命と同じくらい大切なモノ
松明が灯る洞窟の中で、逆さ虹の森の動物たちによる、命懸けのプレゼンテーション大会が始まります。
「「ぼくたちの命と同じくらい大切なものは、この『ドングリ』ですっ」」
大人しいリス族の割りにいたずらが大好きな双子、『木上くりす』『木上りりす』の、りすりす兄妹は懐からドングリを取り出しました。
「これは、なんと素晴らしい……」
「いい仕事してますねえ……」
それは、美しい色艶と黄金比率とも言うべき整った形をしており、見るものを唸らせる宝石のような価値ある一品。
村獣たちは、ほう……とため息をつきましたが。
「却下」
「「えっ、なんでっ!?」」
「おとぎ話じゃねェんだ! そんな木の実なんぞで納得するかァ!」
「「えー、これってジャンルは童話だよ……?」」
サンゲツから冬の童話祭のレギュレーションにひっかかるような問題発言で自慢の品をくさされ、りすりす兄妹はしょんぼりします。
「次は、ワタシの番です~♪」
コマドリ族の『嶋居こまどり』さんは、おもむろに歌を歌い始めます。
それは一瞬、洞窟の中がコンサートホールか、さいたまスーパーアリーナではないかと錯覚させる、オペラの歌姫のようなソプラノです。
こまどりさんの素敵な歌声に、皆は心を奪われウットリとしましたが。
「確かに歌はうめェが……、それがどうした?」
「はい~♪ ワタシの大切なものは、この『美声』。この歌声に免じて、なんとかお願いできないかと~♪」
「マク○スのリン○ミンメイじゃねェんだぞ、歌なんかで万事解決なんてできるかァ!」
「そ、そんな~♪ ワタシ久しぶりに川から上がって来たのに~♪」
普通の童話だったらよかったかもしれませんが、暗黒ウサギにご都合主義は通用しません。
鳥なのに両生類のように川に棲んでいるこまどりさんは、恨み節を歌にそえて届けます。
それからも、あれやこれやと村獣たちは大切な品々を提供しようとしますが、サンゲツの心には響きませんでした。
「どいつもどいつもフランスも! ちったあマシなもん持って無ェのかァ!」
「で、で、では、最後は私から、秘蔵の超高級ハチミツを……」
「プーさ○じゃねェんだ、そんなもんいるかァッ!!」
「ひええー、もうダメだー!」
「では、具体的にはどういうものなら納得してもらえるのですか? わたくしのものでも良ければ、差し上げますが……」
とうとう村獣たちのプレゼンが全滅し、万策尽きたくま村長さんに巫女のミミコが助け舟を出します。
すると、サンゲツは品定めをするように白ウサギの娘を見ると、舌なめずりをしながら。
「そうだなァ……」
手錠と足錠をじゃらじゃら言わせながらミミコに近づくと、いきなり両手で彼女の胸を鷲掴みにします。
ミミコを始めとして、場にいる者は何が起きたのか理解出来ずに空白の時間が生まれましたが、サンゲツが法衣の上から乳房をむにむにと弄りだしますと。
「嫌っ!」
ミミコはあわてて胸を押さえてうずくまりました。
「ハッ、思ったとおりだ。テメェ、ロリっぽい顔の割にはいい乳してんじゃねェか」
「な……な……、何を……?」
「初々しい反応だなオイ。男に乳を揉まれた事ねェのか? さてはテメェ、処女だな?」
サンゲツの下卑た言葉に、ミミコはカアッと長い耳の先まで白い顔を赤らめます。
「ギャッハッハッ、こりゃァいいぜ。あのクソジジイの子孫が生娘だなんてなァ!」
「それが、何か……?」
ミミコはキッとサンゲツを睨み付けますが、暗黒ウサギは大げさに洞窟の天井を仰ぐと、高笑いをします。
「よォし、決めたぜ。その山賊団とやらをブッ殺したあかつきにゃあ、テメェとヤラせろよ」
『!』
「俺様に命を張らせるつもりだろ? なら、テメェも命と同じくらい大切な『処女』を張ってもらわねェと釣り合わねェだろうが。嫌とは言わせねェぞ」
「……」
「お、お待ちください!」
