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アメリカ軍対怪獣戦艦ナガト

ん?なんだ?あんたは?


アメリカ合衆国政府の人間?


年金で一人暮らしをしているこの老人に何の用だ?


えっ?怪獣戦艦ナガト事件について聞きたい?


あれについては関わったアメリカ海軍軍人は一生口外しない宣誓書にサインさせられたんだぞ?


ワシもその一人だ。


あの事件についての詳細なデータはワシントンの国防省にでもあるだろう?


それを読めばいいだろ。


えっ?あの事件に関わった人間で今も生きているのはワシだけ?


生であの事件に関わった人間の話が聞きたい?


立ち話も何だ。家に入ってくれ。


そこに座ってくれ、コーヒーを淹れよう。


ん?ワシの生まれ故郷は、西海岸の港町なのに、何故海から遠い山奥の小屋に住んでいるのかって?


決まっている!


海から一歩でも遠く離れたいからだ!


海を見ると!


潮風の匂いがすると!


怪獣戦艦ナガトの悪夢を思い出すんだ!


今でもヤツがワシに襲いかかって来るんじゃないかと!


……すまん、驚かせたようだな。


とにかく、怪獣戦艦ナガト事件についての話をしよう。


あんたはどこまで知っているんだ?


そうだ。太平洋戦争で我がアメリカ合衆国が日本帝国を倒して、太平洋に平和が訪れた。


終戦の翌年1946年に、核兵器の艦船への威力を検証するため太平洋のビキニ環礁に約七十隻の艦船を集めて原爆実験が行われた。


我が合衆国海軍の余剰艦・老朽艦、日本やドイツから接収した艦が集められた。


日本海軍の戦艦ナガトも、その中の一隻だった。


B29爆撃機からビキニ環礁に集められた艦船に向かって原爆が投下された。


核爆発でも沈没しなかった艦船が何隻かあったが、ナガトはその一隻だった。


ところが日が暮れて、夜が明けると、奇妙な現象が起きていた。


ナガトが動いていたんだ。


もちろん、ナガトは無人で動かす人間はいない。


それを見た一部の将兵は「戦死した日本海軍軍人の幽霊がうごかしているんだ!」なんてオカルトめいたことを言い出すヤツもいたが事実は単純だった。


ナガトの下に巨大な生物がいた。


海中にいるので正確な姿は分からなかったが、ナガトと同じくらいの大きさの巨大な亀やワニのような生き物だった。


その巨大生物の背中にナガトが載っていたのだ。


そんな巨大生物は誰も見たことが無かったが、事件が終わった後に生物学者が「深海で生息していた未発見の生物が核爆発の影響で水面下まで浮き上がったのではないか?」と推測していたな。


その巨大生物……誰が言い出したかは分からんが、「怪獣戦艦ナガト」なんて呼ばれ出したのは、原爆実験のためにいた我がアメリカ海軍艦船にいきなり襲いかかった。


怪獣戦艦ナガトは巨大な顎に鋭い牙を持っており、駆逐艦を簡単に噛み切ってしまった。


しかも、ヤツは海に放り出された水兵を食っていた!


戦場で仲間が戦死するのは何度も見たが、「食い殺される」のを見るのは誰もが初めてだった。


少しパニックになりながらも我が合衆国海軍艦船は、怪獣戦艦ナガトを攻撃した。


最初は皆は楽観していた。


巨大であるが、ただの生き物だ。軍艦が本気で攻撃すれば簡単に倒せるだろうとな。


ところが、巡洋艦の砲撃にヤツは平然としていた。


ヤツの皮膚は戦艦の装甲以上に頑丈らしかった。


駆逐艦が魚雷攻撃をしたが結果は同じだった。


しかもヤツは「砲撃」で反撃してきたんだ。


どうやら、ヤツは、こちらの軍艦の砲撃を見て「学習」したらしく、ヤツの頑丈な皮膚の一部を背中にあるナガトの砲身を通して発射したんだ。


ナガトの砲身を通すことで戦艦並みの射程距離を得て、しかもヤツの皮膚からできた砲弾は炸薬は詰まっていないが、後の分析によると「地球上のあらゆる物質で最高の硬度」だった。


