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◆ボツ文たち  作者: ワイヤー・パンサー
『易しい世界』(新版?)
4/57

易世界2

; 場所: 荒野


 誰かのせいで一変した荒野を歩いている。

 いや、歩いているのは鬼さんで、私は鬼さんに肩車してもらっている。


「景色が一変したね」


「ええ……」


 さらに進む。


「森が見えてきた」


「ですが、その手前に谷がございます」


「どこからか、谷に下りられるかい?」


「谷に下りるのですか?」


「谷底にある水を汲みたい」



;場所: 谷の上


 切りった谷から、そそり立つ崖の先まで来た。


「まるで壁のごとき傾斜。ここを降りるのは難しいと」


「鬼さん、そのまま動かず」


「はっ……?」


 私は左手にエネルギーを集中させる。と、見た目で分かるくらいに左腕が発光する。


「む、娘様……、今度は、だ、だいじょうぶなのでしょうか……」


 その小さい手に集中させたエネルギーは、小さくはない力だと、鬼さんにも分かったらしい。


「これが、掘削魔法!」


 私は、左手に溜まったエネルギーを、投げた。地面に向かって。

 放たれたエネルギーは、地面を貫いた。あるいは、浸透している。

 やがて、けたたましい音を、とどろかせながら、崖が斜めに崩れ落ちた。

 谷底まで通じるスロープが出来上がった。


「さ、行きましょか」


「娘様……」


「何かな?」


「それは魔法ではございませぬ」


「え、掘削魔法……」


「今のは覇王の気迫すなわち『覇気』を投げつけたものだと思われます」


「覇気?」


「覇気とは、覇王一族が持つ、エネルギーのことでもあります」


「ほーー……? でもまあ、魔法みたいに使えるんだから、どうでもいいさ」



     *



;場所: 谷底


 谷底まで下りて、そこに流れる小川の水を、鬼さんが汲んでいる。


「そんな容器、持っていたっけ?」


 鬼さんは、水瓶みずがめのような器で、水を汲んでいた。


「ええ。アイテムボックスに入れたままになっていたのを、思い出しました」


「……そもそもアイテムボックスって何?」


「異空間に物を保存できる魔法の一つです」


 と、云って、鬼さんは、空間に開いた穴へ、水を入れた器をしまった。


「そんな便利な魔法が! ぜひ私も使いたい!」


 鬼さんが、待った、と制止するような仕草をした気がする。が、気にしない。

 異空間を集中して唱える。


「アイテぇえ~~ム、ボック、ス~~!」


 空間に穴が開いた。


「やった!? 一発で成功した! 初めから全力を注ぎこんだのが良かった」


「は、初めから、全力を注ぎ……!? ワタクシ、嫌な予感がしますぞー!!」


 鬼さんの顔が青くなって叫ぶ。


「でも、今回は成功だ。……んにょわっ?!」


 開いた穴は、ブラックホールもどきだった。

 川や、小川の岩を吸い込んでゆく。

 そして、すぐ近くにした、私自身を吸い寄せた。


「ななななななな!! アッ!」


 私の体が、栓になって、穴をふさいだ。


「動けな……」


「娘様……。新しい魔法の習得は、当分、諦めてください。危険すぎます」


「分かった、よー……」


 それから、しばらく動いたり、戻ったりした。

 というのは、自分が、その場から離れると、またこの穴は、吸い込みを始めるから。

 というわけで、自ら栓になって、しばらくの時を過ごした。

 そのうち、穴は、エネルギーが尽きたとみえ、自然消滅した。


「ふぅっ……、酷い目にあった」


「自業自得ですよ、娘様」


「手厳しいな」



     *



 谷底の川辺を歩いている。


洞穴ほらあな、発見っ! いざ、突っ込む!」


 入ってくれと云わんばかりの、洞穴を見つけて、洞窟好きの私はいざなわれた!


「娘様、そんな軽はずみの行動は――」


「うわっひゃぁああああ」


「娘様!?」


 落ちた。



;場所: 谷底の洞穴


「いやぁ、参った、まいった。

 入ってすぐ、落とし穴とは、酷いね。

 何しろ暗くて見えづらいうちに落とされるんだもの」


「娘様―っ! だいじょーぶですかーっ!」


 はるか頭上から、鬼さんの声が聞こえる。結構な高さから落ちたらしい。


「だーーいじょーーーぶーーー」


 鬼さんの大声に張り合うように答えた。

 そのとき。


「う……うぅ……」


 私の声ではない。もちろん鬼さんの声でもない。第三者の存在!

