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21話目 墓標の前での誓い

「まずはわざわざここに来た目的を果たしましょうか。」

私は洞窟の中に入り、鉄格子の扉を開けて、石の墓標の前に立った。


バートリ家の墓標は2つある。

一つは丘の天辺にある、先ほどお参りした墓標だ。

もう一つは洞窟の中のここだ。


丘の天辺の墓標の周りに先祖のそれぞれの墓があるように、遺体があった場合は上に埋葬される。

しかし、遺体がない場合は、その魂をこの洞窟の墓標に埋葬するのだ。

そうすることによって、遺体のない祖先の魂も癒されるとバートリ家では信じられている。


この様な遺体がない場合と言うのは、遺体を埋葬できない、例えば兄弟同士で家督を争って、敗れて死に追いやられた場合には遺体をそのまま埋葬すると生前の恨みからゾンビ化したり、悪霊に遺体をもてあそばれる危険があるため、遠くに捨てられるか焼失させるかの処理がなされる。

そのあと、ここに魂だけを封印するようなことをするのだ。


他には一族の婦人が不義により身ごもった場合にも、裏切りの責任を死を持って償うことを求められたご夫人の遺体は燃やされて、魂だけがここにそっと埋葬される。


要するに遺体がないということは何かしら後ろ暗いことがあるために、このようなところに魂を封印する場が設けられているのだ。


しかし、私はそのような後ろ暗い何かがある先祖の魂に結婚を報告に来たわけではない。


私の両親、兄たち、祖父、他に20年前に大防衛戦に駆り出された一族はここに眠っているとされているのだ。


その戦いの後に親族や一族の遺体は一人も発見することが出来なかった。

おそらくは魔族の大魔法で一瞬にしてチリとなったものと思われた。

そのため、丘の上の墓に埋葬する遺体がないために、この洞窟の墓標に魂だけが埋葬されることになったのだ。


私は石の墓標の前にしゃがんで、大防衛戦で亡くなった、両親、兄たち、親族にまずは大防衛戦で失った人類領を回復し、死んでいった者たちの無念を晴らし、バートリ家の悲願を達成したことを報告した。

