輝く地獄
ジュデッカ・・・そこは地獄の最下層。
ユダの国と呼ばれ、悪魔大王「サタン」の治める場所。
人類史上最大の罪、神を裏切った男「イスカリオテのユダ」に永遠の罰を与え続ける場所。
そのジュデッカで一人の天使が、これから苦痛の限りを尽くされ死を迎えようとしている。
巨大なサタンの3つある頭部にしてその中央の口元、そこに歯噛みされ続ける男。
「イスカリオテのユダ」、その男の手を握りながら必死に呼びかける天使。
それを取り囲む悪魔の軍団。その少し上に天使以上に輝きを放つ男とその両端に異形ながら
他の悪魔にはない威圧感を持った悪魔が構えている。
左の悪魔が光る男を見る。
「これ以上は時間の無駄だろう。何をしているのかは解からないが、知る必要もなかろう」
「・・・では」
そういって顔の向きを戻し左手を上げその振り下ろしを合図に
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ジュデッカを揺らすかのような怒号が響き渡るや悪魔の軍団がたったひとりの天使に襲い掛かる。
天使もその怒号には驚いたがすぐさまユダに向き直りより強くユダに叫びかける。
その前からも
「ユダ!もう一度、もう一度握り返しなさい!あなたは彼の方に会わねばなりません!」
「ユダ!なぜです?あなたは気づいているのでしょう?早くあの方の名を叫ぶのです!」
何度も、どれほども強くどれだけ汚物にまみれようと・・・。
自分が守護すべき主を裏切った男の手を握り叫び続けても、その男はそれっきり、
動くことはなかった。天使にはわからなかった。あの一瞬の握り返された力はなんだったのか?
気のせい?絶望の中に見えた偶然が期待に見えただけ?
天使の心はまた揺らぎ始める。その直後。
ガバ!
「がひゃひゃひゃひゃ!捕まえたぁ~!食わせろ~!」
「待て待て待て~こんないい女~まずはだなぁ~・・・」
「裂く!ちぎるぅ~!早く泣き叫べよぉ~!!」
悪魔たちが天使に掴みかかった。
「ああ、く!」
天使は自らをさらに光り輝かせる。天使特有の魔力の光を悪魔に攻撃として使う技である。
触れていた悪魔は消し飛んだがそれ以上の悪魔たちが天使に襲い掛かり意味をなさない。
幾度悪魔を消し飛ばしても悪魔たちはまるで限りがないかのように次から次へと襲い掛かってくる。
なにより天使の体力も地獄で彷徨い続けて立ち向かえるような体力はなく、
そもそも、もう天使にそこを生き残ったところで帰る場所などなかった。
ということを天使は知っていた。
とうとう魔力もつき天使の自分の発する光も弱弱しくなって・・・捕まってしまった。
四肢を握られそれぞれの方向に凄まじい力で引っ張られる・・・いや、片腕、左手だけはまだ
ユダを握っていた。
握られた腕や足に毒混じりの悪魔のツメが食い込む。無防備となった両足の中央に不快な悪魔の
棒が突き刺さる。苦痛と陵辱の宴・・・いや処刑が始まった。
激痛と絶望が天使を覆い始める。
『主よ・・・ああ、なぜ私はこんなところで・・・ユダ・・・』
頭部を嘗め回されながら、咬まれながら天使はユダを見つめる事ができた。
悪魔に遮られもう何も見えなかった天使の視線の先に偶然隙間が開き、
その先に天使のわずかな光に照らされたユダが見えた。
足を噛み切られ、激痛の中、気づかなかったが天使の胴は既にちぎられていた。
それでも悪魔たちはそれぞれの天使の体に群がり、しゃぶりつくし、切り裂き続け、陵辱し続ける。
天使の意識も薄れていく、その中でユダを見つめる天使。
ユダは力なくうな垂れているだけ。それでも離さなかった天使の左手。
『ユダ・・・私の最期に見るのがあなたとは・・・ああ、主よ、申し訳ありません・・・』
まるで懺悔のように天使はもう力入らぬ力で口を動かす。
ユダを見つめていたその視線を悪魔の咥内が
天使の顔を完全に咥えて閉ざす。その時だった。
「わが師・・・キリスト・・・」
ギュバッ!!!
閃光、いや、突然強烈な光がユダの左手から放たれる。
その光はとどまる事を知らず強くなるばかり。光に気づいた悪魔たちはユダを見ようとするが
その時には消し飛んでいた。天使の顔を加えていた悪魔も消え、天使のずたずたになって崩れた
顔がその光に包まれる。
「暖かい・・・この光は・・・ユ・・・」
悪魔の唾液や汁にまみれた天使の顔はそれらの汚物は消え傷もたちどころになくなり
端正な美貌を取り戻していたが、意識はそのまま沈んでいく。助からなかったようだ。
だが、天使はその光に満ちたユダを目にし、自分が来た本当の意味を成したのだ。
と満足げに微笑んで目を閉じた。
悪魔がサタンの口元に巨大な団子状に群がっているのを見ながら、その異変に気づいたのは
左脇の男だった。
「ん?なにかおかしい・・・」
「ベルゼバブ、どうかしたか?」
真ん中の光る男が左の男に問う。
「はい・・・サタンさまの口の動きが完全に止まって・・・これは・・・!」
そういいながらまるで光る男を覆い隠すように突然ベルゼバブは
巨大な幕のようになり光る男を包んだ。
その次の瞬間、団子状の悪魔たちの隙間から強烈な光が漏れ始める。光のすじは増え続け
全ての悪魔が消し飛んだとたん、その光はジュデッカの全てを照らす。
ベルゼバブの男を包み込んだ黒い球体もその光にさらに包まれた。
もう一人いた男はわからない。
強烈な光にジュデッカを超えコキュートス全てを光に包み始める。
トロメアと呼ばれるジュデッカのそばの国、カイーナと呼ばれる国、アンテノラと呼ばれる国。
それぞれにまで光が届いた。
「・・・へぇ・・・ジュデッカが輝いてらぁ・・・あの天使かな?それか聖って野郎か?
ん~・・・こりゃ天使のほうだな。強くてキツい光だがどことなく優しい感じだ。
なんか・・・これから予想より面白くなりそうだな、はは。俺も外に出てみようかな~!」
カイーナという国に黒い長髪の悪魔がその下から上る光を見て独り言を言っていた。
多くの地獄の罪人たち、悪魔たちもまたそのジュデッカからの光を見た。
光に包まれたジュデッカはどうなったのか?
悪魔を統べていたベルゼバブと男は?
ユダはどうなったのか?
しばらくして光は、まるで光源をそのまま隠すかのように消えた。答えはその先にある・・・。
今回ちょっとアダルトな表現があります。ご了承ください。
だって悪魔だもん!しかたないよね!?
ジュデッカ編はもうちょっと続きます。