14話目 例え、お飾りだとしても
教会の馬車でペーチの執政官の私邸に送ってもっらた。
ここの教会とはあまり深い付き合いはないが、バートリの執政官ということで、これぐらいの融通は利くのだった。
馬車の御者に丁寧にお礼を言い、彼の待つ私邸に入った。
「エレンちゃん、お帰り。久々のバートリはどうだった。
ジュルジュはちゃんと代理の仕事をしてたの。皆に迷惑をかけていなかった。」
「はい、伯母様。バートリの町は相変わらず活気に溢れるていました。
執政官代理も私がいなくても何ら問題ないぐらい、いえ私がいた方がむしろ仕事の妨げになるぐらいに精力的に仕事をこなしておられましたわ。」
「そうですか、ジュルジュはペース家の人間なのでバートリで浮かないかと心配してたんだけど、どうやら大丈夫な様ですね。」
「私の代わりに執政官になってくださいと頼みましたら、断られました。」
「エレンちゃん、それは冗談で言ったのよね。」
「いえ、伯母様、真剣に言ったつもりでした。
ジュルジュ兄さんはどういう風に受け取ったかまではわかりませんが。」
「エレンちゃん、ちょっとここに座って。」
伯母様は私を今のソファーに座らせた。
「バートリの執政官はあなたです。
たとえ、ジュラと結婚しても、執政官はあなたでなければなりません。
執務が負担であれば、ジュルジュの他にジュラも代理補とすればいいでしょう。
でも執政官はあなたでなければなりません。
良いですね。」
「それは何度も聞かされました。
しかし、私は旅団と黒魔法協会の仕事がありますので、執政官の仕事を満足にこなすことはできません。
事実、私がいなくてもバートリの政はうまく回っています。
お飾りな執政官ではなく実務に優れたジュルジュ兄さんが引き継ぐべきと思いましたが。」
「ジュルジュの執政官代理の能力を評価してくれるのは親としてうれしいわ。
でも、元バートリ家の者として言わせて頂戴。
バートリの町の執政官はバートリ家の者でなければなりません。
たとえお飾りでもあなたが執政官です。
それに異を唱える者は、バートリの住民はもちろん、ペース家の者もペースの住民もいないでしょう。
あなたはお飾りと言いますが、バートリの奇跡を起こしたのはおなたの手腕ですよ。
あなたの執政官としての真摯な行いがバートリの奇跡を生んだのです。
大防衛戦後のどん底からのバートリの奇跡の復興を。
今の発展が続く限り、あなたは、例えお飾りだとしてもバートリの執政官、復興の旗頭としてその体に留まらなくてはなりません。」
「伯母様、奇跡の復興何てまやかしですわ。
バートリの復興はそこで暮らす住民、ひとりひとりがそうなりたいと地道に頑張った結果です。
私一人がその名誉を受けてはならないと思います。」
「私は名誉を受けるために執政官を続けなさい言っているわけではないわ。
住民一人一人が頑張ってきた結果だということもわかっている。
でもね、なぜ彼ら彼女らが頑張れたかを考えてみてほしいの。」
「なぜ、頑張れたか・・・・・。
もとの町、いえ、それ以上に町を発展させ、幸せな暮らしを求めたからだと思いますが。」
「それはエレンちゃんが頑張った理由だわ。
住民に安全で豊な生活を安心して送ってほしいと願ったのよね。」
「住民たちも幸せになりたいから歯を食いしばって、戦後の混乱とひもじさに耐えてきたのだと思いますが。」
「それだけではないわ。一番大事なものが欠けているわ。」
「一番大事なものですか。それは何でしょうか。」
「エレンちゃんに喜んでほしい、頑張ったねと褒めてほしい、何よりもすべてを投げ打って自分たちの幸せのために奔走するあなたに幸せになってほしかったのよ。
住民全員が。
そんなあなたが町の執政官をやめると知ったら、住民たちの頑張って行こうという気持ちを萎えさせてしまうわ。
特にあなたが力を入れている不幸せな人の救済と再生。
これは自己犠牲がないとこの世の中では成り立たないと思わない。
他人は他人、何て思っていたらあの施設はもっとひどいことになっていた。
ただ、生きるだけの場所に。
しかし、バートリの施設は違うわ。
あなたの施設は不幸な人を救済するだけでなく、再生しているの。
幸せになれる人に。
そして、再生された人は自分を犠牲にしても別の不幸な人の救済と再生に向き合うの。
それが社会として繰り返されるところがバートリの本当の奇跡だと思うの。
その奇跡を始めた一番最初の自己犠牲者はあなた。
そんなあなたがみんなの見える高みに居てくれるから、自分もしてもらったように不幸な人に同じように接することができると思うの。
だからあなたは、例えお飾りだとしてもバートリの執政官を止めてはならないわ。少しはわかってもらえたかしら。」
「・・・・・・なんとなく。
伯母様のおっしゃったことを良く考えてみたいと思います。
今すぐ執政官を降りるという訳にはいかないことは理解しました。
例え、お飾りでも。」
お飾りといった自分の言葉で胸が締め付けられるような渇きを、今日一番の渇きを覚えた。
「そうですね。よく考えて頂戴ね。
あとはこれが例の精力剤とレシピ。
ジュラをビシビシ働かせないさい。
特に夜はね。
しかし、いきなり10Lも作るのは無理なので、一週間分だけね。
残りは悪いけど練習のつもりで自分で作ってね。
他にも、媚薬やいろいろな秘密のレシピを書き写して置いたわ。
使い方は任せるわね。」
「伯母様ありがとう。バートリの歴史を大事にするわ。
それでは私はジュラを見てきますね。」
「はいはい、寝ている口に精力剤を入れないでね。
媚薬はいらないと思うし。」
私はさもジュラを心配しているようにして、急いで伯母の元を離れて、ジュラの部屋に急いだ。
本当は胸の渇きに堪えられなかったのだ。
お飾りでいいという言葉に。
ジュラはまだ寝ていた。
何かにうなされていた。
大鎌を振りかざした私に追いかけられている夢かしら。
それともトンカツを例の赤いものでのどに流しごんでいる夢かしら。
それともあの荒野でやつらに囲まれた時の夢かしら。
ああっ、汗をかいているわね。
私はタオルを濡らして拭いてあげる。
ひんやりして気持ちいいのか、少し表情が緩んだ。
可愛いわね。私の傀儡ちゃん。ちゃんと面倒を見てあげるわね。
そして私はまたタオルを濡らして、全身を拭いてあげる。
もう何度も見て、見慣れているし、恥ずかしいことはない。
逆に私も何度も見られている。
しかし、ここまでしても起きないわね。
やっぱりかわいい。
私は傀儡ちゃんのお世話をして、自分の心の渇きが徐々に薄れるのを感じた。
私が彼の全身を拭き終わって、服を着せて、毛布を掛け直してあげた。
そして、脇の机で先ほど伯母にもらった秘密のレシピを読み始めた。
どういう様に使いましょうか。
今晩からいっちゃおうかなぁ。
一杯面白そうなものが載っているわね。
久々に自然と緩んだ笑みが止まらない。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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