ヤツと対峙した我が合衆国艦船はことごとくが沈められてしまった。


怪獣戦艦ナガトを倒すために、とうとう原子爆弾の使用が上層部で決断された。


B29から高高度で投下される原爆には耐えられないだろうと思われたのだ。


だが、またもや、予想外のことが起こった。


怪獣戦艦ナガトの砲弾により高高度を飛ぶB29が撃墜されたのだ。


ヤツの砲撃は、ナガトの射程距離より遥かに長かった。


最期の手段として、ありったけの戦艦が投入された。


最新のアイオワ級戦艦から旧式化して退役間近のコロラド級戦艦まで、整備中の艦以外すべての十六インチ砲戦艦が参戦した。


各艦は試作品の核砲弾が配備された。


作戦は戦艦部隊が通常弾で砲撃しつつ怪獣戦艦ナガトに接近して、必中距離になったら核砲弾でとどめを刺すというものだった。


結果は……、悲惨なものだった。


我が戦艦の射的距離に入る前に怪獣戦艦ナガトの砲撃により、次々と戦艦が沈められていった。


皮肉なことに日本海軍が滅び去った後に、彼らが計画した「アウトレンジ砲撃」で、合衆国戦艦部隊が沈められたのだ。


最後に残ったのはワシが乗っていた「ミズーリ」一隻だけだった。


「ミズーリ」は怪獣戦艦ナガトに核砲弾を命中させることに成功、ヤツを倒した。


だが、ヤツが最後に放った砲弾も「ミズーリ」に命中、「ミズーリ」は轟沈した。


ワシは海に放り出されたが、奇跡的に救助された。


ワシが「ミズーリ」唯一の生き残りだった。


それからずっとワシが山奥の小屋に住んでいる理由は、さっき言った。


ハワイの記念艦「ミズーリ」は、本当は整備中だった他のアイオワ級だ。


対日戦勝利の象徴の艦が失われた理由を公表できないから、そんなことをしてまで隠蔽したんだ。


それなのに、なぜ、今更ワシに話を聞きに……。


……まさか、ヤツが実は生きていたのか!?


なに?最近の海中調査で、ヤツの死体が発見された。


それなら何も問題は無いでは……。


ん?あんた人間じゃないな?


遠隔操作されている人間そっくりのロボット……アンドロイドか?


そうか、合衆国政府は、ワシの正体に気づいたのか。


そうだ。ワシは怪獣戦艦ナガトの「魂」と言うべき者だ。


怪獣戦艦ナガトだった肉体が死んだ時、死んだばかりだったこの水兵に「魂」を移した。


人間の社会は分からないことばかりだったからな。


怪しまれないように人里離れた山奥に住むことにした。


ワシは、どういう生き物なのかって?


あんたら人間だって、正確に自分が、どういう生き物なのか知らないだろう?


ワシは生まれた時から「魂」だけの生き物で、死んだばかりの他の生き物に「魂」を移すことで数万年は生きてきた。


あの時、合衆国海軍を攻撃したのは、海中を漂っている時に、いきなり原爆の爆発を受けたからな。


驚いて怖くて反撃しただけだ。


人間の社会でいう「正当防衛」だ。


海に投げ出された水兵を食べたのだって、人間が牛や豚を食べるのと同じことだ。


今のワシは無力な年老いた人間の肉体しか持たない。


何の用なんだ?


えっ!?宇宙開発に協力して欲しい?


この肉体が死んだらモルモットに「魂」を移して宇宙船に乗って欲しいだと?


なるほど、モルモットなら人間の宇宙飛行士にくらべて、酸素も食糧も水も遥かに少なくてすむ。


ワシが「魂」を移したモルモットとは意志疎通が可能だからな。


長期間遠距離の宇宙探査が可能にになるわけだ。


分かった協力しよう。


地球にいるのは飽きてきたところだ。


だが、ワシが宇宙で巨大生命体に出会ったら、宇宙怪獣になって地球を襲うかもしれんぞ?


もちろん、冗談だ。

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[一言] この巨大怪獣という前例が確認された以上、世界中で怪獣対策が勧められてゴジ○やパシフィッ○・リムみたいな世界になっていそうですなぁこちらww 終戦から100年も立たず、人間そっくりなアンドロ…
[良い点]  原爆実験の長門+怪物という発想。 [一言]  今回も参加ありがとうございます。そして、斬新な発想に驚かされるとともに面白かったです。
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