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◆ボツ文たち  作者: ワイヤー・パンサー
『易しい世界』(新版?)
5/57

易世界3

; 場所: 野原


 三人は町に向かって進んでいる。


 時折、コボルドという魔物と遭遇した。

 コボルドとは、比較的 脅威の小さい魔物だ。その外見は、二足歩行の犬のような姿。小柄で、その大きさは、私くらい。


「ショットガンファイア!!」


 と、このようにシャノンの魔法攻撃で、蹴散らしてもらっている。


 ちなみに、ショットガンファイアとは、名の通り。火炎弾を、散弾銃ショットガンみたく、一度に複数発、放つ。


 バゴ、メチャ、ボファ、という被弾音をさせながら、コボルドたちに着弾している。大抵、2,3発、当てることで、倒せているらしい。


 私と鬼さんは、見ているだけ。



     *



; 場所: 岩山


 岩山を進んでいる。


 地響きがする。


「何か来ますよ……!」


「あちらだ」


 私が、指さす先には、岩肌を滑り落ちる、謎の巨体。

 それは、あまりに大きなチューブのような、ミミズのような、そういうグロテスクな生き物だった。


「おぉ大きいですな……」


「は、わ、ああ……、わ、ワーム……」


「ワームという魔物か」


「くッ……! バーストファイア――!!!」


 シャノンは、焦りの見える顔つきで、火炎弾をワームにぶつける。


「――連発だぁ!!」


 さらに、さらに、火炎弾を放つ。

 ワームに着弾。ワームは煙に包まれる。


 ワームが襲ってくる前に攻撃しちゃったな。いいのかな。見かけによらず、いい魔物かもしれないし。……ま、どーでもいーや。


「…………」


 煙がおさまると、そこには無傷のワームが、こちらに突進していた。


「グルガロガルゴロキロゴロボロ!!」


 ワームは怒っている。


 鬼さんは、前に立つ。


「鬼さん、逃げてくださいっ!」と、シャノン。


 ワームの突進を、鬼さん、がっちり受け止めた。

 鬼さん以上の、その大きな巨体だが、パワーでは負けていない様子。

 鬼さんは、ワームを引き離し、蹴とばして、距離を稼ぐ。そして――


「アース!!!」


 鬼さんの、土系統の魔法だ。今回は、岩山だからか、鬼さんの手には、手ごろなサイズの岩が出現した。

 それを、出しては投げる。岩を、出しては投げる。ワークのお口へ。


 ワームは初めのうちは、余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》に、岩を飲んでいた。が、そのうち、岩があふれ、口が閉まらなくなった。

 さらに、岩を飲み込ませ、やがては窒息した。


「グボバボグボバボ……、ボホオオ……」


 のた打ち回ったワームが、その命を終えたらしい。


「た、倒したんですね……、あのワームを……!」


 シャノンは、信じられないという顔をした。


「だが……」


 私が山の上の方を見上げる。


「う、そ……」


 表情から生気をなくしたシャノン。


「ちょっと、これは……、ワタクシの手に負えるかどうか……」


と、汗を拭う、鬼さん。


 山の上から、観戦していたワームの群れが、今、目の前に下りてきた。



     *



 シャノンは覚悟を決めたらしい。


「た、ただではやられません! せめて、一匹だけでも道ずれに……ひ、ひ……」


 ちょっと怖い笑いをしている。


 一方、鬼さんは、眼光鋭くワームの群れを見て、グギリバキリと、拳の骨を鳴らしている。


 その二人に、私は云う。


「二人とも、ここから動かず、じっとしてなよ」


 私は、周囲に結界を張った。


「この中にいる限り、安全だ」


「これは……結界!? ハヌマさん、魔法が使えるのですか!?」


「そう……、基本的なファイアやらウォーターやらアースやらサンダーやら……、そういうのは全くもってダメなのに、結界とか、こういうのは出来るんだなぁ~不思議」


 ワームの中でも、移動が速い連中は、もう私たちを取り囲んでいる。……と、すると、最初に戦ったワームは、多分、どんくさい方だったのだろう。



「周囲360度、ワームがより取り見取り。ただし攻撃してくる」


 シャノンの表情が強張っている。


「でも大丈夫。この程度の攻撃、びくともしない結界」


「し、しかし、ハヌマさん! 結界魔法の維持は、最大でも10分から20分が限度なんですよね!? その間に何とかしないと……」


「20分が限度ぉ? 短いな。私なら丸一日、余裕で持たせることができんぜ」


「結界魔法を丸一日ですかっ!!??」


 シャノンのビックリに、私がビックリした。


「どしたの。ワームより、結界の方に驚いたりなんかしちゃって?」


「そんな……丸一日なんて、馬鹿げています……。いいですか……?

