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ウタウタイ隊紀行  作者: 積木
序章
5/17

少年は願いたい

優馬の口から出たのは明確な拒否だった。あまりの即答に場が静まりかえる。


「…え?……しないの?」


おっさん神もまさか否定されるとは思っていないようで口をあんぐりしてしまった。


「君くらいの年齢なら転生とか好きそうなのに、ほら最近剣と魔法の世界で俺tueeeなハーレムとかよく見るでしょ?」


「……見たことは無いですね。すみません。」


自分の人生….、14年の記憶を辿ってみても優馬には本自体を見た記憶がなかった。幼少の頃より体が弱く入退院を繰り返してきたのだから無理はない。そしてそのことをおっさん神は知っているはずだったのだが……


「神様、優馬ちゃんの人生を見てきたのでは?……嫌がらせですか…?それならわたしにも考えが…」


「ちゃっ!! ちゃうねん!!!びっくりして頭真っ白になっただけですねん!!堪忍して!!!」


思わずインチキ関西弁になってしまった神は慌てて釈明する。神は話が自分が思った通りに進まないことに焦りを感じていた。


「……わかった……全部話すよ。まず、佐藤優馬君。僕は君の人生を見ていた。見たきっかけは本当にたまたま目に付いただけなんだ。僕の仕事は三葉ちゃんも言ってたけど、転生とか死後の行き先を決めるんだ。だから下界の人の有望そうな人、真面目な人なんかにあらかじめ目星をつけるんだけど……」


「その有望な人が……今回は優馬ちゃんなんですね。」


「そう、その通り。優馬君の人生は正直に言って楽なものではなかったと思う。けど君は……君の家族は、愛に溢れていた。僕も色々な人を見てきたよ…それこそ数え切れないほどに………。だけど、君ほど僕を惹きつけたものは無い。君は過酷な中にあっても、生きる気力を失わない、君の家族はそんな君を絶対に見捨てない。君が学校に入る話なんか、今思い出しても………。っといけないまたぶり返しが……」


そう言って、目の端の涙を拭う神。優馬としては自分の家族のことをそこまで絶賛されてはむず痒い気持ちになってしまう。


「…わたしもみたいですね…それ。」


三葉だけは自分が共感できないで、悔しくてしょうがないような表情をしていたが。


「…僕と家族のことをそこまで言ってくれてありがとうございます。けどだからこそ転生はお断りします。僕の家族は父さんと母さんだけです。2人がいない新しい人生なんて僕はいりません。」


「!!?…… 、 そうか……そうだよね。けどね優馬君、僕はそれでも君に新しい人生を歩んでほしいと思ってるよ。……君は生きてる間、ずっとしたかったことができなかったはずだ。その100分の1でもいい。君のしたいことをしてほしい。これは正直僕の私情が100%だ。だからこそ直接君の魂をここに呼んだのだから。君がしたいことを、僕は僕の持てる力で叶えたい。だから、どうか、君のしたいことを教えてくれ。」


そう言って地面に付くほど頭を下げる神。隣では三葉も揃って頭を下げていた。三葉も先ほどの神の話に思うところはあるらしいが、優馬の……初対面から決めてましたとばかりに気に入っている優馬の幸せを願う気持ちは同じようだ。



優馬は考える。今までの人生ではできないことのほうが多かった。耳は聞こえず人と話すこともできない。幼少より体が弱く、家より病院で過ごす時間のほうが長かったのだ。当然体を動かすこと、思い切り走ることなどはできなかった。


だがそのことに優馬は不満をあまり感じていなかった。父と母、どちらか1人は必ず側にいたからだ。仕事もある、家事もある。だが生まれてから2人が優馬から離れたことは優馬が覚えてる限りは1度も無かったのだ。


(僕の人生はもらってばかりだった……。これ以上僕が何かを求めるなんて……)


優馬の考えはそれに尽きる。与えられてばかりの人生に何を望むのか。自分よりも不幸なひとなんて大勢いる。それこそ生きることさえできなかったひとだっている。それなのに何故自分だけ……。



そう考えていた優馬の目に、ふと、神が優馬の人生を見ていたモニターが目に入った。


そこには今まで姿を見ていない母の姿があった。


(……母さん。)


モニターの母はとても穏やかな顔で笑っていた。その手には何か本の様なものを抱えていた。


(…あれは……?…………っ!?!!)



(……そうか。………そうだね母さん。)



「神様。お願いがあります。僕のお願い、聞いてくれませんか?」


「っ…ああ、もちろんだよ。っと違うな………汝の願い、聞き届けた。」




顔を上げた神の顔は涙でぐちゃぐちゃであった。

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