17話目 墓参り
「おはよう。」
頬に柔らかい陽の光が当たり、目が覚めた。
なかなか目を開けられずにもそもそしていると彼から朝の挨拶が私の耳元でささやかれた。
私はゆっくりと目を開けた。
そして目の前には・・・・、目の下に大きなくまを作った彼がいた。
あれ、昨日は私をあげて、私の全てを食べさせて、昨日のうちに寝たわよね。
何で目の下にくまを作っているのかしら。
まさか、たわしが寝ている間に勝手におかわりをしていたとか。
まぁ、それならそれでもは良いわ。私を食べてくれるのなら。
まさか、そっと抜け出して、町の花街に出かけたとか。
有り得るわね。精力剤はもりもり、追加でさらに、まぜまぜしておいたから。
寝られるはずがないもの。
でも、花街に行く必要はないじゃない。私がいるのに。
「傀儡ちゃん。その目の下のくまはどうしたのかなぁ。正直に言いなさい。」
「混ぜたろ。しかも、もりもりに。」
「何のことかしら。」
「うっ、知らないふりか。おかけで全く寝れなかった。今も眠くない。」
「寝ないで一人何していたの。」
「一杯飲みながら本を読んでいた。一晩中。」
「外に行ったのではないの。」
「外に。何しに。」
「あなたの体を静めるために。」
「もう寝れないと思っんだけど、少しでも体力は使いたくなかったんで、ここに座ってた。今日はバートリ家の墓陵を2箇所も回るんだろ。」
「別に花街に行っても何も言わないのに。
お土産として変なものをもらってきたらちゃんと治療はしてあげるので、行ったかどうかは必ずい言ってね。」
「行ってもいいのか。」
「うふふふ、行ったら、行く体力を次の日から私にささげてもらうだけだから。」
「・・・・・・。絶対に行きません。無駄な体力は使いません。・・・・・」
「まぁ、その辺の覚悟は任せるわ。
さっ、まだ、朝食まで時間があるわね。一本行っとく?」
私が精力剤が入った瓶をベッドの戸棚から出すと、彼は慌ててガウンを羽織って、逃げて行った。
可愛い、逃げていくなんて、無駄なのに。すぐに捕まるのに。
いまさらどこか好きなところに行けると思っているのかしら。
さぁ、傀儡ちゃんのかわいい無意味な抵抗もみられたし、起きますか。
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朝食後、私と彼は玄関のホールで馬車の用意ができるのを待っていた。
彼の両親には、今日はバートリ家のご先祖に結婚の報告をしてくることを伝えた。
ペース家のご先祖への報告は、ジュラが当主となる予定ではないので、後日でいいとのことだった。
結婚式の翌日はどうかと勧められた。
私と彼は馬車に乗り、教会の転移魔法陣で教会本山に転移してきた。
魔法陣の部屋から出て、バートリの転移魔法陣に合った別の転移魔法陣の部屋に移動した。
そこで、バートリまでの転移に必要な魔力を魔力溜めへ充填していると、彼が不思議そうに尋ねて来た。
「エレンのいま魔力はどのくらいあるの。」
「内緒。でも、あなたの10倍以上はあるかしら。」
「10倍って、いつの間に増えたの。その前になんで俺の魔力量を知っているんだ。」
「質問ばかりね。
根掘り葉掘り大人の女性の秘密を聞きたがるとはね、あなたもまだまだ子供ねぇ。うふふふっ。」
そう言ってからかうと、彼は赤くなって、下を向いてしまった。
子供と言われたのが恥ずかしいのだろうか。
安心して、質問のことはその可愛い仕草で許してあげる。
「さぁ、魔力溜めがいっぱいになったわよ。バートリに行きましょうか。」
恥ずかしがって、下を向いたままの彼の手を取りバートリの教会に転移してきた。
ここからバートリ家の墓標までは歩いて行く。
おそらく一時間ぐらいだろう。
教会からも見えるところにあるのだが、丘を登って行くので時間が掛かるのだ。
私は彼の手を放して、今度は彼の腕にすがり付くように腕を組む。
彼は一瞬ぎょっとした表情をして腕を引き抜こうともがいた。