 高位の魔術師だって、結界は20分……いえ、ギリギリ30分は維持できるかもしれません。

 歴史上の、伝説的な魔術師なら、……それでも連続1時間、結界を維持できたら、もう、人間業ではありません。

 ですから……! 丸一日も結界に魔力を送り続けるなんて、クレイジーです!」


「そんな理屈、並べたってさ、出来るモンは出来るの!

 それに! 魔力は送り続けてないの! もちろん送り続けることもできるよ? でも、面倒くさいから、最初に一発ドカンと、魔力は結界に送り済みなの!

 もっと云やァさ、ワームくらい屁でもないのヨ! ドラゴン相手にだって、大丈夫なくらいなんだから、この結界っ!」


 熱く語ったよ!


「そんなことができるなんて……」


「まだ何か疑問点が?」


「ズルいです!」


「ズルい!? どして?」


「分かりません! でも、ハヌマさんはズルいです!」


「よく分からんよ!? ただ、どのみち、ズルいはズルいで結構だよ!」


「娘様、お話し中、申しわけありませんが、今もなお、ワームに襲われている最中です」


「だから?」


「……。ここは一つ、娘様の力で、ご解決願えれば、と」


「鬼さんが、そう真摯に頼むなら仕方ない。分かった! とおッ」


 私はジャンプする。鬼さんの肩を足場に、さらにジャンプして、結界の外に出た。


「一気に、ここいら一帯を爆散させる……! 二人とも、結界から出たら、命はないと思ってね」


 私は右手を天に掲げる。豆粒サイズの光球が現れる。それがバスケットボールほどの大きさまで膨張した。

 露骨に危ない気配が、周囲の空間に充満した。


「そいやっ!!」


 それを、ワームが集まる中心点に投げつけた。……すなわち、二人がいる結界に向けて。


「わーっ! わああっ! わあああ!!」


 シャノン、混乱。


「娘様ぁぁぁ!! 大丈夫なんでしょうななあっぁああ!!」


 結界に着弾、……大爆発。


「おうわぁぁぁあああ!」


 その爆発には、私自身も巻き込まれ、吹っ飛ばされた。

 けれども、一緒にワームの肉片も吹っ飛んでいたから、勝利を確信した。



     *



 結界は無事だった。だから、二人も傷一つ負うことなく無事だった。


――ガタガタガタガタ


 心の傷までは見えない。


「鬼~~~さぁ~~ん~~~~」


 私は落下している。垂直だ。まっすぐ、ストーンと落ちている。


 鬼さん、こちらに気づき、構えた。


――ガシッッ、ズズズズン


 強靭な筋肉によって、受け止めた鬼さんだったが、地面は耐え切れずに、沈んだ。


「鬼さん、大丈夫だった?」


「たいそう、怖い思いをしましたが、平気です」


「それは良かった」


 シャノンを見ると、……体育座りして震えている。命に別状はなさそうで、良かった。


 そのあと、ワームの遺体を拾っては、鬼さんのアイテムボックスに収納した。

 一部の肉片は、鬼さんに焼いてもらって、食ってみた。まずまず食える。


「シャノン、ワーム食う?」


「げえっ」


 苦虫を噛み潰したような顔で云われた。美人が台無し。





「さぁ~て、シャノンの調子が悪いようだし……、鬼さん、肩車してやって」


「かしこまりました」


「え!? え!?」


 ヒョイッと、すくい上げて、シャノンを肩車する鬼さん。


「ちょ、ちょっと! ボクは、歩けますからっ! 降ろしてください」


 顔を赤らめている。


「恥ずかしがるシャノンを見て、ご満悦」


 と、云ってみると、


「あ……ぅ……」


 なお、赤くなった。でも、大人しくもなった。


「よし、行くべ~」


