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落暉が恐ろしい程の輝きを放っている。もうすぐ沈む。私は公園のベンチに腰掛けた。まだあの猫に目撃をされたことを恥ずかしく思っている。中々に心のどぎまぎは取れないものなのだろう。彼女は眼を瞑っている。ぶつかった直後には頭の上にとてとて歩く雛や薄く透き通った黄色の星が居たような気がしたのだが。きっときっと気のせいだ。ぐでっと俯いている彼女はまだ微睡の中。変な夢でも見ているのだろう。公園で遊んでいる子供達の喧騒と対話しているのだから。
いまだ彼女は起きない。倒景さえも見当たらない時間になってしまった。子供達の騒がしいなきごえも亡くなった。もう疲れたから帰ってしまいたい。歩き惚けてここまできたし、それも昼のお天道様も私を見張っていた時からだ。熱戦による疲労も合わさって体にいつもの十倍程の重力がかかって居るようにも思えた。そんな心境をまるで何とも思っていない様にまだ眠っている。だと見ていたのだが彼女は撓やかにぐぐっと伸びをしている様だ。
「ふう。わあ、もうこんな暗くなってる。」
動物が混ぜ合わせる巣のように人間としては少し不自然で歪な声をしている。ただ嫌悪感は全くしなかった。むしろ心地よい声にも思えた。ぼやぼや灯る赤い電燈に彼女の声と優し気な街の光とが注ぎ込んで、この場所の意心地はわるくはなかった。まだ日向にあった場所からは熱い気が出ているからほんの少しだけ私の額には和えが滲んでいる。
「あなたがここにつれてきてくれたみたいですね。ありがとうございます。」
意外だった。あんなに日が目を見張っているのにも拘わらずぐでぐでに、ましてや交通事故一歩手前なる程の酔い具合。私にはどうしようもない人間に見えてしまった。私だけだろうか。そんな風に評価した人間が普通に感謝の辞を私に述べた。ちょっと身が引けてしまった。実のところかなりびっくりしたからだ。