強襲! 裏王(ネガ)パンダ
彼らの言葉に村獣たちがバッと広場の入口を見ると、真っ黒い塊がもの凄いスピードで近づいて来ます。
ウサイン○ボルトの速さで迫り来る、マ○コ・デラックスと例えれば、その恐怖が少しでも伝わるでしょうか。
ぬめりつくような風を孕みながら、村獣たちの前に現れたのは一匹のジャイアントパンダ。
それは雄大な体格をしており、くま村長と比べても二回りも三回りも大きいです。
そして名前の由来なのか、顔と腹部が黒く、耳と目の周りや腕と脚が白いという、通常の個体とは色の配置が逆さまになっています。
「こ、こいつが……」
「『裏王パンダ』……」
「グフフフフフ、いかにも我こそが山賊大頭領・裏王パン……」
「だああーっ!」
バキッ!
喧嘩っ早いらすかるさんは、敵がセリフを言い終わる前に飛び蹴りを放ちますが。
「グフフフ、なかなか生きの良い奴もいるようだな……」
裏王パンダはその蹴りを身動ぎする事もなく、顔面で受け止めると、らすかるさんの足を掴んで地面に叩きつけました。
「がはっ!」
『らすかるさんっ!』
らすかるさんを軽く退けた裏王パンダは、ゴキゴキと首を鳴らしながら、ぐるりと死屍累々のレッサーパンダの群れを見渡します。
「いつまで経っても、手下どもから報告が無いので様子を見に来たが……、まさか全滅させられていたとはな。まずはうぬらの戦いぶりを誉めて遣わそう」
バチバチバチと、両手を打って逆さ虹の森の住獣たちの奮闘を称える、裏王パンダ。
ですが、それを額面どおりに喜べる訳もなく、村獣たちは緊張感を持って敵の頭領の様子を伺います。
「我はこの森域一帯を治め、世界制覇の足掛かりにしようと考えているところだ。そして、うぬらはなかなか見込みがあると見える。どうだ? 我の配下に加わり、共に天下を目指そうではないか?」
臭い息を吐きかけながら、くま村長に凄む裏王パンダ。
要請の名を借りた脅迫に、くま村長はあわあわしながら返答に窮していましたが。
『ことわーる!!』
村獣たちは、その誘い掛けを敢然と拒否しました。
「くっそー! 誰がお前なんかの手下になるかよ! だったら最初から抵抗なんかしてないってえの!」
「配下って、奴隷のこと? お腹いっぱいご飯が食べられなくなるのは嫌だなー」
「山賊なんかになったら、楽しくいたずらも出来なくなるもんね」
「歌も唄えなくなりますからね~♪」
「ぼくたちは、この逆さ虹の森でずーっと楽しく暮らしたいんだ!」
そして、村獣たちは声を揃えて。
『自由じゃなくなるのは、絶対に嫌だー!!』
交渉が決裂し、いやだー、いやだー、いやだーと声がこだまする芝生広場。
「ほう……? どうあっても我に楯突くということか……。ならば、死をもって報いるとしようぞ!」
「みんな、避けろっ!」
らすかるさんの声に、村獣たちは一斉に飛び退きます。そこへ、グオン! と鈍い風切り音を響かせながら白い腕が金棒のように叩きつけられると。
ドッゴアッ!
ミサイルが炸裂したかのように、激しい爆発音とともに地面が砕け、弾丸のように岩盤が飛散します。
『うわあああああっ!』
衝撃の余波を食らい、吹き飛ぶ村獣たち。
「直撃したわけでも無いのにこの威力……」
「つ、強い……、強すぎる……!」
「グフハハハハ! 『神』から与えられしこの剛腕、うぬらごときに止めうるべくもあるまい!」
裏王パンダはズシンズシンと、気絶しているりすりす兄妹に歩み寄り、グワッと丸太のような腕を振り上げます。
「させるかあ! 左腕を関節ごと左回転! 右腕を関節ごと右回転!」
そうはさせじと、両拳に捻りを加えて、らすかるさんは裏王パンダに突っ込んで行きます!
「フン、小動物ごときに何ができる?」
裏王パンダは右腕で、懐に飛び込んで来るらすかるさんを横殴りにしますが。
『魂!』
ボフン! と、らすかるさんの姿は煙とともに木の葉に変わり、はらはらと風に舞います。
「何っ!?」
「かかったな! 食らえ、秘闘技『怒螺無式洗濯機拳』!!」
ドッギャーン!
森の中に潜んでいたきつねさんとの連携で、らすかるさんは敵の裏をかき、この日のために鍛え上げた技を、裏王パンダの無防備な背中にぶち込みました!
が。
「効いてない!?」
「グフフフフフ、我が筋肉は鋼鉄の鎧よ。うぬが小手先の技ごときで砕ける訳もなかろう!」
ドガアッ!
「ぐわあああああっ!」
渾身の一撃をものともされず、逆に裏王パンダの反撃を食らって弾き飛ばされ、樹の幹に激突するらすかるさん。
「グハハハハ、小賢しい真似を……。これで、終いよ!」
『らすかるさーんっ!』
ゴズッ!
らすかるさんの上に、無慈悲に振り下ろされる裏王パンダの拳。
ですが、それを受け止めたのは、皆が見知った茶色の巨体。
「村長さん!?」
「村長……」
『森野くま』村長さんは、裏王パンダの腕を払いのけると、倒れ伏すらすかるさんをかばって立ちはだかります。
「村の仲間は死なせませんよ……」
「ほう? 我の力を正面から受け止めるとは、なかなかの胆力の持ち主だな」
「いいえ、私はただの臆病者です。ですが、『逆さ虹の森』の村の長として、村獣たちは死んでも私が守ります!」
山賊の頭領に真っ向から挑みかかるくま村長さん。そして、それをねじ伏せようとする裏王パンダ。
文字通り、両雄はベアナックルの殴りあいを繰り広げます。
ですが、地力で勝る裏王パンダに次第にくま村長さんは押されていき、そして。
ドガガッ!
「ぐうっ!」
『村長さん!』
痛恨の一撃!
とうとう、裏王パンダの攻撃を防ぎきることができずに、くま村長さんは地面を転がります。
「貧弱な森の民にしてはなかなか健闘した方だが、これまでのようだな」
「いえ、まだ私は負けていません……。秘蔵の超高級ハチミツも嘗めつくしましたし、死ぬ覚悟はとうに出来てます。まだ諦めませんよ……」
『村長さん……!』
「グハハハハ、殺すには惜しい男だが、戯れはここまでとしようか」
ぐおおおおおーーーーーっと、命がけの特攻をしかけるくま村長さん。薄ら笑いを浮かべながら、カウンターパンチを叩き込もうとする裏王パンダ。
ボコボコと筋肉を膨張させた右腕の爪刃が、くま村長を刺し貫こうとした瞬間!
『邪魔だァ!』
伏せ字の位置に深い意味はありません。