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逆さ虹の森の迎撃戦(四)

 村へと続く道を、逃げるきつねさんを追いかけるレッサーパンダたち。

 ようやくようやく長い坂道を登りきると目の前が(ひら)け、崖の上に三本の吊り橋がかかっていました。

 橋の名前は『(ちょう)(はん)(きょう)』。

 逆さ虹の森を両断する谷にかかる橋は、村に続く唯一の入り口であるため、メンテナンスが行き届いておりピカピカです。

 そして、真ん中の橋を軽快に渡るきつねさんの姿が見えました。


「よし! 橋を一気に渡って、あのキツネを追い詰めるぞ!」

「さー、いえっさー!」


 先ほどとは一転、強気に攻めようとする山賊たち。

 三つの橋でいっぺんに渡ろうとしますが、対岸側のきつねさんが、くるりと谷の方へ振り向いて。


(こん)!』


 印を結んで念じると、三本の橋のうち左右の二本がボムン! と煙を上げて跡形もなく消え去ります。

 実は本当の橋は一つだけで、あとの二つはキツネ族が秘技『幻術』で作り上げたニセモノ。

 当然、それを渡っていたレッサーパンダたちは。


『うわあああああーーーっ!』

『ぎゃあああああーーーっ!』


 かわいそうなくらい、哀れな格好で落下していきます。

 さらに、消えずに残った橋の方も。


 バキッ! ミシッ! ベキベキーッ!


 床板に切れ込みが入っており、板が割れて足を踏み外したレッサーパンダが次々と墜落してしまいました。


『くそーっ! 今度は本当に騙されたーっ!』


 サンゲツがきつねさんに授けた二つ目の策略にも、見事にハマった山賊たち。

 きつねさんは幻術で(ひと)を騙すのは乗り気ではなかったのですが、「騙すより騙される方が悪い」「騙すのではなく、勝手に敵がひっかかるだけ」「ガタガタうるせェ! 黙ってやれ!」と暗黒ウサギから説得された結果はかくのごとしです。


「橋がボロボロになっちゃったから、『()()()()()』に改名しないといけないかな……」


 きつねさんはそうつぶやくと、再び前を向いて駆け出して行きました。



 *



「くそーっ! 残った隊員は、壊れてない足場を使って渡れ!」

「さー、いえっさー!」


 (むら)(びと)たちが渡るために最低限だけ残されていた床板を渡り、レッサーパンダたちはヨレヨレになりながらきつねさんを追います。

 村の一歩手前。森の中ですが、芝生のある広場のような所へきつねさんが逃げ込みますと。


「後はまかせたよ!」

「オーライ、まかされた!」

「しゅるるるー……」


 二匹の村獣の脇を抜け、役目を終えたきつねさんは広場の出口へ向かいます。

 そして、しばらくして現れたレッサーパンダの山賊部隊。

 その数をとうとう百匹まで減らし、めちゃくちゃ疲れきっています。

 そこに立ちはだかったのは、白い空手の胴着を身につけ、頭に日の丸鉢巻きを締めた一匹の灰色のアライグマ。


「お前らがネガ・パンダ団の山賊たちかよ。だいぶくたびれてるようだけどな」


 そう言うアライグマ自身も、顔や手足にばんそうこうやテーピングを(ほどこ)されており満身創痍の(てい)ですが、格闘家の風格を感じさせる凄まじい気迫を放っています。


「何だ、貴様は?」

「オレかい? オレはお前らに『引導を渡す者』さ!」

「こしゃくな事を……。たかが一匹、いや二匹か? とっとと蹴散らして村へ攻め込むぞ!」

『さー、いえっさー!』


 これまでのうっぷんを晴らさんとばかりに、五匹のレッサーパンダたちが一斉にアライグマに踊りかかって行きます。


「来たな! 修行の成果を見せてやる!」


 ヴゥン! とアライグマの両手がブレて見えたかと思うと、一瞬で山賊たちが弾き返されました。


『うぎゃあああああっ!』

「何ぃ!?」


 アゴを叩き割られ、悶え苦しむレッサーパンダたち。

 正義の暴れん坊、アライグマ族の『(あら)(いわ)らすかる』さんは、構えを取って(たん)()を切ります。


「ここは村への最終防衛拠点だ。通りたけりゃ、オレを倒して行くんだな!」

「ぐぬう、やるな。だが、これならどうだ!」


 レッサーパンダの隊長は、アライグマを組み伏せるのは(かた)いと判断し、隊員たちはもう一匹の村獣から潰すように指示を下します。

 その相手とは、一匹のヘビ。

 隊員たちが攻めかかりますが、怯えているのか「しゅるる」とつぶやきながら微動だにしません。しかし。


「……もう、食べていいんだよ……ね?」

「ああ、暗黒ウサギ(あいつ)の許可は取ってる」

「……もう、我慢しなくて……いいんだよね?」

「ああ、遠慮なく()ってくれ」

『いただきまあああああぁす!』


 大食らいのヘビ族『(おも)(いし)へび』さんは、らすかるさんと二言三言交わしたと思ったとたん、大口を開けて一気にレッサーパンダたちを丸飲みしました!


