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目覚めた男

とある海岸線・・・。

テトラポット郡のくぼみに人間が挟まっていた。

東の空が暗い。夜のように暗いがこの街の時刻は昼過ぎ。

海岸線沿いの道路を行き交う車はまばら。人通りも少なく建物らしきもない完全に道路である。

所々でその暗い空の方角を見る人々が道路沿いを通る際立ち止まっている。

一人の少年が

「あ!おじいちゃん!人がいる!人がいるよ!ほら!あそこあそこ!」

老人と散歩に来ていた金髪の少年がテトラポットに挟まった男を見つける。

少年はガードレールを飛び越えると安全な足場を探しながらひょいひょいと

テトラポットを飛び越えてゆく。結構な距離があった。少年を危ないからやめるように言う

人々の声も上がった。おじいちゃんも呼んでいる。

途中少年もあまり好きではない船虫にも出会った。

しかし少年の足は挟まっている男に近づくのをやめなかった。

幼い正義感?ただの興味?定かではないが少年はなぜか足を止めない。

着いた。まるでそこに立てと言わんばかりに少年が男を支え起こせるような足場が

テトラポットの組み方で出来ていた。そこに立つ少年はそこで初めてまざまざと男を見る。

テトラポットの突起部分にかろうじて支えられてるように横たわる男。全裸である。

しかし体の全身に所々黒い斑点。細長いものもあれば太いものもある。少年の距離で見ると

歯型、に見えるかもしれない。が、少年はそれを歯型と認識することはなかった。

少年は考えている。いざここまで来たはいいものの、この男性は大人である。見た感じ生きている。

が、大怪我をしてるように見える。でもなぜか重傷のように思えない。でも起きる気配はない。

起こして運ぶにも重そうだ。大人を呼んでこようか・・・?そうしよう!その前に

一声かけてからにしよう。

少年「・・・あの~・・・もしもし?」

男「・・・。」

気づかない。近づいてみる。

少年「もしも~し」

男「・・・。」

気づかない。手を伸ばしてみる。その瞬間、少年の背筋にゾクっとくる冷たい感覚が起こる。

男の挟まっているテトラポットの影に獣のような影が瞳を輝かせていた。

目が合う少年と獣。波の届いていない位置に獣が潜んでいた。

男は獣の獲物をおびき寄せる餌だったのか?伸ばした手を引っ込められない少年。

目を合わせて完全に凍り付いてしまった。動けない。獣はゆっくり出てくる。目を離すことはない。

魔力というのか少年は何もできなくなっている。悲鳴すら上げられない。その獣が出てくる。

この辺の町にする少年の頭では思いつかない獣だった。

その国は別段先進国ではない。しかし、様々な宗教を作り上げたある都市を有する国だった。

その片田舎ではあれこの少年は普通に生活していた。先日凄まじい地震があり、大人たちはいろいろ

騒いでいたが、少年はよくわかっていない。この日もおじいちゃんと海岸を散歩に出かけ、

昨日からずっと暗いと言われている東側の空を見物に来ていただけだった。

ただ暗いだけだった空を見て帰るだけだった少年に挟まっていた男は興味をそそるに十分だった。

ただそれだけ、ただそれだけだったのに少年はこれから獣に命を食われようとしていた。

獣はテトラポットの支柱をゆっくりと登ってくる。目は離さない。

狼?狼なんてこの町にはいない。少年は知っていた。大きな犬。それもひどく大きい。

自分と同じような大きさ。テトラポット群の陰か誰にもこの光景は届いていない。

少年を探しに大人たちの声が遠くで聞こえる。少年の耳にも聞こえている。

少年は心の中で少し安心した。自分は一直線に男の場所に来た。大人たちも

止めるように叫びながら見ていたはずだ。ここに来て助けてくれる。そう思った。

「・・・今、助かると思ったな?」

少年は驚いた!!声が聞こえた。今も気づかない全裸の男の声ではない。なぜか目が離せない、

体も動かせない目の前に迫る獣からだった。少年は8歳くらいだが、獣が喋らない

ということは理解できる。しかし目の前の獣は声をかけてきた。

獣「理解しなくていい・・・もうじき、もうじき食ってやる・・・。

せっかくユダを見つけ俺の手柄として食い殺すつもりだったのに・・・。

まさかこんな汚れた男にあれほどの光があったとは・・・。

体が動かなかったがじきに痺れも取れる・・・。

ここのこいつを知ってるのは俺だけだ。しがない魔獣の俺様が・・・クックック!