「はい、娘様」



     *



;場所: 岩山


「お!? これはもしかして? もしかしなくても、もしかして?」


 ちらりと、シャノンを見て、確認する。


「ええ、あれが町ですね」


「ヨーシ、鬼さん、もうすぐだよ。まちまちまちまち!」


「娘様、ハッスルですな」


「あの、もう降ろしてもらえませんか……? もう体調も良くなりましたので」


「私、町に行ったら…………何しよ?」


「ワタクシも、人間の町に行くのは、久しいです」


「あの、ボクの話、聞いてくださいません? 降ろしてください」


「そうだな、下りよう、この岩山を。そして、すぐ町だ。繁華街だ。今日は、あったかい布団に寝れるぞ! 温もりあふれる――」


 私は、崖から飛び降りた。


「へえっ!!?」


 シャノンはびっくりする。


――ダシン!!


 数十メートル降下して着地。しかし大丈夫。地面が陥没したくらいなもん。


「さ、ワタクシたちも行きましょうか」と、鬼さんも落ちた。もちろんシャロンを背負ったまま。


「きゃぁぁぁあああああ!!」


 シャノンの絶叫は、目覚まし時計のベルのように、目が覚める音色だった。





;場所: ギブアップ町 入口


 町の周辺には簡単なさくが張られていた。そして、武装した連中が見回る。


 町へ入ろうとする、と――


「ちょっと待ちなさい! その魔物は何だね?」


 老練の警備員らしき者から、そう尋ねられた。その人が指さす先は、鬼さん。


「初めまして。鬼と申します。このたびは、この町で見聞したく参りました」

と、鬼さんが当たり障りなく事情を説明した。


「しゃ、しゃべれるのかね!?」


 そこに驚かれた。そして、さらにこう云われた。


「とすると、お前さん、もしや魔族か? にしても、見ない風貌だが……」


「魔族に分類されるか分かりませんが、ワタクシはジパング・オーガという種族になります」


「……初耳だ。オーガは分かるが、ジパング――いや、それは、いい。

 手間を取らせたな。このギブアップ町へ、ようこそ。ゆっくりしていってくれ」


 そう云って、警備員は離れていった。





;場所: ギブアップ町


 その町は、岩山から通ずる緩やかな斜面に形成されていた。


「まずはどうします?」


「宿に泊まるのにも金が要る」


「ボク……無一文ですよ」


「そこで、このワームの死骸を、買い取ってもらう」


「とすると……ギルドに行くんですね」


「やはり買い取りもやっているんだな、ギルド。――行こう」


「ところで……、いい加減、降ろしてくれませんか?」


「おや……? まだ、そこにいたのか。鬼さん、降ろしてやって」


 肩車されていたシャノンが、久しく、地上へ降りた。


「やっぱり、自分の足で、地を踏みしめたいものです」





;場所: ギルド


 外の、どデカい看板には、『ギルド』としか書いていなかった。


「ここは冒険者ギルド?」


「いえ、単に、ギルド、です」


「そうか」


 難しく考えないことにして、中に入った。

 その場にいた皆の注目が集まる……鬼さんへ。


「ま、魔物使い、か……? いや、だが、見たことない魔物だ」


「大きい……」


「人間の子供を連れた、子連れ鬼、か……」



 受付カウンターへ行く。

 受付嬢が、応対してくださった。


「こんにちは。どのようなご用件でしょう?」


 たじろぐことなく、受付嬢は鬼さんを見て、尋ねた。


「魔物の買い取りをお願い」


と、私が云った。カウンターの下から。

 カウンター、高すぎる。受付さん、見えないっ!


