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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界の国々のお話

やられた方は覚えている

作者: 宇和マチカ

政略結婚から逃れたその後の話設定。

侍従から断るタイプの婚約破棄ってあんまり聞いたこと無いな、と思って書きました。

元々もっと暗い話だったんですが、組みなおしたものです。


「殿下、宜しいでしょうか?」

「何だ何だー?お前なら何時でも入ってきて良いと申しているではないかー」


 今日も慎ましく麗しいね!我が婚約者!

 あのクソ忌々しい戦争から帰ってこれて、やーっとお前と過ごせるんだな!

 もう、朝から待ってたんだぞ☆とか言ったら…引くだろうな。


「殿下、以前に仰有いましたこと…覚えておいでで?」

「どれだ?」

「婚約するからには身分の差は我々にはない。言いたいことを申すように…とのお言葉です」

「もっちろんだとも!」


 我らは婚約者かつ幼馴染み。昔のように対等でいてほしいからな!


「私にはあなたと結婚する覚悟はありません。婚約破棄をさせて頂きたいのです。」

「な、何故……」


 私の手の中で…筆圧が強すぎるため特注で作らせているペンがまっぷたつに折れていた。


 目の前には、唯一の愛しい愛しい婚約者。

 いつも通りの微笑む目の前の人物が言った事なのか、さっきのは。

 ……信じられなかった。



「私は単なる幼馴染みに過ぎません。あなたにはもっと……素晴らしい方が……」

「待て待て待て待ってええええ!!」


 続けようとする婚約者を遮る。そして机を踏み台にしてしがみ付いた。

 イヤな顔をされたが構うものか!!

 寧ろしてくれ!!最近張り付いた笑顔しか見てないから寧ろご褒美!!


「折角あのクソ魔導師との政略結婚をぶっ潰したのに、

 お前の方から婚約破棄するってどう言うことなんだよーーー!!」

「言葉通りですが」

「おかしい!!おかしい!!」

「大体あなた、本当に私の事好きなんですか?」

「好きじゃなきゃ婚約なんてしない!!」

「大体身分が違いますし」

「そっこからぁ!?」

「町で噂になってるサーガをご存知ありません?」

「え、何それ知らない」


 サーガ?

 何が流行ってんの?

 世間の流行りは疎いんだよなぁ。

 何せこの間まで戦場に居たからね。


「あなたと魔導師殿の愛のサーガが吟われてるんですよ」

「ハァ!?何それその吟遊詩人!!」


 怒りでペン軸が破片になった。

 あ、しまった!まだ握ったまんまだった!!ケガさせちゃう!!

 私はぽいっと元ペン軸を捨てた。


「因みに私は当て馬と言うか、障害物として登場します」

「我々普通に愛し合ってるのに!?」

「世間ってそんなものですよ」

「よし、その吟遊詩人はシメてくるから取り合えず落ち着こうか!!」


 私は拳をバキバキ鳴らした。


「落ち着いて考えた末の婚約破棄の申し出です」


 でも、婚約者は動じない。

 落ち着きがあるのは素敵だけど、ちょっとは動じような!?悲しいから!


「だからって…だからって……お前から……侍従から婚約破棄はないでしょー!?」

「対等の立場で、と仰有いましたので。

 格上からじゃなくてもいいんですよね?姫さま」


 良くないわ!!

 何の為にあのクソ根暗魔導師との政略結婚から逃げたと思ってんだ!!

 全ては愛しい愛しい幼馴染み侍従カロン…お前と結婚する為だろうがーーー!!



「酷い酷い酷い!!私はカロンをこんなにこーんなに愛してるのに!!」

「そうですか?」

「そうですかァ!?」


 んん!?この御返事は、あからさまに何か変だね!?

 私の愛が伝わってない気がするよー!?


「この間の戦勝パレードありましたよね」

「あーめっちゃ眠かった奴ね!

カロン探したんだけど何処にいたの!?めっちゃ探したの!!」

「城で普通に働いてました。聞きましたよ、魔導師殿と情熱的に抱きあっているお姿とやらを」


「……えぇ!?抱き上げられてないわ!!

 あれは足踏まれて喧嘩売られたから殴り合いをしてたのよ!!」


 あのボケ魔導師がイライラして暴言吐いたからな!!

