極悪ヒーロー見参!
ドッカアアアアアーーーンッ!
突如、黒い閃光が走り、くま村長さんはダンプカーに跳ねられたかのようにぶっ飛びます。
「だらあッ!」
さらに黒い閃光は裏王パンダにも直撃すると、山賊の頭領をよろめかせました。
「な、何事だ……?」
「ギャッハッハッ! 悪りィ悪りィ、すっかり遅くなっちまったぜェ!」
裏王パンダが正体を見ると、そこにいたのは漆黒の毛皮を持つ一匹のウサギ。
両手両足を鎖つきの枷で拘束されていますが、燦々と輝く満月の眼は、肉食獣のような凶悪な光を湛えています。
「オイ、クマ野郎ォ! 生きてっかァ?」
サンゲツは、与太るような物言いでくま村長さんに声をかけます。
「い、いえ……、危うく異世界転生するところでした。これなら、裏王パンダにやられた方がマシだったかもしれません……」
村獣たちに助け起こされながら、ヨロヨロと立ち上がるくま村長。
「ハッ、そんだけ減らず口が叩けりゃ上等だ」
「何やってたんだよ! 頭領はお前の受け持ちだっただろ!」
「悪りぃな。クソしてたら、両手がコレもんで拭くのに手間取ってなァ」
悪びれず、らすかるさんに下品な言い訳をしながら手枷をじゃらじゃら鳴わせるサンゲツ。
「ミミコの奴もどっかに行っちまっててなァ、アイツもあっちの本番じゃなくて、こっちの本番の前に錠前を外してくれりゃ良かったのによォ」
堂々と下ネタを言いながら、射抜くように敵の姿を見据えます。
「で、テメェが山賊の大将か?」
「いかに『も゛っ!?』」
ドムッ! と、両足に錠を枷されているにも拘わらず、いきなりサンゲツは瞬間移動かと思わせるスピードで裏王パンダの股間にドロップキックをかまします。
「オラ、オラ、オラーーーッ!!」
さらに、仰向けに倒れた裏王パンダのキ○タマに、ストンピングを容赦なく食らわすサンゲツ。
「いきなり何をするっ!」
ブオンッ! と、裏王パンダは剛腕をふるって暗黒ウサギを撥ねつけようとしますが、サンゲツは余裕の宙返りで間合いを離しました。
「き、汚ねー……。やっぱ、あいつが敵じゃなくて良かったぜ……」
「らすかるさんも似たような事してましたけどね」
あきれながら恐れる村獣を尻目に、サンゲツは山賊の頭領を見下すような視線を向け。
「で、テメェはなんて名前だ?」
「ぐっ……、この男……!」
しらばっくれた顔で名乗りを促す暗黒ウサギに、裏王パンダは怒りの表情をにじませます。が、さすがにそこは世界制覇を企む山賊大頭領。すぐに平静を取り戻して立ち上がります。
「グハハハハ、なかなかイキの良い若僧のようだな。我は『裏王パンダ』、うぬの名は?」
「俺様ァ『燦月』。魚座のB型、好きな食い物は月見ダンゴと女だ」
「いや、そこまでは聞いてはおらんが」
「一応、逆さ虹の森の用心棒って事になってるんでなァ。テメェがとっととケツ巻いて逃げるってんのなら『十分九殺し』で済ませてやらァ」
ほぼ死んじゃってるなあ……、と思う村獣たち。
「ほう……? その状態で、良くそんな台詞を吐けるものだな」
サンゲツは両手両足の枷をじゃらりと鳴らすと、不敵に笑い。
「これか? こいつは、ハンディキャップだ。こうでもしねェとろくに勝負になりゃしねェ」
「無駄な虚勢を……。ならば、この裏王パンダ、容赦せん!」
それを戦いの合図とばかりに、裏王パンダはサンゲツに向かって襲いかかります。
ブオン、グオン、ブアンッ、ブオオオンッ!
裏王パンダは鬼の金棒のような腕を振り回しますが、両足を拘束されていてもなお、速度で上回るサンゲツを捉えられず、その拳は空を切ります。
「ぐおう!」
掛け声とともに、サンゲツに飛びかかる裏王パンダ。繰り出したパンチは地面に突き刺さり、砕けた岩盤がサンゲツに襲いかかります。
サンゲツはそれを大ジャンプでかわしますが、上空にはすでに待ち構える裏王パンダの姿が。
「ごああっ!」
掛け声とともに、右腕でサンゲツを叩き落そうとします。
しかし!
ボンッ!!
なんと、サンゲツは空気を蹴ってそれを避け、裏王パンダの爪擊は空振ります。
「何っ!?」
さらに空中を蹴って、再度間合いを詰めるサンゲツ。
「っだらッ!」
前方宙返りからのカカト落としを繰り出し、裏王パンダを地面にはたき落とします。
「ぐおーっ!」
ドズーンッ!
大地にうつ伏せに叩きつけられた裏王パンダ。腹を打って悶えるその背中に、サンゲツは空から両足蹴りを突き刺します。
「ぐあああああーーーーーっ!」
「オラオラオラオラオラーーーーーッ!」
さらに先程のリプレイを見るかのようなストンピングを、裏王パンダの頭や背中と言わず、全身に叩ち込みます。
裏王パンダの動きはすでに止まっていますが。
「終わりにしようぜ……」
サンゲツは両足飛びでバヒュンとジャンプをすると、続いて空中を蹴って二段ジャンプ。さらに、天井を蹴るモーションで上空の空気を蹴ると。
「ブッ潰れろオオオーーーッ!」
ドゴアーッ!!
超スピードで隕石のように裏王パンダに激突し、バキベキゴキと全身の骨を砕き潰してしまいました。
シーンと、鎮まりかえる芝生広場。
これで終わったのでしょうか……?
「ハッ、口ほどにも無かったなァ」
サンゲツの勝ちゼリフを皮切りに、ワーッと村獣たちの歓声が上がりました。
「オレたちがあんなに苦戦した、裏王パンダをこんなにあっさりと……」
「やっぱり凄い……」
「おう、クマ野郎。これで、俺様はお役御免だな?」
「は、はい……。って、サンゲツさんどちらへ?」
くま村長の答えを聞くまでもなく、サンゲツはぴょんぴょんと立ち去ろうとします。
「あぁ? 決まってんだろ、ミミコとヤりに行くんだよ」
「え!?」
「アイツ、俺様の顔を見るとすぐ逃げやがるからなァ。とっ捕まえて、男というモノは何たるかをしっかりブチ込んでやんねェとな」
下卑た笑顔を浮かべながら、ぴょんぴょんと村へと向かう暗黒ウサギ。
成功報酬なので文句を言う筋合いは無いのですが、どうにか止められないものかとくま村長さんはアワアワします。
「うわっ、これ本当に死んでない?」
「いや、いちおう息はあるみたいだけど……」
イタズラ好きのりすりす兄妹は、半分地面にめり込んでる裏王パンダを枝の先でつんつんして、生存確認をしていましたが。
ズズズズズ……!