 受付嬢さんが、身を乗り出して、死角にいた私を見つける。


「あら、かわいいお嬢ちゃんですね。魔物の素材の買い取りですか?」


「鬼さん、やっぱり定位置にしよう」


 私は、ジャンプして、鬼さんの肩の上、という定位置に座った。

 これで、受付嬢さんさえ、見下ろす高さになった。

 受付嬢さんや、周囲の人が、どこか和んだ顔をした。

 気を取り直して、要件の続き。


「――そう、魔物の買い取り。でも、ここに出しちゃ、血で汚れる。それに狭い」


「でしたら、こちらへどうぞ」と、案内される。





;場所: ギルド大部屋


 そこは、大きな倉庫っぽい所だった。


「それで、どのような魔物の素材でしょうか?」


「魔物の素材と云うか、解体が分からないから、丸ごと持ってきた」


「ええ、その場合は、解体することでもできます。その際は解体手数料を取りますが」


「じゃあ、鬼さん、ワームを全て出して」


 営業スマイル状態だった受付嬢の顔が、初めて急変する。


「わ……ワームと仰いました……!?」


「……ワームだよね、これ?」


 鬼さんは、空間に大穴を開けて、ドタドタ、ワームの死骸を出した。


「…………うそ、ほんと……?」


 受付嬢さんは目を見開いている。グロテスクなものが苦手なら、見なければ良いのに。


「ちょっと待ってくださいね! 他の職員を読んできますから」


と、受付嬢さん、どこかへ行ってしまわれた。


 目の前には血まみれワームの山。


「刺激が強すぎましたかね」


「いや、そうじゃないと思いますよ……」


 シャノンは結構、無口だった。



     *



 あれからギルド職員が入れ替わり来た。

 いろいろ、検分した結果、次のようになった。


「えー、ワーム。元は13体。かなり損傷。肉やら牙やら粘液、皮やらで……しめて、6万ゴールドってとこだな。手数料は差し引いてある」


 なんか、アバウトな勘定……。

 しかしまあ、金銭感覚のない私は、4万ゴールドと云われても、よく分からない。


「ここいらの宿は、なんぼくらいで泊まれる?」

と聞いてみた。


「食事つきで、一泊、1000ゴールドが相場かな。一人の値段でな」

とのことらしい。


 暗算した。

 三人で泊まれば三倍かもしれない。だから一泊、3000ゴールド。

 10泊で、3万ゴールド、20泊で6万ゴールド。

 20泊分の金を手に入れた、という感じ?


「ただ、長期滞在なら、もっと安い宿とか、プランがあったはずだ」

そういうふうにも云われた。


「そうか、そうか。じゃあ、買い取り金額、ちょうだい」


 手を出した。


「悪いが嬢ちゃん、6万ゴールドはそれなりの額だ。すぐには用意できねえ。2,3日、時間をくれ」


「分かった。でも、だったら、支払うってことを約束する証明書みたいなものが欲しいな~」


「もちろんだ、この札を、受付に渡してくれ」





;場所: ギルド (カウンター)


