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エピローグ・捻(ねじ)くれた世界を巡る冒険の旅

 それから、五年後……。


 (とき)(だい)(せん)(にん)の予言どおり、亜空神メビウスが完全復活し、ついに本格的な裏次空の侵攻が始まりました。


 大量に生じた次元の歪みから次空間の反転が一斉に起こり、亜空の瘴気(しょうき)により山も海も荒れ、川は枯渇し、裏次空の闇に支配された怪物たちが各地で暴れ出し、愛と平和に満ちた表次空は憎しみと争いに覆われてしまいました。


 人々から笑顔で消え失せた世界。

 ですが、そんな絶望的な状況に煌々と一筋の光明が射し込みます。


 闇を打ち払う新たな勇者たちが、今ここに敢然と立ち上がったのです!



 *



 グロオオオオオオオオオオーーーーーンッ!


 (くも)一つなく、太陽もない真っ白の不思議な()の空。

 反転した次空間の砂漠の中に高層ビルのようにそびえ立つ、例えるなら巨大な(こう)(もり)の翼を持つ首長竜。

 見る者を石と()するような混沌の光を湛えた眼、剥き出された牙、鋼鉄をすら引き裂く爪。(あか)(ぐろ)いオーラを立ち上らせて、眼下の勇者パーティーを大いに威嚇しています。

 次元の歪みより現れし裏次空の超魔獣、その生物の名は『ジャッバウォック』!


「来たわよ! あたしが突っ込むから、(まつ)()さんとチェシャ猫は援護をお願い! ミミコさんは適当なタイミングで回復と補助をよろしくっ!」


 それに立ち向かうのは、ピンク色の鎧を身にまとい、背中に赤鞘の(つるぎ)を背負った美しい少女。

 滑らかな光沢のある(こん)(じき)の髪をなびかせながら、快活に後方に指示を送ります。


「『(さん)(がつ)ウサギ』くんは……って、あれ? 三月くんはどこ?」


 すると、緑色を基調としたシルクハットとタキシードを身につけたロマンスグレーの中年紳士が前方の上空を指差し。


「彼なら、既にあそこに……」

「え?」

「だらあーッ!!」


 ドッゴアアアァーッ!!


 漆黒の閃光が空を駆け上がったかと思った瞬間、ジャッバウォックの側頭部を蹴り飛ばす一匹のウサギ。

 夜空のような黒い毛皮、頭に付けた純金の環を輝かせ、猛獣の笑顔を見せながら高笑いをしています。

 その(おとこ)こそ、何を隠そう暗黒ウサギの『(サン)(ゲツ)』。

 満月を思わせる金色の瞳をギラつかせながら、空を蹴り、宙を飛び跳ねています。


「こらーっ! 勝手な行動を取るなーっ!」

「ハッ、テメェがちんたらしてるからだろうが! 俺様ァやりてェようにやらせてもらうぜェ!」


 リーダーとおぼしき少女の怒声もなんのその、サンゲツはさらに空中で加速し、グラつくジャッバウォックに追撃を加えます。


 グロオオオオオオオオオオーーーッ!


「ギャッハッハーッ! とどめだァーッ!」

「もー、ちっとも言うことを聞きやしないんだから! しょーがないなあ……」


 少女は両手を合わせて呪文を唱えます。


「あ、そーれ。ヴェールディ、キータザーワ、ヘーアバンド~(呪文)♪」


 すると、サンゲツが頭に付けている黄金の輪がキリキリキリと締め付け、暗黒ウサギは激しい痛みに(もだ)え出しました。


「ぐわあああああーッ!?」


 サンゲツの頭に装着されている金環。名を『(きん)()()』と呼び、術者の(まじない)に応えて頭を締め付ける、勇者の言う事をぜんぜん聞かないサンゲツの対策として用意された(しろ)(もの)です。


「ぐおおおおおーッ! 頭が割れるーッ!」


 ひゅるるーと墜落し、ドムッと砂漠の砂山に突っ込むサンゲツ。

 地面に突き刺さり、八ツ墓村のスケキヨのように下半身だけをさらした状態になっていると、そこへ振り下ろされるジャッバウォックの巨大な鉤爪!


