001.新たな人生を
リライト中001.新たな人生を
まえがき
これは近未来のお話。
その時代には、人工の世界に入り、そこで生きることができるようになっていた。
; 視点: 一人称<幸>
; 場所: 物質空間(旧来の現実世界)
ある人工世界を、私は買った。
今から、その中へ入る。
死ぬまで、そこで暮らすつもりだ。
「息苦しい人生は、もう嫌だなァ……」
――良い夢を見させてくれ。
――
――
――
; 場所: 人工世界ファンタジアへの接続空間
白紙の空間にいた。
八方ひたすらに、真っ白な光景を極めていた。
ここは、世界に入るための待合室のような場所だろう。
何もない空間は、非常に落ち着く。まどろむ。
「幸様、よろしいでしょうか?」
何がよろしいのだろう。
そう思って、声する方へ向いた。
息をのんだ。そして感じたままに呟く。
「観音様……」
それは観音様ではなかった、よく見れば。
そもそも、小娘だった、十代半ば頃の。
しかし、その頭から生やした、鮮やかな紅の長髪は、見事だった……。
「そういう反応は新鮮ですね。わたくしが観音様に見えますか」
慈愛に満ちた面持ちで、語りかけてくださった。
「いやー、随分と神々《こうごう》しい オ姿でしたものでねー。なんまいだ、なむあみだ」
たわむれ混じりに、私は祈る仕草をした。
「幸様、まずは挨拶をさせて下さい」
「幸様なんて、様づけで呼ばれるような、お偉方じゃありませんよ、私ゃ。
それに、幸って、私の名前ですか?」
「そうではありませんか!」
「アレ、えと、自分の名前、えっと……、忘れた。
……私、もう何十年も、まともに人と会話してないんです。
名前を呼ばれたの、すごい、すごい、久しぶりで。
そりゃもう、涙が出るほど、久しぶりの懐かしさで、ウウッググ、ヘックション」
私は涙を流し、ついでにクシャミをした。
「あれ、あれ、あれ、ない、何もない」
「どうしました、幸様?」
「ポケットティッシュがない――、いや、それ以前に、私の身体がない……」
私の身体は人魂だった。そういえば、自分の身体は売り払ったのだった……か?
「どうぞ。お使いください」
「ア、これはこれは、ハハ」
ティッシュを頂いた。チーン、と鼻をかむ、盛大に。
それと一緒に、目先の問題も記憶から消し飛んだ。
その間も、目前の少女は、にこやか、かつ穏やかな表情を崩さない。営業スマイルだと思う。その表情筋は、ベテランのプロフェッショナルだ……!
「この涙、嬉し涙です」
何となく、明瞭に述べた。
「それは良かったです」
それで良かったらしい。
* ゴッドマザー
私は、「エヘン」と、居住まいを正した。
「さて」
と、私がしゃべると、
「はい」
と、相手の少女が、聞く姿勢になった。
――あ、聞き上手なんだな、と思った。
「ところでお嬢さん、名乗っていただけますか?
まだ、そちらさんの名前も知らないと きたもんですからね」
「失礼いたしました。わたくしは、この世界で女神を務めさせております、ゴッドマザーという者です。敬称は要りません」
「ゴッド、マザア……ですか。何だか、背筋が冷たい…弾丸に触れそうな、そんな恐ろしい名前ですね」
妙な感想を述べてしまう、それが私だ。
「恐れることはございません。わたくしは、身も心も、貴方の味方です」
妙な感想には、妙な返答で、お返しされるらしい。
「味方ですか。頼もしい」
と、無難なことを云ってみた。
* 異世界転生モノって?