 私たち一行は、もらって札を、受付に戻った。


「もしもし! もし!」


 と、勢いよくこちらに手を振る、先ほどと同じ受付嬢の元へ。札を提出し、代わりに支払い証明書? とでも云うようなカードをもらった。


「あの、このカードって、何て云うの?」


「それはですね、『あとで支払う約束したカード』って呼んでいますね」


「それってつまり、正式名称が、ないってことじゃ……?」と、シャノン。


「そうとも云います。正式名の必要性がなかったので」


 どうやら、こちらの世界での書面というのは、キッチリしていないものなのかもしれない。土地や家も、口約束で売買したりして。


「じゃ、鬼さん」


 あとで支払う約束カードを、鬼さんに渡し、アイテムボックスにしまわせた。



「それは置いといて――、それで、です!」


 受付嬢が、あからさまに話題を変えた。


「申し訳ありません。貴方方は、ギルドへの登録なされていませんよね?」


 私はうなずいた。


「やっぱり……。魔物の買い取りをするにも、まずはともあれ、ギルドメンバー登録が必要なんです。

 ……いや、私が抜けておりました。すみません」


「そっか。……で、そのギルドメンバー登録の、デメリットは?」


「デメリットから聞きますか……」、シャノンが呆れがちにこぼす。


「当然。知らぬ間に義務や責任なんか課されちゃったりして。

 私は、責任と云う言葉が、大嫌いでね。擦り付けに使われるんだもん」


「ギルドメンバーになることによってのデメリットですか。んーと……」


 受付嬢さん、真摯に対応してくださる。


「そうですね。世界中のギルドに、存在が把握されること、くらいでしょうか……。基本的にデメリットはないと思われます。義務らしい義務もありませんし。

 ギルドカードは、証明書としても機能しますし。町人のほとんどは、ギルドメンバーになっていますね」


 ここのギルドは、あるいはこの世界では、難しい言葉をあまり使わず、平易な言葉で説明してくれるから、ありがたい。


「分かった。じゃあ、登録しようか」


「はい」

「かしこまりました」


「では、こちらでレベルの測定をお願いします」


 受付嬢さんは、鏡らしき道具を示した。


「レベルって何?」


 それには、シャノンが答えた。

「戦闘力を主とした、その人の能力のすべてを、1つの数字に表したものです。……そんなもの、参考程度にしかなりませんけれど」


 さらに受付嬢さんが補足した。

「それでも目安になります。

 一般の人々は、レベル10前後が平均となります。

 これが、冒険者稼業をしている者なら、レベル20は行くでしょう」


「レベル30というのもある?」


「ベテランの冒険者ならば、そのくらいにもなります。

 そして、レベル50以上ともなれば、達人の域です」


 鏡らしき道具の前に、シャノンが立った。そして、鏡に意識を向けているようだ。

 すると、鏡に、何か映る。


【シャノン   Lv.13】


「レベル13ですね。なので、Gランクからになります」


「…………ランクって何? 説明されてないんだけど……」


「ギルドランクは……強さの目安みたいなものです。あまり気にしないでください」と、受付嬢さん。


 もしかして、この受付嬢さん、テキトー?


