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失われ得たもの

静寂・・・


バリ!・・・バリバリバリバリ


薄い卵の皮を内側から裂き拡げるような音がその静寂を破る。

地獄の底、ジュデッカは漆黒の闇と静寂を取り戻していた。

闇の中、中空にある黒い球体。その中からまばゆく光る一糸まとわぬ裸の男が出てくる。

「・・・静けさが戻ったか。悪魔の姿がどこにもない・・・」

球体に振り返り裂けたその球体の殻に手をかざし、その手が男の放つ光とは

違う色をした光を帯びる。その光がその球体を包み込むと・・・。

「うぐ!あ。あぁ・・・聖様・・・」

球体は裂けた部分に痛みを感じたのか苦痛の声を上げたとたんに目覚める。

球体は大きな布をひるがえすように舞い、先ほど男の隣にいた悪魔の姿に戻った。

「わたし・・・死んでましたか?」

「そのようだな。反応がなかったから強引に出させてもらった。悪かったな」

「・・・もったいないお言葉、こちらこそ申し訳ありませんでした。

まさかあれほどの清き光が突然襲ってくるとは・・・」

「あの天使の仕業か?」

「それはありません。あの天使の魔力は既に限界でした。

・・・考えられない事ではありますがもしかしたらユダの仕業かと・・・」

「・・・根拠は?」

「はい、その前に・・・ルキフグス!いつまでそこにいるつもりだ!」

叫ぶ悪魔の声を聞き上空からゆっくりと先ほど男のもう傍らにいた悪魔が降りてきた。

「いやはや、ビックリしましたね~。まさか地獄であんな強い命の光を浴びる事になるとは・・・」

「命の光とは?」

「はい、我々、悪魔ならびに天使を含めて持つ魔力とは異なる別の性質を持つ魔力です。

我々に命はありません。命は人間にしかないもので、その命を燃やす事で輝かせる光の事です」

「人間の使う魔力なのか?」

「いえ、人間は魔力を使いません。我々の存在そのものが夢想妄想の類である以上、

魔力もその域を出ません。それらを超越しているあなた様に話すことではないのでしょうが、

命の光はその人間の命を光に変えた際、あらゆる闇を吹き飛ばす力を発揮する魔力と位置づけて

表現した魔力です。だからあの光には天使の魔力は感じませんでした」

「で、ユダ。と?」

「ええ、しかしユダは神の子を裏切るほどの罪を犯した男。神に見放され追放された結果が

ここです。そのような男にあの力は・・・」

「それが自然な考え方だな。だが、現状起きた事はその考えを大きく否定している」

三人が論じる中で光を放つ男、聖は顔をサタンの口元、

先ほどまで悪魔たちが群がっていた方向へ向けた。

「・・・あ!」

「な、なんということだ・・・」

三人はあせったような早さサタンの口元に近づいた。何もない口元に・・・。

「消えている・・・あの天使が消したのか?」

「そうとしか考えられないが天使がなぜに大罪人のユダを?」

「それよりどこに行ったのか?」

聖の最後の言葉に悪魔二人はそのことを考え出す。

球体だった悪魔は目を閉じた。

・・・もう一人の悪魔が少し間を空けて悪魔に聞いた。

「ベルゼバブ様、いかがでした?」

「・・・魔界には感知しなかった。天界は聖様が隔離されている・・・となると・・・」

「・・・外(人間界)ですかね?やっぱり」

「やっぱり?」

聖がベルゼバブではない悪魔に問う。

「なんとなく変な予感があったんですよ。あの天使、必死にユダを呼んでたとき、

私は何のためか?を考えていました。聖様に隔離された天界を救うためなのか?