「はあああっ!!」


 ズバッ!


 金髪の少女は背負った剣を抜き払うと、ジャッバウォックの右腕を切り裂く一閃を放ちました。


 グギャアアアアアアアアアアーーーッ!?


 超魔獣は片腕を失い、痛みに悶え打ちます。

 少女剣士が振るうは闇を斬り、次元を斬り裂く聖剣『ヴォーパルソード』。


「危なかったね、(さん)(がつ)くん!」


 にぱっと笑う金髪の美少女。その口元からは可愛らしいとんがり八重歯がのぞいています。


「危なかった、だとォ……?」


 暗黒ウサギは砂山から抜け出すと、全身から怒りを噴き出しながら、少女剣士に掴みかかります。


「なんて事しやがんだテメェ! もうちょっとであの化けモンをブッ倒すトコだったのによーッ!」

「なによ! あたしが助けないと死んじゃう所だったんだから、素直に感謝しなさいよね!」

「全部テメェのマッチポンプじゃねェか、このバカ女ッ!」

「元はと言えば、あんたが言うことを聞かないからでしょーが、この時代遅れのヤンキー兎!」

「んだとォーッ!」

「なによーっ!」


 一人と一匹が低レベルな口論を繰り広げていましたが、ハッと気付くとその背後には、エネルギーの充填を完了して大口を開けているジャッバウォックの巨大な顔が。


「こいつァ……!」

「ちょっと、ヤバいかも……!」


 ゴアアアアアアアアアアーーーッ!!


 極太のエネルギーブレスが解き放たれ、サンゲツと少女剣士の身体を焼き尽くそうとします。

 しかし!


「『時空(クロノス)停止(アレスト)』!!」


 パーティーメンバーの(ひと)()(とき)(だい)(せん)(にん)こと白い老ウサギの『ミミコ』が、時間を止める術を使い、あわやサンゲツたちがこの世から消滅する所を間一髪食い止めます。

 そして。


「チェシャ猫!」

「まかせるワケ~」


 老ウサギの呼びかけに飄々と答えた『チェシャ猫』と呼ばれる青紫の猫は、フッとその場から姿を消し、再び陽炎のように姿を現した時には傍らにサンゲツと少女剣士を伴っていました。


「ふう~。複数の空間転移は、ことのほか疲れるワケ」

(まつ)殿!」

「承知しました」


 さらに、緑一色の英国紳士風の男。イカれ(ぼう)()()こと『(まつ)()(はつ)()』がシルクハットを脱ぐと、手品のように中からガトリングランチャーを取り出し、ドガガガガガと豪快にジャッバウオックに向けて撃ち出します。

 が、時の止まった空間で、射出された弾丸は空中に静止したまま。


「『解除(リラシオ)』!」


 すかさず、仙獣が指をはじいて時間停止を解除すると、大量の弾丸がドパンッと同時に火を吹き、ジャッバウォックの身体に縦列の弾痕を叩き込みました。


 グオオオオオオオオオオーーーッ!?


「あ、ありがとう……、みんな……」


 呆然としながらも、状況を把握した少女剣士は窮地を救ってくれた仲間達にお礼を言います。


「そんなことより、アリス。早く(とど)めを」

「また、アイツが抜け駆けしてしまうワケ」

「ああっ!?」


 空を飛び、黄金に輝く右脚で流れ星のような軌跡を描きながら、ジャッバウォックに蹴りを放とうとするサンゲツの姿が。


「まったく、もう……」


 そう言って、勇者『アリス』は聖剣ヴォーパルソードを正眼に構えてスッと集中すると、全身から桃色のオーラが(ほとばし)ります。


「我が(やいば)、亜空の闇を斬り裂けり……」


 そして、会心の一撃!

 サンゲツが蹴りを炸裂させるのとほぼ同時に、ジャッバウォックに最強の剣技が炸裂しました。


「だッらあああああーーーーーッ!!」

「奥義! 『()(くう)(とう)()(ざん)』!!」


 ズオオッ!

 ドッゴオオオオオオオオオオーーーンッ!