「ギルドランクは上から、A,B,C,D,E,F,Gと続きます。あ、さらに上にはSランクというのもありますよ。

 そして、依頼は、依頼の方で、こちらにもランク付けがされます。同じくA,B,C,,,という具合に。依頼ランクと云います」


「なるほど、なるほど。

 ランクが低いうちは、低いランクの依頼しか受けられない、と?」


「いいえ? どなたでも、基本的に、どの依頼を受けられますよ?」


「じゃあ、何のためにランクがあるの!?」


「ですから、目安です、目安。あまりに身分不相応に難しい依頼を受けるのは、危険ですよ、という目安です」


「つまり、Gランクの人は、Gランクの依頼を受けるのが、無理なくやれる、と」と、シャノン。


「そうです、そうです。――はい! 出来上がりました。シャノン様のギルドカード」


 シャノンがカードを受け取る。


「何も……書いてありませんね……。!?」


 カードが、シャノンの体に溶け込んで、消えた。


「ギルドカードは、精神に刻まれます。必要なときは、念ずることで、投影することができます」


 云われた通り、ウンウン念ずるシャノン。

 すると、情報が空間上に投影される。


  シャノン   Lv.13   Gギルドランク

  人間     13歳  


「見せたくない項目は、隠すこともできますので」と、受付嬢さん補足した。


「項目名がないね。ちょっと見にくい。……13歳?」


「ええ、そうですが。意外ですか?」


「いいや。予想通りの年齢だ」




 次は、鬼さん。

 鏡の前に立つが、大きすぎて、頭がはみ出ている。


「ヴぇっ!?」


 誰か、吹きだした。


【鬼   Lv.100】


 鏡を盗み見ていた、不良少年風の男が、腰を抜かしたように、尻もちついた。


 当の鬼さんは、


「……………………」


 鬼さんも固まっていた。


 シャノンが口を開く。

「もしかして、鬼さんは、魔王なんじゃ……?」


「断じて違います。……この鏡の誤作動ではありませぬか?」


「鏡でなく、レベル測定器です……。

 まあ、レベル100以上が出ることは、ないことはありません。かつての勇者が、その例ですし……」


「次、私!」


 と、鏡…レベル測定器の前に行く私を、鬼さんとシャノンが、がっちり肩を押さえた。


「何? 肩もみ?」


「違います、ハヌマさん……」


「娘様。ワタクシのレベルですら、問題になりかねないのです。まして、娘様のレベルが明るみになってしまった日には……」


「ヨシ、分かった。一言文句を云う。――受付嬢さん!」


「……はい」

 額に汗が流れている。


「レベルは個人情報だから。だから、他人に見せないようにするべきだと思う」



 ざわざわ……、ひそひそ……

 周囲の人々が、ウワサしている。


「レベル100とか……!?」

「いったい、どれほどの強さなんだ……」

「お前、ちょっと、からかってやれよ」

「冗談じゃない。殺される!」


 ちょっとした騒ぎになっている現状をかえりみた受付嬢。

「そ、そうですね……」


 レベル測定器の向きを変えて、他人からは、表示が見えないようにした。



「ギルドカードができました」


 鬼さんの。


  オニ          Lv.100   Dギルドランク

  ジパング・オーガ    128歳  


「あの……、ジパング・オーガとは、いったい何でしょう」


「ワタクシめの種族になります」


「今まで聞いたこともないんですが……」


「オーガの上位種です。稀な存在なので、見かけることは、まずないでしょう」


「はぁ……」


「ところで、ギルドランクがGではなくDとなっておりますが、これでよろしいので?」


「ええ。レベルに応じて、DからGが、初期ランクとなります」


 シャノンが尋ねる。

「128歳というのは、ジパング・オーガでも、高齢の部類でしょうか?」


「そう……ですな。150歳あたりでお陀仏する者たちが多かったように記憶しています。ワタクシも結構な歳ですなぁ」



     *



「じゃ、私の番だ」


……


「ヴぇっ????」

「これは、どう考えれば良い?」


 先ほどとは、一味違った、驚きの声が響いた。


【ハヌマ   Lv.-1】


「レベル1……ではないな、マイナス1だ。……そんなことってあるのか?」

「さぁ……」


「うーむ」、もちろん私も、「分からん」。


 カードを受け取った。……何か嫌な予感がしたから、仲間内だけに、内容を開示した。


  ハヌマ    Lv.-1   Gギルドランク

  人間?    256歳  


「Gギルドランクか。仕方ない」


「それより気になるところがあるんですが……! 256歳ってなんですか!? それに、人間?って」


「娘様なら、御年、そのくらいになりましょう」


「見た目、10歳弱じゃないですか!?」


「人は見た目によらないのさっ。私は、生まれてこの方、1ミリだって成長しないんだわ……」


「んっと……、鬼さんは128歳でしたよね? ってことは、鬼さんより、ハヌマさんの方が、ずっと年上なんですか」


「お? 256歳という情報を信じた?」


「信じられませんけど、ギルドカードの情報ですし……。それに、ギルドカードからも、人間かどうか怪しまれている始末ですし。人外なら、その身に合わない年齢もおかしくは……」