しかしあんな男にそんな力があるとは思えない」

「あの光を放つほどの力はあったようだがな」

「まぁ・・・そうなんですが・・・でもあの力すら聖様には届かなかった」

「ルキフグス。少しは慎め」

ベルゼバブが諫める。

「んん゛っ。要するに天使は、ユダを逃がすために遣わされたのかもしれない。

と私は考えるわけです。

天界は聖様の結論には反対でした。そのために隔離され力を失いました。

全ての打つ手をなくす前に天界が何かを起こしたとしたら・・・」

「あの男か・・・」

「考えられない事だ、が、今に起きている事態を鑑みると・・・」

「なるほど、天界の一手ということか・・・なかなかに賢しい(ざかしい)が、それでも

なにをしようが私は変わらない・・・」

「・・・。」

「・・・。」

「どの道ユダがどこにいようが天使がどうなろうが関係ない。魔界を人間の世界に下ろす。

それが私の目的だ」

聖の言葉を聞きながらもあたりを見渡すルキフグス。

すると自分たちの傍らにまるで水中に浮かぶ何かの残骸のように

浮かび残っている何かを発見する。そしてそれを把握して驚いた。

「ベルゼバブ様、聖様!これを」

「どうし・・・これは」

驚く二人をよそに聖が上へと浮かびだした。

「天使の残骸だろう。どうでもいい。そろそろ私はことを急ぐ。この場の後処理はお前たちに任せる。

私はサタンの内に入りサタンに魔界の承諾を得た後、その足で人間界に最後の仕上げをしにいく。

ここに戻る事はない。いいな」

「は、はぁ・・・しかしこれは」

「まかせる。と言った。まだ何か言う事は?」

「う・・・いえ・・・」

聖は二人とは違う方向に向かいながらルキフグスを見た。

ルキフグスはその視線だけに圧倒され言葉を消した。

聖はサタンの正面の顔(ユダをくわえていた顔)の額の位置にあがり、手をその額にかざす。

手に帯びた光がサタンの額ににじむ様に広がる。

その光は強くなり聖の体を包み込んで・・・そして聖もろとも消えた。

「・・・行ってしまわれたか。まぁあの方の目的はどうあれ、我々に「好きにしろ」

と、おっしゃる真意、わからなくもない。が、我々は人間より生まれた身、

人間が滅びれば我々も滅びる。その人間を我々が滅ぼせると思っているのか・・・?」

「星の意思たるあの方も人間、いや生命を作った時同じ様に考えたでしょう。

自分が生きるために作った生命がよもや自分を殺すために生きていようとは・・・と」

「あの方には我々がどういう形で人間に関知しようが最終的にはどうなるのか、

その結末が見えておいでなのだろう・・・」

「・・・しかし・・・ユダ・・・か。どういう経緯で人間界へ移動できたのでしょうね・・・?」

「それを知る術があるとすれば人間界へ行った時直接本人に聞けばよかろう・・・。

それに・・・あの男はいく年月が流れようと神を裏切った大罪人。あの男はサタン様の牙が

ふさわしい。このサタン様の顔も口さびしく思われているようだ」

「・・・そうですね・・・しかし、この天使の残骸・・・悪魔に襲われた中で

こうなったんでしょうが命の光にも形を残しているとは・・・」

「うむ、悪魔は全て消し飛んだが天使は残った。この結果だけでも

天界の性質に近い力だったのはわかる。ただこの天使の中身はどこへいったのか・・・?」

「ええ、我々悪魔や天使は肉体を形成維持できなくなると、それぞれの世界の地下に中枢意識が

転移され、そこで肉体を形成するまで封印される。魔界は魔界、天界は天界」

「だが天界は聖様が隔離した。そのため外部からの力も遮断されているはず・・・」

「その場合、肉体が崩壊してもその中枢意識はその空間に漂うだけ。

そしていつしかその空間に溶ける」

「溶けた形跡はない・・・となると・・・」

「・・・。」

「ベルゼバブ様、またなにかしら変な予感がしてきました・・・」

「・・・。」

「ユダは」

「ルキフグス、慎め・・・。我々はサタン様に付き従えばいい。聖様はただ、

我々を導いてくださっているだけに過ぎない。あの方がどれほどのお方であれ、

そんな事は関係ない。あの方が「好きにしろ」と言う以上、サタン様もそうするだろう」

「・・・はい」

なにかを言いかけたルキフグスを遮るようにしゃべるベルゼバブ。

考えている事がわかったルキフグスは返事を返した。

「ただ・・・事をやり易くするために、摘めるものは摘んでいてもいいだろう・・・」

「・・・はい!・・・ユダに関して下知を下しておきましょう」

跪く姿勢のルキフグス。言葉を残した直後に消えた。


静寂・・・。

その静寂ににじむような声が聞こえる。ベルゼバブが肩を震わせながらつぶやいている。

「・・・いよいよだ・・・人間の世界に・・・我ら悪魔の牙をつきたてる日が来る。

邪魔な神々はいない・・・「好きにしよう」じゃないか・・・ふふ・・・ふはははははは!」

声は徐々に大きくなり、高揚する気持ちを押さえる事もせず高ぶりに身を任せ笑うベルゼバブ。

その笑い声に地獄そのものまで震えだす。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・ゴシャゴシャゴシャ・・・


地獄が、魔界が喜びに打ち震えている。

人間の世に破滅を・・・星の旅に終わりを告げるために・・・。

天使の一滴の起こした奇跡はユダに何を求めるのか・・・?

時はあらゆる問いを包みながらただ静かに流れてゆく・・・。

                                ーユダ復活編  完ー

ユダ復活編(今つけましたww)はこれでとりあえず完結です。

星の意思という人間、聖。神の子キリストを裏切った男ユダ。

悪魔に瀕死の体にされ、その悪魔に人間とは?と問われた軍人スミス。

この三人が今後のキーマンになります。

もっともっとキャラも増え、様々な宗教が出てきますが

それらはある程度の知識の中でだけでやってますので

矛盾もあるかもしれませんが、そこは笑って読んでやってください。

よろしくお願いします。

※完 とは書きましたがこのまま続けます。

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