「俺様が蹴った!」

「あたしが斬ったの!」

「いいや、俺様の蹴りが先に頭蓋骨を粉砕したから、仕留めたのはこの俺様だァ!」

「いいえ、あたしの剣が真っ二つにしたのが先でしたー!」

「剣も魔法も中途半端な()()()のくせに良く言うぜェ!」

「魔法がまったく使えない、脳筋(ローレシア)のくせに!」

「何だとォ!」

「なによーっ!」


 反転した次空が元に戻り、美しい満月が照らす(こん)(いろ)の空の下、山のように横たわるジャッバウォックの残骸の上で、暗黒ウサギのサンゲツと勇者アリスは愚にもつかない喧嘩を続けています。


「やれやれ、あの二人はいつになったら、協力して戦えるようになるのかのう」

「まったく、世話が焼けるワケ」


 それはいつもの事なのか、仲間たちは何度目になるか分からない溜息をつきながら、その様子を見ています。


「だいたい、俺様の名前は(さん)(がつ)じゃねェ、『(サン)(ゲツ)』だ! 何回言ったら覚えやがんだ、バカ女ッ!」

「えー、似てるから別に良くない? じゃあ、三月くんのお誕生日はいつ?」

「三月三日のB型魚座だ!」

「ほーら、やっぱり三月くんで問題ないじゃん。しかも、ひな祭りの日じゃない。()(わい)いーっ!」


 ころころころっと楽しそうに笑うアリスに、サンゲツはこめかみにビキッと青筋を立てます。


「うっせェーッ! 余計なお世話だ、この貧乳八重歯ッ!」


 この暴言を聞いた少女は、両手を合わせて呪文を唱えました。


「ヴェールディ、キータザーワ、ヘーアバンド~。あ、よいしょー」

「ぐわあああああーッ! (あったま)痛ってえーッ!」

「貧乳はいいけど、八重歯をバカにするなーっ!」

「貧乳はいいのかよ!」

「そんなこと言ってたら、もう『キビダンゴ』あげないよー」


 アリスは奥の手と言わんばかりに、麻袋から団子を取り出し、手のひらで転がして見せます。


「よこせッ!」

「あっ!」


 サンゲツはそれをすぐさまひったくり、口の中に放り込みます。すると。


「うめェッ! 控えめだが、優しい甘さが口の中で広がりやがるッ! 悔しいがマジで超うめェ」

「ふっふーん、あたしのおばあちゃんが作った『キビダンゴ』は最高でしょー」

「クソーッ、悪魔的にうめェ! 素朴な味なのに、どうにも後を引いてやめられん! 材料に麻薬が入ってんじゃねェだろうなァ?」

「そんな訳あるはずないでしょ、バカねえ」


 結局、お互いにダンゴ好きということで、仲直りをするサンゲツとアリス。

 これもまた、お馴染みの光景なのか苦笑いをする仲間たち。


「これで案外、良いコンビなのかも知れませんね」

「ほっほっほ、少々()けるがのう」


 どこからか取り出したテーブルとイスに腰掛け、紅茶を楽しむ松戸。すでに興味なさそうにあくびをしているチェシャ猫。

 そして、次世代の勇者パーティーの様子を温かく見守りながら、感慨にふける白ウサギのミミコ。

 変わりゆく世界の中で、普遍的に変わることのない風景がそこには確かに存在するのでした……。



 *



 こうして、暗黒ウサギのサンゲツは、勇者『アリス=トリプルピーチ』を始めとする、やたらとアクの強いパーティーメンバーに囲まれて、ねじ曲がった世界を元に戻すための旅を続けます。


 彼らは幾多の困難を乗り越え、ついには亜空神メビウスを完全に討ち滅ぼす事になります。


 後に語られる神話の中で、自分を曲げずにやりたい放題、奔放に戦い抜く黒いウサギの姿は、平和を取り戻した世界で永遠に変わらない『自由』の象徴として。

 そして、曲がりなりにも彼が護り抜いた『逆さ虹の森』は、その聖地として未来永劫に語り継がれる事になるのでした。


 めでたし、めでたし。



 おしまい

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