 しかし、穴の底は暗い。


「よし、そんなときゃ」


 私は片手に、またエネルギー……いや、覇気だったっけ、とにかく、それをまとう。

 すると、片腕は発光する。これが、松明たいまつ代わりにもなる。


「お……、こんなところに、女の子一人?」


 見えてきた光景。

 谷の底にうずくまる少女の姿があった。

 粗末な服を着た、薄い灰色髪が特徴の、女の子だ。


 ユッサユッサと、揺する。


「だいじょーぶかー?」


「う……っ……」


 相手はうめくだけだ。


 私は、その少女を抱きかかえた。

 多分それは小柄な少女なのだが、私がちっちゃ過ぎるために、相手の体が大きく感じてしまう。


「鬼さん! 女の子が倒れていた。上まで連れて行く」


 私は、松明代わりにエネルギーを溜めていた片手を振り上げる。


「ちょ、ちょっと待ってください娘様っ! 壁を壊す気ですか!?」


「そう。またスロープ作りだ」


「で、ですが、この場所で、それを行うと……、そこの川の水が流れ込むかもしれません」


「別にいいんじゃないかな……だめ?」


「他に登る手がないなら、仕方ありません」


「他の手か……。じゃア、これだッ!」


 私は、松明代わりに溜めたエネルギーを、足元に叩きつけた。

 その爆発による反動で、穴を飛び出す。

 ……頭上には洞穴の天井が迫る。


「うわわわい! たりゃっ!」


 頭をぶつけるまえに、天井に拳を打った。片腕が、天井にめり込み、私は宙ぶらりん。



     *



;場所: 谷底の川辺


「うぅっ……」


 川辺に寝かせていた少女が、意識を取り戻したらしい。

 そして、上体を起こす少女の目に、鬼さんの姿が映る。


「ひきゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 金切り声の悲鳴が響いた。私の頭に響いた。頭がカンカラカンカラする。


 そして少女は腰が抜けたまま、鬼さんから後ずさる。

 キョロキョロと周囲を見渡す少女は、私の存在にも気づいた。


「に、逃げて、早く!」


 恐怖に染まった顔で、こちらにそう云った。


「お譲さん、大丈夫ですから」、と鬼が云う。


「しゃ、しゃべった……!?」


 構わず鬼さんは云い続ける。


「貴方を穴から救いだしたのは、あの娘様です」


と云って、私に向けて、平手を伸ばした。


「え……? あ? う……」


 少女は混乱しているらしい。



     *



「命の恩人に対し、失礼な態度をとってしまい、申しわけないです……」


 深く、頭を下げる少女。


「いや、いいよ。鬼さんは見かけ、怖いからね」


「ワタクシ、怖いですか……」


「伊達に鬼の風貌じゃない」


 鬼さんは、体も大きいし、ツノが二本生え、口からは牙も突き出している。眼光は穏やかだか、風貌は穏やかなじゃない。


「まずは初めに自己紹介ですね。ボクは、この付近に住んでいる、シャノンと云います」


 改まって、少女が語った。


「ワタクシは、名もなき鬼であります」


「鬼さんの名前は、鬼さんだよ」


「ワタクシの名前は、鬼でありますか?」


「そう。鬼さんは、種族も『鬼』、名前も『鬼』」


「正確に申しますと、ワタクシめはジパング・オーガという種族でありまして――」


「それは、まあ、いいや。――で、シャノン……ちゃん?」


「はい!」


 先ほどまでの少女、改めシャノンが答える。

 その立ち上がった姿は、私より、頭二つくらい高い。


「ここらに住んでいると云ったね? ここらに集落でもあるのかな?」


「はい、そうです。小さなものですが。それで、ですね。

 助けてくださったお礼もしたいので、一緒に来てくださいませんか?」


「うん、行こう、行こう」


 私は、鬼さんに飛び乗る。肩車!

