少年は認めたくない
「……うっ……ここは……?」
暗闇の中で意識が目覚めた少年はまず現状確認を行った。自分は確かに死を覚悟していたのに意識が目覚めるのはおかしい。なのに何故今自分はここにいるのか。そして何より、
「っ!?…声が……出せる……?」
そう少年は自分の口から声が出ていることに気づく。今まで自分の口から出ていたものは声では無くただの音であったのに。
「なるほど。夢だな。」
冷静に考えてみれば意識を失ったら見るものは夢だ。しかし少年は自覚していた。最後の瞬間、耳が聞こえ無い自分にも心音が弱まっていくのを感じていたことを。だが、半ば現実逃避に夢だと判断した。それは家族を残していくことへの後悔や、もっと生きていたかったなどの欲求。そして歌が歌いたいという自分が小さい頃からの願望。
だが何もないこの空間が夢ではないことを否応なしに少年に現実だと知らしめる。おかしいことは自分の声が出せることと耳が聞こえることだけなのだ。少年にしてみればその2つが余りに信じられない出来事だった為に夢だと判断していた。
「とりあえず誰か探すか?ていうか人とかいるのか?」
辺りを見回しても真っ暗の中見えるのは自分の手や足。暗闇の中にも関わらずはっきりと見えている自分の体を確認し、少年は歩き出す。
「第1は神か。第2は神みたいな管理者。第3は……幼女神か?昔見た小説だと幼女神だった気がする。まああれはラノベだしな…」
まだ見ぬ邂逅者のパターンを想像しながら少年は歩いていた。
歩き始めて15分ほど、どこからか人の泣いている声が聞こえてきた。
「!!?……まさかホラーパターン?暗闇の中の泣き声とか怖すぎ…」
その泣き声は歩いていくうちに次第に大きくなっていた。そして大きくなっていくごとに色々な情報がわかってきた。どうやら泣いている声の主は1人らしい。そして…どうやら若いわけではないらしい。ていうか完全におっさんだ。おえっとかぶっーとか汚い音が聞こえている。
「…父さんもこんな声だったのかな…」
今はもう会えない父母の顔がふと頭をよぎる。いや、会えないと決まったわけではない。これが夢ならまた顔を見ることができる。夢の中で声を出すことが出来たんだと伝えることができる。だがその願望はすぐに壊されることになった。
「やあ。少年。…俺がここの管理をしている神だ…うっ…」
何故か涙と鼻水でぐちゃぐちゃなアラサーおっさんが少年に手を振っていた。