サンゲツとミミコのやり取りに無理やり割って入り、くま村長さんは再び暗黒ウサギの前にひざまずきます。
「巫女様は逆さ虹の森の住獣ではありません! それに、とてもそのような恐れ多い事は……」
「ハッ、関係ねェな。俺様ァそいつとヤると決めたんだ。それと、とっとと手錠と足錠も外しやがれ。これじゃヤリにくくて仕方ねェ」
「あと、十八禁になるような事をされますと、冬の童話祭どころか、小説家になろうの規定にも抵触しますし」
「るせェ! んなもん関係ねェ、つってんだろうがァ! ヤリてェ時にヤリてェ女とヤって何が悪りィ! 俺様ァ、二百年も閉じ込められて溜まりに溜まってんだよォ!」
「さ、最悪だぁ……」
サンゲツは土下座しているくま村長さんの襟首を持って吊し上げながら、欲望にまみれた台詞を吐き出します。
すると。
「分かりました……。あなたが逆さ虹の森を助けてくださるのでしたら、喜んでこの身を捧げましょう……」
巫女のミミコはすっくと立ち上がると、全てを悟ったかのような静かな面持ちで、二人に告げます。
「巫女様!?」
「ほォ……?」
意外な言葉に驚く、くま村長とサンゲツ。
ミミコは、黒い耳をビンビンに勃てて、ヨダレをぬぐいながら近寄って来る暗黒ウサギを、牽制するように獣差し指を立てて突きつけます。
「ただし……、それは成功報酬とさせてください。全てが終わった事を見届けてからでないと、その……」
「ヤリ逃げされる心配があるって言いたいんだろ? オッケー、オッケー。楽しみは最後まで取っといてやらァ」
「それと、手錠と足錠を外すのもその時に。そうでないと、また何をされるか分かったものではないですから」
両手で胸を隠し、頬を赤らめながらミミコはサンゲツを睨み付けます。
「分ァった、分ァった。だが、手付けだけはいただくぜ?」
「!」
そう言うと、サンゲツは拘束具をまとった右手でミミコの形のいい顎をくいっと持ち上げ、素早く唇を奪いました。
「ウッ……」
ミミコは、はらはらと涙を流します。
その姿は、まだ見ぬ愛する兎に捧げるはずだったファーストキスをこのような形で奪われてしまい、哀しみにくれているかのように見えます。
舌を絡めとられるような、濃厚な口付けがようやく終わると、解放されたミミコはくたりと地面にへたり込みました。
「ハッ、キスだけで腰が抜けちまったかァ? だが、俺様のテクニックはまだまだこんなモンじゃあないぜェ……。事が終わったら、ヒィヒィ言わしてやるから覚悟してろよォ!」
うなだれるミミコを見下ろしながらそう言うと、続いてサンゲツはひきつった顔の村獣たちに、エラそうに申し付けます。
「交渉成立だ! 村に戻ったら、まずはメシだな。血の滴るようなステーキと極上の酒、デザートは月見ダンゴを用意しろ! 俺様のご機嫌を伺って、せいぜいもてなすがいいぜェ!」
ギャハハハハと哄笑を上げながら、ぴょんぴょんと洞窟の外へ向かう暗黒ウサギ。
それを見送りながら、拳を握り肩を震わせる村獣たちの姿は、サンゲツと自分達の不甲斐なさへ対する怒りを押し殺しているように見えます。
くま村長は、未だに立ち上がれないミミコに近寄り。
「申し訳ありません……。私が余計な事を言ったせいでこのような事になってしまい……」
「いえ……、お気になさらずとも、彼に力を借りると決めた時から、こうなることは予想していましたから」
スッと気丈に立ち上がると、暗黒ウサギが立ち去った後を白い巫女ウサギは見つめます。
「わたくしの事は大丈夫です。それよりも、あなた方はこの苦境を乗り切る事を最優先に考えてください」
「しかし……」
「全ては時の導きのままに。きっと、うまく行きますから……」
ミミコは村獣たちの方を振り向くと、彼らを心配させないように、ニコッと健気に微笑んで見せました。
ウサギのおっぱい(乳首)は、左右の四対で八個あります。