少年は無駄を無くしたい
少年の願いを叶える。
そう決めてから神の動きは速かった。
頭の中では少年にどんな能力を授けるか既に何個かリストアップしているほどだ。
転生先の候補もなるべく裕福で家族の人柄が良い者たちを事前に候補に挙げていた。
しかし、少年からの一言でその準備が全て泡となって消える。
「神様、転生ではなく転移にしてもらえませんか?」
「え」
神は困惑した。今ここにいる少年は魂だけの存在だ。肉体を持ったままここに連れてきたわけではない。つまり最初から転生させる気満々で転移させるつもりなど微塵も無かったのだ。なぜなら……
「でも…優馬君。君は身体にハンデがあるじゃない?そういうの無くすために転生なんだけど……。っ!!!…そうかい。君はその身体のままで行きたいよな。」
神は先ほどの会話を思い出す。少年はたしかに言った。
(少年の家族は2人だけ…だもんな。僕は愚かだ…)
優馬は最初に転生を拒んだ。その理由は転生して新しい家族に生まれる、そのことが嫌なのだ。少年にとっての家族は下界に残してきた両親のみ。単純だがそれだからこそ強い理由だ。
「ごめんなさい。神様……でも、僕の両親は2人だけだ……無理なお願いかもしれないけど、この身体で転生させてほしい。っあ、耳とかは聞こえるようにしてね。見た目とかも変えないで。」
神は少年の願いに頭を抱える。いままで考えてきたプランがすべて無しになった上に、かなり無理目なお願いをされたのだから無理もない。
…だが、できないことは無い。
「……2つ方法があるよ。1つは下界にある優馬君の肉体をこちらに持ってきてから転移させる。この方法なら、まあ元々君自身の肉体だし身体のメンテナンスも楽だし色々手間が省ける。………チートもあげられるし。」
最後は呟く様にして言ったが優馬には聞こえていなかった。……三葉には聞こえていて呆れた顔で見られたが。
「もうひとつはここで優馬君の新しい肉体をつくって転移させる方法だ。……この方法はひどく時間がかかるよ。ゼロから君の身体をつくるんだ。……でもこの方法だと……いや、つくること自体は難しくないんだけど、それだと、チートが……」
「え?すいません最後が聞き取れないのですが……」
「……君にチートをあげることが出来ないんだ。」
「いや、いらないですし。下界の僕の身体はもう焼かれてるはずですよ。モニター見てて思ったんですけど、ここと下界じゃ流れる時間が違う……いや正確にはここは時間から切り離されたところにあるから下界に僕の身体を取りに行くってかなり無理なんじゃないですか?そんな顔してましたし……。チートはいりません。僕の身体も似てれば文句はありません。なら、取る方法はひとつですよね?」
優馬の考えはある意味で当たっていた。ここ、死後の世界は流れる時間がおかしい。神はモニターの中の自分の人生を同時に見ていたはずなのだ。そして三葉が言っていた、ここ最近仕事をしていない。つまり優馬の死後、ある程度時間が経っているはずなのだ。モニターで優馬の人生を全部見るには優馬が死ぬ時まで含めなければいけないのだから。
「……僕が死んでからどれくらいの時間が?」
「……驚いた。君は案外冷静なんだね。そうだね……君が死んでからそんなに経っていないと答えられるし、死後100年経ってるとも言えるかな。」
「??……それは、どういうことですか?」
「この場所から見れるのは全部過去なんだよ。ここは時が止まっている、いや君が言った通り、切り離されているってとこかな。だから僕は言っちゃえば未来に死ぬ人たちの人生も見ることができる。……うーん、まあ僕は時間軸を離れたところで観察する人ってとこかな。」
「……っ!!………そうですか。話を戻しましょう。僕の身体、つくってくれませんか?」
「いや、でもそれだと……チートが…」
「はいはい、神様。それは諦めてくださいね。優馬ちゃんのお願いを聞くって言ったのはあなたなんですから、まさか神様が嘘をつくわけじゃありませんよね?優馬ちゃんが転移を選んだこと。私は応援します。わたしもわたしができることは手伝いますし、優馬ちゃんにはそのままでいてほしいですしね。」
「…三葉君…最後が本音だね?………はあ、わかった、チートは諦めるよ。優馬君の身体をつくるのに……そうだな、優馬君の時間に合わせて言えば150年くらいかな。」
「……150年。わかりました。その間僕は何をすれば?」
「…それなんだよな。僕も優馬君の身体をつくるの忙しくなるしほかの仕事もしなければいけないしな……三葉君神様変わる?」
「馬鹿なこと言わないでください。それよりも、さっそく仕事ですよ。この書類チェックしてください。」
「まあ、そりゃそうだよね。はい、ちょうだい。…………多いね。」
「最近、仕事をしてない誰かさんがいましたから溜まってたんですよね。」
「……ダレダロウネ、ソレ」
三葉のジト目に耐え難いようで神はそっぽを向いていた。ふと、優馬が1枚の書類に手を伸ばす。
「これって、どうしても神様がやらないといけないの?それにここにいるのって2人だけ?」
「いいえ、わたし以外の天使もいますよ。こことは別のところで働いています。それとその書類は転生に関係するものは神様が承認しなければいけないので、神様以外は権限が無いですね。」
「んー、じゃあこの備品の管理とかは?別に神様じゃなくていいんじゃない?」
「…そうですね、確かにまあ神様が見る必要は無いですね。使わない備品ですし。」
「なら、神様じゃなきゃダメな書類以外は誰かに承認する権利あげちゃえば?1人で書類の管理とか無駄すぎるよ。」
「「……え?」」
「そうだね。例えばこの備品管理はその担当を決めてその人に管理を任せる。神様は最後に見ればいいだけなんだし、何日かに1回見て貰えばいいんじゃない?こんな1日ごとに数が変わってない備品とか管理しても意味ないよ」
「「………」」
「この天使候補も……ほんとに必要なの?」
呆けた顔の神と天使のレアな場面と優馬の手伝いが確定した瞬間だった。