 それを、シャノンは、ほっこり穏やかな面持ちで眺めていた。


「そういえば、お嬢…様?」


 シャノンが、そう問いかける。


「お嬢様って私?」


「ええと……何とお呼びすれば? と云いますか、まだお嬢様のお名前を教えてもらってません」


「そーいや、そうだ。私の名前は……」


「……」


「ええっと……私の名前は……、えーっと……、え~、――」


 鬼さんは、シャノンの案内によって、歩き始めた。


「思い出した! 私の名前は、刃沼はぬま、だ」





;場所: 名もなき村の近く


「そろそろ村に着きます」


「今日は催し物でもあるのかな? 何やら賑やかなようだけど?」


「いえ、とくにそれらしい行事はなかったはずですが……」


 さらに進むと、明るい村が見えてきた。


「娘様、どうも焼き討ちにあっているように思われます」



     *



;場所: 名もなき村


「殺せ! 殺せええ! 生きてるヤツぁ、皆殺しよォ!!」


「グギャーハ! キャキャキャキャッ!」


 村人らしき人々が襲われている。盗賊らしき連中と、魔物たちによって。


 シャノンが云う。

「もしや、あいつら、魔物使いの盗賊……」


「何かな、それ? 初耳」


「なんで知らないんですか! ここらでウワサになっているんですよっ!」


 そう云って、シャノンは短剣片手に、駆け出していく。


 すでに村は、いたるところが血まみれだ。こと切れた人間が散見される。


 参戦したシャノンを見送ったのち、鬼さんの口を開く。


「娘様、ワタクシたちはどういたしましょう?」


「私は殺し合いをしたくてウズウズしている」


「ヒヤッ、ハァぁ!」と云いながら、私に向かって、ナタを振り下ろしてきた男がいた。その男のこめかみに、親指を突き刺し、ナタを奪った。


「鬼さんも、テキトーにやっといて」



     *




 すぐに盗賊たちに私は発見された。やはり、この血染まりの赤い髪は目立つ。


「おいッ! あのメスガキ、捕まえろ!! 赤毛のガキだぁああ! ありゃ上物だ。高く売り飛ばせるぜええ!」


 売る? 奴さん、奴隷売買をやっているか?