力を蓄えた上でこのユダを食って仕留めれば大手柄だ!!だがまだ力がない・・・。

ここに潜んでこのガキのように釣られた餌を食いながら力を蓄えなければ・・・。

ガキ・・・お前は幸せだぞ・・・?これからの地獄を知ることなく死ねるんだからへへへ。

大人にはこの乱立する石柱大変そうだな。お前はもう食ってやろう」

喋りながら近づいてきた獣。少年のズボンはビシャビシャになっている。

それでも目が離せない上に体も動かせない。声も上げられない少年は目の前に迫る獣の牙より、

男のことをふいに考えだした。

少年の心の声を表現するのはむつかしい。助かりたい声。死にたくない声。

なんでこんなことになっているのか?という声。まとめ方を知らない子供らしい叫びが頭の中で

ひしめいている。しかし、その中で獣の牙が少年に迫るその直前。不思議と少年の心は男に向けられた。

少年は恐怖で動かなかった体を、一瞬沸き起こった男への意識に向けるかのように

恐怖の呪縛を払いのけ、伸ばしていた手をより伸ばし、男から伸びていた左手を掴んだ。

獣もその少年の変化を見逃さなかった。睨みをきかせ完全に少年に恐怖を植えつけ

自由を封じたつもりであとは自分の牙を少年の柔らかそうな体につきたて肉を味わうだけ。

そう思いながら近づいた途中、少年の絶望的な泣き顔が一瞬変化した。何かを思い出したような顔。

肉への牙の感触を妄想していた獣はその変化の瞬間に遅れを取った。

口をより開きあと2歩半くらいでかぶりつける所まで見て少年を見たとき、

少年は自分の牙でなく男に目を向けていた。獣は一気に距離をつめその牙を

少年の頭を食いちぎるつもりで振り下ろした!


ビカァァッ!!


