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◆ボツ文たち  作者: ワイヤー・パンサー
『ノロ』(現在執筆中の新作)より
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『ノロ』(仮)冒頭の没エピソード

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『ノロ』(仮)冒頭の没エピソード

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◆現実から異世界への流れ


・異世界へ生きたい主人公が、異世界に行く。


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◆落ちる


こことは違う世界に生きたいと思った私は、あてもなく車を走らせた。


人里から遠く離れ、狭い小道を走っていた。しかし、その道幅がだんだん狭く、そしてねじれ始めた。

車が道にはまる。前進も後退もない。にっちもさっちも動かせない。


私は、車載電話で助けを求めようとした。だが、そんなものはなかった。

いくら探しても、あるはずのものが、なかった。

車載電話を取り付けた記憶は、夢だったろうか。


携帯電話もスマートフォンも、持ってはいない。車載電話があるつもりだったからだ。


私は、仕方なく、徒歩で、わけの分からない道を歩いていった。

そろそろ辺りは暮色がかかっていた。


   *


あれから、どれほど歩いたろう――

すでに夜道となったところを、とぼとぼ、歩いている。

曲がり角の先に、一つの明かりを見た。


近づいてみると、バス停を兼ねた小屋のようだった。

そこに、幼い子が一人、ちょこんと座っていた。


(なぜ、こんな夜更けに、幼子おさなごが一人で……?)


と、思ったが、それよりも私は、足の疲れを気にした。

小屋にはベンチもある。そこへ腰掛けた。


雨が――降ってきた。シトシトと。小粒な雨粒だ。

雨が一段落するまで、休むかと考えた頃、 となりに座る子供が、口を開いた。


「異世界小説は、好き?」


そちらを見ると、タブレットPC両手に、こちらに問いかける幼子の姿があった。


「え?」


と聞き返す。

よく見れば、幼子の手にするタブレットPCには、私も知る小説投稿サイトが表示されているようだ。


「異世界に生きたい……」


幼子は、こぼすように言う。


(異世界……つまり別の世界、か。この幼子も、もしかすると、私と同じような望みを抱いているのかもしれないな。ほんの短い人生を生きただけで、この世界に飽きてしまった、というわけか……。哀しいもんだ)


気づけば、雨はやんでいた。


「だが…………、前を向いて、生きていかなければ、ならない」


自分と相手に対する言い訳のような言葉を吐き捨てて、私はその場をあとにした。


背中に、幼子の存在感が希薄になってゆくのを感じながら――


   *


いっこうに、闇は晴れなかった。


(まだ夜は明けないか?)


もう朝は過ぎているはずだった。私の感覚が、間違っていなければ、の話だが。


暗闇の中を五里霧中に歩いていると、いつしか私は、進んでいないのではないか? 止まっているのではないか? という気がし始めた。


だんだん、意識はぼうっとし、眠りながら歩いている状態になった。




――ふと、私は、身体が落下していることに気づく。


いつ、道を踏み外したのか? それも分からない。

だが、もっと分からないのは、先ほどの幼子が、同じく目の前で落下していることだった。


「来い!」


私は、思わず、幼子を抱きしめ、落下の衝撃に備えた。


(自らが衝撃吸収材となろう。死んだとしても、それはそれで、それまでの人生だった、と考えよう)


そんなことを考えながら、ヒヤヒヤする心持ちの中、抱かれた幼子が話しかける。


「一緒に、おいで、おいで」



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◆自称神様少女の


次に目が覚めたのは、真っ白な空間でのことだった。


(まぶしい……)


