出会い_3……夏目 奏
剣道部の3人娘が
楽しそうに話す後ろを
台車を押して追いかける。
スポーツ全盛のこの学校で、
部員3人の潰れかけの部活なんて
きっとしんどいはずなのに。
悲壮感0。
頑張ってます感0。
ただただ明るい彼女たちの姿に
俺は少し感動していた。
中でも部長の春原日菜子。
彼女は本当に楽しそうに笑う。
「1年生の部長、F組だってさ」
チームメイトがひそひそ声で言う。
本命校に落ちた
併願組が入るといわれる、F組。
明和学園の底辺といわれる、F組。
今までそういうの、
気にしたことがなかったけれど。
「俺、そーゆーこと言うの嫌い」
語気のキツい俺の言葉に、
周りの空気が少し冷たくなった。
その日は臼と杵と餅米を運び、
家庭科室で餅米を水に浸けて
作業が終了した。
特に面白いことなんかしていないのに、
気づけば皆、妙に浮かれていた。
「今日はありがとうございました!明日は11時から家庭科室で餅米を蒸し始めまして、12時から第1回の餅つきを始めまーーす‼︎」
春原の明るい声に、
周りが「いえーい!」と応じる。
いつの間にか、
野球部の仲間も彼女の術中だ。
「つきたてのお餅は本当に美味しいから、野球部の皆さんも食べてくださいね」
「餅米を蒸してる間に、小豆ときな粉を用意します!」
楽しげな言葉が続々と飛び出し、
その場のテンションがさらに上がる。
別に誰も、
餅が好物ってわけじゃないだろうに。
いつの間にか、
とても楽しい空気が出来上がっている。
…凄いじゃん、春原。
思えば多分、この時から。
俺は君に囚われていたんだ。