「私は人間だよ! ホラ見ろ! どっからどう見ても、人間以外の何物でもない」


「じゃあ、ギルドカードの『人間?』っていう疑問符は、何なんですか?」


「ギルドカードが風邪ひいてるんだっ。調子が悪いに違いない」


「いや、何を云ってるんですか」


「おっ、もうこんな時間か。ほらシャノン、宿にいかねば」


 私は、それらしいことを云って、会話を打ち切った。





;場所: 宿屋


「オジサン! 一部屋、三人で泊まりたい」


「はいよ」


 あとの手続きは鬼さんに任せた。


「あの……ボクも泊まっても良いんでしょうか? 持ち合わせがありませんし」


「宿代は私が出す!」


「恩に着ます……」




;場所: 客室


 小奇麗な部屋だった。

 なんと、トイレと湯船付だ! だが――


「お湯は別料金になるそうです。水ならば、外の井戸を勝手に使ってもよろしいそうです」


「水風呂は、やだ」


「でしたら、ワタクシは、水も火も魔法で出せますので、それでご用意いたします」


「えっ、鬼さんは、水魔法と火魔法の両方が使えるのですか!?」と、シャノン。


「ええ。他に、土系統も、雷系統も……。基本的な魔法がそれなりに習得しております」


「うらやましいです……。ボクなんて使えるの、火属性だけですから……」


「……大丈夫です、シャノン殿。貴方はまだ若い。これからです。成長して、色々なことを覚えてゆくのです」



     *



 鬼さんには、さっそく風呂の用意をお願いした。


 夕暮れ。シャノンは窓辺にいる。


「あれは何でしょう」

と云って、シャノンが岩山の方を指した。


 ぼんやりとだが、光るものがある。


「たしか、あの場所は、ワームと戦った所じゃないでしょうか?」


「じゃあ、あれは結界だ」


「えっと……、あのとき張った結界が、まだ残っているんですか?」


「あの結界は、ダメージを受けなければ、半永久的に、残るよ」


「そ……そうですか。……異常現象としてウワサになりそうですが」


「構うことない。観光名所にでも、なればいい」



 風呂場から鬼さんが出てきた。


「娘様、お風呂の用意ができました」


「ありがとう、鬼さん。じゃ、先、入る?」


「いえいえ、ワタクシは最後で構いません。

 大柄なワタクシが入ると、湯があふれて、減りますからな」


「そっか――、じゃあ、シャノン、一緒に入ろう?」


 シャノンの顔が、一気に赤くなった。


「な、なな、何でそうなるんですか!?」


「いや、裸の付き合いを地で行こうと……。そんな嫌がられるとは思わなかったわ」


「い……嫌とは云ってません。でも、ダメです」


「なんでかしら?」


 シャノンが体を、もじもじさせる。


「だ、男女が、一緒の風呂なんて……、その……」


 きょとん。


「あ~」


 とんだ勘違いさんだねー。

 自分の今の格好を考えた。渋いメキシカンポンチョをはおり、これまた男が被るようなウエスタンハットをしている。


「確かに、私はこんなナリしているし、その上、自分でも、自分の中身はオジサンだと思うフシもある。

 誤解されてもしかたないけど、これでも女なのさ、一応。

 女同士、風呂入っても、問題はないだろ?」


 シャノンは、慌てて、両手を振って答えた。


「いや違います! 違います! ハヌマさんが女の人だってことは、分かってます。

 鬼さんは、ハヌマさんのこと、『娘様』って、お呼びしてますし」


 そういえば、そうだ。


「それに! こんな可愛い女の子が、男の子のわけ、ないです」


 可愛い……と!? でへへへ……。悪くない、悪い気はしない。


「んや? てーことは、どーいうこったかな?」


「……ボクは男ですから。よく間違われますけど」


「……………………面白いジョークだ」


 目の前にいるシャノンは、美少女と云って申し分ない。

 それが男……? んなわきゃない。


「ジョークじゃありません。真面目な話です。ボクは男ですっ!

