~前説~
舞台の中心に私は立ち両の手を名一杯に広げる。
その刹那スポットライトが道化を明るく照らし出す。
熱狂の視線が集まる中、私は芝居めいた口調で話を始めた。
「すべての物語は悲劇から始まる!死は創造の始まりであるのだ!だが、紡ぎ手が消失してしまっては意味がない。誰がそれを綴り、書き起こし伝えるのだ!」
(あぁ、良かった、毛穴を塞ぐメイクを施しておいて)
私は心の中でぼやく、背中から嫌なじっとりした汗が止まらない
「そう、他ならないあなた自身なのだから。
これは、貴方だけに演じる事を許された物語だ」
ここでもう一度一呼吸置き、右の手を胸に当て左の手を天井へ大きく振り向ける。
「主演は貴方だ!」
もう一度、もう一度だけ深呼吸をして両の目を精一杯見開き慟哭を世に向け告げる。
(今。そう、今この瞬間だけは誰も私から目を離す事は許さない。私だけを見ろ!)
「さあ!民衆よ!世界よ!刮目して見届けよ!そして、二度と記憶から、歴史から掻き消されぬよう脳裏に刻みこんで差し上げましょう。歴史から消された、1人の男の人生を!」
最後の台詞を言い終えると永遠にも思える数秒の後スポットライトがバタンッと音をたて消える。
今すぐに走り出したい。そんな逸る気持ちを理性で抑えゆっくり一歩を確めるよう、最後まで自らを演じ、欺きながら袖にはけて行く。
舞台は中世、様々な有るか無いかも怪しいお伽噺が闊歩する中の一つ。
そんな物語を演じる変わり者の集まりの物語である。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
一応連載小説にしてますが続きが書き続けられる予定は未定です。構想ができあがれば、なおかつ心と時間に余裕があれば書き進めようと思っております。
期待せず更新をお待ち戴ければ幸いです。