んじゃ、話を次に進めましょう。
「そちら様の名前も聞いたことですし、さて、さっそく、この人工世界のご説明を、拝聴したいものですな~」
「はい。その前に改めて感謝を申し上げます。
このたび、この人工世界ファンタジアを、ご購入いただきまして、誠にありがとうございます」
「そうそう、ファンタジアと云いましたっけね、この世界は。
何でも、宣伝によると、『剣と魔法と魔物の世界の 支配者になれる』とか?」
「はい。と、云いますのも、この世界は、昔より人気の異世界転生モノを模したものなのです」
「異世界転生モノ……って?」
聞いたことがあるような、ないような……
「ご説明します。
異世界転生モノとは、21世紀初頭に流行になっていたジャンルで、その多くは小説媒体です。
おおよその話のパターンとしては、元々生きていた世界で死亡し、剣と魔法の異世界で、新たな人生を歩む、というものです。
主人公は、何かしら特別な力を持つことが多いのも特徴です」
「アイ、分かりました。
思い出しましたよ。若い頃に、読み漁ってました、その類の小説を。
生きることが嫌になってた頃でしたね。
自分の身にも、コロッと死んで、新鮮な異世界にでも転生したらいいなーと……、もう、ワラをもつかむ思いでしたからね。
あの頃は、安楽死を願って、毎日、神様に祈っていました」
「それはそれは…………」
ゴッドマザーは沈痛な顔をした。何かマズイことを云ったかもしれない。
昔からそうだ。私は、気づかぬうちに失言をする……らしい。だが過ぎたこと。
* お身体の方は、お買い求めになりましたか?
「それで幸様、お身体の方はどうされましょう?」
自分の身体に、すーっと目を向けると――、人魂が一つ浮いているだけだった。
「はっ……、こほっ……」
取り乱して、息が漏れた。
「落ち着いてください! 大丈夫です。今の幸様に身体はまだありません。ここでは、それで普通なのです」
「そ、そうでしたか。いや…はや……、びっくりしてしまって……
そ、それで、身体はどうすれば……?」
「人工世界ファンタジアで使う身体は、あらかじめ、別売りでご購入してご用意していただくことになっております」
ホーッと、私は、のけ反った。
「ど、どういたしました!?」
「…………それは、もう無理です」
「無理……ですか?」
「全財産、使い果たしました…… お金がありません」
「ええ……!」
「おまけに、その際に、元々使っていた身体まで、売り払った記憶があります」
「そ、それは……」
「手詰まりですか……」
「いいえ、幸様、まだ手詰まりじゃございません!
幸様のような方のために、たった一体ですが、標準で用意されている身体はあるのです。あるのですが……」
「一体だけ身体があると? その身体は無償で使えるのですか? 追加料金なしに?」
「そうです。おっしゃるとおりです」
「なら、それを使うほか、選択肢はないってことになりますね?」
「……そうなります、残念ながら」
「いえいえ! ぜーんぜん残念じゃありません。良かったですよ! とにかく身体が手に入るのですから。たははっ、いやぁ、冷や汗ガンガン流れてましてね、ははっ」
私は、自らの人魂から流れる冷や汗を、手もなく拭う。
しかし、そのかい虚しく、私の下にはポタポタ、冷や汗が垂れっぱなしだった。
なぜかゴッドマザーは、大層 申し訳なさそうに言葉をつぐ。
「幸様……つかぬことをお尋ねしてよろしいですか?」
「どーぞ、どうぞ」
私は安心しきっていた。
「幸様は中高年男性ということで間違いありませんか?」
「そーですとも、いい歳のおじさんですよ!」
健康調査かな? ならばと、元気よく答えた!
「大変失礼な質問になりますが……、『じょそう』には抵抗がありますか?」
「……?」
やはり歳を感じますな。耳は悪くなるわ、頭の回転も悪くなるわ。
「じょそう? 草むしりの『除草』ですか?
ええ、確かに抵抗がありますよ、除草剤やら枯葉剤には」
「…………」
違ったかな。
「じょそう、ああ、走る方の『助走』ですか?
確かに最近、走るのはダメですね。
ちょいと駆け出しただけで、心臓バクバクいきますからね。
ははっ、ダメですなー、ははっ……」
「…………」
これも違う?
「男性が、女性らしく見栄えを整えるという方の『女装』ですか?