「お目覚めになりましたか?」


前方から声がした。そこにいたのは、少女のようだった。さっきの幼子とは違う。


「はじめまして、わたくしは早い話、神と申します」


「あ、ああ……、たしかにカミさんだけあって、髪の毛が豊満だ。だが、私が尋ねたいのは――」


「ええ、分かっております。神ですから。まずは、ここはどこか? という疑念でしょうか?」


「違う。私は落ちた。幼子と一緒に。あの子はどうなった?」


「ああ、その子供でしたら――、ここに」


「それは、どういうことかな?」


「私が、その子供です」


「ご冗談を」


「見せてあげましょう」


そう言うやいなや、目の前の少女の姿は、先ほどの幼子の姿へと変わる。


「このとおりです」


「これは……いったい……どういうトリックなんだ……?」


「トリックではありません。先ほど申したように、あなた方から見れば、私は神にも等しい存在ですので、神通力と申しましょうか。あなたの世界にあるテクノロジーでは、到底、解明することはできません」


「すなわち、まだ見ぬ未来のテクノロジーというわけか」


「……そう思われても構いません。ですがノロさん、それよりも何よりも、驚くことは、他にもあるのではないでしょうか?」


「なぜ、私の名前を? まだ名刺を渡す前のはずだが」


「神、ですので」


そう言って、自称神様は、先ほどの少女姿に戻る。……どこかに、すり替わった幼子が隠れているのかもしれない。


「そうか、答えてはくれないか。ここが、どこの病院かも、教えてはくれないのだろうな?」


「病院? ここが病室に見えますか? あなたは死んだのですよ?」


「死んだらな、喋ることもできないのだ」


「あなたは今、魂の状態です。口ではなく、念で直接、私と会話しているのです」


「それはいいとして、ここには、他に誰かいないのかな? できれば、話の通じる相手が欲しいのだが……」


「あの、あなた、私の話を、まるで信じていませんね」


「う~む…………」


「とりあえず、周りを見てくださいな。ここが、部屋の中に見えますか? こんな場所が、あなたのいた世界にありますか?」


私は、周囲を見渡す。とても手の行き届いた、真っ白な空間だ。

不思議なのは、天井と壁と床の境が見当たらないことだ。

それは一見して、どこまでも続く無限の空間を思わせる。


「なるほど。見事だ。錯視部屋か。ここまで素晴らしいものは――」


「違います!」


「なに?」


「違います違います! 錯視でも錯覚でもありません。

本当に、果てのない空間なんです。なにもないんです。

何なら、どこまで直進してくださいよ。いつまでも進んだって、壁なんてものは存在しませんから」


私は歩きだす。


「何もないわけないだろう。そもそも酸素があるのだから。

いかなる場所にも、必ず何かが存在するはずだ」


そのようなことを語りながら、一直線に歩いていった。

となりには少女がいて、さながら、二人でお散歩状態だ。


   *


「…………」


「無口で歩くのも何ですから、何か、お話をしましょうか。

私の方も、お話がてら、色々ご説明、したいですし」


「それじゃあ、頼む。

自称神様の話が、どれだけ信頼性に足るものか、怪しいもんではあるが」


「まだ私のことを信じてくれていないのですね」


「神はいないと思っている。

でなきゃあ、神に祈っても救われない理由が、残酷すぎる」


「…………私は、あくまで小さなお仕事をしているだけの身ですから。人を救う力までは持ち合わせていないのです」


「そうか……。だが、楽になりたいと願う者を、そっと気づかぬうちに殺してくれるだけで、良かったのだがな……?」


「………………」


「……」


「異世界転生の話をしませんか?」


「最近、流行りモノの小説か」


「あれが、あながちフィクションではない、真実だとしたら、どうです?」


「どうです? って言われても、なぁ。まあ、歓迎するよ」


「ならば歓迎してください! あなた自身が、異世界転生のチケットを勝ち取った、S.P.E.C.I.A.L.な存在なのです」


「ん……、その言い回し、どこかで聞いたな」


「さぁ、まずは私の話を信じることです!」


「そうだな。どこまで行っても、壁にぶつからなければな」


私たち二人は、まだ、歩いている。


「無駄です、無駄。壁なんてものはありません。存在しないものを求め続けたら、永久に人生をさまようことになりますよ?」


「もう、とっくに、迷い路くねくね、だ。それに人生というのは、どれだけ平坦な作業に耐えられるか、それを強いるものだ」


「も~う、ラチがあかないので、こうです!」


私は弾んで転んだ。

立ち上がるとき、自分の手足……のみならず、姿、体つきが変化していることに気づく。


「んんん……、これはまるで……」


喋ると、声まで変わっている。そしてその声色は、先ほどまで話していた、自称神様少女のものだ。姿だって同じだ。つまり、今ここに、瓜二つの二人の少女がいる。そのうちの一人が自分らしい。