 売られる側より、売り買いする側になりたい。


 私のことをメスガキと云った男に、突っ込んで行く。


「ひゃーっははは、自分から来るとはな」


 男は短剣を構え、こちらを突き刺すフェイントをして、足を振り上げた。


 私は、振り上げられた足を、踏みつけて、さらに男に接近。

 そして、拳で打ち込む。相手のみぞおちに。


「んぐぅぅわああぁああああああ!!!」


 私が思っていた以上に、相手の体はもろかった。

 拳が貫いた。

 私は、男の体を引きちぎるように、腕を引いた。返り血を浴びる。


「ぬぎゃああああぁぁぁああああぁぁぁぁあああああああ!!!」


 男の苦悶の表情と悲鳴。


「痛いだろうな。たいそう、痛いだろうな」


「ふうあうううああ、ふああううああ」


 たまらない苦痛に、男は泣いていた。


「そっか、楽にしてやる。ふふっ……」


 私は、男の頭を、後方回し蹴りで蹴とばした。

 無論、そのパワーは、ただものではない。

 男の体は吹っ飛ばず、頭だけを砕いた。


「ひゃ! ば、化け物だ!!」


 見られた。

 盗賊が、化け物呼ばわりして、逃げていく。

 魔物たちも一緒に逃げていく。

 逃がさない。負う。


「ふへぇ……うふふふふ……あはぁ……」


 血を浴びてから、私の何かがおかしくなった。

 生きている実感がする。


 逃げていた盗賊の前に、私は立ちはだかる。


 ぶつかって、倒れて、地べたに這いつくばる盗賊。


「ひぃぃい! こ、殺さないでくれぇぇっっ、頼むうっっっ!」


 私は、男の顔を、指さして云う。


「だが、お前は村人を殺したろ?」


「そ、それは……、頼む! 見逃してくれよぉぉぉ!」


 私は、指さしたまま、男に近づき、男の眉間に触れる。


「頼む、頼むよぉぉ……」


「ダメだな」


――グサリ


 指を、眉間に差し込んだ。


「う、ぐぁ……、なに、を……?」


「練習台になれぇ」


「ひ、へ、え……?」


 私は指先から、エネルギーを送り込む。


「ふ、ぐぐうう……、ぐべばっ、ががががががぁ」


 男の頭部、胴体が、膨張する。


「ぬふふふ……」


「びげれっ、ぐばっ!」、男は吐血した。


「終わりよ」


「ぎぎぎっ、ひでっ、ぶぅあっっ!!」


 男の体は、爆発、四散した。



     *



 それからも、私は村中を駆け巡って、生き残りの盗賊と魔物を潰していった。

 村の地面は、血に汚れた。赤い髪は、その返り血で、さらに怪しく煌めかせた。


 死んでいないが、骨がボロボロで動けない連中もいた。強打を受けた跡がある。多分、鬼さんがやった。


 それと、魔物とシャノンの一騎打ちを見かけた。

 獣のような魔物が、噛みつこうと飛び掛かるが、シャノンは紙一重で、辛くもかわし続けた。

 しかし、それも難しく、シャノンは態勢を崩してしまう。そこへ牙をむける魔物。だが、シャノンは短剣で、牙を押しとどめた。

 そして、もう片方の手を、魔物の口へ向けて――


「バーストファイア!」


 その手から放たれた火炎弾が、魔物の体内に詰め込まれる。

 まもなく、魔物は内部から発火し、焼け死んだ。

 魔法らしい。うらやましい。


……


 殺しの一段落したあと、私は盗賊たちの所持品を漁っていた。

 金品や武器・装備を奪っては、鬼さんのアイテムボックスに収納した。




;場所: 村の広場


「このたびは、なんとお礼申し上げれば良いか……」


 村長は、鬼さんへ向かって、深々と頭を下げた。


「いえ、ワタクシよりも、娘様の活躍のおかげで」

と、鬼さん、血まみれの私へ視線を向ける。


「お嬢ちゃん、が……?」

 村長はポカンとした。


 そこで、村の連中が口をはさむ。


「ああ、凄かったよ、嬢ちゃん」

「被害は大きかったけど……、お嬢さんがいなかったら、俺ら、全員死んでましたよ」


「本当に……信じられぬことです。この、幼き娘さんに、助けられるとは……」

 村長は感嘆し、さらに話を続ける。


「お礼をしたいのは山々ですが、何分、このような有様で……。

 お嬢様方に報いることでできませぬ……」




 そこへ一人の村の若者が乱入した。


「そいつらに礼をする義理はねぇっ!!」


「トマソ! 無礼だぞ! 引っ込んでいなさいッ」、と村長がとがめる。


 私の前に出てきたトマソとかいう若者。体は大きくないが、しっかりとした肉付きをした、頑強そうな外見をしている。


「このガキぁ、オレの兄貴を殺しやがった!」


「いい加減にしなさい、トマソ! 助けてくれた恩人に向かって、何を云うかッ!」


「こればかりは本当だ! オレは目の前で見ていたんだ! こいつが、ニタニタ楽しそうな面ァして、兄貴を殺すのをな!」


 トマソは、私の胸倉をつかんで、持ち上げる。


「こ、コラ、やめなさいっ、トマソ!」

 今度は、別の村人が、青い顔をして、叱っている。


 私は、勝手に体に触れられたことで、少々イライラし始めていた。


「うぎゃああぁぁあああああ!!」


