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◆ボツ文たち  作者: ワイヤー・パンサー
『易しい世界_旧版』
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004.怪物ワーム

004.怪物ワーム

; 視点: 一人称<幸>

; 場所: カラッカラ砂漠



 巨大ナメクジ、改め、ワームという名の魔物。

 その敵を、今一度確認するため、砂丘から頭だけのぞかせる。


「ギシャァァァァァ!!」


 見つけたーっ! という反応だった。

 無駄話をしている そのかん、どうも敵が待ってくれて おかしいなと思いきや、単に見失っていたらしい。

 敵さん、目は悪いのだろう。


「ちぃっ、気付かれたか。逃げろ嬢ちゃん! ワシが奴を引き付ける!!」


 立ち上がるのも困難な爺様は、這ってでも、敵の目前に出ようとする。


「爺様、早まらないでください!」


 爺様のさらに前に、私が立つ。敵を正面に見据えた。


「ばかーっ! やめろ、死ぬ気か! 食われるぞ!」


 爺様は、私の足首をしっかりつかんだ。そして離さない。

 敵前に飛び込もうとする駆け出しの若造を、必死で抑えている爺様の気持ちが伝わる。


 今回は近接攻撃をしない。地魔法による遠隔攻撃を試す。だから、足首をつかまれ、動けなくても構わない。

 私はそのまま、攻撃態勢に入る。


 私は想像力をたくましくして、魔法名を予想し、唱えた。


「アース!」


 周囲の砂が、砂丘ごと、独りでに持って行かれる。

 その砂の持って行った先は――


「ギャァァ! ウグ!? …………!?!?」


 ワームの大きな口へ、脈々と砂を送り込んだ。


 あの恐ろしい口も、埋めてしまえば問題はあるまい、との考えだ!


「ク……、カ……ゥ……」


 目論見は成功したらしい。


 さすがのワームも諦め大人しくなった。

 というより、もはや息をしていなかった。


「嬢ちゃんよ、あんた、稀代の魔法使いか何かか……?」


 あんぐり口を開けていた爺様が、そう云った。



         *



 ワームを倒したのち、私は爺様の負傷した足を気にかける。


「大したことはない」

と当人は仰るが、私は回復魔法を試す。


 患部に手を添え、

――あらゆるものが、あるべき形に戻りますように――

と、ひたすらに祈った。


 手の平が温かく、そして発光する。しばらくその状態を維持した。


 そののち、爺様は、おもむろに立ち上がり、足の具合を確認する。


「良いようだ。治っている」


 私は微笑んだ。


「高ランクの地魔法だけでも驚きなのさ、回復魔法まで嬢ちゃん出来るのか」


「さあて……、分かりません。でも、治って良かったです」


「分からん? そりゃ、どういうことだ?」


 この時のために、あらかじめ設定を考えておいた。


「ええっと、実はですね、頭が空っぽになってしまったんです。

頭を打ちましてね――、恐らく、竜巻に吹っ飛ばされた気がしますから、そのせいでしょう。

記憶の混乱と云いますか、記憶喪失と云いますか……、そういう感じなのです」


「なるほどなぁ……。名前も分からんのか?」


「名前は、えっと……、幸です。幸と云います」


「コウか。分かりやすい良い名だ」


 カタカナにされた。


「そういえば爺様の名前は?」


「ワシか。ダイオード。ダイオードだ」


「ダイオードさんですね」


「んで、名前以外は全て分からんか?

 まぁ、根掘り葉掘り聞く訳でもないが」


「んん……今 思い出せるのは名前くらいですね」


「無理に今、全てを思い出さなくても良い。辛い記憶があったのかもしれん」


「お気遣い、感謝です」


 出来たての「記憶の混乱設定」は無事に馴染んだらしい。



         *



 足が治ったダイオードさんは、半壊した馬車を中心に巡り、生存者の確認をした。

 しかし、ダイオードさんはため息を付くばかりだった。

 近くまで戻ってきて話される。


「ダメだ。皆、食われとる。生き残ったのは、ワシら二人だけだ」


 これからのことを考えなくてはいけない。


「ダイオードさん、この近くに町の類はありますか?」


「ここは僻地だからな、ギブアップ荒野の町ぐらいなもんだ。

 ワシらはそこから来て、そこへ帰るつもりだ」


「そこでは魔物の買い取りもしていますか?」


「ああ、ギルドに持って行けばいい。買い取ってくれるぞ。

 んだから、そこに転がってるワームも、持って行きゃあ、相当な金になるんでないか?」


「全部持っていかないのですか?」


「あんな巨体、アイテムボックスに収まりゃせん!」


「じゃあ、私が回収しちゃいますよ?」


「んぁ……、出来るもんなら、ど~ぞ」


 私は死骸となったワームに近づき、アイテムボックス空間に吸い込ませた。すっぽり丸ごと入った。地面がスッキリした。


「…………バカに空間のサイズが――いや、いい」


 ダイオードさんは、気になる点も、気にしない。


「じゃあ、町に行きましょうか。

どの方角に、どれほどの距離があるのか、教えてください」


 場を取り仕切る、テンポよく先に進みたいからだ。


「ギブアップ町は――こっちだ。

 馬車で移動するてーと、ここまで丸1日って所か。

 早速 歩いて行くか?」


「ダイオードさん、私につかまってください。

一気に移動できるか、試します」


「一気に?」


 ダイオードさんは疑問を呟きながらも、云われた通りにしてくださった。


 今回実行するのは、またしても地魔法。これを用いて、足元の砂を塊にする。


「屈んで、振り落とされないようにしてください」


「へぃ? アア。よいしょ、っとこ」


 その塊を、自分たちごと飛ばした。



         *



; 場所: ギブアップ荒野


 風景は荒野へと様変わりしていた。

 見渡す限り、砂より土という感じの、干からびた大地だった。


「やっと恵まれた土地に来ましたね」


「そうかーー?」


 先ほどまでいたのが砂漠だったため、感覚が麻痺している。


「まー、どうでもいいー、オ~、早く卸してくれー!」


 私たちは、まだ飛来している。そろそろ落下軌道に入る。

 今度は地魔法を、何段階にも分けて、減速方向に働きかけた。


「うがべっ!」


 軽い衝撃はあったが、割と穏やかに着陸できた。砂の割に。

「何せ砂だからね、乗り心地の良さなど、求めるべくないです」


「ごへっ、ぺっ、ぺっ。砂食っちまった」


「大丈夫ですか? 大丈夫ですね」


「ア~、ジャリジャリだ。ペッ。

 やっぱり砂で飛ぶもんじゃねえな」


「んじゃ次は石にしますか?」


 地平線の彼方に、諸々の人工物が見える。

 ダイオードさん、砂を吐き終って語る。


「あれだ、あれがギブアップ荒野の町。

 まぁワシらは略して単に、ギブアップ町と呼んでいる」


 あれが町らしい。


 そして門番が、何やら騒がしい。一悶着なければいいな。





■要約

・ワームは地魔法で窒息死させた。

・ダイオードと合流し、足のケガを回復魔法で治す。

・幸は記憶混乱(喪失)設定を作る。互いに名乗る。

・生存者は二人のみだと確認。ワームの死骸を回収。

・地魔法で地面ごと二人を飛ばして、ギブアップ町の前へ。


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