 第一、ボクは自分のことを『ボク』と云ってるんですから、それで察してください!」


「今の時代、自分のことを、ボク呼ばわりしたり、オレ呼ばわりする女だっている。

 それにさ! シャノン自らの発言。『こんな可愛いのが男の子のわけがない』――その言葉を返すぜ」


「えっ……、あ……、ボクは、かわいくなんかっ……」


「その恥ずかしがっている仕草なんか、そそるねえ」


 耳まで赤らめちゃってるんだものさ。


「……っっ…」


「う~ん。その仕草、その表情――、どー見たって、100人が100人、君が少女だって疑わないよ」


「え……えぇ……。それでも、ボクは男なんです。じ、事実なんですから……」


 困ったような顔して、云ってくる。


「強情な。だったら、ギルドカード見せてご覧よ。それで性別がはっきり――」


「ギルドカードには性別情報、書いてませんよ?」


「……そうきたか」


「いや、どうきたんですか」


「よぉぉおし、こーなったら、是が非でも、一緒に裸の付き合いをしなければ」


 私はポンチョを脱いで、上着を脱いで――


「なな、なんでそうなるんです!? ちょっと! ここで脱がないでください!」


「あんたの性別など、どちらにしろ、一緒に風呂に入れば判然とすることだもんな」


「いや! 云ってること、おかしくありません!?」


「ここの風呂は混浴だと思やいい」


「うんと……でも……」


 シャノン、顔を両手で、しなやかに おおう。

 いちいち、おしとやかな……。

 私は未だに、シャノンが男だと、信じていない。


「私の酒が飲めね……、間違えた。

 私と一緒の風呂にゃ、入りたくねえ……と?」


「そうじゃ……ないですけど」


 両手を、前で交差している。もしもし。

 煮え切らない態度だよ~もう。



「ふぁあああああ……っと」


 あくびが出た。


「ちょっと横になる。じゃあ、シャノン、先に風呂、入ってきて。私は後にするから」


「あ……、はい。じゃあ、お先に失礼します」


………………


 すやすや……。

 3分くらい寝て起きた。


 鬼さんを見ると、イスに座って、うたたねしている。

 シャノンは、入浴中か。


 んじゃま、風呂、入ろっと。




;場所: 浴室


 何食わぬ顔で、浴室に入る、素っ裸の私。


「おジャマします」


「えっ!?」


 シャノンの体つきは、やはり少女のものだった。

 ただ、股間にあるものを除いて。


 それがチラリと見えてしまったとき、私の顔が熱くなるのを感じた。でも、全然平気な振りをした。


「とわぅっ!」


 ジャンプして湯船に、ばしゃーん。


「…………やっぱり、入ってきましたね……」


 顔を半分ほど、湯に沈めながら、ジトッとした目で、見つめてくるシャノン。しかし、それも一瞬のこと。

 シャノンの視線が、私の顔から下へ移動したと思えば、途端に赤面して、背を向けてしまった。


「しゃの~ん」


「……っ……」


「……怒っているのかい?」


 私は、シャノンの胸に、腕を回し、抱きしめた。


「…………怒っては、い…ません」


 シャノンの息遣いが聞こえる。

 シャノンの両手は、股間のあたりにある。男のモノを押さえているのだろうか。


 なんか、しんみりした。


「シャノン……、これからも……一緒にいて、くれる?」


「…………なんか、……ズルい、です、よ……、ハヌマさんは」


「あれっ。前も、何か、ズルいって云われたような……。なんで、どこが、ズルいってぇ」


「ズルいですよ……。男勝りな、頼りがいあるセリフを吐いたと思ったら、その一方、今度は、年ごろの女の子みたいな、可愛げある言葉を吐くん……。

 そんな風に、云われた方の心が揺らぐこと、考えてのことですか……?」


 んん……と。


「どーいうことかな……?」


「無自覚ですか……」


「私はいつでも、思うままに、言葉にするのさ。自分に正直だよ。

 だ、だから。シャノンが、す、好き……ってことも、正直に云う」


「好き……、好き……って……!? え!?」


「ちょ、ちょっと、う、うろたえないで……」


「うろたえているのは、どちらですか……」


 自分の顔が赤いや……。鏡、見なくても分かるくらい。

 ぽーっとするもんね……、あ、のぼせかな。


「は、ははっ……。その、好きってのは、恋愛感情か、分かんない。恋愛、したこともないし、ね」


 シャノンは、こちらを振り返って、視線を合わせてくれた。

「…………」


「でも、分からんけど、好きは好き。

 一目惚れのような、一時の、感情かもしれない。分からないよ。

 私が今、シャノンに望むのは、これからも、当分は、一緒にいてほしい、な、って」


「…………ふふ」


 シャノン、微笑む。


「にゅあっ……」


 シャノンの手が、私の頭をなでる。


「なでられるのは、……嫌ですか?」


「イヤ……で、ないよ」


 なでなで、なでなで、なでられる。


「ふへはぁ……」


 頭皮だけでなく、顔も緩む感じする~。


――


 シャノンと、裸の付き合いをした。




;場所: 客室


 風呂から出た二人は、部屋でくつろいでいる。

 今は、鬼さんが入浴中だ。

 鬼さんは、体が大きいから、一人で浴槽が埋まる。

 だから、ざっぱ~ん、という、お湯が盛大に溢れる音が、さっきした。


「そういや、なんでシャノンは女の格好をしていたの?」


「ええっ!? これが、女の格好に見えますかっ!?」


 改めてみれば、粗末な服装で可哀そうだと思った。


「違うの?」


「全然、違いますからね!」


 と、すると、単に体形の問題かな。シャノンの体形が少女にしか見えない体つきだから。その形に衣がまとっているだけか。


「今度、服屋にでも行こうね。服、買わないと」


「ハヌマさん、オシャレするんですか?」


「違う。シャノンの服だよ」


 シャノンの顔が、ぱーっと笑顔になったのを見た。




「それと、さらに疑問点一つあった。シャノンは女の名前だよね?」


 だから、シャノンが少年だと気づけなかったのだ、と正当化したかった。


「いいえ、シャノンと云う名前は、男女兼用ですよ。

 ですから、ボクの両親は、男でも女でも、シャノンという名前を付ける気でした」


「へー……そですか」


 当人がそう云うなら、そうなのだろう。


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@@@@@@@【出稼ぎ魔王アリス】名前の印象と違って、ヘビー級ボクサーの風貌。それを鬼さんが倒したことで、魔女インフェルノの目に留まる。


■要約

・ワームの群れを倒す

・ギブアップ町へ到着。


   -未完-

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