武器屋&村長宅
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;武器屋シーン、ボツ。
武器屋の戸をくぐる。
「こんにちは~」
「あいよっ」
店には、いくつかの武器・防具が並べてあった。
期待してはなかったが、銃器の類は一切、ないようだった。
「何か、要るかね?」
「そうだねぇ……」と言いつつ、肝心なことを思い出した。
「あ、金がない。んじゃ」
金の工面をするために、一旦、店を出ようとしたが、肩をつかまれる。
「ちょい、待ってくれ。アンタ、聞いたぞ。他では見ない代物を持っているって? 何なら、こっちでも、物々交換、やってやるよ」
「ああ、それは助かるねぇ」
私はまた、いくらかの日本硬貨と、決して良質とは言えない装備一式を交換した。
私は剣を構えた。それだけで、店主は察した。
「剣を使うのは初めてか?」
「生まれて初めてさ」
「そうだろうな。んじゃ、こっちで思う存分、試し切りでもしていけ」
店の庭に案内された。そこには、何度も切り刻まれた大木が、それでもなお、堂々と育っていた。
店主は、手で、どうぞ、と示す。
私は、剣というより、斧でも振り回すがごとく、大木に一振りした。
「そらっ!」
ガシンッギリリィィィッッゥ~ッッッッッッ
「おお、おお、耳と腕に響いた、響いた」
「なんてこった、砕ける……とは」
私の手には、刃こぼれどころではない砕け方をした、購入したての剣があった。
今も、刃の破片が、ポロポロと、舞っていた。
私は、刀剣類については素人だったから、分からなかった。
考えてみれば、刀剣類の中でも傑作と言われる日本刀でさえ、切るのはワラの束だったか。太い木を、まして木目に沿わずに叩き切るなんて、無茶だったか。
私が黙っていると、店主が口を開く。
「アンタは、どういう腕力をしとるんだ?」
ん、なんかズレたことを聞かれた気がする。
「あまり、私は腕立て伏せをしないもので」
「いや、そうじゃない。オレの作った剣は、まして新品は、切れ味はともかく、頑丈さは、決して粗雑じゃないつもりだ。
頑丈さテストのために、この大木で、いつも剣を振り叩いているが、刃こぼれなんて、したこともない。まして、砕けるなどと……」
店主は、ワナワナ震えている。
「あ、この剣は、そちらさんの手作りで。いやぁ、見事ですなぁ~」
「そんなことは問題ではない! 理由どうあれ、オレは、あそこまで”使えない剣”を売りつけてしまったということかっ! 『使えない剣』を!」
「壊れちゃったねぇ。ここまで壊れちゃ、たしかに、使い続けられないな。店主、あんたには悪いが、この剣、捨てなきゃ」
「分かった……、分かった……、待ってくれ。オレは、『売ったらそれで終わり』、という無責任なことはしない。――つまり、こういうことだろう?」
「どういうことなんだ?」
「あんたは、あんたの馬鹿力にも耐える武器が欲しい、と」
「腕力には自信がないんだけどな。ずうっとやってきたのも、デスクワークばっかりさ」
*
「頼みがある」と、店主は言う。
「なんだ?」
店主は、ずいっと、斧を差し出す。
「オレと一緒に、『鉄の木』を切ってくれ」
「鉄の木?」
「ああ。正式名は分からん。ただ、ここらでは、『鉄の木』の俗称で呼ばれている」
「んで? それが、何か重要な木なのか?」
「それを材料にすれば、途方もなく頑丈な武器ができる。だが!」
「……」
「その木自体が、とてつもなく硬い。数十のもの斧と、並外れた腕っ節が要る。だから、アンタの手を借りたい」
「肉体労働には自信がまるでないが……」
「アンタができなけりゃ、オレにもできん」
見たところでは、店主のほうが、はるかに大柄で、腕も太い。
どう見たって、力があるのは店主の方だが。
「やるだけ、やってみよう」――そう答えた。
村長宅
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;ココカラ村に入り、村長宅でのシーン【ボツ】
ココカラ村にある、こざっぱりした建物の中で、村長と対峙している。
自分より歳はだいぶ上だが、腰は曲がっていない村長が、質問してきた。
「ンム、まず、そちら様の名は、何とおっしゃる?」
「名前? 名前ね。私の名は、ノロ、と申します」
「そうか、ノロさんとやら、見るに、見慣れない格好だが……、いったいどこから来たか、お尋ねしてよろしいか?」
「実は、すごく、私の記憶は混濁していて……。覚えているのは、日本にいた、というくらいでしかなくて……、ええ、さっぱりで」
「ニッポ? ニッポというのは?」
「にっぽん、日本です」
「どれ? ニッポン? ニホン?」
「え? 私たちは、日本語を話しているじゃありませんか? なのに日本が分からんのですか?」
ちょっと私は突っかかる言い方をした。私の戸惑いが声に滲む。
「ニフォンゴ? いったい、君の出身はどこなんだ?」
私は言葉を選んだ。
「日本です」
「初耳だ」
「本当に?」
「ウソを言っているわけでは、ないのか?」
「先ほども言ったように、私の記憶は混濁していて。私がいた国が、日本だというのも、ちょっと自信がありません。ジャパンという名だったような気さえしますし、ヤマトだったような気もします」
「そうか……、いずれにしても、君の服装から風貌は、ここからの人間でないことを示している」