『ぎゃあああああーーーっ!』


 それは、あたかも白亜紀のティラノサウルスが草食動物を捕食するかのような光景。


「何だとーっ?」

「こんなんじゃ、全然足りないよ……?」


 チロチロと舌を出しながら、山賊たちをまるで美味しそうな料理かスイーツを見るかのように見つめると、(じゃ)(がん)を爛々と光らせます。

 普段、肉食系の(じゅう)(にん)は村の牧場の牛や豚やニワトリを食べているのですが、暗黒ウサギに断食をさせられた結果、野生の本能を呼び覚ましたへびさんは、虫だろうがカエルだろうが、生のレッサーパンダだろうが、何でも美味しく食べられます。

 与し易いと思われたヘビが恐ろしく獰猛だと知り、戦々恐々とするレッサーパンダたち。


「くそっ、ここまで来て引き返せるか! 皆の者、かかれ! かかれい!」

『さー、いえっさー!』


 後には引けない山賊団は、隊長の号令に従って二匹に襲いかかりますが、ことごとく返り討ちに合います。


『五匹じゃダメでも、十匹ならどうだ!』


 言葉どおり、らすかるさんに飛びかかる十匹のレッサーパンダ!

 ところが。


「左腕を関節ごと左回転! 右腕を関節ごと右回転!」


 自らの両腕を()(せん)回転させることで、圧倒的な破壊力を生む必殺の(もろ)()突き。ですが、暗黒ウサギとの修行の成果はそれだけに飽きたらず、拳と拳の間に真空状態、いわば虚無の空間を作り出す事を可能にしました!


「秘闘技! 『怒螺無式(ヴォイド)洗濯機拳(スクリューブロウ)』!」


 ドッギャーンッ!


『ぐっわあああああーーーっ!』

「くやしいが、暗黒ウサギ(あいつ)は闘いの天才だ。感謝するぜ……、オレはまだまだ強くなれる!」


 敵を(ほふ)ったらすかるさんは、テーピングをした拳を握りしめてカッコ良さげにつぶやきますが、その背後から迫る影!


「がぶっ!」

「うわっ、危なっ!」


 見た目が似ているレッサーパンダと間違えて、へびさんはらすかるさんにかぶりつこうとします。


「バカっ! オレはレッサーパンダじゃねーよ! オレは灰色で、あいつらは茶色! 見たら分かるだろ!」

「今のウチだ! 奴等を無視して、村へ攻め込めーっ!」

「あっ! ヤバいっ!!」

『さー、いえっさー!』


 二匹に生じた隙を見て、冷静な判断を下すレッサーパンダの隊長。ここまで数々の策略にひっかかって来ましたが、ここは流石に百戦錬磨のところを見せつけます。

 しかし。


『ぐおおおおおーーーーーんっ!』


 広場の出口に、茶色の身体の巨大な生物が立ちふさがります!


『うわあっ!』

『く、熊だーっ!』


 それは、逆さ虹の森の村長の『(もり)()くま』さん。

 サンゲツから「戦うのが怖いっつーなら、ラスボス感だけ出して敵を威嚇し続けてろ。デケェ図体してんだ、それだけで充分戦力にならァな」と、最後の抑えとして配備されたくまさんは、勇気を出して山賊の群れの前で声を張り上げます。


「どりゃーっ!」


 棒立ちになるレッサーパンダたちをらすかるさんは軽く蹴散らし、くま村長はホッと息をつきます。


「助かったよ、村長! あとはオレたちにまかせとけ!」


 引き続き、らすかるさんは再び敵の集団に飛び込んでいき、へびさんは時間制限のある焼肉バイキング店のようにハイペースでレッサーパンダを食べ続け、くまさんは唸りを上げて山賊たちを怯ませること数十分。


「さあさあ、あとはお前だけだぜ?」


 山賊ネガ・パンダ団も、とうとう残り一匹。

 らすかるさんとへびさんとくまさんに睨まれ、レッサーパンダの切り込み隊長は後ずさりしますが。


「ぬうう、かくなる上は……、一人だけでも道連れだーっ!」


 一転、隊長はらすかるさんに飛びかかり、パンチを繰り出します。


 ガカッ!


 ですが、らすかるさんも空中で拳を応酬し、二匹は同時に着地しましたが、「がはあっ!」と血を吐いて倒れ伏したのはレッサーパンダの隊長。

 これにてネガ・パンダ団のレッサーパンダ部隊はめでたく全滅となりました。


「へっ、逃げずに立ち向かってくるとは骨がある奴だったが、(しょ)(せん)オレの敵じゃなかったな」

「もう、ぼくお腹いっぱいだー」


 とは、食べすぎてツチノコみたいな体型になっている、正気を取り戻したへびさん。


「そりゃそうだ。それじゃあ村長、勝どきをよろしく」

「は、はい、それでは皆さんご唱和ください……。この戦い、私たちの勝利だーっ!」


 らすかるさんに促されたくま村長の御発声で、エイエイオー! と、逆さ虹の森の村獣たちから凱歌が上がりました。

 ですが。


「「た、た、大変だーっ!」」

「大変です~♪」


 その余韻に浸る間もなく、広場に入ってきたのは、空を飛べないこまどりさんと、彼女をお神輿のように担ぎ上げて走るりすりす兄妹。

 なぜか大声を上げながら、慌てて持ち場から帰って来ました。


『や、ヤバい奴が来たーっ!』

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