 ちょっとした殴り合いをしただけなのに……。あれの何処が抱き合ってんだ!?

 何処の誰がそんなデマ流した!!後でシメる!!


「当代一の強さをお持ちの魔導師と殴り合いの喧嘩を出来るとは、流石姫ですね、仲が宜しいことで」

「大体あのクソ魔導師だって婚約者が居るんだけど!!」


 うちのケースと一緒の結構小さいときからの婚約者がな!!

 て言うか婚約者持ちと結婚薦めるな!!

 それでもぶっ潰すのに凄く苦労したしな!!


「存じてます。私と同じくサーガに当て馬としてご登場なさってましたから」


 アッハハーン吟遊詩人ンンンーーー!?

 よし、捕まえる。

 そして、殴る。


「そんな訳で、エルディミナ」

「はうほっ!?」


 久々に呼ばれたよ名前を!!


「指輪を貸してください」

「指輪!?指輪ね?あ、はいどうぞ」


 カロンから貰ったんだよね!

 肌身離さず付けてるよ!

 これ以上のお守りは無いよ!!


「これお渡しした時に、安物だの何だのと貶されましたねえ」

「その節はすみませんでございましたーーー!!」


 あの時はギャラリーが大勢居て、テンパってつい憎まれ口を叩いてしまったんです!!

 海より深く反省してます!!


「まあ、事実ですけど」

「そんなことない!!私にとっては唯一無二の大事な…」


 ん?

 自分の指輪まで外してどうしたのかな?

 んんん?イヤな予感がするぞ?


「これで……婚約不履行ですね?」


 カロンが左の掌を握り……シュウウと煙が出て……ぺしゃ、と軽い音を立てて……指輪が、溶けた。


「ギャアアアア!!手!掌!!手!!」

「凡庸な魔法ですみません。凡庸な俺にはこれくらいしか使えないものですから」

「火傷!指輪!火傷ーーー!!」

「利き手では無いので、お気になさらず」


 お気にします!!ジュウジュウ焦げてんじゃんか!!

 私のカロンの手が!!手があああああ!!


「安っぽいと融点まで低いんですね」

「すみません!本当にすみません!!あなたを蔑ろにして本当にすみません!!」

「そうですね」

「ずっとあなたが好きだったんです!!」

「そうですか」

「信じてください!!」

「何をどうしてどうやって?」


 カロンの目は、凪いでいる。


「大体、この十年。俺は姫と過ごしてきて心安らぐことは無かったのに」

「そんな。いつもニコニコしてくれたのに。」

「誤魔化すのは上手くなりましたね、我ながら」


 ヒイイイイイイ!もんの凄く怒っていらっしゃるうううう!!


「何か、疲れましたので……」


 カロンは暗い顔で、肩を竦めている……。


「か、カロン……」

「ぐちゃぐちゃするんですよ、姫の回りに居ると」

「私と一緒に居るのがイヤ……なの?」

「苦しいのでイヤです」

「私は……ずっとカロンと一緒に居たいのに」


 王族の務めと言うか……無駄に何か強くなってしまったけど、本来私は人を殺したくなんてない。

 肉を斬る感触なんて絶対慣れない。

 でも、狂いそうな戦争中だって、ずっとカロンの事ばっかり考えてた……。

 カロンの事考えてたら正気を保てたのに……。


「……今となっては敵いもしないのに……昔みたいに苛めたくなりそうでイヤなんです。」

「いいよ!!ドンと来て!!」


 寧ろあなたになら愛ある苛めなら、されて結構!


「良くない。あなたは一国の姫。俺は単なるお付きの侍従」

「婚約者じゃないか!!」

「国民は納得していないんですよ」


 国民ン!?

 国民のお祝いが必要!?

 寧ろ魔導師と私との結婚を願う国民の皆様に

 今湧いてはならないものが湧き出そうなのに!?

 優しいね!!そんなところも好きよ!!


「どうしてだよ……」

「俺がどんなに努力しようと、凡庸だからです」

「私が守るよ」

「お断りします」

「……お話の最中ですが、宜しいでしょうか」


 いつの間にか女官が入ってきた。

 冷静沈着で出来る女官、アンディーナ。

 わあ、修羅場にも関わらず、流石空気読まない!!


 ……ん!?


