しいことをやるんだから。


楽しい時間はあっという間に過ぎるというけど、本当に、もう第22基地の入口だわ。


この第22基地もついこの間までは、魔族との戦闘の最前線だったのに、今は最前線からかなり遠ざかり、雰囲気ものんびりしたものね。

だらけているのが明らかだわ。


今の最前線基地は第1085基地だったかしら。それと、第1084基地。

んっ、両方とも旅団の基地だわ。

いやだわ、第2軍団が戦う場所がなくなったじゃない。


自らの戦場を持たない軍団なんて、いらないわよね。

第2軍団は解散ね。


私は第22基地に近づきながら、彼に問う。


「第2軍団は戦う場所を失ったわね。もう解散させましょうよ。」

「えっ、戦う場所がないって。最前線は第23基地、隣の基地じゃなくなったのか、今朝の連絡で。」


「そう、元第2軍団の戦闘領域の最前線は第1084、1085基地、すなわち、我が旅団の基地になるわね。

まぁ、その方が魔族の支配領域を奪還しやすいけどね。

この際だから、第2軍団を解散して、それをそのまま私の第108独立旅団に編入しましようよ。」


私はだらけ切った、第22基地の軍人に聞こえるように言う。


「でも、実際の基地の運営は第2軍団に依頼、そうか、依頼しなくていいようにするのか。直接、死神中隊長の指示に従う様に。」

「そう、あなたは旅団の参謀長兼事務総長に就任したのですから、今まで通り、旧第2軍団を使い続けられるわよ。

それに引き抜きたい子飼いの部下もいるのでしょ。

いちいち転籍させるのが面倒じゃない。」


「確かに、その方がやれることが多いけど。でも、制約も大きくなるけどいいの。」

「制約が大きくなるの? 」

「これだけの組織になると思い通りに動いてくれる人たちだけでなくてね。」


「そういう人たちは、軍法会議で即日首チョンでいいんじゃないの。」

私はマントから大鎌を出して、大きく振る。

大鎌を振ることで鎌鼬が発生し、近くにあった基地の倉庫の壁が崩壊した。


「あら、つい、ごめんね。今直すわ。」

私は土魔法で元の壁よりも強固な壁を作った。


私たちの話と今の鎌鼬をたまたま見ていた軍人多数は関わりを拒むかのように逃げて行った。

緩んだ空気が真冬のツンドラ地帯のような冷気に変わった。


「ちょっと、脅かしすぎじゃないの。

緩んだ空気に、イラっと来たのはわかるけど。」


「わかってくれたんだ。そう、軍の油断が、慢心が、魔族との前線の拮抗を崩壊させる。

そして勢いに乗った魔族軍を止めるために、バートリの人々を物を徴収する。

そして、今日見た大穴で起こったことのように誰も帰ってこない事態を招くんじゃなくて。


そんな、バートリの町の盾にすらならない、犠牲だけを強いる軍団はいらない。」


そう、私が全部壊して、そして、旅団として再生させる。

そうしないと私の新たな町第1081基地の住民が、続いて、バートリの住民が犠牲になる。


「それでも、ここは脅すだけにしておいた方が良いよ。

本気で軍団を乗っ取るのは厄介だ。後始末を考えると。

あらゆることに指示を出さなくなるといけなくなるよ。」


「それをあなたがやってくれるんじゃないの。今まで通り。」

「いやだね。俺は君を手伝うんだと決めたんだ。

君と明日結婚してからは君の志の実現を手伝うんだ。

もう、俺も第2軍団の子守は飽きた。

君の作る新しい事業を手伝いたいし、そっちの結果を見てみたい。」


「旧第2軍団をコントロールすることが私の手伝いの一つとなると思うけど。」

「いやだ。俺は君のそばを離れない。」


「傀儡ちゃんはわがままねぇ。ご主人様の命令が聞けないの。」

「聞けない。心からの願いだったら、この命を賭してでもかなえたいと思うけど。ただの後始末は受け入れない。」


「もう、本当にわがままな傀儡ちゃんねぇ。わかったわ。

第2軍団には第1084と1085基地の守備をお願いしましょう。最前線で常に魔族と対峙してもらいましょう。緩んだ者などいなくなるように。」


「それが良いよ。人類軍のことまですべて君が考える必要はないよ。

君には果たしたい志があるんだろ。それを妨げるようなところまで手を出す必要はないよ。

軍関係で面倒なことは例の旅団の設立命令書で第2軍団に命令すればいいのだから。」


「ごめんなさい。何か今日は変だわ、私。

あの穴を見たせいね。バートリの墓標を。」


「疲れているんだよ。昨日と今日でいろいろ回ったし。」

「昨日の夜は、寝ているところを誰かに襲われて、寝不足なの。」

「君が一方的に犠牲者面するのはやめれぇぇぇ。」


うふふふっ、ありがとう。ジュラ。

お礼に結婚してあげるわね。


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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よろしくお願いします。


もちろん、聖戦士のため息の本篇の方への感想、評価などもよろしくお願いします


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