ブラックダイヤモンド
赤黒い極太レーザーがミミコの白い身体を飲み込んで行きます。
そのまま、逆さ虹の森の村の方へと突き抜けていくかと思われましたが、なぜかミミコの手前で光線が四散しました。
「…………!!」
耳をまるめ、うずくまっていたミミコがうっすらと瞳を開けると、そこには彼女をかばって立つ黒い影。
暗黒ウサギのサンゲツの姿がありました。
「ぐうッ……」
黒い毛皮をさらにまっ黒焦げにさせ、細い煙を上げながら、ドサッと倒れ伏すサンゲツ。
「サンゲツ……さん?」
「よォ……、怪我ァねェか……」
ボロクズのようになりながら、ぶっきらぼうではありますが、サンゲツは彼女の身を気遣います。
『凶獣』、『暗黒ウサギ』と恐れられる彼らしくない行動に。
「どうして……? どうして、わたくしを助けてくださったのですか?」
「さァな……。俺様はやりてェ事をやっただけだ……」
「!」
ミミコは無傷である自分の身と、背後にある被害を免れた村の姿を確かめます。
「それによォ……、綺麗な顔に傷でも付いたら、テメェを抱く時に萎えんだろ?」
男臭いセリフを吐きながら、サンゲツはニヤッと悪い笑顔を見せつけます。
「あなたって兎は、こんな時にまで……」
「へへへ……」
赤い瞳を潤ませながら呆れるミミコに、サンゲツは満足そうに微笑みます。
「さァ、テメェはとっとと村の連中を連れて逃げやがれ。早くしねェと、あのクソ野郎がまた動き出しちまうぞ」
サンゲツは、自らの技のダメージで起き上がれずにいる裏王パンダを見やり、ミミコに避難を促します。
「あなたはどうされるのですか?」
「どうもこうもねェ。俺様はやりてェようにやったから、後はのたれ死ぬだけさァ」
「でも……」
「テメェも一緒に死にてェのかァ! さっさと何処へでも行っちまえッ!」
もう、指一本も動かせない状態でありながら、サンゲツはミミコを睨み付けて必死に吠えかかります。
「本当に……、あなたって兎は……」
誰におもねる事も無く、ひたすら自分に正直に、やりたい事のみを貫き徹す。
その信念は、まさに黒い金剛石。
サンゲツという兎の本質を見届けたミミコは、ポツリと一言こぼします。
「死にませんよ」
「……あァ?」
『時空の巫女』のミミコは、すっくと立ち上がり。
「あなたは死にませんよ。あなたはこれからわたくしと一緒に、めくるめく冒険に旅立つ事になるのですから……」
ミミコが両手を胸元に構えると、そこに光の粒子が渦を巻きながら集まって来ます。
「『時空回復』!!」
そして、両手を突き出すと、光の玉がサンゲツを包み込み、まるで時間がさかのぼるかのように受けたキズがみるみる癒えていきました。
「『解放』!」
さらに、拘束していた手錠と足錠が風化するように壊れて行き、二百年ぶりにサンゲツの四肢はその自由を取り戻しました。
よッ、と言いながら、サンゲツはヘッドスプリングで起き上がります。
「チッ、こんな事が出来んのなら早く言いやがれよ。マジで死ぬかと思ったぜ」
うらみごとを言いながら口を尖らせるサンゲツを、ミミコは気にも留めずに裏王パンダを指さし。
「さあ、これで後はあいつを倒すだけです。今の状況なら、あなたが負ける事はないでしょう」
サンゲツは未だに悶え苦しんでいる裏王パンダを見ると、つまらなさそうに顔をしかめます。
「なあ、ついでにあのクソ野郎も治してやっちゃくんねェか?」
「…………はあっ!? 何でですか?」
「女の力を借りて勝ったとあっちゃあ、俺様の『男』が廃んだろうが。あのクソ野郎とは対等な状態で戦りあいてェ」
サンゲツの無謀な提案にミミコは唖然としますが、あまりに真剣な眼差しで見つめて来るので、溜め息をつきながら。
「……もうっ! どうなっても知りませんからね!」
ミミコが光の玉を撃ち放つと、裏王パンダの傷が回復します。
それを見て嬉々とするサンゲツに、ミミコは呆れた表情を浮かべながら。
「男って、本当にバカですね」
「ハッ、何とでも言いやがれ」
そして、ミミコはほんのりと頬を赤らめながら。
「でも、ちょっとだけカッコいいかもです」
「あァん? 俺様に惚れたか? 抱いて欲しかったら、今すぐここでヤってもいいんだぜェ?」
「あなたのそういうところはキライです」
「ギャッハッハッ。俺様は、テメェのそういう気の強い所はキライじゃねェがな」
軽口を叩きながらサンゲツは敵に向かうと、ミミコに対して。
「やりてェようにやらせてくれて、サンキュな」
肩越しにニヤッと笑うと、暗黒ウサギはゆっくりと離れて行きます。
「素直にそういう事も言えるんですね……」
巫女のミミコは、胸の前で祈るように白い両手を組みながら、去り行くサンゲツの背中を見つめました。
*
ゆっくりと与太るように裏王パンダに歩み寄る暗黒ウサギ。
裏王パンダは傷が癒え、体力が回復したことに気が付くとムクッと起き上がり、サンゲツと向かい合います。
『何ノツモリダ? 敵ニ塩デモ送ッタツモリカ?』
バチィッ!
『ガッ!?』
「ごちゃごちゃ御託はいらねェんだよ。さっさと続きを戦ろうぜ」
サンゲツの居合い抜きのような蹴りが裏王パンダの頬をとらえ、否応も有無も言わせません。
裏王パンダはビギッとこめかみに青筋を立てますが、首をゴキゴキッと振って何事もなかったかのように。
『グハハハハ、ソノ程度デ我ヲ倒セルト思ッタカ?』
ドゴオオオーーーンッ!
『グボアァーッ!』
さらに、サンゲツはバズーカ砲の威力を持つ前蹴りを繰り出し、裏王パンダを広場の外の森まで吹き飛ばしました。
「おう、余裕のよっちゃんでぶっ倒せると思ってるぜェ」




