プロローグ……夏目 奏
高校2年の文化祭前日。
監督に呼び出され、言い渡されたのは、
剣道部の餅つきを手伝え、
という謎の指令だった。
「剣道部は年に何度か、餅つきをして地域の子供たちに配る活動をしているんだ。知ってるか?」
監督の問いかけに首を振る。
甲子園の常連校、明和学園にスポーツ推薦で入学し、
野球漬けの生活を送る俺は、
我が校に剣道部があることさえ知らなかった。
しかしこの剣道部、
春に2、3年生が揉めて辞めてしまい、
今は1年生の女子3人だけなのだという。
当然、餅つきはなくなるものと
思われていたが…。
「なんと続けてるんだよ!1年生の女子3人だけで‼︎」
感激屋の監督が、
声を高ぶらせて言う。
聞けば、近所の夏祭りで
彼女たちの餅つきを偶然見かけたのだそうだ。
女子3人とは思えないほど手際がよく、
周囲も大層盛り上がっていたのだという。
「剣道部の顧問の先生に確認したら、文化祭でも餅つきをするそうだ。さすがに女の子3人だけじゃ大変だろうから、うちから何人か手伝いに行かせることにした。お前たち、行ってくれるか?」
監督に言われて、
行かないという選択肢はないわけで…。
このまったく乗り気のしない仕事で、
俺は君と出会うことになる。