また、大防衛戦の後に無茶苦茶になったバートリの町が復興したことを報告した。


そして、先祖を含めて、バートリ家の唯一生き残りとなってしまった私がペース家の者と結婚することを報告した。


彼は私の後ろにしゃがんでいるのを感じた。

同じように結婚を、明日からバートリ家の一員になることを報告しているのだとおもう。

2人の長い祈りの後、同時に立ち上がった。


「結婚を両親と親族に報告していたのかい。」


「もちろんそうよ、それに旅団が大防衛戦で失った領土を回復したことも。

この回復した領土を大防衛戦で守ることが当時戦死したバートリの人々の使命だった。

その使命が漸く果たせたことを報告したわ。

あなたは何を報告したの。」


「俺は20年前に、ここでこの墓標に誓ったことを改めて誓ったよ。」


「20年前の誓い? 何を誓っていたの。聞いてもいい。」


「その前にこれを受け取ってくれるか。」

「結婚指輪なら明日司祭様の前で渡すんじゃないの。

ペース家では前日に渡すのかしら。」


「結婚指輪ではないよ。これを君に受け取ってほしい。」


彼は上着のポケットに手を入れて小さな包みを取り出し、私の目の前に差し出した。


「開けてもいいの。」

「もちろんだ、それは君のものだ。」


私は包みを開けた。細長い宝石が入る箱が出てきた。

さらにその箱を開けると・・・・・・

「あっ、これは。」

そう、十数年前の不作の年に小麦に化けた母の形見のダイヤのペンダントだった。


「どうしたのこれは、確か門前町の宝石商に売ったものだわ。」

「それを探すのは大変だったよ。なにせその宝石商が亡くなって、店もたたんでしまっていたからね。」


「どうして今これを私に戻してくれたの。結婚の記念品としてなの。」

「まぁ、時期としてそうなってしまったけど、本当はそんなつもりじゃないんだ。」


「どういうつもりなの。まさか、激辛もりもり10Lと交換したいというつもりじゃないでしょうねぇ。

わたしは必要ないわよ。辛いの嫌いなんだから混ぜないでね。」


「違うよ。これは戦勝祝い、そして、バートリの町の復興のお祝いだよ。


大防衛戦で失った領土の回復とバートリの町を元に戻すという君の願い。

そう20年前、ここで君が先祖に、両親に、親族に、一族に誓った願いがかなったお祝いだよ。」


「私の願い、元に戻すという願い。

確かに、バートリの執政官に成り行きで就任した時もあなたとここにきて、復興を誓ったわね。

それがかなったお祝いだと。」


「そうだ。しかし、まだ、復興していないものがあるだろ。」

「復興していない物、もう元に戻らないものかしら。

死んでいった両親とかかしら。」


「どうしても元に戻せないもののことを言っているんじゃなくて、戻せるのにまだ戻っていないものさ。」


「それがこれ、このペンダントだというの。」


「そうだ、君が大事にしてきたそのペンダントや家具、食器、バートリの住民を救うために売ってしまった君の大事な持ち物だよ。


バートリの復興に目途がつき、領土も回復した。

次は君の大切なものを取り返してもいいと思ったんだ。


だから、旅団が魔族1個師団を壊滅させ、社を解放したと聞いた時に、それを、君の失ったものを探し始めたんだ。

運よく別の町の執政官の奥さんが買ったことがわかり、事情を話したところ、買った時の値段で譲ってくれたよ。


初めは代金はいらないと言われたけどね。」


「代金がいらないとは。」

「領土を回復してくれた吉報のお礼だってさ。

まあ、強引にお金は渡したけどね。

後で君のサイン付きで返してくれと言われても困るのでね。」


「そうか、これが私の復興の証か。

でもこんなものをもらったら、私もあなたに復興のあかし、願いがかなった証を何か送らないとね。

何がいいかしら、激辛もりもりに例の苦いやつも付けて私をあげちゃいますか。」


「まぁ、その中でほしいのは君だけだが。


それよりもまだ俺のここで20年前に誓ったことは達成されていない。

達成されていないことがさっき分かったんだ。


だから、今は君だけが欲しい。

20年前の誓いが、願いが達成されたら、激辛もりもりも苦いやつも、初々しくなるやつも全部もらうとするよ。」


「随分欲張りなのね。

きっと、あなたの願いはとてつもなく達成が困難なものかしら。

魔族との和平とか、魔族軍をすべてこの地上から消し去るとか。」


「そんな大それたのではないよ。

俺が個人としてできるものだよ。


明日、俺は君と結婚する。

だから、20年前のここでの誓いを聞いてほしい。

そして、その誓いが叶うように協力してほしい。」


「そんなに激辛もりもりが欲しいのね。

いいわよ、傀儡ちゃんの誓いが成就するようにするのも主人の役目だわ。」


「僕は20年前、君がここで執政官就任をバートリ家の先祖に報告すると同時に、バートリの復興を誓っている横で、俺も誓った。


エレンの願いや夢がかなうように一緒に手伝うって。


領土回復とバートリの復興がかなって、君の願いは、夢はかなったと思った。


しかし、それは間違いだった。


君はもうバートリの人だけじゃなく、世の中に溢れている不幸な人々を救うことを始めようとしている。

新たな夢を、新たな願いに向かって走り始めていたのをさっき知ったよ。


だったら、俺の誓いをまだ果たしていない。

果たしていないから、また、君の夢がかなうように手伝うよ、一緒に。


バートリの町の復興を願って、一緒にパン粥を住民に配って歩いたあの日のように。君の横で手伝うよ。」


「・・・・・・ありがとう。

また、一緒にパン粥を作って、新たに作る町で、不幸にも食べるものに困っている人達に配りましょう。

食べた人が幸福になることを願って。

再出発ができるようになることを願ってね。」


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


もちろん、聖戦士のため息の本篇の方への感想、評価などもよろしくお願いします


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