それが本当なら、若返った、ということだ。性別逆転というオプション付きで。


「どうでしょう、これは? これでもトリックだと思いますか? この現象を、どう解釈なさいます?」


「VR機器でも取り付けたか?」


頭部を探る。耳と目の付近を、とくに。だが、何も仕掛けらしきものはない。


「バーチャルリアリティではありません。そんな陳腐なものじゃございません」


「まさか、完全没入型VRか。神経系と直接接続するタイプか? ……だが、まだ、そこまでの技術革新には足りていない現代科学だった。分からん……」


「いいかげん、異世界に転生・転移できるということを、現実のものとして受け止めてくださいませんか?」


「分かった……、そこまで、私に理解させるのに、心を砕いてくれたのなら、仮に信じることにしよう」


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◆白紙空間に住んで


自称神様少女が、不思議な力で取り出したソファーに、二人は座っている。

幻想的な世界で、二人はくつろいでいる。


そして私は、出されたカフェオレを飲んでいる。

気分は、夢の国のテーマパークに来た心持ちだ。


「先ほどは、わかりやすさ優先のために、神と名乗りましたが、実のところ、他に名前がございまして」


「ああ」


「ゴッドマザー……と皆からは、呼ばれております」


「ギャング家業でもやり始めそうな名前だな」


「ご冗談を」


「いや、冗談は控えめにしている」


「それで、再三申し上げますが……これですね」


ゴッドマザーという仰々しい名の少女は、本をドサドサっと発生させる。ついでにノートパソコンとタブレットPCも出す。

なかなか、快適な環境になってきた。


そして、その本は――


「これですね。地球版の、異世界転生モノの小説です」


「随分たくさん取り寄せたものだ」


「そしてこちらのパソコンは、地球のインターネットにつないでいます。あなたもご存知の、有名な小説投稿・閲覧サイトです。ここにも、異世界転生モノの話が、ゴマンとあります」


「そうだ。知っている。いつからか、この手の物語が、ワッと溢れたんだ。私もはじめは夢中になって読み漁った。だが、だんだん虚しくなっていった」


「それは……なぜ?」


「この手に限らず、フィクションとはそういうものだが……、いくら読んでも、たとえ望みの異世界ストーリーが見つかったとしても、その異世界に行けるわけではないからだ。まあ、当たり前の話だが」