音なき閃光がテトラポットの中から起こる。まだ昼過ぎ。その町の東の空以外晴天である。

その光量以上の光がさっき少年が向かった場所から起こった。

大人たちはゆっくり足場を確認しながら向かっていたがまだそこまで距離があった。

がその光を確認した途端その動きが慌ただしく早くなる。

「タ、タラン~!!タラン~!!」

「ダンさん、大丈夫、大丈夫だから!すぐ保護しますから待っててください!」

海岸線の道路の場所に老人の心配する姿を、子供がガードレールを飛び越えたのを見た

大人たちが数人集まっていた。老人は子供の名を叫ぶ、それをテトラポットを飛び越えながら

待ってるように叫ぶ大人。何が起こっているのかそこにいる数人全員不安を感じていた。


「・・・ガ・・・カ、カ・・・」

少年は咄嗟に男の左手首を掴むや発泡スチロールの人形を引っ張るように手応えなく引っ張り込んだ。

大人を引っ張るつもりで力を込めた。子供とはいえ勢いはつく。すごい勢いで後ろに飛ぶ少年と男。

しかしそれを逃がさない!とでも言うように襲いかかる獣の牙だったが、

牙の届いた先は少年を庇うようにかぶさってきた男の背中。

人間の全裸の男の背中なのに、獣の牙は鏡に反射されるように弾かれ真後ろに飛んだ。

石柱群がなければ高く飛んでいただろうが石柱に叩きつけられさらに強烈な光をまともに受け

獣は痺れながら悶えていた。

「はあ、はあ、はあ・・・」

少年は男を抱えるように腰を抜かしている。獣に目を向ける。獣はしばらく動けないだろう。

それはわかる。今なら逃げられる。足の感覚、体も自由に動く、立ってここから出よう。

この光ってる軽い人を持って・・・。

そう決めた少年だったが、男の体はそれまでその閃光が起こってから淡く光っていた。

その間軽かったのだが、光が徐々に小さくなり完全に消えたとたん。ガクンと重くなった。

子供では支えることはおろか抱えられるわけがない。

「うわあ!お、重い~!!」

大きな声で少年は叫んだ。その叫びを聞いた大人たち。あと数メートルというところだ。

「お~いタランく~ん!大丈夫か~!怪我してないか~?」

「あ!は、は~い!」

「動けるか~?もう戻っておいで~!」

「ちょっとこっちに来てくださ~い!」

「どうした~?何かあったのか~?」

「早く早く!すごいのが・・・あ!!」

少年は自分のズボンの状態、全裸の男を抱えていることを気にせず大人たちが

近づいてくることに安堵して大人たちを呼んだ。全裸の男を運んで欲しいことや

珍しい獣がいることを知らせようと、獣の方を見た時だった。

「・・・人が、近づいてくる・・・あいつらを食えば・・・まだ、まだ・・・」

「あ、あ・・・ダメ!ダメー!来ちゃダメー!!来ないでいい!来ないでいいよー!」

「ガアアァァッ!!うるせえガキー!!余計なこと言うなぁ!!」

少年の慌てた声の直後、聞きなれない大人でも肝を冷やさんばかりの怒号が聞こえた。

少年一人だと思っていた大人たち。怒号は少年に向けられている。一刻も早く向かわなければ。

そう思う全員の足がその怒号に怯え足が止まってしまった。

『なんだ?タランだけじゃないのか?何がいるんだ・・・?』

『今のは人か?人の声なのか・・・?どうすればいいんだ?』

大人たちは混乱している。まだ少年の姿は視界に入らない。テトラポットの乱立。

影形も見えない位置。彼らにはそれが幸いなのかもしれない。獣は痺れる体を起こしながら

ゆっくり後ろ足で立ち上がる。少年にはもう恐怖心はない。なぜかわからないが少年はあの光の中で

この男を守ってほしいという声を聞いた気がした。声の主はわからない。

しかし少年の小さな体にその声が大きな使命感と勇気を与えた。少年は逃げ切ることができる

確信があった。獣にもう威圧する力はないのが解っているからだ。この獣は悪いやつだ。

悪魔というものなんだ。まだこの世界に裁きが下り悪魔が現れたことを少年は知らない。

大人たちも世界的な核爆発事件があったことは知れ、それが悪魔の所業だということは知らない。

これから知るのだ。その手始めな出来事がまさにこれだった。だがそれに気づく者は誰一人いない。

少年はこの自分の空気をそう感じただけだった。悪魔からこの男を守らなければ。

少年はまだ大人たちに何とかしてもらえる気持ちでいる。その大人たちは怒号の恐怖に動けずにいるが、

だが自分ではどうにもならないことはそれ以上に知っているのだ。逃げ切ればいい。そう考えていた。

「ガ、ガキ・・・お前は必ず食ってやる・・・。その前に外の大人を食って力をつけてからだ・・・」

「え?」

「あれから少し時間があっただろ?それでも外の大人どもはなぜここに来ないかわかるか・・・?

俺様の怒号でビビってんだよクックック・・・。お前一人と思ってたところに

俺の怒号が聞こえてきたんだ。そりゃまぁびっくりするよな~。

タランというのか。お前のいた場所からここまでかなりの距離がある。

よくユダを見つけられたもんだな~。そいつがある限り今のお前は食えないが、

外の人間どもは別だ・・・。あいつらを食って力を戻したらゆっくりお前とユダを引き剥がして、

そのあとは・・・わかるよな~?クックック」

少年の、ユダと言われた男を抱きしめる手に力が入る。恐怖が舞い戻りかけてきた・・・。

自分には何もできない。外の大人たちも来てくれていない。自分が止めたは止めたが

子供が止めても大人が来ることは少年も経験上知っているが来ていないということは

この獣の言うことが正しいとわかる。どうしようもないのか?絶望の陰りが少年の顔に宿ってきた。

それを見て獣の表情にも笑顔が、体のしびれも薄まり始めてきた。

「くっくっく・・・その表情。それでいいんだ。これから先、人間は俺たち悪魔の餌だ!