「ア、アンディーナ?そ、その髪は」

「切りました」


 腰よりも長かった灰色の美しい髪が、肩より短く切られている。

 ばーーーっさりと。

 ……ど、ど、どうなってるんだ。


「…どうなされたんですか」


 あ、カロンもポカンとしてる。

 分かる。私もめっちゃ気になる。


「婚約破棄しましたので、切りました」

「こ、こんやくはき……」


 どうしてアンディーナまでそんなこと言うの!?流行ってるの!?

 止めて!!流行らさないで!!


「アンディーナ嬢の婚約者殿は……」

「元、婚約者ですわ。姫様仰せのクソ魔導師ジライドですわね」


 き、聴かれてたーーー!!

 ごめんね!!つい憎たらしくて!!

 だって私の中で絶賛アイツ嫌われもんだから!!

 悉く合わない合わない!!


「ど、どうして髪を……」

「婚約してから伸ばしていましたが、自分の気持ちも頭も重くて切りましたの。スッキリ致しました」

「お、おう……」



 清楚で優雅で有名な女官、アンディーナのイメージ……。

 まるでそこらの市井の女性よりもいや、少年みたいな頭になっているとは。

 そこで頭巾とか被らないのがアンディーナらしいと言うか。

 漢らしいんだな意外と……。


「どうして婚約破棄なんて……」

「幼馴染の気安さからか、憎まれ口、足りない言葉、意味の分からない甘え等を十年近く頂いているので、とても疲れました」

「ああ……」


 ちょっと!!そこで私を見ないでカロン!!

 あんな暴言野郎とは違う!!

 多分違う!!そんな目で見ないで!!


「カロンさま、御手当てをお受けください」

「舐めときゃ治ります」

「わたくし、元、婚約者に切った髪を持っていかれましたの」

「……ハァ?」


 あの変態、そんなことしてんのか。

 流石クソ魔導師、変態行為が止まらないな。


「姫様の前で迂闊なことを仰ると実行されるかもしれませんわ」


 ……アンディーナ!!

 ちょっと!!余計なことを!!

 愛しい愛しい婚約者を舐めたいとか……ちょっと思うのはしょうがないじゃないか!!


「分かりました」

「では此方へ」


 あぁ待ってええ!!

 治療なら私がしたいいー!!

 包帯巻くの上手だよー!


「アンディーナァ!!」


 って、うわビックリした!!って何故お前が来たクソ魔導師ぃ!?


「おい!!人ん部屋に無断侵入とはいい度胸だな、クソ魔導師ィ!!」

「チッ座標を間違えた!!クソ姫、アンディーナは何処だ!!」

「うるせえフラれ魔導師!!」

「お前のせいで、アンディーナが婚約破棄なんて言い出したんだぞ死ね!!」

「軽々しく死ねとか言うやつが死ねよ!!」


 知ってんだぞこっちは!!

 大人しくしてるからってアンディーナにツンツンツンケンしてたのを!!

 このエセサディストが!!


 と、私は奴を罵る為に肺に息を吸い込んだ。


 がちゃり


「「仲いいですね」」

「「違いますぅぅぅーー!!」」


 そして私とクソ魔導師は……今までの行いを全て平謝りし……。結局許しては貰えていないが、婚約破棄だけは勘弁してもらえた。

 これからの私たちを見てくれるんだって!

 ……ええ、すみません。もう放置も照れ隠しもツンツンもしません。


「これ位しないとジライドはわたくしの話なんて聞かないと思いまして」

「アンディーナ!!もう決死の覚悟の婚約破棄なんて止めて!!」

「別に死ぬ気は有りませんでしたけど」

「あの、エルディミナ……。いい加減放してもらえません?」

「いや!!離さない!!カロンに捨てられたら私が死ぬんだ!!」

「死ぬ訳ない」


 見苦しい?

 そんなのクソ魔導師だけだぞ!!

 私は今までの態度を心から改悛して、婚約者に許しを乞うているだけ!!


「別に俺がいなくても大丈夫ですよ」

「その点はわたくしも同じく彼に思いますわ」

「「お止めください、棄てないで下さい」」


 プライド?

 どうでもいいわ!!

 婚約破棄だけは勘弁してください!!

 そして、吟遊詩人はシメる!!ウチの国でサーガは全面的に禁止!!

一応魔導師の方が女官より身分が高い設定ですね。

書き忘れた…。

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