少年は歌いたい。
初投稿作品です。
見れば分かります。
少年は木製のベッドの上で体を揺すっていた。木が軋む音を体全体で楽しむ為だ。
産まれた時より耳の聞こえない少年は聞こえるという感覚を知らず、振動という現象を骨で感じることで音という物を認識していた。
『うー♪、うー♪。』
木が軋む音に合わせて少年は歌う。
生まれつき音の聞こえない少年には音階などの概念は無い。
その為少年の歌を周囲の人が聞けばそれを歌と認識することは難しい。
しかし少年は確かに歌っていた。
それは彼の周りにいる家族、彼の担当を務めている医師、看護婦の表情からも分かる。
昼の強い日差しを浴びながら少年は高らかに歌う。
十数年間という余りにも短い人生ではあったが少年は確かに感謝を歌う。
それは家族の為。医師たちの為。世界の為。
今この時まで生きていた証を歌う。
その少年の表情は嬉しい、悲しい、悔しい。
様々な感情の様に見える。
しかし、彼の歌だけは明確な感謝な気持ちがわかる不思議なものであった。
周囲の人に見守られながらも彼はその人生を終える。
意識が暗くなって行く中彼は思う。
『自分の人生に悔いが無いと言えば嘘になる。
だが非常に充実した人生を過ごすことができた。ありがとう。
父さん、母さん。ありがとう。
こんな僕を今まで育ててくれた。
せめて僕が成人するまでは見守って欲しかった。』
考えれば考えるほど悔しい思いが膨れ上がりそうになり、少年は思考を切る。
そしていよいよ最後、意識が完全に途切れる際、彼は思った。
『あっ、病院の人たちも、、、まあ同情だろうし別にいっか。』
少年は家族に以外には殊更にドライであった。