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私に言葉を投げかけた後、彼女は大きな欠伸をした。その吐息には硝子の破片が染みついている。所々に見覚えのある彼女の記憶に少し小気味よい物もあった。私が彼女をここまで連れて来た始終とか勢いよく口に酒を注ぎこむ某の姿等ここ最近の体験であるだろう一片がわたしに見えた。
「ああ、これはひどい。神様に目も向けられないや。あはは。まあいっか、流石にこんな辺鄙な世界に興味なんてないに決まっているし。」
彼女は一頻り自分の姿を気にしたら、その悲惨でみすぼらしい恰好を恥じるように言った。お化けの服はあちこちに傷を被っているし、若干涙目にもなっている。今にもここを飛び出してしまいたいだろう。だがお化けはもう何かを悟った様に諦観していた。その心内は余り良くはわからないのだが、いじけたその表情からは少しだけ気持ちを図ることは出来た。
黒髪はそんなことを気にせずにこちらに身を近付けてじろじろ私を観察してきた。何を計るのだろう。私の瞳か、襤褸ついた上着か、意味のない友情か、それとも_______________人の底か。
「あなた怪我はない?いやはや私のせいで傷を付けてしまっていたみたいだから。」
硝子に映し出された記憶を見て気づいたみたいだ。私には気づきようも無いことを知れるなんてずるい。子供のような感情に支配されてしまいそうだ。嗚呼、なんて馬鹿みたいな。ああ、いやだ。
「だいじょうぶですか?頭でも打ちました?」
少し暗くなってしまった私の表情か内心を悟ったのか彼女は問いかける。
「だいじょうぶです。それより、あなたの方こそ大丈夫なのですか。あんなに酔った状態で自転車に乗るなんて黒色も驚天動地ですよ。いや、怪我はないですけれども、もし小さい子供や老人が歩いていたらそれこそ大変な事故のなっていましたよ。」
いつもと変わらない口調。簡単な言葉の掛け合わせ。白く清らかな正義など何処かにあれば良いものだがそんなものはないと知っている。暗がりでの会話をもう充分には紅鏡は何も映さなくなった。だが、それはこれをこのやり取りの軌跡を煌びやかに描くのに最高のキャンパスになることは間違いなかった。
「ああ、以後気をつけます。まあまあどうどう。お詫びに何かおごらせてください。いくら怪我がないとしても私の気持ちは少しくらい反省しているのですよ。ささ、行きましょうよ。いやいや遠慮なく。」
突拍子もなく何を言い出したかと思えば、私の手を引いて何処かへ連れて行こうとした。でも今から塒へ帰るのは面倒くさいのもあるし帰って何か口に入れるのも気怠かったから、このまま連れていかれてしまうことにした