もがいたことで彼の腕が私の胸のふくらみを押しつぶし、また、顔を赤くして、抵抗することをやめた。
「うふふふっ、何を恥ずかしがっているの。
昨日の夜なんて私を貪りつくしたくせに。
ちょっと腕で胸をつぶしたぐらいで赤くなるなんて。変だわね。
中学生じゃないでしょもう。」
とからかうと、さらに下まで向いてしまった。
ここで、彼をからかい続けてもいいのだが、今日は時間が掛かる予定があるので、これで許してあげよう。私の特別な傀儡ちゃん。
「さぁ、行きましょう。」
と、腕を組んだまま転移魔法陣の部屋を出て行こうとすると、彼が動かない。
私は問いかける。
「どうしたの、傀儡ちゃん、さぁ動いて。」
「恥ずかしい・・・・、腕を組んで歩いているのを住民に見られるのが。」
何を言っているの傀儡ちゃんは。
人前で腕ぐらい組むでしょうよ、恋人たちなら。
もう、なんなの今日は。いつも従順な傀儡ちゃんらしくないじゃないの。
・・・・・・
あっ、ごめん、私のせいだ。
あ~ぁ、やっちゃった。
朝食に惚れ薬と間違って、初々しさが上がるブツを混ぜたんだった。
何でも倦怠期夫婦用の媚薬と伯母様の書類には書いてあったやつだわ。
まぁ、これはこれで面白いからいいけど。
私は絶対に飲まないけどね。
だって恥ずかしいじゃない、初々しい死神なんて。
ちょっと待て、それを想像してみたら気持ちが悪くなってきた。
助けて傀儡ちゃん。
「なんかここに居たら気分が悪くなってきたわ。
傀儡ちゃん、ちゃっちゃと行くわよ。ぐずぐすしないの。」
私は腕を組んだまま強引に引っ張る。
彼は恥ずかしそうにもじもじしながら、引っ張られる。
やっぱり、こいつのこのような姿もきもいわね。
もう、この媚薬は劇薬指定で私の代で封印した方がいいわね。
途中で、先祖に供える花を買い、2人で手を繋いで丘へ続く道を登る。
腕組みはどうしても勘弁してほしいとの懇願されたためだ。
そこまでいやならいいけど。傀儡ちゃんのくせになんとわがままなやつだ。
何でも言うことを聞きますから、家の中だったら何でもさせていただきますからと言う言葉に私の心が揺らいだ結果だ。
言質は取った。家の中でまっぱでお盆を持って踊ってもらおうかしら。
おおっ、ちょうど明日は披露宴。
私邸の庭で(私的には家の中の範囲)余興が必要だしね。
例の辛い物をもりもりすれば披露宴の間中、踊り狂っていることもできるしね。
他人の振りしていい。
あっ、やっぱ無理か。
そうすると裸でお盆じゃなくて、首輪と鎖を着けて引き回すのがいいかな。
そんな明日の披露宴での楽しいひと時について考えながら一人ほくそ笑みながら歩いていると、ほどなくしてバートリ家の墓標がある丘のてっぺんに着いた。
しかし、こいつはまだ下を向いて、頬を赤らめながらもじもじしているなぁ。
いい加減、媚薬が切れてくれませんかね。
やっぱ劇薬だわ。
これを私が飲んでこうなったら。
速攻で病院に連行、強制入院させられそうだから、私邸の裏庭に明日こっそり埋めておこうと強く心に誓った。
バートリ家の代々の墓標を久しぶりに訪れたが、きれいに掃除されていた。
おそらく住民の誰かが毎日掃除をしに来てくれているのであろう。
私は彼の身長ほどある大きな墓標の前に来ていた。
先祖の個人のお墓はこの周りに放射状に建てられている。
個人的ではなく先祖全部にお参りするときはこの墓標にすることにしていた。
私は彼を促して、先祖に結婚することを報告した。
報告するにとどまり、見守ってほしいなどと言う月並みな要求はしないで置いた。
それをお願いするのはここではない。
本当に報告したい故人は別のところにいるのだ。
彼はそれを知っている。私の心を察している。
だから、さっと立ち上がりゆっくりと私の先を歩き始めた。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
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