まぁ、そりゃあ、女装趣味が全くない者からすれば、やりたがりませんな。
ま、忘年会の一芸でするくらいなら、一興かもしれませんが」
「やはり抵抗がありますよね……」
その女装で該当したらしい。私はクイズで正解を出した心もちだ。
しかし、頭を切り替えた。
その話、いったい何の関係が?
「こんど、何か催し物が――」
「幸様……!」
こちらのセリフは切断された。
意を決した様子で、ゴッドマザーが口を開く。
「幸様、貴方に差し上げる身体と云うのは、この わたくし、ゴッドマザーの身体なのです」
「ウム……?!」
私はアゴに手を当てて、ちょっと混乱していた。
アゴも手も、もう存在しないのだと 気付かないくらい、混乱した。
* すなわちオジサン美少女
「えっと、つまり、ゴッドマザーの身体が、私の身体になる、と、こういうわけで?」
「そういうわけでございます」
「んで、ゴッドマザーが気にされたのは、それが少女の身体だったからですね?」
「そうです……。幸様には申し訳ございませんが、他に身体がない以上は、性別も年齢も不一致ながら、この身体を使っていただくしか……」
「なるほど、なるほど……。いや別に、良いですけれども」
「受け入れていただけますか……!?」
ゴッドマザーさん、必死だ。
何をそんなに必死になる。もっと楽に生きればいいのに。……と、自分を棚に上げて、そんなことを思った。
「ええ、ええ、受け入れます、受け入れます。
ただ、こちらにも、譲れない条件があります」
「その条件とは? わたくしに出来ることなら、何なりと……」
「健康第一です。心身ともに、いつまでも健康でいられること、それが条件です。これは、譲れません!」
「それならば元々、保証されております。大丈夫です」
「実のところ、病苦に苛まれないなら、少女になろうが、オオカミになろうが、私にゃどーでも良かったんです」
「いえ、さすがにオオカミには……」
「まぁ、好みの風貌としては、西部劇に出てくるような渋いオジサンだったのですけれども……」
「本当、申し訳ないです……」
平に、頭を下げられる。
「いえいえ! 頭を上げてください。そう謝ることはありません。
それに、考えてみますと、これで良かったんです。
また同じ人間として生まれるなら、性別くらい変わらないと、面白味がありませんからね。
それに、そこまで若くなれるのです。これは嬉しいですな」
「そう云っていただき、感謝に耐えません」
* 新しい身体
「それでは、今から、この身体をお渡しします」
え、今すぐに? そういうものか。
「はい、いつでもどうぞ」
身体を渡されるという経験がないので、さっぱり分からず、貴方任せ。
ゴッドマザーは直立不動で目を閉じた。
しばらく見ていると、その身体から、人魂が抜け出た。
そして、その人魂が、ゴッドマザーの言葉で語りかける。
「幸様、その身体へ、お入りください」
「はいはい」
同じく人魂状態の私が、ホイホイと、元ゴッドマザーの身体へ、スルリとぶつからずに通過する。
「……?」
通過してしまう。身体に触れられない。
私は引き返して、とりあえず、少女の身体と同じ位置に、留まった。
全然、触れられもしない。
「幸様、そのままじっとしてください」
分かった、じっとしていよう。
ゴッドマザーは、何か呪文を唱えている。すると、私の周囲が発光し始める。
なんと、もうファンタジックな趣向を凝らしているのか。てっきり、コンピューターの端末をいじって、何かやるものだと思った。
私は自分の身体が縮んだような感覚がした。のみならず、身軽さも感じる。
ひとしきり光り輝き終わると、
「どうでしょうか……?」
と、姿見を出現させながら、ゴッドマザーは聞いた。
姿見に映るは、元の面影をなくした、新しい自分の姿だった。すなわち、先ほどまでのゴッドマザーの姿そのまま。
やはり鮮やか過ぎる赤い髪、そして灰色の瞳が印象的だった。ハッキリ云って美少女だ。まァ、そのように作られているからだろう。
「コリャまぁ、不思議な感じですよ。中身オジサンで、見栄えが可憐な少女とは……ううあ? 声まで?」