 トマソの悲鳴だ。私は、胸倉をつかむトマソの腕を、ねじり回している。


「あんたの兄貴など、知らない。……と、いうか、誰もかれも知らない。私は、悪党っぽい連中を殺しまわっただけよ」


 トマソはまだうめき、叫んでいる。


「おわびに、腕の一本でも、もらおうかしら……? ふへら」


 私が笑うと、周囲の連中が恐怖に顔を引きつらせた。


「ど、どうか、その辺で、お許しください!」

と、村長を初めとする、村人数人が、土下座をした。


「あはあ……。許すよ。許すとも。殺しやしない。ただ、この腕一本と引き換えね」


 私はさらに、トマソの腕をねじ上げる。


「あと、もう少しなんだから」


「ひいいいぃぃいぃいいい!!!」

 トマスの叫びがこだまする。


 一人の村娘が、今度は鬼さんにお願いする。

「ど、どうか、お願いいたします! お嬢様を止めてください! お願い……!」


 終始、黙って見守っていた鬼さんが口を開く。

「娘様、どうか、その辺で……」


「……」


 私はトマソを解放した。


「ひぃぃ、ふうう、ぜえ、ふう」


 荒い息を吐くトマソ。見開いた目で、私を睨みつけてくる。


「何トマソ? トマトのように、グシャって……されたい?」


「あ……悪魔、め……」


 トマソが、ほざいた瞬間、私の手が、トマソの頭をつかむ。

 村人から悲鳴が上がる。

 トマソは固く目をつむり、体をこわばらせた。


 私はトマソの頭をつかんだまま、引きずる。



     *



;場所: 村の一角


「放せ! は・な・せ! この野郎!」と、トマソがわめく。


「野郎じゃない」

 私は、ギュッと、力を加える。


「んぎゃああ……」

 トマソは気絶した。


 村はずれの一角に、ぽつんと佇むシャノンの姿。

 シャノンの家族も、全員やられたらしい。

 焼けぼっくいだけになった場所を、シャノンは眺めていた。


「シャノン」


「…………ハヌ、マ…さん……」


「おいで。一緒に旅をしよう」


「………………いいんですか」


「いいさ」


 何だかんだで、私はシャノンのことを気に入っているんだ。

 トマソと違って、礼儀正しいし。



     *



;場所: 村の一軒家(廃屋)


 今日は、もう暗くなる。ということで、村に泊まることした。


「娘様? そのトマソとかいう者を、引きずり回しておりますが、どうするのですか?」


「殺したかったんだけどなァ。……私に殺意を持つ者を、生かしちゃおけないから」


「やはり、そうですか」


「でも、ここじゃあ、村人の目もあるしで……やりづらい。まぁ、でも、やる」




;場所: 谷の近く


 夜。

 谷の近くまで、トマソを連れてきた。鬼さんは留守番。

 たった二人だ。


「……」


 正気が戻っても、トマソは大人しくなっていた。


 私は、盗賊から、かっぱらった刀剣類を、ばらまく。


「好きな武器をどうぞ」


「いったい……オレをどうする気だ?」


「逆だ。私をどうしたい?」


「…………」

 静かな眼光で、睨んでくるトマソ。


「殺したいのよね? だから、ここで、決着だ」


 いくら待っても、武器を取らないトマソ。


「私が素手だから、君も素手で戦う?」


 トマソの体が宙に弾けた。

 私がアッパーカットを放った。

 トマソは何もできなかった。


 崩れ落ちるトマソ。


「どうしたのトマト? やる気なし?」


「オレは……トマソだ」


「うん、知ってる」


「オレはもう……、あんたと戦う気はない」


「どしてよ?」


「…………もう、戦う気はない……」


 トマソは、そう云ったきり、顔をうつむかせて、もう何も云わなくなった。

 それから、何度となく、言葉をかけたが、トマソは無言を貫くばかりだった。


 なので私は、トマソを放っておいて、村に帰って、寝た。





;場所: 荒れ果てた村


 明朝。

 私と鬼さんとシャノンの三人組は、出立しゅったつした。


 村の中で、生気のない目で、ぶらついているトマソとすれ違った。もうこちらには、何の関心も持っていない様子だった。


「この道をたどると、町に行けます」


「その町には、冒険者ギルドとかあったりする?」


 ギルドとは、仕事を発注したり、受注したりする組織。


「ありますが……、ハヌマさん、冒険者になるつもりですか?」


「破壊と殺戮しか能のない私には、それが合っていると思う」


「……。冒険者の命は軽く、望んでやる人は少ないです。まともな稼業がない人が、命を駆けに儲けようとして失敗するのが、冒険者稼業。……そういうイメージです」


「なるほど、なるほど。詳しい話は、ギルドさんでお尋ねするよ」



■要約

・シャノンを助ける。

・村へ行き、盗賊と魔物を倒す。

・ハヌマを恨んでいたトマソが戦意喪失。

・シャノンも同行。町へ旅立つ。



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