「人は、夢のある物語を書いてきました。想像することで満足感を得るものでしょう?」


「私は、想像だけでは不満だったようだ」


   *


「それで――、この手の話がすべて、実はフィクションじゃない、本当の出来事だった、と、そうおっしゃりたいのか?」


「いえいえ、違います。私たち上位世界のものが、人々の想像力に種を植えただけなのです。で、その理由はですね、コホン、私たちの業務を円滑に進めるために――」


「ん? 結局、早い話、異世界転生モノっていうのは、あの世へのガイドラインのようなものだったか?」


「ん……まあ、そうハッキリおっしゃられると、私としても何も言うことはございません」


「ふ~ん、そうかそうか、あ、ちょっと読ませてね」


私は、大量の書籍の中から、表紙の絵に騙されて、本を読み始めた。


 …………


しばらくの時間が過ぎた。本の読みすぎで、気持ち悪くなった頃、ゴッドマザーが声をかけた。


「そろそろ、よろしいですか?」


「ん、ああ……」


ご帰宅を催促されたような気分がして、私は立ち上がる。


「何だかんだで、世話になっちゃったね。それで、帰り道はどこかな?」


「え、帰り道?」


「そろそろ、家に帰ろうかと。このまま居続けては、さすがに邪魔になるからなぁ」


「いやいやいや、帰れませんよ。もう、元の世界には戻れませんって! あなたは何を聞いていたんですか」


「ん、そういう話だったか……? じゃあ、ここに住み着いてもいいのか? 悪いんじゃないかな。あ、そういえば身体、戻して」


「んーと……、好きなだけ居ていいですよ。ただ、身体のほうがちょっと……」


「そうか! ありがとね! 身体の方は、ウン、いいよいいよ、今じゃなくても、あとでで」



私は、これからもしばらく、この真っ白な空間の世話になった。

長らく独り身だった私には、親切に話しかけてくれる人が、一人いるだけでも、人生に対する生きがいのようなもの、大きく違った。



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◆重い腰を上げ異世界へ


「さて、と……、そろそろ、今後の話をしてもよろしいでしょうか?」


と、ゴッドマザー。


「そろそろだと私も思っていたが、やはり追い出されるのか?」


「追い出す、と……、ええ、そう思われても仕方ありません」


「そうか」


「いつかは、あなたを異世界に送らなければなりません」


「そうかー」


「その世界で、あなたは魔王ノロとして生きることになります」


「いや、何で?」


「え、どこか、ご不審な点でも?」


「私が生まれるのは、もしやゲームの中なのか?」


「いえ、そうじゃありませんが、あなたもご存知のように、送り先の異世界というのは、テレビゲーム的システムが取り入れられているものが多く――」


ゴッドマザー様の説明が始まってしまったが、私には馬耳東風だ。あいにく、良質な頭を持っていない。


「ゲームね。ゲーム……。分かった。それは、分かった。だが、残念ながら、私の親しむゲームは、兵器でドンパチやるタイプのものばかりだったのだ。ファンタジー系となると、とんと、知らない」


「な、なんということでしょう……。ファンタジーなゲームは、予習なされなかったのですか?」


「ファンタジーゲームが、神から送られた教材だとは、夢にも思わなかったからな……」


   *


ゴッドマザーは、心配してくださるのか、まくしたてるように説明してきた。


「おそらく、魔王として生まれるからには勇者が襲ってくると思います。それに魔物とか魔法もあるでしょう。ですが、銃器には期待しないことです。おそらくメインは剣と魔法です。もちろん、物理法則その他も、今までとは全く違うと考えておきましょう。どのようになるかはわかりませんが――」


「ん? ちょっとまってくれ、ゴッドマザー。君は、その世界のことを、知らないような言い方だな」


「……はい。私はあくまで仲介者なので。だいたいのことしか、わかりません」


「なんということだ……。誰か、もっとよく知っている人をよこしてくれないか? つまり、その世界の専門家というか、その類を。知らない世界に放り込まれて生きるなんて、御免だよ?」


「申し訳ないのですが……私には、どうしようも……。すみません。送り出しを先延ばしにすることは、できましたが、それももう、限界のようで、いずれは、あなたを送り出すことを、避けようがございません」


ゴッドマザーは、涙をポロポロ流す。それが神業な演技なのか真心なのかは、推し量れない。


「分かった! もう良い。送り出してくれ。どちらにしろ、ここに居続けても、やがて飽きがくる。新しい世界があるなら、旅立とう」


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◆チートは?援助は?