「ええ……、当然、声も、その姿に合わせたものになりますね」
声まで、いたいけで可愛らしくなっておられる。
「見た目が少女で、声はオジサンというのも、そりゃそれで面白味がありそう~」
「いえ、さすがに幸様には、そんなことできません」
「そうですか? そのミスマッチ具合は、見ていて面白くありませんか?」
「え、え……?」
私は、飛び跳ねたり、機敏に動いたりする。
「身体が、軽い軽い……! いやー、これが若さですか! ははっ、良いですな~♪」
口調はオジサンのままだ。いいじゃないか、オジサン口調の少女、おかしくない。
運動性能を見ようと、私は色々な技を行う。
―― 正拳突き、裏拳、掌打(掌底打ち)、横拳、ビルジー(目突き)、手刀、肘打ち(エルボー) ―― 回し蹴り、横蹴り(サイドキック)、縦蹴り、膝蹴り(ニーキック)、跳び蹴り、踏みつけ蹴り(ストンプキック)、……
的確に身体が動く! 基礎体力が尋常ではないことを悟った。
「キックとパンチにも、色々なやり方があるのですね」
ゴッドマザーが感想を漏らした。
*
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*
*
◆魔法少女風コスチューム?
・ゴッドは魔法少女風コスチュームを幸に着させる。
「どうでしょう? お似合いですよ」
ヒラヒラの衣装、派手な格好。戦闘服とは思えない薄着と装飾。
「う~~~~ん、ダメだね、私の好みには合いません。
そもそも、魔法少女というものを、良く知らないので、まるで思い入れがありません」
「」
「むしろ私が好きなのは、魔法少女よりも、西部劇のガンマンとか、孤高のスナイパーです」
*地味なのが良い
ウエスタンハット、メキシカンポンチョを装う。
「渋いのがお好みとはいえ、それでは地味すぎやしませんか?
今の幸様は、愛らしい女の子なのですから、もっとガーリッシュで派手になさっても、よろしいのではありませんか」
女神さん、趣味に走っている。着せ替え人形のつもりだ。
「ガーリックにしたら臭くて鼻持ちならないと思いますし、私は、地味なのが良いんです」
*ワンインチ・マグナム
女神が、(魔法少女用の)杖を取り出す。(それは少女趣味な装飾が、ごしゃまんと施されていた……)
「どうぞ」
それを見よう見まねで、幸が、何かを生み出す。
「なんと……」
拳銃、「44マグナムリボルバー」だった。
「おおっ、物を生み出せるのですね、すごいすごい」
「ええ……、この空間内だけで使える力です。あっさりやってのけるとは思いませんでしたが」
「これをさらに、大口径に……」
拳銃がさらに一回りも二回りも大きくなる。
「50口径……、88口径……、ヨシ、そして、これが、圧巻の100口径。すなわち1インチ(≒2.54cm)だ。
ワンインチパンチに なぞらえて、ワンインチリボルバーと呼ぼう。100口径な上に、弾丸は火薬増量のマグナム弾ですよ。常人が撃てば、肩が脱臼するだけで済みやしません」
幸が、試射しようとすると、女神が、大型魔物を出して、的を用意する。それは魂を入れる前のもので、生きていないらしい。
発砲! 大型魔物は、五体全てを四散させた。穴が開いたなんて、生易しい者ではなかった。
「……ど、どうです、ゴッドマザー。ワンインチリボルバーの威力は。猛々しいでしょ?」
私は、あまりの威力と反動で落としてしまった拳銃を拾いながら、そう云った。
「……あの、幸様。その銃は、恐らく幸様にしか扱えません。他の方では、一発で肩が壊れますよ」
「そうですね……、自分専用にしますか」
■要約
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ここから取り消し線{
・幸は人工世界ファンタジアで、新しい人生を歩もうとする。
・女神代表取締役ゴッドマザーに、要望を伝え、取り計らってもらう。(絶対的健康と無双を望む)
・新しい身体は、少女の身体となってしまう。そして世界に旅立った。
}ここまで