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12話目 住みよい町のはずなのに

「それでは報告します。」

「子供たちが寝ているので、小声でお願いしますね。」

「・・・・・・・・は・・・・・・・にいて。」


「お約束ですね。ボケはいいので。」


「くっ、ボケが返せない突っ込みかぁ。


えっと、福祉課の調査員から連絡が入りました。


確かに、バートリ家の墓陵の裏の洞穴にけがをした少年を発見しました。

調査員によりますと、足の骨が折れているようだとのことです。

動かせなくはないので、今、風魔法で病院に搬送中とのことです。」


「じゃ、病院に行かなければね。」

「いえ、執政官はここにいていただいても大丈夫ですよ。

病院には優秀な水魔法術士が詰めていますので。骨折などのたいていのケガは任せられます。」


「そうですか。たいしたケガでなくてよかったわ。」


「えっ、いえ、大した怪我ですよ。かなりの重傷です。

腰の骨にもひびが入っているようですから。

それを直せる者が病院に居るということです。

バートリの孤児院出身者の医師です。」


「そんなに優秀なものが育ったのね。」

「はい、ですから執政官はここでドンと構えていてください。そうすればこの子らも安心でしょうから。」


渇く。胸が渇く。


「しかし、お兄ちゃんは工事現場で仕事をしていたんでしょ。現場の責任者がそれほどのケガに気か付かないなんておかしいわね。」


「それがどうも仕事で怪我をしたのではないようなのです。」

「と言いますと。」


「実は一緒に現場で働いていた、働いていたと言ってもお兄ちゃんは掃除とか片付けとか簡単な仕事を引き受けていたようなんですが、仕事仲間が急に来なくなったお兄ちゃんを心配して探していたようなんです。

でもどこにいるかわからなくて。後は別の理由も考えらましたので。」


「工事の責任者が彼らが孤児か捨て子だと気付かなかったのでしようか。

初めに役場に連絡をくれれば、この子たちを保護できましたのに。

そういう決まりになっていたはずです。」


「その通りですが、その辺についても報告します。


お兄ちゃんが初めて工事現場に現れて仕事をくれと言われた時に、妹と弟がいること、そして身なりがそれほど汚れていないことから、工事責任者は孤児ではなく、捨て子だと判断したようです。」


「確かに孤児で、この子達連れでバートリにたどり着くのはかなり困難ね。

ペースのような近所の町だったらまだしも。」


「バートリへの捨て子は、実は、親が戻ってくる可能性が今は半々なんです。」

「そうなの、それは初めて聞きましたわ。

親が戻ってくるの。

貧しくとも親と一緒の方が良いものね。

ここで親子で仕事を探して住み着いても良いわけだし。」


「そうなんですが、そこに少し問題がありまして、それが今回の問題を引き起こした原因と言いますか、福祉の穴と言いますか。」


「ごめんなさい、捨て子の保護システムの穴とはどのようなものでしょうか。」


「はい、先ほども言いましたように捨て子の親は半分は戻ってきて、また親子で生きていくことになるのですが、捨て子を町で保護してしまうと親が引き取りに来なくなってしまうんです。」


「孤児院には親は引き取りに来ないと。」

「そうです。バートリに捨てるということは、そうしないと家族が生きていけない事情から、親が子供に示すことのできる最後の愛情です。


そして、町に引き取られます。

引き取られますと、捨てられたということが自分の子供にも、町の住民にも知られてしまいます。

それを取り戻しに来るというのはやはり後ろめたいのでしょうか。


また、引き取られた自分子供が元気に孤児院で遊んだり、作業をしたりする様子をこっそり覗き見ますとさらに引き取りに来にくいというか。

親の自分と居るよりも幸せになると思ってしまうのかもしれませんね。」


「そうなんですか。

私は引き取りに来てもらった方が、わだかまりは残るでしょうが、やはり家族は一緒の方が良いと思いますが。

家族が永遠に戻らない孤児と違って。」


「私もそうは思いますが。


ということで、住民には捨て子を発見したらすぐに福祉課に連絡して、保護してもらうことが義務付けられているのですが、親が戻ってくる可能性も考えると少し様子を見たいというのが皆さんの本音の様ですね。


当然、その工事責任者もお兄ちゃんの様子を見ながらそうしていたわけです。

ただ、妹弟がいると聞いていたので、そろそろ様子見は限界かなと考えてはいたようです。」


「そして突然来なくなったと。

ということは、親が戻って来たとの判断ですか、その工事の責任者は。」


「そうですね。

ケガや病気の様子もなく、突然来なくなったというのは。

それでも本当にいなくなったのか探してはいたようなのですが。


まぁ、これまでもそのようなことがあったので、工事の仲間たちと親元に戻れたことを喜んでいた矢先に、実は大ケガを負って、幼い妹弟共々危なかったということの様です。


その工事現場の皆さんはかなり落ち込んでいるとの報告を受けています。」


「は~ぁ、そう言うことでしたか。

確かに穴ですね。

どうやったら埋めることができますでしょうかねぇ。」


胸の渇きが少し、和らいだ。


「う~ん、やっぱり、捨て子や孤児を見つけたらすぐに福祉課で保護することが一番いいんじゃないですかね。

確かに親元に戻ることが理想ですが、また捨てられる可能性も高いでしょうし。

何もしないと子供たちが命の危険にあるということを一番に考慮すべきかと思います。」


「確かに、秘書官の言うことはわかるわ。

でも、親と一緒に居させてあげたいわ。」


「ひとつ言えることは、捨てないようにすることができないかということですね。」


「バートリの住民課に相談してもらえば、仕事や衣食住を含めて最善の道を探せるのですがね。」


「バートリは孤児の天国という言葉が先行しているということでしょうか。

本当はすべての住民に福祉が向けられてというのに。

一言、相談してもらえばいいのですが。」


「噂だけが広がって、真実が周囲に伝わっていませんわね。

やはり陰の町ということでしょうか。

周囲の町々には明るい所は伝わっていないようですね。

農業も商業も工業も順調なのに。


商いで旅している方々はバートリの町をどう旅先で言っているのでしょうか。

歓楽街や花街がない、いつまらない町とでも。」


「確かに、おじさんたちにはつまらない町かもしれませんね。


それと、住民は一度ここに住み着くとなかなか外には出て行かないということも、バートリの真の姿が伝わらない原因ですね。

住民が外に出て行かないので、実態がなかなか伝わわらず、謎の町、暗い町、後ろめたいことにがしやすい町という感想を持たれているのでしょうか。」


「助けを求められる町として、名が知れてほしいわね。

一度暮してもらえばわかってもらえると思うのだけど。

気候も良いしね。


どうしたら、それを知ってもらえるのかしらねぇ。

魔族との最前線もずっと後ろに下がったのにねぇ。

暴力集団も徹底的に叩き出しているのにねぇ。

私だったら、手ぶらでここにくるのにねぇ。」


「私もです。執政官。

執政官の作った町は素晴らしいです。

ずっと住み続けたいですし、そのような町にして行くつもりです。

私たちに任せてください。

見ていてくださいね、執政官。」


また、胸が渇いてきた。


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


もちろん、聖戦士のため息の本篇の方への感想、評価などもよろしくお願いします


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