それはもう決定づけられたお前ら人間の運命だ!お前らはそういう表情をしてビビりながら

食われればいい。これは裁きだ・・・俺はその一端。この一帯は俺が裁いてやるぞおお!!」

この一帯は、のくだりからは怒号に近い大きさで叫び周囲の人間はその叫びに凍りついた。

「やめろおおおお!!」

怒号の直後に聞こえてきたか細くも大きな力強い声。少年は力いっぱい叫んだ。

少年に根付いた使命感、勇気は消えてはいなかった。

獣は完全に体の痺れが無くなっているのを実感した。

いろいろとダメージはあるがユダという男の体はもう光ってはいない。

とっさの何かが原因だろうと考える獣だったがそれ以上に少年への怒りと空腹が心を支配した。

外を襲う前にやはり少年を食おう。そう判断した。二足で直立した獣の体はさらに肥大し始めた。

筋肉が、骨格が、獣のそれと明らかに変わりさしずめ狼男のような体躯に変わった。その身長は

ゆうに2mを超え、立っている場所からテトラポットの頭をを超え

その頭部は外側の大人たちにも目の当たりにできた。その視線を感じ大人たちを見る獣。

「ふぁ!・・・あ・・・」

睨まれただけで大人たちは言葉をなくし体を封じられ少年のようにズボンをびしょびしょにした。

そのさまを一瞥して少年に目を戻す。少年は獣を睨み返している。それを見て獣は

「ガキ・・・そのユダから勇気でももらったようだが・・・引き剥がしてしまえば

またお前はただのガキだ・・・もうあんな奇跡はないからな・・・」

少年は睨み返しながらテトラポットの陰に逃げようと動き出すが抱えている男が重くて動けずにいた。

「それが重そうだな・・・それを捨てればお前は動けるようになるぞ?

そうすればその隙間に逃げ込めるんじゃないか?ん?」

少年はハっと思った。が、少年の男を抱える手にさらに力が入る。

「ふっ気づいたのか。お前がユダから離れればお前がどこに隠れようが邪魔なものは全て壊し

お前を食うつもりだったのに・・・案外冷静じゃないか・・・」

獣は微笑みながら歩みを続ける。

「違う!この人を守らなくちゃいけないんだ!!この人といればお前手が出せないじゃないか!

俺から食うならお前は何もできないんだろ!俺は食べられないぞ!この人も食べられないぞ!」

獣は少しイラついた。

「調子に乗るなよガキ・・・。聖なる威光は出ていない。光らんでもそれには牙は立てられないが

お前は別だ。どれだけしがみつこうが何もならないだろう?どうやらあの一発で

最後の光を使い切ったようだな。もうお前を守るものはない。どうだ?怖いだろ?逃げたいだろう?」

獣の言葉は本当だ。少年の心に絶望感が広がる。あれ以来どんなに心を強く持とうと

光って欲しいと願おうと光る気配は全くない。逃げたい。死にたくない。でも少年の心にどれだけ

絶望が広がろうとひとつの輝きは消えることはなかった。

「イヤだ!この人を守るんだ!!」

子供は頑固だ。どういう形であれ子供に執拗に拒否られるというのは獣でも堪えるようだ。

獣のイライラは頂点に達する。そして。

少年の体くらいの太さの腕をした右手がユダの胴を軽々と掴んだ。するとジュ~と肉の焼ける匂い

があたりに漂う。火力があるわけではない。ユダを掴んだ手から漂っている。しかし獣は離さない。

「グ、ふっふっふ・・・掴めはするぞ・・・さあ引き離してガキ!お前を喰ってやる!!」

「や~め~ろおおおお!!」

引き離される体を必死にしがみつく少年。力の差は歴然。ズルズルと下がるも少年は離さない。

股間を通り過ぎても少年は離さない。離れれば自分が殺される。

それ以上に少年は使命感を果たしたい。

獣の持ち上げる手がテトラポットを越える。ユダの体とそれにしがみつく少年を大人たちは発見する。

「タラン!」

「誰だ?あれは!」

恐怖に支配された大人たちだったが少年の発見と異常な事態の変化が自我を取り戻させた。

そしてとうとうもう一つの獣の腕が少年に伸びてきた。

「タラン!危ない!」

大人たちが叫ぶ。少年に獣の爪がかかった時、少年は・・・。

遅くなりましたが続きです。

今回はサブタイこれでいいの?と思われるかもしれませんが

これでいいんです。もうちょっと待ってください。

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