「そういえば、こういう場合にお決まりな『チート』については、お尋ねにならないのですね?」


「チート? ……というと、麻雀の役に、そんなのがあったか?」


「いいえ、全然関係ありません。ここでいうチートとは、転生者・転移者に与えられる破格の能力のことです」


「具体的に言ってくれ。どういうものなんだ?」


「たとえば……ですね」


ゴッドマザーは、異世界モノの本を一冊、ひもときながら読み上げる。


「光学迷彩とか――」


「高額明細? そんなものをもらってどうする」


「あの、不可視化する能力のことですよ?」


「な~る。そちらの明細か。技術費が高くつきそうだ」


「あとは成長速度を何百倍にもする力が、目につきますね」


「んで、肝心なことは、私の事例でも、そのイカサマ能力は、授けてくれるのか、ということだが――?」


「残念ながら……、私には何も、与えられるものがありません」


「ん……、そうか。なら、この本たちに書かれてあるチートとは、いったい何だったのだ?」


「ワタクシ、ゴッドマザーとは、違う上位の存在について、書かれたものだと思います。あくまで私の場合には、チートを授けるというような力はございませんが、他の世界軸・他の位相からならば――」


「世界軸? 位相? 何~だか話が小難しくなってきたぞ。だから、もう、その説明は、いい。」


「――ですけれども、ノロさん。あまり心配しないでください」


「ん――なぜだ?」


「あなたの前世での、積み重ねた忍耐が、そのまま、今の貴方の力になります」


「それは……良いことなのか? 苦しみぬいた人間が報われるのは、来世、ということか? ちょっと哀しい」


「…………。それと、お体のことになりますが」


「身体? 別にどこも悪くはないが」


「いえ、その容姿についてです」


すっかり馴染んでしまっていたが、そういえば、身体を変えられたままだった。

見た目はゴッドマザーと同じ姿、すなわち少女。心は中年男性、すなわちオジサン。


「そうだ。戻してくれ」


「それについてですが、元の身体に戻しますと、元の持病まで引き込むことに――」


「あ、やっぱり、いい。このままで、いい」


「そうですね。それが良いですね」


「ちょっとまってくれ。他に替えの身体はないのか? スペアは。できれば歳は二十歳前後まで若くして、もちろん男性で、もちろん人間で――」


「残念ながら……ございません」


「本当に? あるけどお渡しできない、とか、その手の理由か?」


「いいえ。私が、まともに用意できるのが、この体だけなのです。それ以外にチャレンジはしましたが、うまくできなくて……」


「うまくできない、どんな感じなのか?」


「……つまり、奇形で病気持ちで短命でして」


「分かった、選択肢は単一のようだ。もう、これでいい」


「ご理解いただけましたか」


「いただいた」


   *


「旅立つにあたって、図々しいお願いを聞いてもらえないだろうか?」


「なんでしょう。私にできることなら」


「やはり世界に、ポンっと、放り出されるのは、至極、心もとない。心もとなさすぎる。おまけに、今の私は、見た目は少女ときている。襲われないか?」


「襲い、襲われるのも、世界の一面でございます。大丈夫です、その体は前世のあなたより丈夫です」


「…………そこでだ、旅立つ私に対し、少しばかりの物資をくださっても、良いのではないか、と思うのだが? 地図とか、携帯食とか、水筒とか、金とか……ブツブツ」


「それも……すみません、無理です。というのは、ここで仮に与えたとしても、異世界へ降ろす間に、何もかも消えてしまいます」


「それはそれで不思議現象だな。じゃあ、私は無一文どころか、裸一貫で放たれるわけか。全裸のオジサンじゃなく、全裸の少女なのだぞ? 襲ってくれと言っているようなもんじゃないか。初っ端からハードモードというわけか……、気を引き締めていかないと……」


私はため息をついた。


「あ、服は大丈夫です。一度だけ、生えてきますから」


「生える!? 服が!? 毛のように!? 生える!?」


「ええ……、たった一度だけですが。ですので、全裸にはならないかと。どちらにしろ、替えの服は、いずれ入手する必要がありますが」


「服が生える…………、それはいったい、どういう仕組なんだ? 私のいた世界で連想するのは……亀のコウラくらいなものだ」


「再三申し上げますが、今度の世界は、あなたのいた世界とは違う自然法則で動いておりますので」


「分かった。世界ふしぎ発見を地で見る感じで行くとしよう」

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