第2話 ノーベル賞を忌む男
僕の兄は大学院に通っている。「人類のために」という高い志を持って研究している、のだろうと思う。中央にある兄の大学の教授が2年連続で科学分野のノーベル賞を受賞した。兄はそのうちの一人の研究室に入っているという。兄とは10歳年齢が離れており、僕は今はまだ高校生でしかない。ちなみに、兄は奨学金の貸与期間は過ぎてしまった。
それは突然やってきた。母親がうつ病になり、家事もできない状態になってしまったのだ。父親は仕事が忙しく、必然、家事全般は僕の役割となった。兄にはメールで現状を相談したりはしてみた。僕と兄はまあ、そこそこ普通の仲の兄弟だと思っていたのだけれども、一度意見を間違えば、一度立場を違えれば、互いに恨み憎みあうようになってしまった。いや。兄から恨まれるいわれはない。そもそも兄は、実家を避けるようになった。'忙しくて、帰れない'という。父親は最初のうちは兄の言うことももっともだと納得した様子だったけれども、今では、働いてる自分よりも無職の学生の方が忙しくてえらいのか、と我が息子だということを棚に上げて厳しい表情をしている。僕は、母親や家の現状を見て、行ける大学の範囲がかなり狭まった、と正直に感じている。地元の大学、しかないのだろう。
別にそれならそれでいい。そもそも僕が地元の大学に合格できるか、という問題もあるし。
ただ、兄の目標がノーベル賞だと想像すると、やたらと唾が出てくる。




