19話目 お父さん頑張ってね
「あなたのお子さん三人は町で保護しています。
特に一番上のお兄ちゃんは足の骨折、そして腰骨にひびが入っていました。
そのまま放置すれば命に関わるところでした。
また、下の二人も、栄養不足で衰弱死が免れなかったでしょう。」
男は子供たちの命が危機に晒されていたと聞いて、驚愕に打ち震えていた。
「保護したのは昨日のことです。
お兄ちゃんのケガは、優秀な医師がこの町にいますので、直ったようです。
ただ、衰弱が激しく病院に入院したままですが、時期に回復すると聞いています。
下の二人は町の孤児施設に入ってもらっています。
お兄ちゃんのケガ以外はあなたの希望通りになったのではないでしょうか。
子供たちはバートリの子として再出発をしたところです。」
子供たちが無事と聞いてほっとしたようだか、希望通りですねと言われて、また顔が歪んでいた。
「先ほどの言葉からすると、あなたはまた子供たちと暮らしたいという。
そう言うことですよね。」
「ああっ、その通りだ。
また、一緒に暮らしたいんだ。
子供はどこにいるんだ。連れて帰る。」
「もちろん、連れて帰っても構いませんよ。」
「エレン、いいのか。この様子だと、また、近々捨てかねんぞ。」ヒソ
「ジュラ、話は終わっていないわ。もう少し私に話させて。」ヒソ
「でも、このまま子供たちを連れて帰っても、以前と状況は変わりませんよね。」
男はこの言葉を聞いてうつ向いてしまった。
「私たちは子供たちは実の親と一緒に暮らした方が良いと思っています。
しかし、一度町の子供として引き取った彼らを、また、捨てられて命の危険にさらされるような状況に送り込むことはできません。
あなたも子供たちの安全と安心、将来のことも考えて、このバートリの町に子供を託してくれたのだと思っています。」
「そうだ。あなたの言う通りだ。
俺は子供たちが安心して暮らせるようにこの町に連れてきて、捨てることにしたんだ。」
「そうですよね。
ただ、ちょっと勘違いがあって、子供たちを命の危険にさらしてしまった。
そう、ちょっとした勘違いなんですよ。
あなたとそして私たちバートリの人間の。」
「エレン、その勘違いってなんだ。」
「まずはこの方の勘違いはここバートリに連れてくれさえすれば、子供たちがバートリの住民となって、安心して暮らせると思ったことね。
実際は町の行政の手に子供たちを引き渡さないといけないの。
ただ置き去りにすれば、よその町と同じように、誰もその存在がわからずにそのまま放置されてしまうことね。」
「それはわかったけど、バートリ側の勘違いとは何かな。」
「それは同じことなんだけれども、孤児たちの育成環境さえ整えれば幸せになってくれると思っているところかな。
実際は入り口まで連れて来てもらわないと、その存在がわからないと何も対応できないのにね。」
「確かにそうだな。まずは連れて来てもらわないと始まらないよな。」
「まぁ、今回はそこを言ってもしょうがないので、これからの話をしましょう。
いいですかお父さん。」
「ああっ、俺はどうすればいいんだ。
確かにあんたの言う通り、このまま連れて帰ってもまた生活が苦しくなって、捨てちまうかもしれん。」
「あなたも捨てられたことにすれば。」
「エレンどういうことだ。
この方は誰に捨てられたんだ。
自分だけだったら、先ほども言っていたように日雇いでも生きて行けるよ。」
「じゃぁ、この方と子供たちがまとめて、この世の中から捨てられたという考えはいかかでしょうか。」
「そうか、世の中から捨てられたか。それはそうかもな。」
「ここは救済の町、そして、再出発の町です。
世の中から捨てられた方々はもしかしたら、再出発なんてとても無理だと絶望しているかもしれませんが。」
「救済とそして、再出発、そして再生か・・・・・、そうか。
それは戦後のバートリの歩みそのものじゃないか。」
「そうです。バートリは救済と再出発、そして、再生を、それも町人全員でやり遂げた町なんです。
ですから、あなたとあなたの子供たちが助けと、そして再出発を望むのであれば町民全員でそれを支えます。
だから、あなたが"何とかしてください、家族で再出発したいんです"と町役場で言うだけでいいんです。例え、この町の住民でなくてもです。」
「俺が街に救済と再出発をお願いすればいいのか。
それだけで、子供たちとまた家族として暮らしていけるのか。」
「もちろんあなた方も再出発に向けて、できることは何でもやらなければいけませんよ。
これはあなた方家族の再出発なんですから。」
「俺はやってみるよ、子供たちにきちんと謝って、それでも許してもらえないなら、許してもらえるまで頑張ってみるよ。
いつか、また家族として一緒に暮らせるように。」
「わかりました。あなたの決心が代わらない内に早速始めましょう。
町の担当の行政官を呼びます。よろしいでしょうか。」
「今すぐにですか・・・・・・、そうですね、今すぐがいいです。」
「遠慮することはないのですよ。あなたはこの瞬間、再出発したいと願った瞬間にバートリの住民となったのですから、遠慮なく町の行政システムを利用してください。
あなたのやることの第一は子供たちに会いに行くことです。そして、再出発の決意を伝えてください。
その後のことはわかりませんが、正直に今の気持ちを伝えれば、時が来れば、また家族に戻れると私は思いますわ。」
「はい、ドキドキしますがそうします。」
「ジュラ、風魔法でジュルジュ兄さんを呼び出して。
昨日の子供たちのお父さんが、子供たちを探しに来ったて。
そして、この町の住人となり、救済と再出発の手助けを求めていると。」
「わかった。今どこにいるかな。」
「きっと、執務室よ。代理の執務室はわかるわね。」
「ああ何度か行ったことがあるから。
・・・・・・・
・・・・・・・
あっ、いたいた。今のことを伝えるよ。少し待っていてくれるか。」
「よろしくね。」
「お父さん。」
「なんでしょうか。」
「ありがとう。」
「わたしはお礼を言う方で、言われる方ではありませんが。」
「捨てられた子供の親が戻ってくるケースは約半分だそうです。
あなたもそうですね。」
「はぁ、一応そうなります。」
「しかし、一度町の施設に入ってしまうと、親が子供を引き取りに来ることはないそうです。
いろいろな理由は考えられてますが、これで子供が安心して生きて行ける、子供は町で幸せになれるというのが引き取りに来ない理由だと私は思いました。
後は、後ろめたいというのも大きい理由かもしれません。
私はできるだけ親と子は一緒に家族として生活してもらいたいと思っています。
そのため、この町の福祉システムは子供たちだけではなく、親にも利用できるようにしてあるのです。
でも、それを知らないために、子供たちのためだけの福祉システムと勘違いして、子供たちの安心を奪わないために、引き取りに来ないのでしょう。」
「私がその引き取りの親の第一号だと。」
「そうです。第一号は、特にこのようなケースで福祉システムを利用することはとても勇気がいることです。
あなたは私たちが考える町の行政を一番理解して利用してくれようとしています。
私たちの町の在り方を理解していただいたことにお礼を申し上げています。」
「なんか助けてもらった上にお礼を言われるなんて、不思議な気持ちです。」
「まあ、その辺はあまり深く考えずに、あなたは自分と子供たちのことをまずは第一に考えてくださいな。」
「ありがとうございます。頑張っていきます。」
「うふふふっ、お父さん、頑張ってね。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
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